先日、「ビンテージ機材を完全に再現するエフェクト70種類を無料提供!?FPGAでゼロレイテンシー、CPU負荷ゼロを実現するAntelopeの戦略」という記事でも紹介したAntelope Audioのオーディオインターフェイス。FPGAで処理しているためにエフェクトにおけるレイテンシーがないというのはとっても魅力に感じるところ。しかも、数多くのエフェクトが無料で使えてしまう、というのも大きなポイントです。

以前にも何度かAntelope製品を試してみたことはありましたが、ある程度技術的なバックグラウンドを知った上で使ってみると、その良さをしっかりと確認できそうです。そこで改めて最新機材であるDiscrete 8を借りて試すとともに、これでビンテージマイクのエミュレーションに利用するAntelopeのコンデンサマイク、Edgeもセットで試してみました。またエフェクトの画面を見ると、何を再現しているのかも分かってくるので、その謎解きも一緒に行ってみました。


FPGAが搭載されたAntelopeのオーディオインターフェイス、Discrete 8とコンデンサマイクのEdgeを試してみた
今回、使ってみたDiscrete 8は8つのマイクプリアンプを搭載したオーディオインターフェイス。サンプリングレート的には32、44.1、48、88.2、96、176.4、192kHzをサポートしています。まあ、このデジタル的なスペックだけを見ると、そう珍しい仕様ではないのですが、ここには他の製品にはない、Antelopeならではの仕掛けが山ほどされているのです。


1UラックマウントサイズのDiscrete 8のフロントパネル

まずはDiscreteディスクリートという名前を聞いて、みなさんはピンと来ますか?アナログ機器に詳しい方なら、お分かりだと思いますが、これは抵抗、コンデンサ、コイル、トランジスタ、ダイオードなど、単純なアナログ部品だけで構成されていることを意味し、IC=集積回路を使っていないことを表す言葉です。Discrete 8はマイクプリアンプを、まさにそのディスクリート回路で作ることにこだわったオーディオインターフェイスなんですね。

以前、Discrete 4について紹介したこともありましたが、これも4つのマイクプリをディスクリート回路で構成しているという点では同様。FPGAを使ったエフェクトなど、最先端の技術を駆使する一方で、昔ながらのアナログ手法を用いた設計になっているというのもAntelopeの面白いところです。


フロントパネル左側にはマイク、ライン、ギターも入るオールマイティーなコンボジャックが2つ搭載されている

そのDiscrete 8は1Uのラックマウントサイズの機材。ディスクリート回路のマイクプリアンプが8つ入っているとはいえ、結構コンパクトにまとまっているわけですね。フロントの左側にギター入力、マイク入力、ライン入力の切り替えが可能なコンボジャックが2つ、右側に独立2系統のヘッドホン出力があります。


フロントパネル右側には独立した2系統のヘッドホン出力がある

また、リアを見ると、右側に残り6つのマイク入力兼ライン入力があり、その左にはREAMPというのがあるのも面白いところ。そうリアンプ用の端子が用意されているんですね。さらにその左がモニターアウト、つまりモニタースピーカーなどに接続するための出力です。それとは別に隣のD-SUBでアナログのラインアウトが8chあります。さらに左にはS/PDIFの入出力と、フットスイッチ、ワードクロックの入力が1系統と出力が3つ用意されています。


Discrete 8のリアパネル

このDiscrete 8をPCと接続するには2通りの方法があります。1つはUSB 2.0を使う方法で、もう1つはThunderboltを使う方法。今回はWindows 10のマシンにUSBで接続しましたが、USB接続した場合は24IN/24OUTという仕様になるのに対し、Thunderboltで接続した場合は32IN/32OUTとなるようです。


雷マークのThunderbolt端子と、その右にUSB 2.0端子と、2つの接続方法が用意されている

これまでThunderboltはMacのみの対応でしたが、7月23日からベータ版ではありますが、Windows版のThunderboltドライバも公開されたところです。実際Cubase Pro 9.5から見た場合、24chの入出力で見えますね。もちろんWindowsでもMacでも同じように扱うことが可能です。


USB接続した場合、Cubaseからは24IN/24OUTのオーディオインターフェイスとして見えた

Discrete 8用のドライバをインストールし、Antelope LauncherからDiscrete 8のコントロールパネルを起動するとミキサー画面が登場してきます。


Antelope Launcher

これが、Discrete 8の中枢をコントロールするための画面であり、ここで各種ボリュームを調整できるのはもちろんのこと、ディスクリート回路のマイクプリのゲインを調整することもできるし、FPGA FXを設定し、機能させていくこともできるのです。


ミキサー画面の形状でDiscrete 8を司る、Control Panel

このミキサー画面の左側を見るとMONITOR 1、HEADPHONES 1、HEADPHONES 2とありますが、それぞれ独立したモニターミックスを作ることができるようになっています。


アナログアウトの設定画面

また、マイクプリのゲインコントローラの下にMONITORS&HEADPHONES、DIGITAL OUTS、ANALOG OUTS、そしてDAWとありますが、それぞれへ送る調整も個別にできるわけですね。その意味では、かなり大規模で複雑な設定が可能なミキシングコンソールという感じですね。


DAWとのやりとりをするための画面。エフェクトの設定はどの画面でも共通になっている

ここでポイントとなるのが、AFX=FPGA FX部分です。これは各マイクプリの入力の後にインサーションの形で入れるもので、まさにAntelopeのオーディオインターフェイスの肝となるレイテンシーのないFPGAによるエフェクトを使える部分です。


PC画面での操作と本体での操作および液晶ディスプレイの表示は当然連動している

これについてはマイクプリと一体化していると考えるのがよさそうで、モニター出力だろうと、コンピュータ入力だろうと共通となります。DTM的観点で見ると、マイクなどから入力された音に、エフェクトがかかった状態でDAWへと入ってくるわけで、いわゆる“掛け録り”となるわけですね。


ラック画面の中に各FPGA FXをセットしていく

実際、ビンテージエフェクトのアウトボードを使うとなったら、当然掛け録りとなるので、それをDiscrete 8ひとつで実現していると思うと分かりやすそうです。そのエフェクトとしてはEQ、コンプ、ギターアンプ、ギターキャビネットなど、ビンテージ機材を再現するエフェクト、約70種類を自由に使うことができるのです。


FPGA FXの一つとしてギターアンプシミュレータ、キャビネットシミュレーターが用意されている

とはいえ「無料のエフェクトなんて、まあオマケのどうでもいいものでしょ」と思うかもしれません。でも、これはプロのエンジニアなどがよく使うビンテージエフェクトを中心にAntelopeがかなりのパワーをかけ、ソックリに再現したもの。Universal AudioのUAD-2のように、ブランド名こそついていませんが、実は裏でメーカー側の協力を受けているものも多く、その再現レベルは非常に高いのだとか。

ある意味、挿せばすぐにいい感じの音を作り出してくれるエフェクトばかりなのですが、やっぱりそれぞれ元ネタが何なのかは知りたいところ。そこで、何人かのエンジニアさんにも協力を得ながら、何をエミュレーションしたエフェクトなのかをEQとコンプについて探ってみました。その一覧がここに掲載したものです。

FPGA FXの名称 (EQ) 元ネタ
VMEQ-5 Pultec MEQ5
VEQ-1A Pultec EQP-1A
BAE-1073 NEVE-1073
VEQ-55A API 550a
VEQ-HLF Pultec HLF-3C
HELIOS 69 HELIOS 69
LANG-PEQ2 LANG-PEQ2
NEU-PEV Neuman-PEV930
NEU-W492 Neuman-W492
NEU-W495 Neuman-W495
VEQ-4K PINK SSL 4000 PINK
VEQ-4K ORANGE SSL 4000 ORANGE
VEQ-4K BLACK SSL 4000 BLACK
VEQ-4K BROWN SSL 4000 BROWN
BAE 1084 BAE 1084
BAE 1023 BAE 1023
VEQ-STU 089 Studer 089
VEQ-STU 169 Studer 169
VEQ-STU 900 Studer 900
VEQ-Ha32C Harrison 32C
VEQ-55B API 550b

FPGA FXの名称 (コンプ) 元ネタ
FET-A76 UREI 1176-LN
VCA160 dbx160
x903 dbx903
Tube176 UA 176
Gyraf Gyratec X Gyraf Gyratec X
Grove Hill Liverpool Grove Hill Liverpool
Stay Levin Sta Level
ALT-436C Altec 436c
SMT-100A TLA-100A
FET-78A UREI 1178
BA-6A RCA BA-6A
Tubechild670 Fairchild670
Impresser Distressor

私も触ったことのないものもいっぱいでしたが、まさに世界中の業務用スタジオで今も活躍している機材のオンパレードなんですよね。エンジニアの方々も「かなりオリジナルの音に近いね」という感想。しかもこれらがレイテンシーゼロで利用できるわけですから、まさにアナログハードウェアでのビンテージ機材そのもの。限界まで試したわけではないのですが、最新のFPGAチップの入っているDiscrete 8の場合、同時に10以上ののエフェクトを起動することができました。


アナログテープシミュレーターとして、いい味を出してくれるReel to Reel

なお、もうひとつ最近加わったユニークなエフェクトがReel to Reelというもの。これは画面を見てもわかる通りのテープシミュレータ。ある特定の機種の再現ではなく、Antelope創業者であるイゴールさんのいくつかのコレクションを元に再現したものなのだとか……。ボタンで4つのTYPEを選ぶことで、音の雰囲気が変わるのも面白いところ。サチュレーション感とヒスノイズの入り方が変わってくるので、まさにアナログっぽいサウンドにすることができるんですよね。


立派なアタッシュケースに収められているEdge

さらにDiscrete 8がすごいのは、ディスクリートによるマイクプリアンプをFPGA FXでビンテージマイクプリアンプにしてしまうというワザ。現在5種類のマイププリのメニューが用意されていますが、それぞれの元ネタはこちらのようです。

FPGA FXの名称 (マイクプリ) 元ネタ
Gyratec IX Gyraf Gyratec IX
VPA 76 Telefunken V76
BAE-1073MP BAE 1073MP
RD-47 Redd 47
BA-31 RCA BA-31A

100%デジタルでのエミュレーションではなく、アナログのディスクリート回路を通しているからこそ実現できているサウンドなんですね。コンソールグレードのディスクリート回路を通じて収録するからこそ、ビンテージマイクプリの真価が発揮されるようです。


ケース内にはマイク本体、マイクホルダー、ポップガード、ケーブルが収められている

さて、ここでもう一つ試してみたのは。冒頭でも紹介したAntelopeのラージダイアフラムのコンデンサマイク、Edgeとの組み合わせです。考え方としては、先ほどのマイクプリと同様で、高品位なアナログ性能を持つものをFPGA FXを利用してビンテージマイクを完全な形で再現しようというもの。でも、ただでさえシビアなコンデンサマイクの世界、多くの老舗マイクメーカーが、長年のノウハウを使い、熟練職人の手で作っているからこそ、作れるものであって、クロックやオーディオインターフェイスを作っているメーカーが簡単にいいものが作れるはずもありません。


ラージダイアフラムのEdgeはベルリンの某老舗メーカーで作られている!?

先日Antelopeのセールスディベロップメント担当のラドスラフ・ミラノフ(Radoslav Milanov)さんにインタビューした際には「Edgeはベルリンの某老舗メーカーの協力を得て開発・生産しています」とベルリンのマイクメーカーなんていったら、え?あそこしかないですよね……。だとしたら、Edgeは単体で112,000円とそこそこの値段ではあるけれど、実は激安ともいえるのではないでしょうか……!?それ以上、ここでは突っ込まないですけどね……。


3端子-XLRのキャノンコネクタではなく、5つの端子で2chのコネクタになっている

またユニークなのは、普通のキャノンケーブルで接続するのではなく、付属の専用ケーブルを用いて2chでの接続になっていること。といっても、LとRのステレオレコーディングをするというのではなく、指向性をあとで調整できるように、こういう構造になっているんですね。


付属の専用ケーブルを用いてDiscrete 8に接続

実際、このEdgeをDiscrete 8に接続して使ってみると、とくにマイクシミュレータを使わなくても、かなりいい音で録れますね。ちゃんとしたスタジオでのレコーディングテストではないので、ぜひ改めて試してみたいところではありますが、かなり素性のいいマイクであるのは間違いなさそうです。


Edge用のマイクシミュレーター。メニューから選ぶだけで、「あのマイク!」の音になる

そして、極めつけとなるのが、そのマイクシミュレーションです。これは、先ほどのFPGA FXとは別の位置に設定するもので、一番上のマイクプリ段のギアアイコンをクリックして設定していきます。とくにマイクシミュレーションはせず、Edgeとして使う場合はAntelope Edgeを選択の上、指定するわけですが、それ以外の選択肢は現時点では11種類。これは、もう型番を見るだけでわかるし、表示される画像からも想像できると思いますが、一応記載しておくと、以下の通りです。

FPGA FXの名称 (Edge) 元ネタ
Berlin 47 FT Neumann U47 FET
Berlin 87 Neumann U87
Berlin 67 Neumann U67
Tokyo 800T Sony C800G
Oxford 4038 Coles 4038
Berlin M103 Neumann TLM103
Berlin 49T Neumann M49
Sacramento 121F Royer R121
Berlin 57 Neumann UM57
Vienna 12 AKG C12VR
Vienna 414 AKG C414 XLS

前出のミラノフさんは「現場でレコーディングエンジニアが、普段通りすぐに使えるよう、多くのスタジオに入っているコンデンサマイクをシミュレーションしています。プロの方でも、オリジナルのマイクの音と、Edgeを使ったシミュレーションの音の違いを見分けるのは難しいと思いますよ」と自信を見せていました。


まさにNeumannのU-87の音になった

なお、Edgeとは別のスモールダイアフラムのVergeというマイクもあり、こちらはこちら用のシミュレータが複数用意されているようでした。


今回は使わなかったが、Vergeというマイク用のシミュレータも複数用意されている

ミラノフさんによれば、10月末ごろに、都内のスタジオで、多くのレコーディングエンジニアやプレスを招いて、マイクのレコーディングテストをするとのことだったので、ぜひ行って自分の耳でも確認してみたいと思っているところです。

以上AntelopeのDiscrete 8をザックリと紹介してみましたがいかがだったでしょうか?単機能のオーディオインターフェイスと比較すると、やはり高めの価格設定ではありますが、トータルで考えればとてもコストパフォーマンスが高く、そしてほかにはない魅力を数多く持った製品であるといえそうです。

なお、現在Rock oNではDiscrete 8 with Premium FX Packを購入すると、専用モデリングマイクVergeが2本もらえるプレゼントキャンペーンを開催中とのことなので、ぜひチェックしてみるといいと思います!

【関連情報】
Antelope Audioウェブサイト
Discrete 8製品情報
Edge製品情報
Verge製品情報

【関連ビデオ】


【価格チェック&購入】
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