今さら聞けない、「DTMとDAWって何が違うの!?」

DTMステーションというWebサイトを長年運営してきて、こんな基本的なこともしっかり書いていなかったのか……との反省から、今回は今さらながら「DTMとDAWの違い」ということについて紹介してみたいと思います。確かに、初めてDTMの世界に触れる人にとっては、同じ3文字の用語であり、Dから始まる似たような略語。何が違うのか、同義語なのか、わかりくいかもしれませんね。

もちろん、ご存じの方から見れば「いやいや、そもそも比較する用語じゃないから」なんて指摘されるとは思いますが、初めての方にとっては「???」というところでしょう。一方でDAWは世界共通用語だけれど、DTMは国内でしか通用しない用語だったりもするのです。そうした言葉の背景も含めて、見ていきましょう。

DTMとDAWって何が違うの!?



まず「DTMとDAWの違い」について、答えから行ってしまうと、DTMはデスクトップ・ミュージックの略であり「パソコンを使って音楽制作すること」を意味し、DAWはデジタル・オーディオ・ワークステーションの略で「パソコンで音楽制作するソフトウェア」を意味するものです。

だからDTMとDAWは比較する用語というわけではなく「DTMをするにはDAWが必要」というものなんですよね。あんまり深く考えるほどのことでもないですよ!正確にいえば、DAWを使わないDTMというものもあるので、DTMというジャンルの中にDAWが含まれる、という感じでしょうか?


強いて言うならば、DTMというジャンルのソフトウェアとして、DAWがあるという関係

これだけ知っていれば十分ですが、興味のある方は、ちょっとDTM、DAWという言葉が生まれた時代背景などについても、よもやま話として紹介していきましょう。

まともとDTMという言葉が生まれたのは1988年。Rolandが発売した「ミュージくん」という製品において「DESK TOP MUSIC SYSTEM」というサブタイトルを付けたのがスタートです。当時は、DTP=Desk Top Publishingというものが注目を集め始めた時代でした。つまり、それまで印刷物は「版下を作って、それを元にフィルムに焼いて…」という工程が必要だったものが、パソコン1つで机の上ですべてができてしまう、と。つまり原稿入力からデザイン、レイアウト、印刷まですべてできる、ということで話題になっていました。

初めてDTMという言葉が登場したのは1988年にRolandから発売された「ミュージくん」だった
そのDTPをモジって、RolandがDTMという言葉を生み出したわけです。つまり従来はスタジオに行ってテープにレコーディングし、エンジニアがミックスし、それをマスタリングして……という工程が必要だった音楽制作を、パソコン1つで机の上ですべてができてしまう、といことでDTMとしたわけです。

ただRolandはDTMについて登録商標を出すこともなく、また途中から音楽だけでなく、ビデオも統合させたDTMPDesktop Media Productionというキーワードに乗り換えてしまったため、DTMのRoland色もなくなりました。一方で、1994年にDTMマガジンが創刊されたことで、DTMという言葉が広まっていったのです。

1994年に創刊されたDTMマガジン
ただし、ミュージくん、そして後継となるミュージ郎が国内だけの発売だったこと、またDTMマガジンがもちろん日本だけの雑誌だったこともあり、DTMはあくまでも日本国内で使われる言葉であり、海外ではまったく知られていません。国際的にはDTMというとドイツツーリングカー選手権(Deutsche Tourenwagen Masters)を指すものなので、全然関係ないものになってしまうんですよね。

ここではミュージくん、ミュージ郎がどんなものだったのか、初期のDTMがどのようなシステムになっていたのかについての詳細は省きますが、MIDI音源モジュールを用いたものだったため、2000年ごろを境にピークは過ぎて衰退していきました。それとともにDTMという言葉自体も一度消えていったのですよね。

それに代わって登場してきたのが、DAWでした。実はこのDAWという言葉も当初は、かなり定義が曖昧なものでした。正確ではないですが、私が最初にDAWという言葉を聞いたのも、やはりRoland関連製品だったように思います。1996年にVS-880というハードディスクを内蔵する8トラックのデジタルレコーディングシステムを出しました。その後継機としてちょっとバージョンアップしたVS-880EXが爆発ヒットとなり、私も購入したのですが、これをハードディスクレコーダーと呼んだり、デジタル・オーディオ・ワークステーションとなどと雑誌などで書かれていたのです。


当時私も購入し、今も手元にあるVS-880EX、ここにはDIGITAL STUDIO WORKSTATIONと記載されている

当時は、まだパソコンでオーディオを直接扱うのは処理速度的に厳しく、デジタルレコーディングは専用機が必要な時代でした。それがVS-880の登場でグッと敷居が下がったので、多くの人が飛びついたわけですが、レコーディングができ、エフェクトが使え、ミックスができるハードウェアとしてDAWと呼ばれていたのです。

ところが業務用としてPro Toolsが普及をし始める一方、コンシューマ用としてはSteinbergCubase VSTというソフトウェアをリリースしたことで、DAWという言葉の使い方も少しずつ変化していきました。Cubase VSTは、まさに今のCubaseの原点ともいうべきもの。もともとはMIDIシーケンサだったCubaseにオーディオレコーディング機能、さらにはプラグインエフェクトが使えるようになり、状況が大きく変わったのです。

1999年にリリースされ、プラグインとしてエフェクトも音源も使えるようになったCubase VST 5
さらに1999年にプラグイン音源も使えるCubase VST 5をリリースしたことで、パソコンで音楽制作がすべてできるようになったわけで、これを指してDAWというように変わっていったのです。それでも当初としてはDAWソフトウェアと言ったり、ハードディスクレコーディングソフトと言うなど、曖昧な感じでしたが、SONAR、Digital Performer、Logic、Ableton Live……といったものが出そろってくる間に、DAWという言葉が定着していきました。そしてDAWという用語は、おそらく海外から使われ始めたためだと思いますが、国内外問わず使われる共通用語となっているんのです。

では、そうしたDAWを使って音楽を作ることをなんと呼ぶのか。それにピッタリした言葉がなかったため、改めてDTMという言葉が使われるようになっていきました。海外には、ホームレコーディングとかコンピュータミュージック、プリプロダクションといった言葉はあるものの、ズバリDTMを表す用語がないようなので、できるならDTMという言葉を輸出できれば……なんて思ってもいるのですが。

そうした背景があるので、昔を知っている人は「DTMって、なんか素人がやるチャチな音楽制作だろ」という印象を持っていることが多いのに対し、30代前半より若い人たちは、何の違和感もなく、コンピュータで音楽制作をすることをDTMと捉えているように思います。

このようにDTM、DAWは、3文字のよく似た用語ながら、微妙に違う背景と歴史を持ち、今も使われている言葉なのです。

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Commentsこの記事についたコメント

6件のコメント
  • DTM歴28年

    今でも「DTMって何?」という人が多いですねw 訳知り顔で「DTPでしょ、PhotoshopとかIllustratorとかデザイン系の」とか言われます(汗)。そこで昔の通信カラオケの中身がDTMだと言う話をすると「知らなかった」がほぼ9割。一般の人の認識って未だにこんなもんなので、もう説明するのをやめて実際に曲やを聴かせたりYouTubeで動画を見せるなどして理解してもらってます。便利な時代です。機材を持ち歩く必要がなくなりました(苦笑)。最近のハリウッド映画の劇伴もプリプロ段階ではDTMだと分かると目つきが変わってきます。で、今やDTMで作られてない曲の方が少ない事が分かると「俺(私)でも出来るの?」となります(しめしめ)。後は布教。都内楽器店にツアーを敢行しますw

    2017年10月18日 5:03 PM
  • 昭和音楽

    90年代は私の周りでハードウエアシーケンサーで打ち込みしている方も多かったです、パフォーマーとビジョンユーザーも多くいましたがコンピューター自体が高価で欲しくても買えませんでした、今は本当にいい時代になりましたね。

    2017年10月19日 1:52 AM
  • ・・・

    国内での知名度は、DTM>DAWで、10倍くらいでしょうね。今回の記事で、
    ①DTMは和製英語 ②DTMはあのDTPからのもじり と知って、面白かったです。
    ありがとうございました。
    DTMとかDTMソフト←DAWとか、言葉の世界侵略(笑)が出来たらいいなと
    思いました。ただ、DAWでの音楽制作からまた形態が変わってゆくかも…とも、
    この記事を拝読して、感じました。どんどん移りゆきますね。

    2017年10月19日 1:48 PM
  • わんぱぶ

    ミュージ郎懐かしい。ちょっと憧れがあったけど当時は打ち込みやソフトウェアにそこまで関心が無かったですよね~。DTM、打ち込みって聞くと簡単に誰でもできるってイメージを当時は持っていました。まぁ文字を書けるからって名作小説が書けるわけじゃないんですよね(笑)
    結局僕はYAMAHAの4トラカセットMTRからVS1880+QY100とかTRITONで曲作ってましたね~。生楽器が弾けるので「録音」の方がイメージがしやすかったんだと思います。
    その後DAWを使おうと思っていろいろ調べた結果CubaseSLからスタートして以来すっかりCubaserです。その過程で初めて藤本さんを知ってその後いろいろな記事や本を拝読するようになりました。
    それがいつの間にか生楽器以外を全部ソフトウェアで音作りするとは、当時は夢にも思いませんでした。僕のような生楽器演奏の人間も自然と曲作りにDAWを使うようになって、DTMと演奏の垣根がどんどんなくなって行った気がします。
    ちなみに音楽畑じゃない外国人にComputerMusicって言うといまだにピコピコしたのやEDMってイメージを持ってる人が多いですね。日本だと初音ミクとかのやつでしょ?って言われますね。
    苦労して作ってた時代もまた別の楽しみがありましたね~(しみじみ)

    2017年10月19日 2:26 PM
  • ろうら丼

    40代のミュージ郎世代です。当時デモソングに入っていた『Prime Time TV (Basia)』に感動し、今でもそれをバンドで演奏してるほど笑。YAMAHAのMUシリーズ音源モジュールなどもお世話になりましたが、やはり僕の中ではDTM=Rolandのイメージですね。DTMは良くも悪くも『箱庭』であり、だからこそ日本特有のワードになったのかもしれません。
    VS880も本当にインパクトでしたよね。PerformerとMTCでシンクロして生楽器の録音データが再生される(しかも瞬時に小節移動して!)のはゾクゾクしました笑

    2017年10月25日 4:51 AM
  • しれませんねん。

    唐突の関西弁が面白い

    2017年10月25日 12:37 PM

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