DAWで音楽制作をしてるけど、どうも仕上がりがしっくりこない」、「海外のロック作品と聴き比べると、すごく貧弱な音で悲しくなっちゃう」……そんな思いを持っている人は、アマチュアDTMユーザーはもちろん、プロミュージシャンでDAWを使っている人でもかなり多いのではないでしょうか?自分の作品に納得がいかない理由は人それぞれだと思いますが、ちょっとしたワザでクオリティーが格段に上がるとしたら、そこは気になりますよね。

ちょうど2年前に書いた「プロのエンジニアがこっそり教える魔法のEQテクニック」という記事。今でも多くのアクセスが集まるのですが、その際にお話しを伺ったのがDragon Ash鬼束ちひろBAROQUESCANDALなどを手掛けるプロのエンジニアである飛澤正人(@flash_link)さんでした。その飛澤さんに以前から、「ぜひ、ほかにも何か簡単に使えるワザがあったら教えてください!」とお願いしていたのですが、「普通は、そんな手の内はバラさないんだよ」と釘を刺されつつも、また魔法のテクニックを教えてもらうことができました。というわけで、今回は低域をテーマにした音の作り方について見ていきたいと思います。


また魔法のテクニックを明かしてくれたプロのレコーディングエンジニア、飛澤正人さん
 
この5年くらいで、DAWを使う人が急速に増えてきたように思います。一般のDTMユーザーが数多くいるのはもちろんですが、従来はあまりDAWを直接いじることのなかったプロやセミプロのミュージシャン、クリエイターの間で広がっているのが目立ちます。そうした人たちがDAWを使う理由はさまざまでしょうが、やはり音楽制作のための予算が小さくなってしまった結果、一人でレコーディングもミックスもこなす必要がでてきた、というのが大きな要因なのではないでしょうか?

いまのDTM環境は、とても安く、高性能になっているので、それまでDAWを扱ったことがなかった人でも簡単にレコーディングし、ミックスすることはできるのですが、「なんか、カッコよくならないんだ…」と困っている人は少なくないようです。飛澤さんの元にもそうした相談が頻繁に持ち込まれるそうですが、


飛澤さんの仕事場である、Flash Link Studio 

多くの人たちに共通して言えるのは、低域がしっかりしてないことですね。土台となる下の音が安定してないと、曲全体が貧弱になってしまうんですよ。みんなEQで上のほうや中域はいじるのと、スーパーローは気にしたりするけれど、一番重要な100~200Hzあたりの音が出てないんですよね」と飛澤さん。

だったらEQで、その辺の周波数帯域を持ち上げてやればいいのでは…!? と思ったのですが、「EQでは、うまくいかないんですよ」とちょっと意外な答えが返ってきました。では、何をどうすればいいのでしょうか?

まずはベースの音をしっかり作ることが肝心なんです。ソフトウェア音源のベースを使ってもいいし、サンプリング音源を使ってもいい、生のベースをレコーディングしてもいいのですが、そのままでは、ドッシリとした音にならないんですよ。たとえばジャズベースなんて、その最たるもんですね。そのまま録っても、全然ローが出ないんです」(飛澤さん)

単音で聴いていると、それなりにいい音に聴こえるベースも、いろいろと音が重なってくると、インパクトがなくなってしまうことはよくありますよね。そこでEQでローを持ち上げても、音がボケてしまうばかりで、パンチが出ないというのは、よくあるパターンです。


このスタジオからさまざまな音楽作品が生まれている 

そのベースをしっかり安定した音にするためには倍音を足していくんですよ」と飛澤さんからは、またまた不思議なコメントが返ってきます。低音を出すのだから、とにかく低い周波数成分を持ち上げたいのに、なぜ高い音の倍音が必要なのか、「???」となってしまいます。

倍音といったって、ルート音が60Hzだとしたら1オクターブ上の120Hzや2オクターブ上の240Hzといった低い音。これらが加わっていくとベースの音が太く、力強く、また暖か味のある音になっていくんですよ。低域がしっかりして、中域、高域を組み立てていくことで、土台のしっかりしたサウンドができるんです。下がないのに、2kHzや3kHzの中域ばかり強調してもうまくいきません。この倍音成分はEQでは作り出せないので、エンハンサーを使うんです」(飛澤さん)

ここで登場してきたエンハンサーというエフェクト。よく名前は目にするけれど、いまいち効果や使い方がよくくわからず、ほとんど利用してないという人も多いのではないでしょうか?ここからが、その魔法のテクニックです。


ベーストラックにWavesのプラグインであるRenaissance Bassを挿すと……

僕は、WavesのR-BASS(Renaissance Bass)をベーストラックにインサーションして使っています。パラメータもほとんどなく、Freqはデフォルトの80Hzのまま。あとはIntensityというパラメータで倍音の出方を適当に調整するだけで、いたって単純。シンセベースの曲でもジャズベースの曲でもただこれを使うだけで、曲全体が断然いい仕上がりへと変わってくるんです」とのこと。実際に飛澤さんのミックスにおいて、R-BASSをON/OFFして聴き比べてみましたが、まったく違う雰囲気になるのは面白いところでした。

R-BASSに限らず、エンハンサーであれば、同様の効果が得られるはずですよ。同じ低域を厚くするという意味で、DUYのエンハンサーであるDaD Valveもよく使いますね。これはドラムのステレオミックスにそのままインサーションで入れるケースが多いですが、効果がありますね」とサラッと秘密を披露してくれました。


ドラムトラック用にはDaD Valveが効果的

経験豊富なプロのエンジニアだからこそ、さまざまな魔法を知っている飛澤さんですが、ちょうど11月10日より、そうしたテクニックを教えてくれる講座を都内で開催するそうです。具体的には「トラックメイキング X ミックスダウンの深い関連性」と題して行われる全5回の講座で、主催は渋谷の楽器店であるRock oN Company。コースA「魅せるトラックメイキングアプローチ」とコースB「魅せるミックスダウンアプローチ」という2つをそれぞれ18人限定の定員となっています。


トラックメイキング編では主にこれらの音源を使った音作りについて見ていく

トラックメイキングのほうではクリエイターさん、プレイヤーさんを対象とした内容にしようと思ってます。たとえばギタリストの方が自分でギターを演奏しつつ、DAWでドラムやベース、キーボードなどのトラックを作っていく…といったシチュエーションで、どう音作りをすると、うまくいくのかを実践を交えながら紹介していきます。コースBのミックスは、ボカロPさんなども含めたDAWで曲を作っている人みなさんに向けた内容にしていきます。ベーシックなところからやっていくので、きっと知らないテクニックがたくさん習得できると思いますよ。たとえば当たり前のツールでありながら、なかなかみなさんうまく使いこなせていないコンプの使い方やコンプでのかかり方の違いなども見ていきます」とのことです。

 

この講座ではDAWを使ってプラグインのエフェクトで実践するとともに、プロ御用達のコンプレッサであるUNIVERSAL AUDIOの1176実機での音と比較して、どんな違いがあるかなども体験できるようにするのだとか……。普通はなかなか体験できないことを実践できる内容みたいですね。

基本的にはプロやセミプロを対象にした内容にしていきますが、もちろん多くのDTMユーザーさん、ボカロPさんにとっても、役立つ内容にしていくので、音作りに困ってる、曲がうまく仕上がらない……と悩んでいる方は、ぜひ来てくださいね」と飛澤さん。


ミックスダウン編では、主にこれらのエフェクトを使っての実践をしていく 

隔週火曜日の午後の講座だそうですが、最終回の5回目は、飛澤さんの仕事場であるスタジオに行き、そこで受講者みんなの作品を再生し、どこに問題があるのか、どうすると音がよくなるのかなど、その場で実践して見せてくれるそうです。プロのエンジニアの仕事場で自分の作品を見てもらうなんて機会は、そうそうありませんから、いい体験になりそうですね。


第5回目はトラックメイキング編もミックスダウン編も飛澤さんのスタジオへ行って音のクリニックをしてもらえる 

普段ヘッドホンで作業している人も多いと思います。もちろんヘッドホンも重要だけれど、モニターの基準を持つことはとっても大切なことです。つまり、ヘッドホンに限らず、さまざまな環境で聴くと、どんな音になるのかということを掴むことです。これは僕らにとっても日々勉強。だからこそ、いろいろな環境で音のチェックをしているんですよ」と飛澤さんはアドバイスしてくれました。

平日の講座なので、仕事があると、なかなか参加しにくい面はあるかもしれませんが、プロのワザを伝授してもらえる貴重なチャンスなので、ぜひ参加してみることをお勧めしますよ!

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