最近、少しずつ増えてきているDTMの学校。その中心は、やはりDAWの使い方講座であり、CubaseSONARPro Toolsなどを使ったレコーディングの方法や打ち込みの方法を教えてくれるというものです。でも、そんな中、ちょっと変わった学校があります。その名も「東京DTM作曲音楽学校」という都内にある小さな学校というか、教室。

先日、その東京DTM作曲音楽学校の校長先生であるdonsukeさんから、「講座の最後である、ウチの生徒の発表会があるので、ぜひ見に来ませんか?」というお誘いを受けたのです。その発表会の場所が横浜みなとみらいにあるランドマークスタジオ。著名なミュージシャンが、大掛かりなレコーディングをすることでも知られるレコーディングスタジオで、私の家からも近いし、個人的にも一度見に行ってみたい……と思っていたスタジオです。面白半分で行ってみたところ、ちょっとビックリするような発表会だったので、その内容について紹介してみたいと思います。


横浜みなとみらいにある「ランドマークスタジオ」で行われた発表会を見学に行ってみた
 
朝8時25分という早い集合時間にスタジオの入り口に到着すると、すでに20人くらいの人たちが集まっています。見た感じ10代~50代くらいまでいろいろな方がいて、聞いてみると今回は第6期生の人たちの発表会だ、とのこと。20人の中には卒業生もいるし、3か月後にこの場所で発表会を迎える第7期生の人たちもいるようで、みんさん和気あいあいとした感じでありつつも、緊張も走っています。


まだショッピング街が始まる前、5階のスタジオ前にはいろんな年齢層の人たちが… 

ほとんど予備知識もなく、この発表会に参加してしまったわけですが、DTMで制作した曲を再生するのかと思っていたら、まったく違いました。この日、6か月間の講座を終えて卒業する方々が作曲した弦楽四重奏をここで演奏し、レコーディングしよう、という結構トンでもない内容だったのです。

聞くところによれば、 生徒が宿題として自宅でDTM音源を利用して作曲・制作した楽曲のデモと手書きの譜面を前回の授業で発表するとともに、弦講師陣が楽曲指導。そのアドバイスを元にブラッシュアップした譜面をランドマークスタジオへ持参したとのことです。


発表会は業務用レコーディングスタジオで弦楽四重奏をレコーディングするという形で行われる

その演奏をするのは、プロのみなさん。まずバンドマスターはチェロの向井航さんで、関西フィルハーモニー管弦楽団首席チェロ奏者でもある方。ヴァイオリンは根来由実さんと多ヶ谷樹さん、ヴィオラは西村知佳子さんという、そうそうたるメンバー。このプロ4人に自分で作った譜面を渡し、それを弾いてもらってレコーディングするというのです。


冒頭、挨拶に立つ校長のdonsukeさん、向井さん、根来さん、多ヶ谷樹さん、西村さん(左から順)

レコーディングは大きなコンソールを通し、Forcusriteのマイクプリアンプを経由させて、スタジオ備え付けのPro Tools|HDを用いくのですが、その操作自体を問うわけではまったくありません。これらのオペレーションはランドマークスタジオの専属エンジニアの二人が完璧に行ってくれるからです。では、今日発表をする人たちは何をするのかというと、プレイヤーのみなさんに作曲者として、指示を出し、やりとりをし、しっかりした作品がレコーディングができるようにディレクションしていくのです。


レコーディングはランドマークスタジオ専属のエンジニア、 渡辺久之さん(右)、近藤麻衣さん(左)が担当する

あまりにもすごい内容だけに、この日の発表会がどういう主旨のものなのかを理解するのに、ちょっと時間がかかってしまいましたが、プロの一流プレイヤー、プロのレコーディングエンジニアを前にして、アマチュアである生徒が作曲者として参加して指示していくのだから、緊張もしますよね。


この日、卒業する生徒のみなさんは、奏者一人ひとりの譜面を渡していく 

スタジオに入ると、まずはプレイヤーのみなさんとご挨拶するとともに、自分の作った譜面を手渡していきます。見てみると、ほとんどの人は手書きの譜面。「正しい記譜の手法を覚えないうちに、コンピュータの出力に頼ると誰にも読めない譜面ができるので、ちゃんと覚えるまでは手書きして、1つ1つ確認しましょう、という意図があるんですよ」とdonsuke先生。


譜面が行き渡る、すぐに譜面読み、練習がスタート。5分後には即、本番へ

この日のトップバッター、花澤さんは30歳過ぎてから脱サラして、DTM作曲専門学校に入ったという方。それまで一切音楽経験はなかったけれど、週に1回、約3ヶ月の授業を経てカルテットの譜面を作るところまで漕ぎ着けたとのこと。
 

トークバックボタンを押しながら、奏者に語りかえる花澤さん 

アニメのオープニング曲のイメージで作ったので、エモーショナルな感じでお願いします」とコントロールルーム側からブース側にトークバックマイクを使ってプレイヤーのみなさんに声をかけます。さっそくオケを流すと、オケはピアノ、ベース、ドラム、ギター、ボーカルの5パートで、これが音楽経験なしとは信じがたい、かなりしっかりした曲。「知り合いに同人をやってる人がいるので、手伝ってもらったんです」と花澤さん。


コンソールの先、ガラスの向こう側では自分の作曲した曲がプロ4人によって演奏されている


チェロの向井さんからは「ボーカルもなかなかうまいね」とお褒めの言葉も返ってきます。さっそく演奏をはじめると、さすがプロのみなさん。もう一発でほぼ完璧な演奏。でもdonsuke先生からは「この譜面だとアーティキュレーションが少なすぎ。これだけだと、DTM的にベロシティが全部同じ打ち込みみたいだよ。しっかり指示を出さなくちゃ!」というと、「曲の中盤からだんだん悲しくなっていって、最後でまた元気になってくる。その雰囲気を曲に乗せてもらえればと思います!」とトークバックマイクに向って話しかけます。途中、譜面の読みにくい部分などのやりとりが少しあった後、結局3回の演奏でレコーディング完了となりました。


次の発表者のために、donsuke先生からのアドバイスも飛ぶ 

そのほかの人たち、オケなしの完全な弦楽四重奏。2人目の佐々木さんは、自衛隊の音楽隊を25年続けてきたという方。「譜面が切れているところがありますが、ここで1回切ってください。テンポは60くらいでお願いします」と伝えると、今度は厳かな感じで演奏が始まります。


譜面の中には「元気に(完全復活) 」といった表記も…

譜面を見て面白いのは、いわゆる音楽記号とは違う書き込みがあります。「だんだん立ち直る」、「元気に(完全復活)」なんて書かれていて、これで表現したい気持ちを訴えているんですね。


演奏内容はテキパキとした作業の元、Pro Toolsへとレコーディングされていく

みんなに対してdonsuke先生がしきりに言っていたのは「一番貴重して、ナイーブになっているのはブースの中で演奏している人なんだよ。良いなら良いと感想を伝え、、変えてほしければその内容をしっかり言わなくちゃ。プレイヤーのテンションが上がるような言葉を瞬時に考えていかないと。それも作曲技術の1つです」と。
 

自分の曲が演奏されている際は、どうやってディレクションしようか…と緊張もする 

とはいえ、こんな立派なスタジオに入るのは初めて、トークバックのスイッチなんて触ったこともない人たちが、プロを前に指示を出すなんて、なかなか難しいですよね……。


演奏をうまく褒めると、さらにいい演奏になって返ってくるのもテクニックのうち 

ちなみに、半年間続いた週1回の授業では音楽通論から、コード&スケール理論、作曲/編曲技法、耳コピ講習……など、さまざまなことを習っていくとのこと。基本的にDAWを使って実践していくのですが、とくにDAWは指定されていないから、各生徒が使いやすいDAWを利用すればいいみたいですね。授業の中には今回の発表会に繋がる「至上最強のストリングスアレンジ講座」のほか、「至上最強のコンペ実習」、「映画・CM等、映像音楽実習」、「レコーディング実習」なんていうものがあるのも面白そうですね。

また基本的には都内にある教室に通う形になるのですが、地方にいる方の場合は授業のオンライン配信で居住地を問わず参加することもできるのだとか。また、時間が合わない場合は授業を録画したアーカイブ受講という手段があるというのも現代だからこその新しい学校という感じです。
 

本番中、やはりいろいろなトラブルも発生する。それをどう乗り越えるかも卒業の試練 

さて、今回の発表会を見ていると、やはりトラブルもいろいろ発生するのも見ていて面白いところ。セカンドヴァイオリンが後半の途中から微妙に合わなくなり、最後の小節で先に終了。どうやらヴァイオリンのパート譜の途中で1小節抜けがあったんですね。慌てて発表者と問題箇所を捜索して事なきを得ていました。

また「37小節目の2拍目の音は、ホントにGでいいんですか?」なんて声がブース側から上がって、確認をしたり、ヴィオラで出せない音程が入っていたり……。その都度、プレイヤー側から提案があったり、作曲者側からのお願いあったりと、まさにプロのレコーディング現場さながらの様子です。結局1人あたり、30分弱。準備時間などを含め全員の発表が3時間程度で終了となりました。


先生や奏者のみなさんから、総評も行われた 

すべて終わった後の総評ということで、根来さんからは「みなさん、向ってるベクトルが違うから、一言でまとめるのは難しいけど、ここでのレコーディングはDTMとは違って、人間同士の仕事だということですね。なるべく奏者のハートをキャッチしていただけると、格段によくなると思いますよ。それができるのが作曲者さんなんですから」とのアドバイス。

また、向井さんからも「今回は完成度の非常に高い曲が4つありましたね。ただ、みなさん楽譜はもう少しキレイに書いて欲しいな。私たちも作曲者であるみなさんの音楽をもっと知りたいと思うし、一緒に音楽したいと思っています。でも、すごい熱い思いは感じても、何が書いてあるか分からなくて音程が外れてしまったら台無しですからね」と譜面に対するコメントがありました。


終了後は、個別にアドバイスを行われたり…… 

最後にdonsuke先生からは「これで第6期生のプログラムは終了です。これまでの作曲作業で何十回と聴いてきたソフトシンセでの音とはまったく違うでしょ。いまの演奏のアーティキュレーションがどうなっていたんだろう…と思うところもあれば、あの部分はソフトシンセでもそこそこできたよな…なんて感じる部分もあったのではないでしょうか?ソフトシンセは種類やメーカーによっても、得意、不得意がありますから、今日の記憶が残っているうちに、できるだけ早く整理してみるといいですね。ソフトシンセではできないからフレーズを変えてみるといったことも念頭に置いてみるといいですよ。いま作っている曲をどうやって光らせるか、というのを最大限考えるのも作曲の重要なポイントです。みなさん、半年間お疲れ様でした」と発表会の締めくくりの言葉がありました。

作曲家にとっての一番の目標は“良い曲”を作ることで、途中のプロセスはDTMでも、生録音でもいいのです。でもDTMという手法があると、そこに偏りがちになってしいます。どこで、生演奏、生録音の本物のサウンドを知ることで、DTMの苦手な箇所や得意とする部分が発見でき、結果的にDTMを最大限に使いこなせるようにしたい、というのがこんな授業を行っているベースにあるんですよ」とdonsuke先生。確かにこんな体験、普通はできないですもんね。

なお、東京DTM作曲音楽学校は、次の第9期生の募集を行っているそうなので、興味のある方は模擬授業がある説明会などに参加してみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
ランドマークスタジオ