先日、日本に上陸したBEATSURFINGブランドのCHEat codeというプラグインを紹介しましたが、同ブランドは他にもユニークな製品をリリースしています。その一つが、AI技術と自然界の原理を融合させたという、なんとも不思議なアプローチを持つシンセRANDOMです。まずは音を聴いて確かめていただきたいのですが、ここれはサンプラや一般的なシンセサイザとは異なり、予測不能でありながらも音楽的な、無限のユニークサウンドを生み出すという、まったく新しいタイプの音源となっているのです。
中央にある黒いウニョウニョが生き物のようにランダムに動いて、それにともない音色が変化するので、狙った音を作るのではなく、偶然生まれるサウンドからインスピレーションを得る、という新しい制作スタイルを提案してくれるのです。通常価格は20,790円(税込)ですが、現在セール中で50%OFFの11,990円(税込)で入手可能。今回は、このRANDOMがどのようなプラグインなのか、実際に試してみたので紹介していきましょう。
RANDOMの正体とは?
ではさっそく、このRANDOMが一体何者なのか、その基本情報から整理していきましょう。まず重要なのは、RANDOMがいわゆるサンプラ、つまり既存のオーディオサンプルを読み込んで再生するタイプの音源とは根本的に異なる、という点です。オーディオサンプルを一切使わず、MIDI信号を元にリアルタイムでサウンドを合成する純粋なシンセシスをコンセプトに掲げているのです。
その心臓部には、フィードバックディレイやFMなどを複雑に組み合わせた、複数の独立したシンセエンジンが搭載されています。そして、それらのエンジンをニューラルネットワーク、つまりAIが制御している、というのがこのプラグインの肝なのです。開発者によれば、これらは非常に複雑なシステムであり、もしその内部構造をすべてユーザーに開放すれば、モジュラーシンセのように難解なものになってしまう。そこで、あえて内部をブラックボックス化し、いくつかの独創的なパラメータを通して直感的に操作できるように設計した、というわけなのです。
サウンド生成の中心的な役割を担っているのが、8つのモジュレートされたディレイラインと2つのフィードバックループで構成される、レゾネータ。ここにはさらに専用のノイズソースやフィルタ、エンベロープなどが複雑に絡み合い、表現力豊かなサウンドの土台を形作っているというわけなのです。
ちなみに対応OSはmacOS 10.13以降、Windows 10以降で、VST、AudioUnit、AAXと主要なプラグインフォーマットに対応しているため、ほとんどのDAW環境で問題なく使用することができます。CPU負荷が非常に低いのも嬉しいポイントですね。
直感と偶発性が交差する、ユニークなサウンドデザイン
RANDOMのサウンドデザインは、一般的なシンセサイザのようにオシレータの波形を選んでフィルタをかける…といった手順とは大きく異なります。中心に配置されたいくつかのユニークなパラメータと、視覚的なXYパッドが、その操作の要となります。
画面上部にある大きなRANDOM WHEEL、これがRANDOMの象徴ともいえるコントローラ。クリックするたびにサウンドがランダムに生成されるのですが、その変化の度合いを決めるのがDEVIANCEノブ。値を小さくすれば元の音色の面影を残したまま微妙に変化し、大きくすればまったく別のサウンドへと変貌します。
さらに、演奏するたびにサウンドに揺らぎを与えるINSTABILITYというパラメータも面白い機能です。これを上げておくと、同じノートを弾いても毎回微妙に違うニュアンスで発音され、人間的で自然なサウンドを生み出すことができます。
そして、サウンドの基本的なキャラクタを決定するのが、STRESS、SPIKE、BLEED、FLUIDといったノブです。STRESSは音のディケイ、つまり長さを調整でき、SPIKEはサウンドの攻撃性や歪み感をコントロールします。そしてBLEEDはレゾネータのかかり具合を調整し、音に空間的な広がりと立体感を加え、FLUIDはそのレゾネータの揺らぎを変化させます。これらのパラメータは、選択されているシンセエンジン(MATTER)によって効果が微妙に異なるため、一概には言えませんが、触っているうちになんとなく感覚が掴めてくるはずです。
そして、もう一つの重要な要素となるのが、画面中央でまるで生き物のように動くビジュアライザと、そのサウンドの根幹をなすシンセエンジンMATTERです。画面右上のメニューからは、Celestium、Prismogen、Echolium、Xanonなど、合計16種類のMATTERを選択できます。それぞれが独自の質感と音響特性を持った独立したシンセエンジンであり、これを選ぶことでサウンドの基本的な方向性が決まります。
このMATTERのサウンドは、XY-TABLE上でカーソルを動かすことで、さらにモーフィングさせることが可能です。内部ではニューラルネットワークがその位置に応じて複数のサウンドキャラクタ間を滑らかに変化させてくれます。あらかじめ用意された音色パレットから色を選ぶのとは異なり、さまざまなサウンドが混ざり合う液体の中から、新しい音の組み合わせを発見していく。そんな感覚で、直感的にサウンドをモーフィングさせることができるのです。
過去のアップデートでさらに強化されたワークフロー
RANDOMはアップデートも積極的に行われており、過去のアップデートでは制作ワークフローを劇的に改善する機能が追加されました。
一つは、ドラッグ&ドロップによるオーディオ書き出し機能。画面上部にある波形アイコンをクリックすると、最後に演奏したノートがWAVファイルに変換され、そのままDAWのトラックにドラッグ&ドロップできるのです。これにより、従来のようにDAW側でフリーズしたり、リサンプリングしたりする手間が一切不要になりました。気に入ったサウンドが生まれた瞬間に、即座にオーディオ素材として扱えるのはかなり便利。
もう一つは、エンベロープとグライド機能の強化です。アタック、ディケイ、サステイン、リリースを調整できるADSRエンベロープが搭載され、より細かい音作りが可能になりました。またグライド機能は、上昇する際のグライドタイムと、下降する際のグライドタイムを個別に設定できます。これにより、たとえば上がるときはゆっくり、下がるときは素早く、といった非対称なポルタメント表現が可能になっています。
音楽制作におけるRANDOMの活用法
では、このユニークなシンセサイザ、RANDOMを実際の曲作りでどう活用できるのか、見ていきましょう。
まず考えられるのは、他のサウンドへのレイヤーとしての活用。RANDOMのサウンドは非常に個性的で、金属的な質感や複雑なレゾナンスを持つものが多いため、単体で使うと少し扱いにくい場面もあるかもしれません。しかし、手持ちのキックやスネア、ベースといった基本的なサウンドに、RANDOMで生成したテクスチャを薄く重ねてみると、それだけで、サウンドに独特の奥行きとキャラクタが加わり、ありきたりな音から一歩抜け出すことができます。
また、新たな楽曲アイデアのきっかけとしても有効です。曲作りに行き詰まったとき、RANDOMを立ち上げて気の向くままに操作していると、思いもよらないリズムパターンや、耳にしたことのないテクスチャが生まれることがあります。その偶発的に生成されたサウンドが、新しい曲の構想を練る上でのヒントになる、ということは十分にあり得ると思いますよ。新機能のドラッグ&ドロップ書き出しを使えば、生まれたサウンドをすぐにオーディオ素材としてスライスしたり、加工したりして、新たなループやワンショットとして活用することも簡単です。
そのほか、アンビエントやドローン、効果音制作にもRANDOMはうってつけ。STRESSを長くし、BLEEDやFLUIDを駆使すれば、浮遊感のあるパッドや、うねりのあるドローンサウンド、異世界のような効果音などを簡単に生成できます。映画音楽やゲームのサウンドデザインといった場面でも、強力な武器となるはずです。
以上、BEATSURFINGの革新的なインストゥルメントプラグインRANDOMについて見てきましたが、いかがだったでしょうか。複雑なサウンドデザインの世界を、専門知識がなくとも楽しめるように解放してくれる。それでいて、出てくるサウンドは本格的で、プロダクションにすぐに使えるクオリティを持っている。RANDOMは、そうした絶妙なバランスを持ったプラグインとなっているのです。ワンパターンな音作りに悩んでいる方、まだ誰も聴いたことのないサウンドを求めている方は、ぜひこのユニークなシンセサイザで、新しい音作りの可能性を体験してみてはいかがでしょうか?
【関連情報】
RANDOM製品情報
【価格チェック&購入】
◎High Resolution Online Store ⇒ RANDOM
コメント