手のひらサイズのシンセが大幅に機能強化して帰ってきた!KORG NTS-1 digital kit mkIIの威力

2019年11月に発売されて大ヒットになった小さな小さなシンセサイザ、NTS-1。当時「1万円で買えるKORGの小さなシンセ・NTS-1に、世界中で開発されるオシレータやエフェクトを組み込んでみた」という記事でマニアックに取り上げたことがありましたが、これは単にシンセサイザというよりも、小さなコンピュータであり、ネット上にあるフリーウェアやシェアウェアをインストールするとさまざまなシンセサイザに変身するし、スキルがあれば自分でプログラミングもできてしまうという機材でもありました。

そのNTS-1がさらに大きく進化し、NTS-1 digital kit mkII(以下NTS-1 mkII)として3月8日から発売が開始されました。内部のプロセッサが大幅に強化されるとともに、従来のリボンコントローラがマルチタッチキーボードになったり、8ステップ・シーケンサを内蔵したり、オートセーブ機能を搭載するなど、さまざまな面でパワフルになっています。実際、どこがどのようにアップデートされたのか、どういうコンセプトで進化させ、ユーザーはどのようにNTS-1 mkIIと向き合えばいいのかなど、NTS-1 mkIIを開発したコルグの機種リーダー開発担当の三浦和弥さんに話を伺ってみました。

KORGからNTS-1 digital kit mkIIが発売された

5年ぶりに登場した後継機、NTS-1 mkIIはマルチタッチ鍵盤で演奏性も向上

--2019年に発売されたNTS-1は個人的にも楽しく遊ばせてもらいましたが、今回のNTS-1 mkIIもユーザーが組み立てるキットという形のシンセサイザなんですよね?
三浦:ユーザーが組み立てるキットであるという点は以前と同様ですが、今回のほうが少し簡単になっています。以前はリボンセンサーを張り付ける作業が必要でしたが、今回のキーボードは静電センサーになっていて予め基板に機能があってシートを張った状態になっています。そのためユーザーは基板を割ってねじで締めるだけとシンプルになりました。ちなみにオシロスコープのNTS-2はバッテリーボックスをつないだりの作業があって、組み立てが難しいところがありましたが、今度は簡単ですね。ちなみにサイドパネルがアルミでできていて、以前はシルバーだったので、今回はブラックにしようという話が出ました。ただ私自身はシルバーが好きだったし、社内でも意見が分かれたこともあって、リバーシブルになっているんですよ。

コルグの機種リーダー開発担当の三浦和弥さん

--細かな部分からマニアックな機材だなと思うところですが、改めてNTS-1 mkIIを開発することになった経緯を教えてもらえますか?
三浦:2019年に出したNTS-1、当初は「開発ボード」という名目のもので、ユーザーが自由にプログラムしてシンセを開発できる機材にするつもりだったんですが、もっと単体でも遊べるようにしようとフィルタ機能やアンプ機能を搭載していきました。その結果、開発ボードというよりはシンセとして使えるようになり、想定していた以上にガジェットシンセとして幅広い人に受け入れられ、ヒット製品になったという経緯があります。これだけウケるなら、アップデートもさせていきたいと考えていました。また当初からkaoss pad kitであるNTS-3もアイディアとしてあったのですが、作るタイミングを逃していたら数年が経ち、その間にマイコンスペックも大きく向上していったのです。

旧モデルのNTS-1(左)と新モデルのNTS-1 mkII(右)

--結構以前からNTS-1 mkIIを開発する考えはあったんですね。ちょうどNTS-3と同時の発表だったと思いますが……。
三浦:まさにNTS-1 mkIIとNTS-3は並行して開発していきました。これらに合うマイコンを探していたところ、ちょうどいいスペックのものが見つかり、まずはマイナーアップデートのつもりで試作をしたのですが、NTS-1と同等のものだと、やっぱり面白くないね、という話になったんです。そこで、NTS-3で採用を決めていた静電センサーのICを使ってマルチタッチの鍵盤にしてみたところ、演奏性も向上していいな、と。一方、以前のNTS-1のときはなるべくシンプルにしたいという考えから搭載するエフェクトは絞っていましたが、今回は入れられるものは全部入れましたディレイ、リバーブエフェクト増やしていった一方、ソフトウェア担当が「ドライブ系も作れるので試してみましょうか?」というので作ってもらったらソフトクリップ、ハードクリップ、ファズ…とできてきて、メロディシンセにも強力に効くので、これはいい、ということになり、MODエフェクトに追加する形になりました。

NTS-1 mkIIではエフェクト部が大きく強化されている

オシレータは外部からの信号でモジュレーションも可能な仕様に

--エフェクトの一方、オシレータは従来のままですか?
三浦:オシレータに関してはGitHubなどにユーザーが作ったオシレータが数多くあるので、種類を増やすより、根本部分を変えてみたんです。具体的には本体の信号をオーディオインでモジュレーションできるようにしました。だから、たとえば従来のNTS-1を持っている人がその出力をNTS-1 mkIIに突っ込むことでモジュレータとして使うことが可能になりました。もともとエフェクト以降にしか入力音をルーティングできなかったのですが、フィルタの手前とアンプの手前にも入力できるようにして、NTS-1 mkIIからMIDI OUTでNTS-1に挿した場合はオシレーターが1つ増えたように使うこともできますし、SQ-64などのようにMIDI OUTが2つ付いているシーケンサで別に回してしまえばよりパラフォニックで使える方向に持っていくことができます。

オーディオインでモジュレーションできるようにしたと話す三浦さん

--その他、機能面におけるNTS-1からのアップデートポイントはありますか?
三浦:大きいものとしては8ステップのシーケンサを追加しています。NTS-1 mkIIも気軽さを重視した製品として開発していたため、あまり難しいことはしたくないと、当初は実装していなかったんです。あんまり作りこみすぎると小さいvolcaのようになってしまいますからね。とはいえアルペジオだけだとタイとかの表現ができないので、簡単でいいからシーケンサを入れよう、という話になりシンプルなシーケンサを追加しました。シーケンサは各ステップのゲートタイムとベロシティも設定できます。ゲートタイムは全ステップのゲートタイムを一気に変更することもできるため、演奏的にも使用することができます。さらに、今回は作った音色を1つだけは覚えている形になりました。

ステップシーケンサも搭載された

--確かに、これまでのNTS-1は電源を入れるとすべてがクリアされてINITという状態でしたよね。
三浦:はい、これだとやはり不便なので、1音色だけではありますが、電源を切っても現在設定している音色を覚えておいてくれるので、結構便利になっていると思います。さらにライブラリアンも用意しているので、本体で作った音をPCに保存できるようにしています。ライブラリアンには100種類の音色データを保存でき、またライブラリアンにはあらかじめ10種類の音色データも用意しているので、ある意味プリセット音色のように使っていただくことも可能です。ちなみにUSB接続に関して言うと従来のNTS-1はmicroUSB端子でしたが、今回はUSB Type-Cの端子になっています。

NTS-1 mkIIにはUSB Type-C端子が搭載されている

LEDは白色になり、端子はすべてリアに並ぶ形に

--見た目でいうとLEDが従来の赤から白に変わったので、ずいぶん雰囲気は変わっていますよね。でも、スピーカーが無くなった?
三浦:7セグのLEDもスイッチ部分のLEDもすべて赤から白に変更しました。スピーカーに関しては、写真を見た方からよくそう言われるのですが、ちゃんとスピーカーありますよ。以前のNTS-1は天板に穴が空いていたのに対し、今回は側面部分に穴が空いているんですよ。さらに端子の位置も変わっています。

スピーカー部の穴は側面部分にある

--どう変わったのですか?
三浦:以前はヘッドホンジャックだけフロントに置いてがガジェットシンセっぽい雰囲気にしてつくったのですが、もっと本格的に使いたいという方が多かったので、今回はすべてリアに持ってくると同時に、ジャックの部品を変更して強度の面においても強くしました。また今回は鍵盤を付けたことからMIDI INのみじゃなく、MIDI OUTも搭載したので、3.5mmの端子が1つ増えていますね。あとはとっても細かい話ではあるのですが……、前に使っていたネジの表面処理は黒の三価クロメートという種類のものだったのですが、塗装が結構剥げやすく、使っているうちに白っぽくなってきちゃうんです。そこで今回はニッケルの黒のガンメタっぽいネジにしたことで、強度を上げると同時に、色落ちしにくくなりました。

リアパネルにすべての端子が並んでいる

より高性能なマイコン搭載で、できることの幅も広がった

--先ほどマイコンを新しいものに変更したという話がありましたが、具体的には何を使っているのですか?
三浦:スペックとして公開しているわけではないですが、まあキットなので、買えば見えてしまいますからね。STマイクロエレクトロニクスのSTM32H725というチップを採用しました。NTS-1に搭載していたものと比較するとベンチマーク的にいえば4倍ちょっと、マスタークロックでいうと3倍くらいになっているので、かなりパワーは上がっています。それに合わせてlogue-SDKのオシレータやリバーブエフェクトのプログラムサイズも大きくしましたし、メモリのバッファサイズも増やしたので、前よりも長いディレイタイムを持ったディレイやリバーブも作れるようになりました。

マイコンチップにはSTマイクロエレクトロニクスのSTM32H725を採用

--マイコンが変わり、メモリ構成なども変わったという点で気になるのはNTS-1との互換性です。これはバイナリレベルでの互換性はあるのでしょうか?
三浦:残念ながらそのまま流し込むことはできないんです。というのもlogue-SDKのAPIを今回少し変更しているんです。これまでビルドの状態によってはNTS-1用にビルドしたものがprologueでそのまま動くというケースはあったのですが、基本的にはすべて個別でビルドして流し込むという形の設計になっていたんです。それを今後は中身を変えずにさまざまな機種で動くようにAPIを調整したので、完全互換ではなくなっています。とはいえAPIの考え方自体は変わっていないので、ソフトをやっている方であればGitHubのページを見てもらえれば、何か所かを変えるだけで対応できることがわかると思うので、多少ソースを直してビルドしてもらえれば、そのまま使うことが可能です。

NTS-1 mkIIのメイン基板

--プログラムについてあまり知識がない人にとっては難しそうですが、きっとすぐにビルドしなおした各ライブラリが登場してきますよね?
三浦:はい、そうだと思います。すぐにNTS-1 mkII用のものがいろいろと登場してくると思うので、プログラミングなどわからない方でも、パワフルなシンセサイザとして普通に使っていただくことができると思います。ぜひ、多くの方に楽しんでもらえればと思っております。

--ありがとうございました。

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NTS-1 digital kit mkII製品情報

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