技術進化で大きく変わったゲーム音楽制作、スクエニ祖堅正慶さんが語るファイナルファンタジーの舞台裏

さまざまな名曲が生み出されるゲームの世界。でも、その制作現場でどんなことが行われているのかはなかなか知ることができません。そんな中、4月29日に幕張メッセで行われたニコニコ超会議スクウェア・エニックスのステージでは、ファイナルファンタジーXIVの楽曲がどのように作られたのか、その舞台裏を披露してくれました。

ここではスクウェア・エニックスのサウンドディレクターである祖堅正慶さんが、Cubaseのプロジェクトを広げるとともに、昔のファイナルファンタジーシリーズの曲をモチーフに最新版楽曲へとアレンジしていく技を見せてくれたのですが、もっとその詳細を教えてほしいと、あらためてインタビューさせていただきました。

ファイナルファンタジーXIVの音楽を手掛けた祖堅正慶さんにお話しを伺った



--ファイナルファンタジーは1987年にファミコン用に登場してから、間もなく30年とのことですが、ゲーム音楽作りという意味では、どんな変化があったのでしょうか?

祖堅:本当にさまざまな変化、進化がありますが、昔と今で大きく違うのは、ゲーム機のハードウェア自体の進化ですね。昔は扱えなかったオーディオデータが、今では自由に使えるようになりました。ファミコン時代はPSG音源しか扱えなかったわけですが、初代プレイステーションでも数百KBという限られたメモリー領域の中にそれぞれのシーンに合わせた特製の音源プリセット20音程度をロードし、それをMIDIのような専用データでトリガーして鳴らすという手法をとっていました。それが、いまでは本当にオーディオデータ自体を鳴らすわけです。まあ携帯ゲームなど、一部で昔ながらの手法を用いるケースはありますが、家庭用ゲーム機はもちろん、PCゲーム、スマホにいたるまで、ほぼオーディオデータでの扱いになってまして、MIDIは介在しません。

ファイナルファンタジーXIVの一シーン
--MIDIを使わずすべてオーディオで、というのはゲーム音楽制作の現場からすると嬉しいことなのですか?

祖堅:音の表現の幅が広がるという意味では嬉しいことだとは思います。ただし、ゲームへの実装や演出を考えると、非常に煩雑で大変なものになりました。たとえばゲームのシーンが変わるとき、MIDIならそれに合わせてテンポデータを変更するだけでよかったといった場合、オーディオだとそう簡単にはいきませんよね。音はリッチになったけれど、以前のような自由度はなくなってしまいます。そこでオリジナルのVSTプラグインのようなエフェクトをサウンドプログラマがゲーム機の中に実装して、これを使ってリアルタイムにタイムストレッチを行ったり…、という手法に変化しているんですよ。MIDIベースで考えていた頭をオーディオベースへと大きく変えないといけないんです。

「MIDIベースで考えていた頭をオーディオベースへと大きく変えないといけない」と話す祖堅さん

--ゲーム機自体が進化してくると、曲の作り方も変わってきますよね?

祖堅:いろいろな意味で変わってきます。たとえば「大草原のフィールドに出て歩いている」というシーンを考えてみてください。ここでサウンドについて、ごく普通に考えれば、鳥の鳴き声や風がそよぐ音などを出したいところですよね。でもその昔のPSG音源しか鳴らせない時代では、そんな効果音は出せるはずもないので、そこを埋めるための感情表現の手段としてゲーム音楽があったのです。それを使って喜怒哀楽を表現していたのです。しかも、同時発音数が3つまでで、音色の幅もほとんどないという、がんじがらめの制限の中で可能なことといえばメロディーの変化くらい。だからこそ、当時のゲーム音楽においてはメロディーが大きな意味を持っていたのです。ところが、いまのゲーム機なら映画的な表現ができてしまうので、鳥の鳴き声や風の音を直接表現することだって可能です。最近のゲーム機から遊んでいるプレイヤーさんはリアリティーを求める傾向が強いので、そこをサウンド制作でも追及することになるのですが、古くからゲームに親しんできたプレイヤーさんは、先ほど説明した通りメロディーラインというのをとても大事にするので、ここでもキャッチーな音楽が流れることを求める傾向が強い。ここに年代による大きなギャップが生じているんですよ。そこを、どのようにうまく整合性を付けるのかというのが、いま我々の直面している課題でもあるんですよ。とくにファイナルファンタジーのように30年も続いているシリーズでは、そこがとても難しいところでもあるんです。


PlayStation4対応となり、ハードウェアの進化のともない、サウンドづくりお大きく変わってきた

--現在のゲームのサウンド作りは映画にも似た感じですね?

祖堅:映画のMAに近くなっていますが、映画とは抜本的に異なる点があります。それは映画の場合は尺が決まっているけれど、ゲームの場合はインタラクティブ性があるので、ボタンを押すタイミングでシーンが人によって変わったり、何もなければ違和感なく同じシーンが長時間続くなど、プレイヤーによって尺はまったく決まっておらず、毎回違って制作側としては予想がつかないということです。でもそれこそが、結果はプレイヤーが決めるというゲームの醍醐味です。たとえば、「ダンジョンを歩いているとモンスターが表れて戦闘シーンになり、敵を倒して、さらに奥へと歩き進める」というシーンを考えてみましょう。普通にダンジョンを歩いているときのバックに流れる曲と、戦闘シーンでの曲はプレイヤーの感情は異なるので、音楽も異なった方が表現方法としては良い方向に思います。でも、歩いているところから戦闘シーンに、いつ切り替わるのか予想がつかないので、まったく違う曲をスムーズに切り替えるのはなかなか難しいところです。そこで、同じ曲を2つのアレンジで用意しておくんです。そして2トラックとも再生しながら、片方をミュートしておき、戦闘シーンになるときにミュートするトラックを切り替えるのです。こうすればコード進行もBPMも同じですからスムーズに切り替わるというわけなのです。


2016年のニコニコ超会議のスクウェア・エニックスブースでは祖堅さんによるアレンジ講座も開催された 

--先日のニコニコ超会議でお話しされていた編曲について改めて教えてください。

祖堅:あのときお話ししていたのは昔のファイナルファンタジーの曲をモチーフにFFXIVの曲を新たに作るのをCubaseで行うというネタですね。ファミコン時代のFFでは短い曲データしか入れることができなかったので、10秒程度の曲をグルグルループさせて使っていました。でも、サウンドのチームには、「このときの曲を2分にして!」なんてオーダーが来るわけなんですよ。でもいまの時代に、たった10秒の曲を音源だけリッチにしたところで、「洗脳ミュージック」なんて言われてしまいます。そこで、同じモチーフを使いつつも変化をつけるために、いろいろな組み合わせをしているんですね。Aメロ、Bメロ、サビとあるときにその順番を入れ替えたりするのはもちろん、AメロとBメロを重ねて鳴らしてしまうなんてこともします。さらに、同じゲームの中には、シーンによって異なる数多くの曲が入っていますから、別のシーンの曲をもってきてつなげたりもします。その当時のFFだと、1作につき20~30曲はありますから、単にバトルシーンの曲といってもいろいろあるので、それをうまく活用するんです。こうした組み合わせや展開の作業をCubaseを用いて行っているわけなのです。

ファミコン時代の曲をモチーフにしつつ、Cubase上で組み立てていくと話す、祖堅さん

--祖堅さんがトラックを制作していく上で、音源はどんなものを使うのですか?

祖堅:もちろんギターなどはオーディオをレコーディングしていくし、ソフトウェア音源も数多く使っています。音源としては最近、オーケストラが多いのでEAST WESTを主体に使っていますね。もちろんNative InstrumentsKOMPLETEも使っていますが、その中で最近よく活用しているのがDAMAGEです。これはオーケストラのパーカッションなんですがかなり破壊力のある音なので、ゲーム用として使いやすいんですよね。ドラムにはBFD3を使うケースが多いです。それからCubase標準の音源として、かなり使っているのがPadShopですね。これ、すごく便利に使えるんですよ。たとえば、コーラス、クワイヤをレコーディングしてくるじゃないですか。でも、実際に聴いてみると音がスカスカだったりすることがあるんです。そこで、これにPadShopでの音を足してみると、自然な感じで音が膨らむんですよね。3~4人でレコーディングした音がその何倍もの人が歌ったみたいに変わるんで、すごく便利ですね。

音源にはNative InstrumentsのKOMPLETEをはじめ、さまざまなプラグインを利用している

--このようにして制作された曲は、当然ゲームの中に実装されるほかにサウンドトラックとしてもリリースされますよね。これは同じ音源が使われているのでしょうか?

祖堅:いまサウンドトラックはハイレゾ対応しているので、ゲームを作る環境とは違う環境で作っています。そもそもゲームの制作期間って、すごく短くタイトなので、悠長に96kHz/24bitで作って、ひとつずつコンバートするような暇がありません。そのため最初から44.1kHz/16bitで作っているのです。でも、それをサウンドトラック用にアップコンバートすればいい、というわけにもいきませんから、まったく別の環境で作り直しています。もちろん、使っているMIDIデータや録音したオーディオ素材はそのまま使いますが、プロジェクトとしても96kHz/24bitで作り直しています。Recするオーディオデータはサウンドトラック制作を見越して全て96kHz24bit以上でRecしています。また、先ほどお話しをした効果音とのバンド帯域の割り振りというものも不要になりますから、ローもしっかり出ていますよ。サウンドトラックは、あくまでも音楽を主体に聴かせるものですから、考え方が違うんですね。

サウンドトラック用は、ゲーム用とは違う環境で作り直していると話す祖堅さん

--とはいえ、これもCubaseで作っているわけですよね?

祖堅:はい、もちろんすべてCubase上で行っていますよ。ただし、プロジェクトの設定やEQ設定のほかにも、リバーブでの奥行き感も調整するので、ゲームで鳴る音と比較してずっとリッチなサウンドになるんです。そのため、サウンドトラックに興味を持っていただくかたもたくさんいらっしゃいますよ。また、ハイレゾを聴いたお客さんからは「こんな音、鳴ってたんだ」なんて声もよく聞かれます。本当はゲームでも出ているけれど、気づかなかったような音がサウンドトラックではしっかり聴こえたりするんです。その辺を多くの皆さんに楽しんでいただいているようですね。

サウンドや音楽に興味があって、ゲームが好きな人であれば、ぜひ飛び込んできてほしい

--最後に、ゲームのサウンド制作を手掛けてみたいという人に向けて、アドバイスをいただけますか?

祖堅:ゲームサウンドの世界は最先端の情報にアンテナを立てつつ、制作面では根性が必要ですね(笑)。あとは音楽的にどんなジャンルにも挑戦していく勇気も持っていることですね。いかに音楽的な守備範囲を広げられるかが重要であり、もちろんゲームが好きな人であることが求められます。いま、ゲームサウンド制作は、従来のゲーム機とはまったく異なり、非常にクオリティが高くなっているので、とてもやりがいのある仕事だと思います。サウンドや音楽に興味があって、ゲームが好きな人であれば、ぜひ飛び込んできてほしいですね。

--ありがとうございました。
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以上の内容はDTMステーションとSteinbergとのコラボレーションによる記事です。Steinbergサイトにあるアーティストインタビューのページにも、より詳しいインタビュー記事が掲載されていますので、そちらも併せてご覧ください。
【関連情報】

技術進化で大きく変わったゲーム音楽制作、祖堅正慶が操る Cubase で作る世界(Steinbergサイト)
ファイナルファンタジーXIVサイト
ファイナルファンタジーXIV サウンドトラック 公式サイト
Steinbergアーティストインタビューページ

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