AI歌声合成に対応したSynthesizer V AIがいよいよリリース。既存ユーザーは無料アップグレード可能。併せてAHSが各種新情報を一挙公開

2020年も残り1週間を切りましたが、今年はAI歌声合成が一気に爆発した年だったと思います。その今年最後のタイミングでAHSからリリースされたのが、以前にも「まるで人のように歌うAI歌声合成の世界がさらに進化。Synthesizer VがAI対応し、従来型とハイブリッドで利用可能に。Sakiユーザーには期間限定無料配布」という記事で紹介したSynthesizer V AI。本日12月25日にエディターソフトである、Synthesizer V Studio ProがAI対応となりユーザーは無償アップデートできるようになったのとともに、Saki AIという歌声データベースもリリースされました。

Saki AIは別製品という扱いではありますが、歌声データベースであるSakiのユーザーは、2021年6月17日までは無料でもらえるというキャンペーンも展開しています。一方、このタイミングでAHSからは、ほかにも大きく3つの情報が発表されました。1つは小春六花(こはるりっか)のSynthesizer Vスタンダード、Synthesizer V AIの歌声ライブラリとCeVIO AI用のトークボイスが揃って2021年3月18日に発売されること、弦巻マキのCVを務める声優さんが田中真奈美さんに交代して、新製品であるCeVIO AIトークボイスをリリースすること。それと同じタイミングでSynthesizer V スタンダードおよびSynthesizer V AIの歌声データベースであり、ついに弦巻マキも歌うようになることのそれぞれ。いろいろ気になることもいっぱいなので、AHSの代表である尾形友秀さんにもお話を伺ってみました。

Synthesizer V AIがリリース。既存ユーザーは無償アップデートが可能

まず、改めてSynthesizer V AIについて紹介すると、これはすでにリリースされている歌声合成ソフトで、Dreamtonic株式会社が開発したSynthesizer VをAI歌声合成に対応させたものです。ベータ版のときのデモではありますが、以下の歌声を聴いてみてください。

こんなリアルな歌声を合成できるシステムなのですが、もともとSynthesizer VはVOCALOIDなどと同じように、エディターソフトと歌声データベースの2つが揃って歌わせることができる、というものです。エディターソフトの名前がSynthesizer V Studio Pro(無料版のSynthesizer V Studio basicというものも存在しています)、そして歌声データベースにはSaki、琴葉茜・葵などがあるのですが、今回のバージョンアップでAI歌声合成も可能になったのです。

歌声データベースとして従来からのスタンダード版SakiのほかにAI版のSaki AIが登場し、これを使うことでAI歌声合成ができる

やや混乱しやすいところなので、少し整理すると、エディターソフトのSynthesizer V Studio Proは無償でバージョンアップすることでAI対応するようになっており、見た目もほとんど変化はありません。そして従来の歌声データベースを読み込めば、従来通りの歌声で歌わせることができ、とくにAIの恩恵もないのです。

しかし、ここにAI対応の歌声データベースを読み込ませると、従来の歌声合成とは違う、より人間的な歌声で歌うようになるというわけなのです。その第一弾の歌声データベースとして今回リリースされたのがSaki AI。つまり、Sakiを指定した場合と、Saki AIを指定した場合とで、違った雰囲気の歌声合成が可能になるのです。以前の記事でもベータ版を使ってSakiとSaki AIを比較したことがありましたが、改めてリリース直前版であるSaki AIと比較したものが、以下の歌声です(作詞・作曲、多田彰文さん)。

🔼スタンダード版のSakiによる歌唱

🔼AI版のSakiによる歌唱

かなり、雰囲気が異なり、Saki AIのほうが、より人間的であることが実感できるでしょう。どちらを選ぶかは用途によりけり。好みに応じて使い分ければいいのだと思います。もっとも使い方、操作方法は基本的にどちらも同じなので、混在させて使っても戸惑うことはないはずです。

冒頭でも触れたとおり、SakiとSaki AIは別製品ではあるのですが、現在はリリースキャンペーンということで、2021年6月17日までにSakiをアップデートすることで、Saki AIを無料で入手することができます。Sakiとは別にSaki AI用のアクティベーションコードが入手できるというのがミソであり、あくまでも別モノなんですね。6月18日以降は別製品としての販売になるので、必ずアップデートしてアクティベーションコードをGETしておいてくださいね。

小春六花はSynthesizer Vのスタンダード版、AI版、さらにはCeVIO AIのトークボイスとして3月18日リリース

さて、Synthesizer Vに関連していうと、小春六花の歌声データベースが3月18日にリリースされます。この際、スタンダード版のSynthesizer Vの歌声データベースと、AI版の歌声データベースのそれぞれが登場するとのこと。すでにプロジェクトはだいぶ進んでおり、スタンダード版のプロトタイプはできているようなので、それを使ってキラキラ星を歌わせてみたのが以下のものです。

単なるベタ打ちですが、雰囲気は感じられると思います。これがAI版になると、どんな雰囲気になるかが楽しみです。一方、歌うのではなく、しゃべるのは、株式会社テクノスピーチが開発したCeVIO AIのトークボイスが利用されるとのこと。これまでAHSが数多くタイトルを揃えてきたVOICEROIDではない点に、「なぜ?」という疑問を感じるところではありますが、いろいろな事情があるようです。

そしてもう一つ、これに関連して気になるのが、AHSのVOICEROIDの人気キャラクターであった、弦巻マキの声優さんの交代です。二代目弦巻マキとして、田中真奈美さんが新たにCVを担当することが発表されたのです。

弦巻マキは、担当する声優さんが交代するとともに、CeVIO AIのトークボイス、Synthesizer Vで登場することに

その新しい弦巻マキもVOICEROIDではなく、CeVIO AIのトークボイスとしてリリースされることが発表されています。しかもこのトークボイス、日本語だけでなく英語版もリリースされるというのも面白そうなところです。
さらに弦巻マキはしゃべるだけでなく、歌う世界にも進出するのだとか。そのシステムとしては、やはりSynthesizer Vのスタンダード版とAI版のそれぞれがリリースされ、こちらも日本語版、英語版の両方が登場するとのことです。ただし、現在は制作開始の段階ということで、発売日などについてはまだ決まっておらず、2021年の発売を目指すという発表に留まっています。
もう一つ、ちょっと複雑な立ち位置になっているのが、東北きりたん。これについてはすでにCeVIO AIのソングボイスとして発売されることが発表されていましたが、その発売が今冬ということで、恐らく近々発売されると考えられます。なぜ、東北きりたんはSynthesizer Vではなく、CeVIO AIのソングボイスなの?と疑問にも感じるところ。この辺も含めて、AHS代表の尾形友秀さんに、少しインタビューしてみました。

 

AHS代表の尾形友秀さんにお話しを伺ってみた

ーー今回数多くの製品の発表に驚きましたが、どうもスッキリしないのがVOICEROIDの扱いについてです。VOICEROIDはAHSの製品だと認識していますが、なぜ、今回の新製品発表にVOICEROIDがないのでしょうか?
尾形:VOICEROIDは、これまで当社でシリーズを企画し、各キャラクター権利元様と一緒に広げてきまして、非常に多くのユーザーさんに使っていただくことができました。その点では、みなさんに大変感謝しておりますが、いろいろな事情から、現在、企画を進めることがなかなかできない状況になっています。

ーーVOICEROIDという製品はAHSで出していましたが、エンジン部分は株式会社エーアイの開発だったと思います。そのエーアイは先日「A.I.VOICE™(エーアイボイス)」というものを発表していましたが、その辺と関係するのでしょうか?
尾形:他社製品についてコメントする立場にはありませんので、そこは控えさせてください。VOICEROIDは11年以上続けてきて、育ててきたものですので、もちろん思い入れもあります。しかし、大人の事情で、現在のところなかなか我々だけでは進められない状況になっております。

ーーエンジン部分はともかく、VOICEROIDはAHSの製品ですよね?
尾形:そうですね。VOICEROIDは個人向け音声合成ソフトが浸透していないころよりキャラクタと組み合わせた製品として当社で企画してきました。ただエンジンは他社さんのものを使っているので、全部内製できていたわけではなく、またいろいろな権利面の話もあり、少し複雑な事情もあるんです。

ーーそうした中、ある種、競合ともいえるCeVIOと手を組んだ、と?
尾形:実はテクノスピーチさんとは、かなり以前からいろいろお話はさせていただいていました。テクノスピーチの徳田先生の討論会に登壇させていただいたり、やりとりは6~7年ほど前からあったりします。現在の状況に加え、AIの音声合成が今までの音声合成と乖離を生む可能性もあり、品質も含めてさまざまなところを検討させていただき、CeVIOプロジェクトさんとお仕事させていただくことになりました。

ーーCeVIO AIのトークボイスだと、これまでのVOICEROIDとは、だいぶUI的に変わってしまう面がありますが……。
尾形:CeVIOにはCeVIOの良い部分がありますし、もちろんVOICEROIDに関してもこれまで我々なりに良いと思ってUIを考えてきていますので、よりユーザーさんに便利に使っていただくにはどうすればよいか、現在方法を模索している段階です。少し話は変わりますが、実況動画作成ソフトウェアのRecotte Studioを本日大幅アップデートしまして、現在のCeVIO Creative Studioに対応いたしました。これによって、Recotte StudioとCeVIO Creative Studioを組み合わせて、簡単にCeVIO音声を使用した動画を作ることができるようになりました。まだまだ進化すべきところはあると思いますが、今後の製品開発やアップデートにより、ユーザーの皆さんがなるべく簡単に作品制作ができるようになればと思っております。CeVIO AIが発売された際はそちらにも対応し、これからももっと使いやすくするアプローチを行なっていく予定です。もちろん、既に現在のCeVIOをお持ちの方は例えばさとうささらさんなどをRecotte Studio内で簡単に使うことが今日からできますので、ぜひ使ってみてもらえればと思います。

ーーもうひとつ疑問に思うのは、なぜ東北きりたんは、Synthesizer Vではなく、CeVIO AIのソングボイスとしてリリースするか、という点です。いまAHSはSynthesizer Vを全面的に押しているように思いますが、なぜ?と。
尾形:東北きりたんの歌声のデータベースは、「研究者向け歌声合成検証用歌唱データベース」として研究者用に公開されているものを使っています。このシステムはSynthesizer Vの仕組みとはかなり異なるため、簡単に利用するということができません。それに対し、CeVIO AIとは相性がよく、うまく歌わせることができたことから、CeVIO AIを採用したというのが簡単な理由です。

ーー東北きりたんは、NEUTRINOでも歌わせることができますが、それと同等のもの、ということなのですか?
尾形:想像以上に違いますよ。もちろん、どちらが好きかという点もあるとは思いますが、それぞれよいところがあると思います。とはいえ、CeVIO AIで歌わせたほうがより簡単に歌わせることができるので、ぜひ多くの方に試していただければと思っています。

ーーとはいえ、歌声合成の主力はSynthesizer Vに重きを置いていく形なんですよね?
尾形:状況によって使い分けていきますが、今後もSyntesizer Vのラインナップを充実させていきます。ぜひ、今回新たに登場させるAI歌声合成であるSynthzier V AIをより多くの方に体験してもらえればと思っています。AI対応した無料版のエディターソフトであるSynthesizer V Studio basicに、無料版の歌声データベースであるSaki AIライトもあるので、まずはこれらを多くの方に使っていただきたいです。
AIの音声合成は、歌、喋りもどちらもこれから普及していくと思っています。その中で長所、短所も見えてくるでしょう。そして合成エンジンの違いもかなり出てくると思っています。Synthesizer V AI、CeVIO AIだけではなく、ほかも出てくると思いますし、まだ世に出てきていないだけで開発中のものもあると聞いています。その中で、我々が届けられそうなものを、きちんとした形で皆さんに届けられればと思っております。音声合成に関しては、もちろんVOCALOIDも引き続き販売していきますし、既存のVOICEROIDも継続して販売してまいりますので、ユーザーの皆さんにはお好みに合わせた声を選んで頂き、音声合成界隈をどんどん盛り上げていって頂ければと思っております。
我々としては、より多くの方に、素晴らしいソフトウェアを届けていきたいと思っています。音声合成もそうですが、2021年もさらにいろいろな企画もありますので、楽しみにしていてください。これからもぜひ応援のほど、よろしくお願いいたします。

ーーありがとうございました。

お話を伺うと、いろいろと難しい事情はありそうですが、2020年・年末のSynthesizer V AIのリリースを皮切りに、2021年は、怒涛の製品ラッシュとなるようなので、AI歌声合成の世界がぜひ楽しく盛り上がっていくことを期待したいと思います。

※2021.01.28追記
2021.01.12に放送した「DTMステーションPlus!」から、第166回「ZOOM V3でDTMに新次元のVocalを!」のプレトーク部分です。「AI歌声合成に対応したSynthesizer V AIがいよいよリリース。既存ユーザーは無料アップグレード可能。併せてAHSが各種新情報を一挙公開」から再生されます。ぜひご覧ください!

【関連情報】
Synthesizer Vシリーズ公式ホームページ(AHS)
Synthesizer V Saki ホームページ
Synthizer V 小春六花 ホームページ
Synthizer V 弦巻マキ ホームページ
TOKYO6 ENTERTAINMENT 小春六花公式ホームページ
Synthesizer V情報(Dreamtonics)
Synthesizer V AIについて(Dreamtonics)
Web Synthesizer Vサイト

【価格チェック&購入】
◎Amazon ⇒ Synthesizer V Studio Pro(パッケージ版)
◎Amazon ⇒ Synthesizer V Studio Pro スターターパック(パッケージ版)
◎Amazon ⇒ Synthesizer V Saki(パッケージ版)

◎AHSストア ⇒ Synthesizer V Studio Pro(パッケージ版ダウンロード版
◎AHSストア ⇒ Synthesizer V Studio Pro スターターパック(パッケージ版)
◎AHSストア ⇒ Synthesizer V Saki(パッケージ版ダウンロード版
◎AHSストア ⇒ Synthesizer V Saki(AHSユーザー特別版)

Commentsこの記事についたコメント

1件のコメント
  • SonchoMusicStudio 中窪

    さすが、藤本健さんの記事ですね
    メーカーのうわべや単なるPR協力では無く
    メーカーさんが言葉に詰まるような内容に切り込んで
    これを「公開」というというところに持っていく

    藤本さんが、DTMユーザーの聞きたいところ、困るところに視点を当てて
    メーカーにも協力しつつも、本音トークをオープンにされていく
    これからも期待してます。

    僕の方でも、SynthesizerVもCevioの解説動画も出しております。
    AIの方も急がなければ。。。
    藤本さんの早い情報は、いつもシェアさせて頂き、
    僕の方では実際の楽曲制作での応用などに絞って投稿しています。

    藤本さんが2013年に、投稿して以来、殆ど日本では陽の目を見ていなかった
    SteinbergのVST-Connect Proですが、「リモレコ™️」として事業化しました。
    名古屋の大手ダンス会社などにリモートPerformerスタジオ展開

    今、VST-Connect Proは最近 5が出て、ビデオチャットだけじゃ無く、ビデオソースの共有まで出来る様になってますよ。
    またチェックしてみてください

    2020年12月26日 6:38 AM

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です