DTMでも威力を発揮。シンセの音色作りの勘所

DAWにソフトウェア音源を組み込んで使っているけど、結局プリセットを選んでいるだけ」……という人って多いですよね。「ゼロから音作りができたらいいけれど、思ったような音が作れない」とか、パラメータの意味がさっぱり分からない、という理由で、最初から諦めている人も少なくないはず。でも、「この音作りが自由自在にできるようになったら、曲作りの幅も大きく広がる」のは間違いありません。

そこで、シンセサイザのプロであり、作曲家であり、数々のDTM関連書籍や雑誌で記事を書いている高山博さんに、どうすればシンセを自在に操れるようになるのか、その勘所はどこにあるのかなどを伺ってみました。

高山博さんに、シンセサイザの音作りの秘訣について伺ってみた


キーボードマガジンやサウンド&レコーディングマガジンの記事でよく見かける高山博さん。リットーミュージックの書籍としては、私が書いているCubaseの解説書と同じ徹底操作術シリーズで、ProToolsやLogicの本を書かれているので、お世話になっている人も多いと思います。

以前は高山さんと私、それに松前公高さん、Yasushi.K(@Yashushi_K)さんの4人でReasonの本を書いたことなどもあったのですが、最近はFacebook上でのやりとりが中心でちょっとご無沙汰していました。ところが先日DTMステーションのバナー広告を見ていて、高山さんが「減算合成シンセシス完全マスター」というセミナーを開くというのを知りました(この広告、半自動で入る仕組みなので、掲載されたのを見て内容を知ることが多いんです)。

中身を見ると、なかなか面白そうで、興味を引く内容。きっとDTMユーザーにとっても役立ちそうなものばかりだったので「さわりだけでもいいので、DTMで困っている人向けに、少しお話を伺えませんか?」とお願いしたところ、快く応じていただけたので、以下にインタビュー形式で、その音色作りの秘訣を紹介していきたいと思います。

--フリーソフトも含め、多種多様なシンセサイザを簡単に入手できるので、嬉しい時代になりましたが、実際にはプリセットを選択するだけで終わっている人も少なくないようです。

高山:一口にシンセサイザといっても、現在主流のPCM音源や昔ながらのアナログシンセ、FM音源などなど、さまざまなものがあります。それぞれによって方式が異なるので、本来はそれらを見極めた上で使っていく必要があるのですが、どの音源を使うにせよ、アナログシンセの考え方がベースになっている面はあるので、そこをしっかり身につけておくことが重要ですね。これはハードとしてのアナログ回路のものはもちろんのこと、アナログをモデリングしたデジタル音源でも、ソフトウェア的にシミュレーションしたものでも、基本は同様。フィルターを使って音を削りだしていくという考え方なので、「減算合成シンセシス」と呼んでいます。

--確かに、どのシンセサイザにも、フィルタが搭載されていて、エンベロープジェネレターがあって、アナログシンセの考え方が残っていますね。
高山:アナログシンセというか減算合成に慣れていくことによって、耳がそれに親しむようになり、自然と音を三要素に分解して聴くようになります。

--音の三要素って……、「音色」、「音の高さ」、「音の大きさ」でしたっけ?

高山:その通りです。音色といってしまうと、なかなか捉えにくいので、「音の明るさ」というと捉えやすいと思います。シンセサイザでは、この3要素に加えて時間による変化が非常に重要になるので、音の三要素+1ですね。音を時間ごとにスライスし、そのときに明るさ、高さ、大きさがどうかを見ていくという考え方です。すごくいいのは、音色を声に出して表現してみることですよ。

--シンセの音色を声に出す!?
高山:ええ。「むちょん」とか「ぱっぱぱぱぱーっ」とかね。たとえば「むちょん」は音の出だしが「む」で、その後に「ちょ」があって、キーを離すと「ん」。さらに細かくいうと「む」では暗い感じで、「む」から「ちょ」に変わるに伴って音色が明るくなっていき、「ちょ」の前半で明るさがピークに、そして「ん」でまた暗くなっていく……といったイメージです。ブラス系の音の「ぱーっ」というのは、声に出してみると分かる通り「ぱ」は最初に口を閉じていないと言えないわけで、非常に短い時間ながら、その前に「ん」が入っている感じなんです。この「ん」はすごく暗い音なんですが、そこから突然明るい状態へと変化し、最後の「っ」で最初の暗い状態へといきなり戻る。こんな風に音色を観察するクセをつけていくのがシンセの音作りの重要なポイントなんですよ。

--なるほど、音色を文字?にすると、いろんなことが分かってきますね。その上で、これをパラメータへ置き換えていくというわけですね。そういえば、その昔、アナログシンセが出始めたころって、シンセサイザに幻想がありましたよね。シンセを使えば、あらゆる音が合成できるというような……。でも、現実にはそこまでの万能マシンではありませんでした。

高山:でも、当時の耳には、それぞれの楽器のプリセットが結構ホンモノっぽく聴こえたんですけどね(笑)。オーボエとかよかったなぁ。バイオリンとかも、それっぽく思えたし…。とはいえ、実際には限られた音しか作れないどころか、レコードで聴いたMOOGの音を、自分の持ってるRolandで作ろうしてもなかなかできなかったりするのも事実でした。


--そうそう、miniMOOGみたいなシンセベースをRolandのシンセでやろうとしてもできなくて…。

高山:逆にRolandのキラキラしたサウンドをMOOGで作ろうとしても、なかなかうまくいかないんですよ。やはり、それぞれのシンセサイザごとに得意不得意があるというか、機種によって解釈が若干違う部分もあるんですよ。ハイパスフィルターにレゾナンスがあるものと、ないものがあるし、そもそもハイパスがないものもある。そしてパラメータに個性があるので、その結果、カラッとした音が得意なメーカーもあれば、モチッとした音が得意なメーカーもある。そのパラメータの個性がどういうものかを見極められるようになると、音作りもよりしやすくなってきますよ。

--パラメータの個性ってどういうことですか?

高山:モジュールからモジュールへ信号を渡す際に、歪みが発生するか、しないかというのも大きなポイントです。もともとはアナログの回路設計上の特徴なんですが、それが最終的なサウンドにも大きく影響してくるんです。レゾナンスを上げると当然ゲインもあがるんですが、そこで歪みが発生するかどうかで、大きく音も変わってくるわけです。パッチングできるシンセサイザなら、わざとモジュール間にディストーションを入れることで、歪みを演出させて音作りをしていくといったワザもありますね。そのほかに機種ごとに隠れたパラメータがあるということもシンセサイザを理解する上で重要です。

--隠れたパラメータ?それはどいうことですか?

高山:ええ、シンセサイザーの音作りがイマイチうまくいかないのには隠れているパラメータにも秘密があるんですよ。たとえばエンベロープジェネレータ。音が立ち上がり、そこから減衰して、ある一定レベルで止まり、それが消えていくというのを決めるのに、一般にADSR4つの線のグラフで表して、それに対応する4つのつまみを装備しているんだけど、4つの線のグラフを決めるには、5つの点の縦横の値に対応する10個のパラメータが必要ですよね。でもつまみは4つ、ということは、残りの6つのパラメータはどこで決めいるか、そこがつまみに無い隠れたパラメータということになります。こうしたことはシンセサイザの解説書には書かれていない話ですが、とても重要なことです。今度の講座では、こうした種明かしをいろいろしていこうと思っています。
--なかなか奥が深そうですが、一つ一つ分解していくと、結構単純なことの組み合わせのようではありますね。

高山:そのとおりです。こうしたパラメータの違いを見て、好きな音源を買うのがいいのですが、ぜひ各シンセサイザの音の違いをチェックできる機会があれば、試してもらいたいのがオシレータの特性。フィルターを完全に開いた状態で、オシレータの裸の音を聴いてみてください。ノコギリ波だけでも、結構差があることが分かるはずです。本来、ノコギリ波なんて、ごく単純な波形なわけですが、機種によって、明るい音のものもあれば、暗い音のものもある。明るいということは倍音成分がいっぱい入っているということ、逆に暗いのは基音がしっかりしていることを意味しています。また、素のオシレータの状態でも若干歪みがあって、矩形波っぽくなっているものも少なくないですね。さらに、フィルターを目いっぱい開いても、実は完全に開き切っていない音源もあるんですよ。まだエンベロープジェネレータをかける余地を残しているために、開いていないんですね。その場合は、エンベロープジェネレータも同時に操作しておく必要があるので、そうした知識も重要ですね。


5月9日より、高山さんによるシンセサイザの講座が開催される 

--そうした波形をチェックする上でオシロスコープは必要ですか?
高山:音を作るという意味では、とくに無くてもいいし、耳でしっかり音を確認できるのがいいです。とはいえ、そこはシンセサイザをどう楽しむか、という人それぞれのものはあるので、合理的に見てみたい、理論をしっかり抑えたというのなら、オシロで波形を見て比較してみるのも面白いとは思いますよ。それから、ポリフォニックのシンセサイザの場合は、ノコギリ波でキレイにハモるかどうかもチェックポイントです。

--キレイにハモるとは、どういうことですか?

高山:たとえば、ドミソの和音を弾いたときに、まるで1音の音色を弾いたように混ざって聴こえるものと、別々の音として認識できるものとあるんです。どっちがいいとか、どっちがダメではなく、それがシンセサイザ固有の個性なんですよ。たとえばProphet-5なんかは音が混ざる典型的な音源ですね。

--高山さんのように、シンセサイザの長い経験がないと、分からないことも多そうですが……

高山:やはり、実機を使って音を聴き比べていかないと、なかなか理解しづらいところではありますが、今から始めても十分に分かると思いますよ。今回、MiM Educationというセミナーで行うのも、実際の音を出しながら、隠れたパラメータがどんなものなのかといったことを実践していきます。シンセサイザに関する解説書はいろいろありますが、そうした隠れたパラメータがどこにあるのか、モジュールからモジュールへ受け渡す際の歪みとはどんな音なのかといったことは、普通書かれていません。そんなことを交えながら、実践的な音作りの仕方を解説していくので、シンセサイザの音作りについて、短期間に身に付くはずですよ。

--やはり、それを身につけるためには、ハードウェアのアナログシンセを持つことが必須になりますか?
高山:最近はアナログシンセが、かなり手ごろな価格で買えるようになり、選択の幅も広がったので、一つ入手することはお勧めします。とはいえ、それが必須なわけではないし、ソフトシンセだけでも十分に理解していくことは可能です。このセミナーはRock oNというショップを展開しているメディアインテグレーションさんが主催しているので、店舗にある実機をいろいろと比較しながら音をチェックしていく予定なので、各機種固有の特性などもしっかり分かると思いますよ。

--それは楽しみですね。いろんなシンセが欲しくなってしまいそうで、ちょっと怖いですが、シンセサイザの音作りで困っている人、これからアナログシンセを購入してみようと思いながら戸惑っている方にとっても、有益そうですね。今日はありがとうございました。
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