ギターで初音ミクを歌わせるエフェクター、MIKU STOMPの実力

先日、「コルグからヤマハNSX-1搭載の初音ミク機器、MIKU STOMPが登場だ!」という速報記事としてお伝えしたコルグのMIKU STOMPがいよいよ10月31日、発売になります。その発売を目前に控えたMIKU STOMPをお借りすると同時に、実際MIKU STOMPという製品を企画したコルグの坂巻匡彦さん、開発をした加藤智幸さんにお話しを伺ってみました。

その結果、コルグのサイトにも書かれていない、マニュアルにも出ていない、いろいろな情報を聞き出すことができましたよ。想像していた以上に、MIKU STOMPはすごい実力を持った機材でした。ギターでチョーキングしたり、コードを弾くとどうなるかなども、しっかりビデオに収めてみたので、ぜひご覧ください。

10月31日よりコルグから発売されるMIKU STOMP

まだMIKU STOMPをご存じない方もいると思うので、まずは製品概要を簡単に紹介しましょう。これは「ギターでミクが歌う!世界初!ボーカロイド・エフェクター」としてコルグが発売する、ギター用の機材です。


見た目はフットスイッチで操作する普通のエフェクターだけど、中身はボーカロイドのシステムになっている 

見た目は、まさに足元に置くギター用のエフェクターなわけですが、「エフェクター」という言葉から想像できるものとは、だいぶニュアンスが違う製品です。そう、まさにギターのプレイに合わせて、初音ミクが歌ってくれるボーカロイドなんですね。


MIKU STOMPに内蔵されているヤマハの約12mm四方のIC、NSX-1

その歌声は、すでに発売されている学研のポケット・ミクと基本的には同じで、ヤマハのNSX-1というICを用いて発音するもの。この際、ギターの音そのものは出力されず、ギターからの音程や音長、音強情報を検出して歌うようになっています。


ロータリースイッチで11種類のモードから選択して使う 

では、歌詞はというと、ロータリースイッチを使って11種類のモードから選択するようになっています。たとえばLoohなら「ルールールー」と歌い、Lahhなら「ラーラーラー」、ahhなら「アーアーアー」、Pahhなら「パーパーパー」、Nyannなら「ニャンニャン」ですね。Scatはスキャットモードとのことで「ルールー、アーアー、パーパーパー」のように適当に歌ってくれます。それ以外のモードについては、後ほど解説しますが、まずは以下のビデオでその演奏と歌声の雰囲気を聴いてみてください。

どうですか?演奏をしてくれたのはコルグの新入社員でPR課に現在研修中の金子隼輔さんです。これ、MIKU STOMPの歌声をアンプから出したものを、iPhoneのビデオ機能、iPhone内蔵のモノラルマイクで収録したもの。そのため、ギターが弾く生の弦の音も聴こえていると思います。この両方の音を聴くと、どんな変換がされているのかがなんとなく分かりますよね。


お話を伺った開発担当の加藤智幸さん(左)と企画担当の坂巻匡彦さん(右)

でも、コルグ製品の心臓部にヤマハのICが載ってるって、なかなか妙というか不思議ですよね。まずは、そこから坂巻さんに聞いてみたところ、

普段からヤマハさんとはお付き合いがあるし、ICの売り込みなんかもあります。ウチも楽器メーカーなので、各社の音源チップはいろいろ試しているけど、やっぱり歌うのは面白いなぁ、と。これを使って製品作ろうと思っただけで、それがヤマハさんのチップだという意識はまったくありませんでした。もっとも社内でプレゼンテーションしたときは、『ヤマハさんのを使うの!?』とは言われましたが、『ええ、使いますよ!』って返したくらいです」と、あっけらかんとしています。


MIKU STOMPは単3アルカリ電池で約5時間駆動するという仕様になっている 

でも、僕がやったのは、そのくらいで、後はほとんど全部、開発の加藤に任せっきりでした(笑)。ちなみに、最初にNSX-1についてヤマハさんとやり取りしたのは昨年の1月か2月。まだNSX-1を搭載した製品は何も出ていないころで、いくつかのサンプルを作った上で5月にクリプトン・フューチャー・メディアさんのところに相談しに行ったんですよ」と坂巻さん。


コルグ製品にヤマハのICを使うということを、特に意識しなかったという坂巻さん 

そう、最初に例の“ウドン”と呼ばれるヤマハさんの開発ツールキットをお借りして、いろいろなプロトタイプを作ってみました。そのうちの1つがギターを弾くと歌うというものだったのです」と話すのは開発の加藤さんです。

やっぱり、弾くと歌うというのって楽しいじゃないですか。またVOCALOIDは、PCでいろいろ設定しないと歌わせられないため、敷居が高く感じられる面がありますが、ギターを弾くだけで歌わせられるなら、簡単でいいなって。クリプトンさんも賛同してくれました」(坂巻さん)

さて、ここで気になるのは、ギターの奏法とミクの発音の関係です。これについても、金子さんにデモ演奏をしてもらったので、ご覧ください。

スタッカート的な速弾きにもついてくるし、チョーキングでは、音程が変わったところで次の発音に入る一方で、ビブラートの場合は、発音は次へ進まずに音を伸ばすなど、なかなかうまくできていますよ。ただし、発音できるのはあくまでも単音。コードを“ジャーン”って弾くと、おかしくなっちゃいますね(汗)。


Randam1で、違和感のない、それっぽい歌詞を歌わせるようにするには結構な苦労をしたと話す加藤さん

ところで、最初のビデオではRandom1というモードになっていたのですが、これはどんなものなのでしょうか?
Random1は日本語の歌詞をランダムに歌うモードです。これはボーカロイドの楽曲の歌詞を約2万曲の歌詞をデータベース抜き出した上で、それによく使われている単語を1,000ほど抽出しました。これらをランダムに並べているのです。ただ、本当にランダムにすると、あまりにもメチャメチャになるので、まず名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞などに分類しました。その上で、名詞の次に動詞がくるのが何%か、動詞の次に形容詞が来るのは何%なのか、といった確率を設定して歌わせるようにしてあります。これによって、意味はデタラメだけど、何となくそれっぽい歌詞で歌えるようになりました」と加藤さん。

まるで構文解析をして歌わせているような感じで、すごいですよね。ちなみに「が」とか「は」のような助詞は名詞に接続した上で一つの単語として扱っているんだとか……。なかなか奥が深そうですよ。

MIKU STOMPの右サイドは電源スイッチ機能も兼ねるInputがあるのみ

一方のRandom2は外国語風モードとのこと。加藤さんによると、クリプトンさん側からのアイデアにより、いろいろな外国語っぽく聞こえる単語を適当に持ってきてカタカナにして200単語程度登録してあり、こちらは本当にランダムに繋いでいるのだとか…。そのため、意味はなく、まったくのデタラメではあるけれど、なんとなく外国語っぽく歌ってくれるそうです。


左サイドのOutputはギターアンプに入力しても、ミキサーやオーディオインターフェイスにライン接続してもOK 

そして、MIKU STOMPにおける強力な機能といえるのがiPhoneを用いた歌詞の転送技術です。これは無料でダウンロード可能な歌詞転送アプリ「Lyrics for MIKU STOMP」を用いて行うのですが、これもちょっと驚きのシステムになっていました。


Lyrics for MIKU STOMPのスプラッシュ画面 

Phrase1~3にスイッチを合わせてペダルを長押しすると、転送モードに入ります。この状態であらかじめiPhoneの歌詞転送アプリに仕込んでおいた歌詞を、ギターのピックアップ部に聞かせるのです。まあ、聞かせるといっても、iPhoneが日本語を発音してくれるというのではなく、「ピーヒョロヒョロヒョロ、ガーーー」という昔のモデムが発していたような音。これをiPhoneのスピーカー部ではなく受話部分で聞かせるのです。

いろいろ試してみた結果、受話部分のほうがより正確にデータが送れるようです。またギターによってピックアップやトーンの具合が異なるので、うまくデータ転送できる設定を見つけてみてください」(加藤さん)とのことです。この転送により、Phrase1~3それぞれに約6,000文字ずつ歌詞を独立して入力することができます。


iPhoneからの「ピーガーー」という音をギターのピックアップに聞かせて歌詞を転送する 

ここで入力できるのはカタカナ、ひらがな、およびローマ字。基本的にはVOCALOID EDITORで入力するのと同じなので、「こんにちは」ではなく「こんにちわ」といった具合。またローマ字はあくまでもローマ字であり、VOCALOID専用の発音記号には対応していないようですね。


うまく通信が確立されるとLyrics for MIKU STOMPに入力した歌詞が転送される 

実際に、自分でもギターを弾いてみると、本当に一音一音弾いてくので、ギターがうまく弾けない私でも、結構スムーズに歌ってくれます。ただし微妙なレイテンシーはあるので、少し慣れは必要ですね。またPhrase1~3で目的の歌詞を歌わせる場合、演奏をミスると、当然それに伴って歌詞が1文字先に進んでしまうため、それを本来のところにするためには、休符を入れてから合わせるなど、ギター演奏テクニック(!?)は必要になりそうです。この辺が上手にできるようになれば、ステージでリアルタイムに初音ミクに歌わせる、といった面白いライブもできそうですね!

なお、このMIKU STOMPについて、10月21日21:00からのニコニコ生放送、「第16回DTMステーションPlus!」でも実演・特集する予定ですので、よかったらぜひご覧ください。
※「初音ミク」は、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が開発した 「歌声合成ソフトウェア」であり、その「パッケージキャラクター」です。
※MIKU STOMPはソフトウェアの容量制限上「初音ミク」のソフトウェアより抜粋した歌声表現を搭載しております。実際のソフトウェアの表現と異なる部分がござい ますので予めご了承ください。 

【価格チェック】
◎Amazon ⇒ MIKU STOMP
◎サウンドハウス ⇒ MIKU STOMP

【関連情報】
コルグMIKU STOMP製品情報
初音ミクについて(ピアプロキャラクターズ公式サイト)
第16回DTMステーションPlus!

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Commentsこの記事についたコメント

9件のコメント
  • ねむねむ☆

    KORGはユニークなので好きです。
    ヤマハのICを使うということに抵抗を感じなかったのは凄いことです。感心しました。
    和音だと民謡みたいで良いですね。

    2014年10月20日 9:39 PM
  • とおりすがり

    ギターの柄に、言葉を進めるボタンのようなものを仕込む必要があるのじゃないかな?

    2014年10月21日 2:43 AM
  • 泥沼亀之助

    フレットレスギターで弾いたら良さそう!

    2014年10月21日 7:08 AM
  • ROCKOK!

    サスティナー付のギターで使用するとミクさんの声もしばらく伸びっぱなしになるのでしょうか????

    2014年10月21日 12:29 PM
  • たうざぁ

    iOSにしか対応しないのが残念です。
    iKaossilatorなどのシンセ系はレイテンシの問題とかあるのでまだ分かりますが、
    これとかVolca Sampleのサンプル転送みたいにリアルタイム性が要求されないユーティリティーは
    Androidでもそれほど問題が起きないと思うのですが…
    自社でサポートしきれないというなら、せめて転送フォーマットの公開を期待したいところです。
    (モノトロンなどの回路図公開しているくらいあけっぴろげなKORGさんならやってくれそうな)

    2014年10月22日 5:34 AM
  • こま

    VSTにしてほしいぜひ

    2014年11月8日 4:47 PM
  • 774

    KORGはその昔YAMAHAのコンパクトエフェクターを作ってた時代があったからねぇ、なんか因縁を感じますなwww
    ちなみにYAMAHAブランドで出してた中身KORG製のコンパクトエフェクターは後に外観をリニューアルしてKORGから出してたっけ。
    今でもヤフオクで時々見かけるけどけっこう良かったです、て事でこのMIKU STOMP早速購入します!

    2014年11月13日 4:53 PM
  • Za

    単音楽器の未来さんに和音入力とはひどくなって当たり前。
    ピックアップを弦ごとに独立させこの未来さんも弦の数だけ用意すれば取りあえず解決。
    後はピアノにもピックアップを付ければ壮大な未来さんが。

    2014年11月22日 1:31 PM
  • Zantei

    海外版出すなら今のエフェクトスイッチとイラストの位置関係はよくないのでは。

    2014年11月22日 1:41 PM

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