高音質を実現するRolandの小型オーディオIF、Mobile UAの秘密

今年11月にRolandから世界最小・最軽量なDSDASIO両対応というオーディオインターフェイス、Mobile UA(型番:UA-M10)なるものが発売されると、発表されました。本体130gと軽く、手のひらに収まる小さな機材で4ch出力に対応した製品となっています。

持ち歩いて、移動中や出先でDAWのモニタリング用として使えるのはもちろん、ライブ用としてステージでの出力用としても使える、というのがウリなのですが、最大の特徴は新開発のDSPエンジン「S1LKi(シルキー)なる技術を採用したことで、従来からあるQUAD-CAPTUREなどよりも高音質を実現しているという点。実際、どんな製品なのか、一足早く触ってみたので、ファーストインプレッションということで、このMobile UAについて紹介してみたいと思います。

11月に発売される予定の小型オーディオインターフェイス、Roland Mobile UA

Mobile UADUO-CAPTURE EX(UA-22)や)QUAD-CAPTURE(UA-55)、OCTA-CAPTURE(UA-1010)などRolandの一連のオーディオインターフェイス、UAシリーズの小型版として登場したものですが、下位機種として登場したわけではないようなのです。


QUAD-CAPTUREの上に置いてみると、かなり小さいボディーであることがわかる

事実、実売価格は3万円+税とQUAD-CAPTUREよりもやや高めな設定であり、仕様もだいぶ異なります。とくに目をひくのはDSD対応となっており、KORGやTASCAMなどが展開している1ビットオーディオの世界にRolandも飛び込んだ、という点です。これは従来のUAシリーズとは明らかに違う点ですよね。ちなみにDSDに関してはWindowsでもMacでもDoP対応となっており、ASIOはあくまでもPCMのみのようですね。

さらに大きな違いは、Mobile UAは再生専用の機材であって、入力を持っていないという点。つまり仕様としては0IN/4OUTというオーディオインターフェイスになっているわけですね。その意味では、オーディオインターフェイスという呼び方より、USB-DACと表現したほうが、しっくりいくのかもしれませんが、別にRolandがオーディオ業界に殴り込みをかけた、というわけでもなさそうなのです。


右サイドには、3.5mmのヘッドホン出力端子が用意されている 
Rolandの担当者に聞いてみたところ、あくまでも「DTMユーザー、DAWユーザーを対象に開発した機材で、高音質でモニターできる環境を持ち歩きたい、というニーズに向けて開発しました」とのこと。もっとも、オーディオ用途でも結構使えそうに思えるし、ハイレゾオーディオの世界で話題になりそうな機材ではありますが、ここではあえてオーディオインターフェイスと呼んでおきます。

もう少し、具体的に見ていきましょう。このMobile UAには左右にヘッドホン出力/ライン出力用としての3.5mmのステレオミニ出力が用意されています。「高音質を謳っている機材なのに、3.5mmでいいの?」という疑問は持ちましたが、やはりコンパクト化という点で3.5mmを採用したのだとか……。

左サイドにはUSB接続端子とヘッドホン兼ライン出力端子 

 

また入力はないので、オーディオ接続端子はそれだけであり、左側にMicroUSBのコネクタがあるのみのシンプルな構造です。そのほかにあるのは、トップパネルにある音量スイッチと、レベルを示すインジケータとボリュームスイッチが用意されています。


LEDのインジケータの右にボリューム用のボタンが用意されている

まあ、オーディオインターフェイスとしての機能とは直接関係ないかもしれませんが、このインジケータがなかなかカッコいいので、ちょっとビデオで録ってみました。

ところで、その3.5mmのオーディオ出力ですが、確認してみると、よくある「ヘッドホン出力としてもライン出力としても、好きに使ってOK」というモノではありません。当然ではありますが、ちゃんと電気的特性が考えられており、向かって右側の出力はヘッドホン専用、左側がヘッドホンとラインの切り替えとなっています。


ドライバのOutput Modeで4 channelにすると、左側はライン出力となる

では、どう切り替えるかというと、ドライバの設定画面の「Output Mode」という項目があり、2 channelと4 channelを選択する形になっています。これを2 channelモードに設定すると左右ともヘッドホン出力で、同じ信号が出て、4 channelモードに設定すると左側はラインアウトになると同時に、右側の1ch/2chとは独立した3ch/4chの信号が出力される構造のようです。

したがって、たとえばバンドメンバーと2人で音をヘッドホンでモニタしながら使う場合は、2 channelモードに設定するわけです。またステージでヘッドホンでモニターしつつ、PAへ信号を送るというような場合には、4 channelモードにするという使い分けができるので、なかなか便利そうです。


4 channelモードにすると警告表示がされる 

ただし、4 channelモードにした場合は、ラインレベルの出力が出ることになり、ヘッドホンを接続すると大音量が出る可能性があって、やや危険です。そのため、設定を切り替えると、警告が表示されるようになっています。なお、ヘッドホン出力においても40Ωの負荷時で158mW+158mWの出力を持っているので、かなりの大音量でモニターできるというのもうれしいポイントとなっています。

さて、ここで気になるのが「S1LKi」なる技術によって、再生音質が、QUAD-CAPTUREなどより向上している、という点です。実際に聴き比べてみると、明らかにいいんですよね。ユニークなのは、この音質向上をアナログ回路を充実させて行っているというよりも、デジタル処理の向上に主眼が置かれているという点です。

では、S1LKiで何をしているのかというと、まずDAWなどからASIOやCoreAudioドライバを介して受け取った44.1kHzの音でも96kHzの音でも一旦オーバーサンプリングによって192kHzまで引き上げます。さらに、これを内部的にDSDの1ビット信号にした上でDACへと持ってきているのです。このオーバーサンプリング&DSD化の処理をDAC以降の特性に合わせた形で作っているので、高音質化が図られているそうです。

面白いのはDSD化=1bit化するか否かのスイッチが用意されていて、聴き分け可能になっていること。Rolandによると、このドライバは開発途中のもので、製品版ではデザインなども少し変わる可能性もあるとのことでしたが、「1bit」というチェックボックスにチェックを入れるか否かで明らかに音質が大きく変わるんですよね。DSD化しないと、QUAD-CAPTUREなどに近い雰囲気ですが、DSD化すると、グッとよくなってくるのです。


サンプリングレートは352.8kHzにまで対応している 

一方、量子化ビット数およびサンプリングレート32bit/352.8kHzまでに対応しており、ドライバの設定を見ても、あまり見かけたことのない352.8kHzという項目を確認することができます。この辺を見ても、従来のUAシリーズとは設計が変わっていることがよくわかります。

ちなみに、この機材のサイズ的には、iPhone用のポータブルヘッドホンアンプ風にも見えますが、USB Class Audio対応ではないため、iPhoneやiPadなどと接続することはできません。また、バッテリー内蔵ではなく、PCからのUSBバスパワー供給であるため、単独で動かすことは想定されていないようですね。

個人的には、このS1LKi搭載で入力も備えたオーディオインターフェイスの登場にも期待したいと思っていますが、Mobile UAの音は気に入ったので、まずはこのをモニター用デバイスとして活用してみようと思っているところです。

【関連情報】
Roland Mobile UA製品情報

Commentsこの記事についたコメント

2件のコメント
  • Glaresroke

    DTMの編集用I/Oとして使えますよね?192kHz/64bitは使えないのですか?

    2014年9月1日 6:43 PM
  • 藤本健

    Glaresrokeさん
    Studio Oneなどが64bit Floatを内部処理で扱えますが、外部のオーディオインターフェイスへ64bitのままは出せないように思います…。現状32bit Floatで直接出せるソフトも少ないように思います。そういう意味では32bit Flaotに正式対応しているだけでも、すごいように思います。

    2014年9月1日 6:57 PM

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