既存曲のコードを自在に変えられる魔法のツール、PITCHMAPを使ってみた

ドイツのZynaptiq(ザイナプティック)という会社をご存じですか?会社ロゴの下には「science , not fiction(フィクションではなく科学である)」と書かれた妙なベンチャー企業なのですが、実際、魔法のようなソフトウェアをいろいろと作っているのです。現在あるのは、PITCHMAP(リアルタイム・ポリフォニック・ピッチ・プロセッサー)、UNVEIL(リアルタイム・リバーブ調整およびシグナル・フォーカシング)、UNFILTER(トーナル・コンターのアダプティブ・リニアライゼーション)、UNCHIRP(非可逆コーデック・アーチファクト除去)の4本。

国内ではエムアイセブンジャパンがダウンロード販売の形で扱っており、価格はいずれも43,200円(UNCHIRPは近日発売予定)。ただタイトルだけ見ても、どんなソフトなのかさっぱり分からないかもしれません。でも、デモを見てみればその魔法のような威力は一目瞭然。今回はそのPITCHMAPという不思議なソフトについて紹介してみたいと思います。

魔法のツールをいろいろ開発しているzynaptiq


私がこのZynaptiqという会社を知ったのは昨年の春、ドイツのMusikmesseのブースでデモをしているのを見たときのことです。その際にデモを行っていたのが、今回取り上げるPITCHMAPでした。人だかりの中、社長がデモをしていたのは、Mac上のLogic Proに読み込ませたマイケル・ジャクソンの「Beat it」の再生。でも、ここでキーボードを弾くと、なんとも不思議なことが起こるのです。そのときの様子が以下のものです。

どうですか?何が起きていたかお分かりになったでしょうか?

そう鍵盤を弾くと、そのときのコードに合わせてマイケル・ジャクソンの歌やバックの演奏のコードがリアルタイムに変化するんです。まさに魔法でしょ!?

昨年見たのは、発売直前のバージョンで、その後すぐにMac版がリリースされ、その後、Windows版も登場。つい最近リリースされた最新版の1.5.0というバージョンでCubaseにも正式対応したので、Windows 8上のCubase 7.5を使って試してみたのが上記のビデオなのです。


Cubase 7.5にPITCHMAPを組み込んで試してみた

「どうもダマされているような気がする」という人も多いとは思いますが、何がどうなっているのかを簡単に解説してみましょう。


オーディオがリアルタイムに解析されて縦型ピアノロールのように表示される

このPITCHMAPはオーディオをリアルタイムで解析し、どんな音が出ているのかをチェックしています。先ほどのビデオでも分かる通り、その時に出ている音が縦のピアノロールのような画面で表示されています。とくに事前処理をしているわけではなく、コンピュータのリアルタイム処理で行っているんですね。


キーボードを抑えると、そのコードにマッチした音にピッチシフトされる

ここでキーボードを使ってコードを抑えると、それに伴って、各音がピッチシフトされて、抑えたコードにマッチするように変化しているわけです。パラメータの設定によって、、マッチ具合をどのくらいにするかを調整できるようになっていますが、ここでは、デフォルトの設定のまま操作してみました。

実際試してみると、コードを抑えてから、それ反映されるまで実感で0.1秒(100msec)程度の遅れはあります。でも、ある程度演奏(というのでしょうか?)のタイミングを調整することでカバーできそうですね。


キーを変更することも可能

ここではキーボードからコードのコントロールをしましたが、KEYTRANSPOSEというパラメータがあり、これを使うことで、あらかじめキーを変えることもできるし、スケールをデフォルトのChromatiからMajorやHarmonic Minorなどと変更すると、その曲をマイナーコードで再生していくといったことも可能となっています。


予めスケールを設定しておくこともできる

ちなみに、このCubaseにおいての、PITCHMAPの組み込み方はちょっと変わった形になっています。目的のオーディオデータはオーディオトラックに予め置いておき、ここにエフェクトであるVSTプラグインのPITCHMAPをインサーションエフェクトとして組み込みます。

続いてMIDIのトラックを作成します。普通、MIDIトラックの出力先は外部のMIDI楽器であったり、VSTインストゥルメントのソフトシンセだったりするのですが、このPITCHMAPはMIDIの入力を持つやや特殊なエフェクトとなっているため、MIDIの出力先としてこれを選択するのです。

こうすることで、MIDIキーボードを弾くと、その信号がPITCHMAPへと届き、リアルタイムに処理されるわけです。

この辺の使い方はDAWによって少し異なるので、マニュアルを確認してください。また、Macの場合はAudioUnits 32bit/64bit、RTAS、AAX 32bit/64bit、VST 32bit/64bitのプラグインを、またWindowsの場合もRTAS、AAX 32bit/64bit、VST 32bit/64bitのそれぞれに対応しており、インストーラも分かれているため、目的のものだけをインストールして使うことが可能になっています。


さまさまなプラグインフォーマットに対応

この魔法のツールをどう利用するかは、まさにユーザー次第。DJ用途として、曲を流しながら、途中でコードを変えて驚かすといった使い方もできるし、ニコニコ生放送などでプレイしてみるのも面白いと思います。

もちろんリアルタイムに使うだけでなく、あらかじめDAWのMIDIトラックにコードを仕込んでおけば、失敗のない形で楽曲をアレンジすることができるし、それをオーディオファイルとして書き出しておけば、さらに応用範囲も広がるはずです。

またDTMのモチーフとして既存楽曲を取り込みつつも、PITCHMAPでコードを大きく変化させたうえで、切り刻んで素材として使っていけば、またずいぶん違った作品に仕上がっていきそうです。

さらに、PITCHMAPは音程を変化させるだけでなく、上記ビデオのように声質や音質をいじることも可能です。いわゆるケロ声を作ることもできるし、ボコーダー風なボイスにすること、AutoTuneを使ったサウンド風なものにリアルタイムで変化させることもできるので、こうした機能を組み合わせることで、面白いアレンジもできると思います。

もっとも原曲の著作権同一性保持権があるので、許される範囲内での活用ということにはなりますが、PITCHMAPの活用で、音楽の利用の幅も大きく広がるのではないでしょうか?

なお、国内価格は冒頭でも書いた通り43,200円(税込み)ですが、MelodyneやAuto Tuneなどのピッチ処理ソフトウェア主要製品を持っているユーザーは半額の21,600円で購入できる「PITCHMAPサイドグレード」プログラムも実施されているので、要チェックですよ。

【製品情報】
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