みなさんはクロックジェネレーターというモノをご存じですか?クロックジェネレーターとは44.1kHzとか96kHz、192kHzといったデジタルクロックを発生する装置で、一般的には数十万円から百万円を超すものまである機材。これをオーディオインターフェイスなどに供給することで、音質を向上させることができる、というものです。

そんな高価なクロックジェネレーターですが、6万円で入手できるという手ごろな国産製品が登場してきています。Sound WarriorというブランドのSWD-CL10というのがそれ。長野県にある城下工業という会社が開発する比較的コンパクトな機材なのですが、各種オーディオインターフェイスとの接続ができ、確かに音が変わるという評判の機材です。実際にちょっと触ってみたので、どんなものなのかを紹介してみましょう。


ワードクロックを使った同期ができるSound Warriorシリーズ
 
マスタリングエンジニアと会話していると「ウチはOCXOのクロックジェネレーターを使っている」、「ルビジウムのクロックジェネレーターを購入したところだ」なんて話を聞くことがありますが、音を正確に録音、再生する上ではクロックが重要な役割を果たすのは事実です。私も、クロックジェネレーターを変更して音が変わるか、という聴き比べを何度かしたことがありましたが、確かに微妙に音に違いが出るんですよね。そんなクロックジェネレーターを1つ欲しいものだ……とは前々から思っていましたが、ちょっと素人には手が出せない価格で諦めていました。


Sound Warriorシリーズのクロックジェネレーター、SWD-CL10 

ところが、6万円でTCXOタイプの高精細クロックが、さらに3万円のオプションでOCXOのクロックも入手できるというのだから、これまでの常識を大きく覆す価格設定。断然、興味も湧いてきます。

が、このクロックの話、かなりマニアックなネタでもあるので、これが何なのかを少し解説しておきましょう。ご存知の通り、デジタルオーディオは、44.1kHzとか96kHzなどのサンプリングレートで動作しているわけですが、その周波数を作り出すものがクロックです。オーディオインターフェイスやCDプレイヤー、USB-DACといった機材にはクロックが搭載されており、そのクロックでデジタルオーディオ機器が動作するようになっているのです。

一般的には水晶発振器と呼ばれる部品が搭載されており、ここに電圧を掛けると、非常に正確な周波数を作り出すようになっています。時計だとクォーツなんて呼び方をすることもありますが、それが水晶の特性でもあるのです。

ただし、非常に正確といわれるクォーツの時計でも、1か月で数十秒のズレが生じ、モノによって進むものと遅れるものが存在しています。このことからもわかる通り個体によっても生成されるクロックに違いがあるほか、クロックの周期には揺れが発生します。その揺れのことをデジタルジッター、または単にジッターと呼ぶのですが、これが音質に悪影響を与えます。


理想的なクロックと完全には安定しない実際のクロックには違いがあり、その結果生じる揺れがジッター 

そのジッターをイメージ的に描いたのがこの図です。正確な水晶発振器といっても、アナログの世界なので、実際のクロックはキッチリしていないため、理想とはズレが生じるわけです。そのズレのことをジッターと呼んでいるわけですね。さらに、この実際のクロックは温度の影響を受けやすく、温度が一定していないと、どんどん変わっていってしまいます。そこで、できるだけ正確なクロックを外部から供給してやろうというのが、クロックジェネレーターなのです。

では、どうしてクロックジェネレーターはオーディオインターフェイスなどより正確なクロックが作り出せるのでしょうか?それは水晶発振器の構造違いにあります。一般的なオーディオインターフェイスやCDプレイヤー、USB-DACなどの機器に搭載されている水晶発振器はSPXO (Simple Packaged X'tal Oscillator)もしくは単にXO (X'tal Oscillator)と呼ばれる部品なのに対し、TCXO (Temperature Compensated X'tal Oscillator)=温度補償型水晶発振器さらにはOCXO (Oven Controlled X'tal Oscillator)=恒温槽付水晶発振器というものがあり、これらを使っているのです。


SWD-CL10に搭載されているTCXO 

TCXOは温度補償型ということでXOより一回り大きくなっていますが、OCXOはさらに大きくなっています。というのも、ここには温度を一定に保つためのヒーターがはいっており、これによって安定性を保っているんですね。ちなみに、OCXOの上には水晶ではなくルビジウムという元素を用いたクロックが存在しますが、ルビジウムを使ったクロックは100万円以上するのが一般的な、非常に高価なものとなっています。


SWD-CL10にオプションとして追加可能なOCXO 

さて、解説が長くなってしまいましたが、今回の本題であるSound Warriorについて紹介してみましょう。今回取り上げるのは、Sound Warrior Desktop-Audioシリーズという現代のミニコンポともいうべき機材。このシリーズには
   SWD-CL10:クロックジェネレーター
   SWD-CT10:CDプレイヤー(正確にはCDトランスポート)
   SWD-DA10:USB-DAC
   SWD-TA10:パワーアンプ
の4種類があります。いずれも外付けUSBハードディスク?というような形状のコンパクトでスタイリッシュな機材です。この4種類のうち、デジタル系の3機種、つまりCL10、CT10、DA10のそれぞれをお借りしてちょっと使ってみました。


CDプレイヤー(CDトランスポート)のSWD-CT10 

まずCDプレイヤーのSWD-CT10はシンプルなCDプレイヤーではあるのですが、アナログ出力がありません。出力はデジタル=S/PDIFのコアキシャルとオプティカルのみ。だから、CDトランスポートと呼ぶのですが、ユニークなのは、ここにはWORD CLOCK INという端子があることです。そう、これが外部からのクロックの入力端子であり、BNC端子と呼ばれる形状のコネクタが使われています。


SWD-CT10のリアパネルにはWORD CLOCK INの端子がある

ここにクロックを供給すると、SWD-CT10内のクロックは無効となり、外部からのクロックに同期して動作するんですね。では実際に試してみましょう。SWD-CL10のクロック出力をSWD-CT10に送ると……、パネルに周波数が表示されるとともに、クロックが同期して、外部クロックで動作するようになります。音を聴き比べてみると、接続前、接続後で微妙に音が変わることが確認できます。

少しCDの音がクッキリするように思いましたが、おそらく感じ方は人それぞれだし、どちらの音が好きかは人それぞれだとは思います。またCDですから、本来は44.1kHzのクロックを送るべきところですが、SWD-CL10からは48kHz、88.2kHz、96kHz、176.4kHz、192kHzのぞれぞれの周波数のクロックも送れるので、それを試してみたところ、SWD-CT10も反応するんですよね。つまり内部でサンプリングレートコンバートをした上で、再生されるようになり、そのためのクロックが供給される、というわけです。


SOURCEボタンを押すことで、クロックを標準のTCXOからOCXOに切り替えることができる 

そのクロック供給元のSWD-CL10はクロック周波数を切り替えるボタンがあるほかにSOURCEというボタンがあります。実はこれはSWD-CL10の標準クロックであるTCXOクロックと、オプションのOCXOクロックを切り替えるためのボタンとなっているんです。今回借りたSWD-CL10は、予めオプションのOCXOクロックを搭載した機材だったので、このスイッチで切り替えができるんですね。切り替えてみると、なるほど、こちらもさらに微妙に音が変化するのが分かります。耳のいい人、聴きなれている人なら、その違いがもっとクッキリ分かると思いますよ。


SWD-CL10のリアパネル。左側4つがクロックを出力する端子となっている

ちなみに、このSWD-CL10には複数の端子が用意されています。左にある4つのBNC端子がすべてクロックの出力端子となっており、フロントのスイッチで選択したクロック周波数が出力されます。またこの4つのうち右側の1番と2番は設定したクロックの256倍の周波数(176.4kHzおよび192kHzの場合は128倍)での出力もできる仕様になっています。さらにその右にはS/PDIFのコアキシャル出力がありますが、これはS/PDIFでクロックを送る端子ですね。


CLOCK INにはルビジウムなどからの高精度なクロックを入れることが可能
 
そして、その右にはCLOCK INという端子もあります。でも、クロックジェネレータにクロック入力があるとはどういうことなのでしょうか?実はこれ、2つの目的があります。隣のスイッチをDISTにすると外部から来たクロックをSWD-CL10で分配する形となります。一方スイッチおを10MHzにすると、より高精度なルビジウムの発振器から送られてくる10MHzという高いサンプリングレートの信号を受け取り、それを元にして44.1kHzや48kHzなどを生成させるためのものとなっているのです。。とはいえ、今回は使わないので無視することにしましょう。


DSDにも対応するUSB-DAC、SWD-DA10 

では、もう一つの機材、SWD-DA10ですが、これはPCとUSB接続して使うUSB-DAC。DTMユーザーから見れば、出力だけで入力のないオーディオインターフェイスとして捉えればいいでしょう。USB Audio Class 2.0のクラスコンプライアントとなっているのでMacやiPad、iPhoneであればドライバ不要で接続して使うことができます。


iPad、iPhone、Macならドライバ不要で接続できる

一方、Windowsの場合はSound Warriorのサイトに32bitおよび64bitのドライバがあるので、これをダウンロードして組み込めばASIOドライバのデバイスとして使うことができるようになります。


Windowsの場合は、Sound Warriorのサイトで配布されているドライバをインストールして使う必要がある 

基本的にはPCMの44.1kHz~192kHzに対応したUSB-DACであり、DSDの2.8MHz、5.6MHzにも対応できるようになっています。さらに、S/PDIFで入力されたコアキシャルの信号、オプティカルの信号もアナログへ変換できるので、前述のCDプレイヤーからS/PDIFの信号を送って、これでアナログ化することもできるわけです。
 

SWD-DA10のリアパネル

さて、ここでポイントとなるのはUSB-DACであるSWD-DA10にもCLOCK INの端子があること。つまり外部クロックを受けることで、より高品位な音で出力できるというわけなのですが、44.1kHzの音をPCから出しているときに、SWD-CL10から44.1kHzのクロックを供給しても、うまく同期してくれません。48kHz動作時に48kHzを供給してもうまくいかないのです。

どうして??と思ってマニュアルを調べてみたところ分かりました。このSWD-DA10は内部的にアップサンプリングしているため、44.1kHzや88.2kHzなら176.4kHzに、48kHzや96kHzなら192kHzに変換されていたんですね。そこで、SWD-CL10から176.4kHz、192kHzの信号を送ってやると、うまく同期してくれました。かなりマニアックな感じではありますが、最近流行りのハイレゾ再生用のPCオーディオ機器としては、面白そうですね。

このように現代版ミニコンポ、Sound Warriorシリーズを使うことで、クロック供給を使った同期の面白さを体験できるわけですが、やはり試してみたいのは、オーディオインターフェイスとの接続です。


先日記事でも紹介したZOOMのUAC-8(下)へSWD-CL10(上)からクロック供給を行ってみた 

ちょうど先日「超低レイテンシーを実現するUAC-8はiOSでも大きな威力を発揮する!」という記事で扱った、ZOOMのUAC-8が、外部クロックを受ける機材となっているので、これを使って試してみましょう。接続は簡単。SWD-CL10のWORD CLOCK OUTとUAC-8のWORD CLOCK INをBNCケーブル接続するだけ。


接続はBNCケーブルをSWD-CL10のWORD CLOCK OUTをUAC-8のWORD CLOCK INにつなぐだけ 

オーディオインターフェイス側は通常通りに使うだけですが、クロックを受けるために1つだけ設定をする必要があります。それはUAC-8のコントロールソフトであるUAC-8 MixEfxにおいてCLOCK SOURCEの項目がINTERNALになっているのをWORD CLOCKに変更すること。あとは、サンプリングレートに合わせたクロックを送ればいいのです。


UAC-8 MixEfxのCLOCK SOURCEをWORD CLOCKに変更する

実際に試してみると、なるほど内部クロックでの音とSWD-CL10からクロックを送ったときで微妙に音が変わるので面白いですね。どっちの音がいいのか、と言われると難しいところですが、音が変化するのは確かです。

レコーディングにもプレイバックにも影響を与えるクロックですので、音質にこだわりを持っている人なら、一度試してみる価値があると思いますよ。個人的には3万円のオプションを追加したOCXOのクロックを使うのがお勧めです。

※追記
一昔前のデジタルオーディオ機器の場合、内蔵クロックが安定していないケースもあり、外部クロックの効果が分かりやすかったのが、最近の機材はかなり高品位なので、昔の機材ほどには如実な効果は現れないかもしれません。一方、「長時間使っていると、どうもピッチが変わった感じがする」という現象は温度変化に弱い内蔵クロックが怪しいですね。こんな症状に対しては、外部クロック供給は有効だと思いますよ。
「温度変化でクロックが狂ってもppm(1/1,000,000)単位でのズレなので、ピッチ変化を知覚できるほどではないはず」というご指摘をいただいたので、上記の表現削除しました。

※追記2
レコーディングエンジニアの方から、外部クロック供給の分かりやすい効能として、時間のズレの補正という話をいただきました。「品質の低いクロックの場合、正確なクロックと比較して±50~100ppm程度のズレがあるため、4分のレコーディングを行うと実時間で15~30msecのズレが生じてしまいます。これを正確なクロックで制御することで、正すことが可能です」とのこと。モノによってはもう少し大きなズレが生じることがあるので、音質だけでなく、こうした点でもメリットがありそうです。
 

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