世界にたった15台のガジェット系の歌う楽器が完成。VOCALOOP発売

もう2年半も前ですが「ボーカルをループさせる新発想の楽器、VOCALOOPとは」という記事を書いたことがあります。これは以前ヤマハ在職時に「VOCALOIDキーボード」を開発していた加々見翔太さんが中心になって開発していた歌う楽器。記事を書いた当時は主要機能はPCのソフトウェアで実現させるというプロトタイプになっていました。それがようやく完成し、ハードウェアの楽器として発売するということで、加々見さんから連絡をいただいたので、見に行ってきました。

コンパクトなガジェット風の機材として仕上がっており、その中には専用に開発した基板が入っていて、ファームウェアも搭載された、大手メーカー製品に負けない電子楽器。でも、主要部品であるeVY1 boardが製造中止となってしまったために、製造できたのはたった15台だけになってしまったのだとか……。それでも「後世語り継がれ、使われていく楽器になるはず」という思いから世界に向けて発売を開始。そのVOCALOOPとはいったいどんな楽器なのか、実際に見せてもらいました。

たった15台しか生産されないVOCALOOPがいよいよ発売開始

まずは、文章でいろいろと説明するよりも以下のビデオをご覧になってみてください。

これ、加々見さんが目の前で行ってくれたデモを撮ってきたものですが、VOCALOOPとはどんな楽器で、どんなプレイができるのか、これを見ればだいたい分かりますよね。

改めて紹介していくとVOCALOOPはボーカルをループさせて歌わせるというガジェット系の電子楽器であり、その内部にはeVocaloidを使ったヤマハの歌声合成チップが搭載されています。その操作は20個のボタンと、4つのノブ、そして液晶ディスプレイを使っておこない、まさに電子的な歌声がループして演奏されるという機材なのです。


単4バッテリーまたはUSBバスパワーでの駆動 

単4バッテリー3本で駆動し、入出力端子としては、ヘッドフォン出力、ステレオミニ端子を使ったMIDI IN、電源入力用のmicroUSBのそれぞれ。これ一つポケットに入れて持ち運べば、どこでも演奏できる!というわけですね。

VOCALOOPのリアパネル。左からリセットスイッチ、ボリューム、microUSB、MIDI、ヘッドホン出力

この日、取材先には開発メンバー4人(企画・インタラクション:加々見翔太さん、デザイン:内田亮太さん、ハードウェア設計:白川徹さん、回路・ソフトウェア設計:佐々木敦史さん)と、VOCALOOPを使って演奏するチップチューン・アーティストであるTORIENAさんが出迎えてくれたので、いろいろとお話を伺ってみました。

VOCALOOP開発メンバーとTORIENAさん
--もともとVOCALOOPはどういうキッカケで作ることになったのですか?
加々見:クラブミュージックが好きなので、鍵盤楽器よりも、シーケンサタイプのものが作れないだろうか…と考えていたんです。そんな中、ヤマハからeVY1というものが出てきたので、「これを使って何かやりたい!」と思い、淡路町のオシャレなカフェ(笑)で内田君と話をしている中で生まれたアイディアなんです。
内田:普段は家電製品のデザインを手がけていますが、一方で秋葉原的な文化とデザインを融合できないかと考えていました。その時ちょうど大学の先輩でもある加々見さんから、「秋葉原的な匂いを持つ、クラブムーブメントを起こしたい!」と相談され、いくつかスケッチを作ってみたものの一つがVOCALOOPなんですよ。

開発リーダーであり、企画担当の加々見翔太さん
--以前にも3Dプリンタで作ったデザインは見せてもらいましたが、やはり製品化には結構時間がかかりましたね
加々見:内田君と大学で研究室が同じだった白川君が手伝ってくれるということで、プロジェクトとして動きはじめました。私はハードを作ったことがなかったので、MAX/MSPを使ってソフト的なプロトタイプを作っていたのです。

白川:家電的なものからオモチャまで、さまざまな製品のデザインから機構設計まで、金型の直前までを一貫して請け負う仕事が私の本業です。そんな中、VOCALOOPの話を聞き、面白そうだと思って3年前にプロジェクトに参加しました。でも機構設計はできても、基板や回路はまったくの門外漢。見様見真似で試してみましたが、やはりアナログ回路に関してはかなり専門知識がないと無理で、やや暗礁に乗り上げていました。そこに佐々木さんがプロジェクトメンバーに加わって、動き出したんですよ。


デザイン担当の内田亮太さん

--佐々木さんは、電気回路設計のエンジニアなんですか?
佐々木:私自身はもともと音響機器メーカーでレシーバーの設計をしていて、大学時代からエフェクターの自作などもしていたので、音モノは大好きです。その後、家電ベンチャー企業に転職し、回路設計のエンジニアをやっているのですが、2年ほど前に、加々見さんがここに転職して入ってきたんです。VOCALOOPの話を聞いたらとっても面白く、プロジェクトに誘われたので、軽く引き受けたら大変なことになってしまいました(笑)。
加々見:音楽系に興味があるということだったのでぜひ、という形でお願いしました。

ハードウェア設計の白川徹さん

--そうはいっても、開発には結構苦労されたわけですね。

佐々木:いろいろと試行錯誤してきましたが、ここ数年で3Dプリンタや基板製造などが安価に行えるサービスが整ってきて、個人レベルでの試作費用が下がってきたのは、こうしたプロジェクトにとっては大きいですよね。

回路・ソフトウェア設計の佐々木敦史さん
--でも、VOCALOIDも一時に大ブームは終わってしまったようにも思います。製品化がこのタイミングでいいのでしょうか?

加々見:本業が忙しくて、VOCALOOPプロジェクトがおざなりになっていて、遅れてしまいました。確かに流行りモノのソフトだと、流行の時期に出さないと売れないけれど、ハードの楽器なら、変な音が出せれば後世に残せる。だから時間をかけて作っていいものだと考えています。たとえばTB-303だって、当初はベースを置き換えるものとして発売されたけど、変な音が出せる機材だったから、今も受け継がれていますよね。「ソフトシンセでもいいじゃん」とよく言われるけれど、テクノの世界ではハードをフィジカルに触ることに大きな意味があると思っています。また、ハードであれば、中古で流通する可能性もあるし、10年後どこかで変な使われ方をしていたら嬉しいなって。


チップチューンアーティストのTORIENAさん 

--確かにVOCALOOPが使われた曲が、出てきたら一発で分かりそうだし、ワクワクしますね。
加々見:そうなんですよ。でも、最初は自分たちで仕掛けなくちゃいけないだろうと思い、TORIENAさんに相談して、使ってもらうことになったんです。いろいろなアーティストがいる中、TORIENAさんに声をかけたのは、もともとGAMEBOYを使ったチップチューンアーティストとして活躍されていて、「えげつない」サウンドを出す人としてすごく印象的だったんです。VOCALOOPとの相性もすごくよさそうだと思って……。
TORIENA:加々見さんと初めてお会いしたのは、2年前の中国の深センで行われた音楽イベントに参加したときです。加々見さんもコバルト爆弾αΩというユニットで出演していて、VOCALOOPの話を伺いました。これまで、ずっとGAMEBOYだけで音楽制作をしていたのですが、やっぱり縛りが大きいのも事実です。同時発音数が4音しかないですから、その4音でどこまでできるか、どこまで聴かせられるか、というのが面白くて活動してきましたが、やはり4年もやってくると、そろそろ別の楽器も交えてみたいな…と思っていたところだったんです。
内田:実はVOCALOOPのイメージはチップチューンにおけるGAMEBOYをある程度意識していたんですよ。だからサイズもほぼピッタリ同じになっているんです。

GAMEBOYとVOCALOOP
--そういう意味でもTORIENAさんにはマッチしてそうですよね。でも、実際に出来上がったばかりのVOCALOOPを使ってみてどうでしたか?
TORIENA:VOCALOOPというので、もっとVOCALOIDっぽいのかな…って想像していたんです。でも、今回初めて実物を見たら、キャラクタとかもなく、シンプルで結構Apple製品っぽいというか、すごくオシャレだなというのが第一印象です。ループシーケンサだから、すごくライブにも向いているなとも感じました。さっそく今月リリースするアルバムに、VOCALOOPを使った曲を1曲入れてみましたが、作品作りにもいいし、GAMEBOYなどハード系のシンセと連携させて同時に演奏したらライブで映えそうですよね。これならVOCALOID好きな人にもウケそうな一方で、VOCALOIDを触ったことがない人、まったく興味のない人でも違和感なく楽しめるんじゃないかな、って。またエフェクトがかなり強力なんで、ピッチシフトで思い切り音程をさげると、ハードウェアのバグみたいな音になったりして、結構気に入りましたね。

内田:DJ系の機材って、いかついのが多いので、あえてその逆にすることで、並べたときに異彩を放つのでは、という思いもありました。また女性の声だから、角を丸くしたり、白っぽくしたり……。確かに言われてみると、箱といいApple的なデザインの影響を受けているかもしれませんね(笑)。


--VOCALOOPがチップチューンミュージックと融合した世界、すごくいいですね。でも、TORIENAさん、このVOCALOOPとGAMEBOYの同期って、どのように実現しているんですか?

TORIENA:GAMEBOY上で私はLSDJというソフトを使って曲を作っています。VOCALOOPにはMIDIクロックでの同期機能があるんですが、LSDJ側がそれに対応していないので、Cubaseを使いながら手動で同期させています。もっとも、ライブでも手動で2台のGAMEBOYを同期させることはよくあるので、まったく違和感はなかったですよ。これからVOCALOOPをもっと積極的に使ってみたいですね。

生産できたのはたった15台のみ
--こうなると、VOCALOOPが大々的に普及し、世界中のユーザーに使われていくと面白そうですが、15台しか生産できないという話はホントなんですか?
加々見:残念ながら、そうなんです。eVY1 boardの生産がストップしてしまい、手の打ちようがないんですよ。

--でもeVY1にこだわらなくても、たとえばポケットミクに搭載されているeMIKUを使うとか、方法はあるのでは?
佐々木:eMIKUはちょっと仕様が違うところがあり、扱いがなかなか難しい面があります。また、ポケットミクの場合、モジュールとして作られているわけではないので利用しづらいという問題もあります。
加々見:VOCALOOPは、なるべく無色な歌声にしたいという考えもあり、eMIKUだとどうしても初音ミクになってしまうし、ライセンスの関係もあるので、なかなか難しいな、と。

私の手元でいまも眠っているeVY1 Shield
--だったら、私もeVY1を搭載したeVY1 Shieldは持っているので、これを差し上げましょうか?もう2、3年、電源も入れずに眠っているだけなので……。eVY1 Shieldはそれなりに売れたので、同じようなに宝の持ち腐れになっている人は、結構いっぱいいるのではないでしょうか?それを募集してみるとか?
加々見:もしVOCALOOPへアップグレード希望者が大勢いたら、検討できると思います。eVY1 Shieldには「ピンヘッダあり」のモデルと 「ピンヘッダなし」のモデルがありますが、どちらでもいいので、もし希望の方がいらっしゃったら、ぜひ一度メール等でご連絡ください。

--さすがに15台だけでは、寂しいので、これをキッカケに増産できるといいですね。楽しみにしています。ありがとうございました。
なお、12月20日放送予定のDTMステーションPlus!第71回(ニコニコ生放送およびFresh! by AbemaTV)の番組冒頭において、加々見さんおよび、TORIENAさんに出演いただいて、VOCALOOPをデモしていただく予定です。よかったら、ぜひご覧になってください。

【関連情報】
VOCALOOPサイト

【購入サイト】
VOCALOOP(ギズモミュージック)

【DTMステーションPlus! 第71回】
2016年12月20日 21時放送
ニコニコ生放送
Fresh! by AbemaTV

Commentsこの記事についたコメント

3件のコメント
  • Andy

    買いました!
    ポケミクとか組み込めればいいんですけどね。
    eVocaloid board持ってる人は是非手を挙げてほしい。

    2016年12月15日 7:45 PM
  • ねむねむ☆

    サイトに行ったときはもう売り切れでした。
    これ面白いですね。かなりの可能性を秘めていますよ!
    後継機は、32の日本語のフレーズにして、Roland – MX-1のようにステップ毎にエフェクトやピッチ、パン等を制御できるようにしたり、
    複数台繋げられたりすれば、かなりいけるのではないでしょうか。
    初心者にも打って付けだと思います。特にDAWとVOCALOIDの組み合わせで断念してしまった方に。
    勿体ないですね。

    2016年12月15日 9:07 PM
  • r

    間に合わなかった。。。

    2016年12月17日 2:57 PM

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