元祖デジタル・マルチトラックレコーダー、ADAT-XTを使ってみた

最近の多くのマルチチャンネル・オーディオインターフェイスに搭載されているadat(エーダット)端子。見た目というか物理的にもS/PDIFの光デジタル入出力端子(TOS-LINK)と同じものですが、24bit/48kHzまたは24bit/44.1kHzというフォーマットで同時に8ch分のオーディオ信号を送ることができるという優れた規格になっています(S/MUXという24bit/96kHzが利用可能にした拡張フォーマットもあるけれど、ここでは割愛します)。

そのadatを生み出したのは、米Alesis社。同社が1991年に発売した、その名もADATというデジタルMTRに搭載されたデジタル伝送規格なのです。1996年にそのADATを改良して高音質化を図ったADAT-XTは国内のプロのレコーディングの世界でも幅広く使われた機材です。実物は何度か見たことはあったものの、私自身、触ったことがなかった、憧れの機材。実はそのADAT-XTを、先日、ミュージシャンであり音楽プロデューサーの戸田誠司さんから譲っていただいたので、これがどんな機材なのか少し紹介してみたいと思います。

戸田誠司さんから譲っていただいたAlesis ADAT-XT



機材の話の前に、なぜそんなものがもらえてしまったのか……。実は、先日たまたまTwitterのタイムラインを何気なく見てたら、戸田さんが、

とツイートされていたのを発見。ちょうど引越しをされるとのことで、機材整理をされていたそうなのです。すかさず「欲しい!」と手を挙げたところ、先着ということで、いただけることになりました。実は、戸田さんとお会いするのは、そのときが初。引越し準備中のお宅にお邪魔して、デジタル談義をいっぱいさせていただき、楽しい時間を過ごした上に、大きなお土産をいただいてしまったのです。


電源を入れると、7セグLEDでADAT-XT(AdAt XT)の表示が現れる 

長いこと使っていないから、動く保障はないよ」ということでしたが、先日電源を入れてみたら、バッチリと動いてくれたので、使ってみました。

ADAT/ADAT-XTについては、だいぶ以前に、半分、机上の知識を元にAllAboutで記事を書いたこともありました。興味のある方は、ぜひそちらも参照いただきたいのですが、これを一言でいえばS-VHSのテープを利用した8chのデジタルレコーダーです。専用のメディアを使うのではなく、ごく一般のS-VHSテープが利用できることで、DAWなどがない当時としては極めて安い$4,000以下(国内では50万円程度)で入手できるレコーダーとして、一世を風靡していったのです。


いただいたマニュアルを見ながら操作 

当時、国内でA-DATを輸入販売していたのはモリダイラ楽器。そのモリダイラ製の日本語マニュアルもいただけたので、それを見ながら、動かしてみました。まず「カセットテープはS-VHSと表記され高品質テープのみをご使用ください」、「安売りのVHSテープの使用は絶対におやめください」とあるので、ネット経由で購入してみました。


最近店頭で見かけなくなってきたS-VHSテープをネットで入手

このS-VHS、60分テープの場合で22分、120分テープで40分、180分テープなら62分のレコーディングができるとのこと。また使用するにあたっては、まずフォーマットが必要になるのです。この場合、先頭部分にリーダー、その後約2分のデータ、そしてその後から実際の音を記録していく部分となっています。またADATでは44.1kHzと48kHzのクロックを選択できるのですが、フォーマット前にあらかじめどちらにするかを設定しておきます。そしてフォーマットする際に、このクロックもキッチリと記録していくんですね。


S-VHSのテープをフォーマットすると、このように記録される

そこまでできたら、後は簡単。1~8まであるトラックのうち、録音したいトラックを録音準備状態に設定し、録音スタートすればいいのです。リアにあるライン入力からの信号が記録されていき、重ね録りも簡単にできるようになっています。


下に並ぶ8つのボタンで録音待機状態にしてレコーディング

アナログで入出力するのが基本ではありますが、ADAT-XTの大きな特徴はここにオプティカルのデジタル入出力がついていること。これが現在でも広く使われているadatですね。もともとはこれを使って複数のADAT-XTを接続して、トラック数を増やしていくためのものであり、8chの信号をデジタルで伝送できるようになっています。具体的には24bit/44.1kHzまたは24bit/48kHzで8ch分で、出力用、入力用がそれぞれ用意されています。


リアパネルにはアナログ入出力とともにadatデジタル入出力が用意されている

ちなみに最近のオーディオインターフェイスでadatを搭載しているものとしては
Steinberg UR824
RME Fireface UFX
RME Fireface UC
Focusrite OctoPre MkⅡ

などなど。これらの機器と接続して8chをパラでデジタルのまま受け渡しができるようになっています。

DAW全盛期の今、デジタルでマルチトラックのオーディオレコーディングは当たり前となっていますが、20年近く前によくこれだけのものができたものだと感心します。クロックの同期もすごくしっかりしていますから、下手なDAWよりも、ずっと安心して使えそうです。

ただ、テープをモーターを使って駆動させるわけですから、機械的な寿命というのもありそう。この完動品のADAT-XT、私の手元で眠らせておくのが正しいのかちょっと疑問にも感じるところ。古いマスターデータがあるけれど、本体が壊れてしまって……という方の元で、adatインターフェイス経由でDAWへどんどんバックアップしていくのに活用するのがいいのかもしれませんね。

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • 1990rec

    1990年代頃のアルバムが好きで、最近この時代の録音について調べています。
    ADATが出始めた頃から小型スタジオが脚光を浴びてきたらしいですね。
    それにこのADATの音が好きという人も結構いたとか・・・どんな音なんでしょうか!?
    当時はすごく重宝されたんでしょうね。

    2018年3月23日 10:37 PM
  • koji

    サミングアンプの様な使い方をしたら
    効果は、ありそうですか?

    その場合、アナログで入力して
    デジタル出力で近年のオーディオインターフェースの
    デジタル入力って感じでしょうか?
    ネット上で、このレコーダーの記事が
    少ないもので^^;

    2020年9月19日 1:48 PM
    • 藤本 健

      kojiさん

      どこまで期待する音になるかは分かりませんが、それなりの効果にはなると思います。adatで受け取れるオーディオインターフェイスもいろいろあるので、16bit/48kHzという仕様にはなってしまいますが、あり得ると思います。

      2020年9月19日 3:24 PM

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