コミケで完売したCD『Harmony of birds feat.小岩井ことり』のハイレゾ配信を始めてみた

すでにご存じの方、そして中にはもうご購入いただけた方もいらっしゃるかもしれませんが、2月6日よりDTMステーションのレーベル、DTMステーションCreativeより第2弾アルバム、『Harmony of birds feat.小岩井ことり』の音楽配信を各大手配信サイトよりスタートしました。これは声優の小岩井ことりさんとともに、昨年末のコミックマーケット95で頒布して完売になったCDを、多くの方にもお届けできるよう音楽配信でリリースした、というものです。

CDでリリースしたものと同じ音源を使った通常版に加え、別途高音質マスタリングを行った24bit/96kHzでのハイレゾ版も同時に配信をスタートさせました。そしてハイレゾ音源配信サイトのe-onkyo musicにおいては、リリース初日よりアルバム、シングルともに1位を記録したり、iTunes Music Storeでもランク入りするなど、予想を大きく上回る反響をいただいております。実は、こうしたハイレゾを含む音楽配信は、レコード会社、レーベル会社などとの契約がなくても、個人で行うこともできるのです。そこで、ここではどんな手段で実現させたのか、紹介してみたいと思います。


コミケで完売になったCD「Harmony of birds feat.小岩井ことり」のハイレゾ配信をスタートしてみた!

音楽配信の話に行く前に、まずは12月30日のコミックマーケットのDTMステーションCreativeブースにお越しいただいたみなさまに厚くお礼申し上げます。「12月30日、初めてのコミケ参戦。DTMステーションCreativeの第2弾は『Harmony of birds feat. 小岩井ことり』」の記事でも紹介したとおり、プレスした1,000枚を持って、コミケに挑んだわけですが、想定外の人気をいただき、70分ちょっとで完売。


コミケのスタート直前の様子。左から多田彰文さん、小岩井ことりさん、私

大行列となったものの、みなさんに行き渡らない状況で終了となってしまいました。この辺の経緯については、先日マイナビニュースさんに取材していただき、「声優・小岩井ことり、冬コミ参加の裏側 – DTM制作の楽曲にかけた想いとは」という記事にもなっているので、ぜひ、そちらもご覧ください。


先日、小岩井さんとともに、マイナビニュースさんに取材していただきました

その記事にもある通り、CDプレス数という点では、我々のヨミが大きく外れた、ということになるわけですが、「CDは初回プレスのみ」ということを小岩井さんとも約束していたので、これ以上作らない代わりに、音楽配信のほうは行う、ということをコミケ終了後に、Twitterなどで発表していました。

年明け後に準備に入ったため、音楽配信スタートまで1か月以上空いてしまいましたが、実際配信を行っているのは以下の配信サイトとなります。

【ハイレゾ版】
e-onkyo music
mora ~“WALKMAN”公式ミュージックストア~
music.jp
MySound
OTOTOY
レコチョク
【通常版】
Amazonデジタルミュージック
Google Play ミュージック
iTunes Music Store
mora ~“WALKMAN”公式ミュージックストア~
mu-mo
music.jp
MySound
OTOTOY
レコチョク

※レコチョクおよびmu-moは2月20日からの配信です

そうそうたる、サイトが揃っていることがお分かりいただけると思いますが、実際にどのようにして行ったのか、その手順を紹介してみましょう。

2月6日より『Harmony of birds feat.小岩井ことり』の音楽配信がスタート。画面はe-onkyo music

すでにCD用にマスタリングは終えていたので、そのために作っていた16bit/44.1kHzのWAVファイルはそのまま活用するとして、ハイレゾ用には、改めてハイレゾの用のマスタリングをする必要があります。

多くのプロのレコーディング現場では24bit/48kHzでレコーディング、ミックスダウンが行われており、それをマスタリング時に24bit/96kHzなどに引き上げているケースをよく見かけます。しかし今回の『Harmony of birds feat.小岩井ことり』の制作においては、当初からハイレゾを想定したレコーディング、ミックスを行っていました。

もともとのレコーディング、制作の時点から32bit/192kHz、32bit/96kHzで行っていた

1曲目・3曲目の『ハレのち☆ことり♪』は多田彰文さんによる作曲・アレンジで、2曲目・4曲目の『運命の輪を廻す者 XX』は小岩井ことりさん作曲・アレンジ。そのため別々の制作となり、前者は32bit/96kHz、後者は32bit/192kHzでミックスしたWAVファイルをお二人から受け取っていたのです。

これらを元にCD用にマスタリングする際には、2つの曲の質感を整えると同時に、ほかの一般的なCDと比較しても見劣り(?)しないよう、ある程度を音圧を上げる処理をしていました。とはいっても、せっかく小岩井さん、多田さんからすごくいい音でミックスした作品を納品してもらっていたので、いわゆる海苔にはならないよう、作業していました。そのため、やや音圧が低めかもしれませんが、音質はいいと自負しております。


CDとしては、極力、オリジナルの音を尊重する形で仕上げた

一方、ハイレゾ版のほうは、CDのような音圧戦争もないですし、できる限り音をよく聴いてもらうのが目的なので、質感を整える以外は、あえてほとんどいじっていません。最終チェック段階で、多田さんから、「『運命の輪を廻す者 XX』と比較して、『ハレのち☆ことり♪』の音圧がやや低いかな…」という指摘をもらったので、微妙に調整したくらいでしょうか。その結果、ハイレゾ版はCDの音と比較しても圧倒的に高品位なサウンドに仕立て上げることができました。ここでは、「気のせい」というレベルではなく、明らかに音が違うことをみなさんに実感していただけると思います。この違いは波形を見ても明らかに違いますよね。
『ハレのち☆ことり♪』のCD版の波形

聴き方のポイントとしては『ハレのち☆ことり♪』は小岩井さんの歌声の伸びの違いを比較してみると分かりやすしですし、『運命の輪を廻す者 XX』では、雷の音などのSEのリアルさを比較してみるといいですよ。ちなみにCDの入手ができていない場合、iTunes Music StoreやGoogle Play ミュージックなど通常版を扱っているサイトから入手していただければ、と。


『ハレのち☆ことり♪』のハイレゾ版の波形

さて、このようにして準備した通常版とハイレゾ版のマスターデータ。普通に正面からiTUnes Music Storeやe-onkyo musicに個人が持って行っても受け付けてもらえません。では、どうするか。実は以前「iTunes StoreやSpotify、mora、LINE MUSIC…など36サービスで音楽配信ビジネスを無料で始めてみた!」という記事で紹介したサービスを利用することで、簡単に受け付けてもらうことができました。そう、このときと同様、クリムゾンテクノロジーのサービスを利用したのです。

クリムゾンテクノロジーでは法人でも個人(サークルの場合は、代表者の個人ですね)でも受け付けてもらうことができ、e-onkyo music、iTunes Music Store、mora、OTOTOY、Google Play ミュージック……などと個別にエントリーするのではなく、1つエントリーすれば、国内での音楽配信サービスのほぼすべてに流すことができます。しかも、入会金や年会費といったものも一切ない、というのも個人にとっては非常に嬉しいところです。

クリムゾンテクノロジーのサービスを利用してエントリーした

ただし、このクリムゾンテクノロジーへのエントリーで1点ちょっぴり面倒なのが以前の記事でも触れたISRCコードを取得すること。ISRCコードとは、「国際標準レコーディングコード」のことで、CDを流通に乗せるために必要なコード。日本では一般社団法人日本レコード協会が発行しており、音楽配信においても、このコードが必須なため、これを申請して取得しなくてはならないのです。

そのためには、日本レコード協会のWebページにいって、まずはユーザー登録する必要があります。この際、個人ならば住民票と印鑑証明、法人なら登記簿謄本と印鑑証明を提出する必要があるので、郵送などを含めちょっぴり時間もかかってしまいます。ただし1度、ユーザー登録されれば、2回目以降は不要です。


日本レコード協会のサイトを通じて、ISRCコードを取得する必要がある

その後、1曲ごとに曲名やアーティスト名、作詞者名、作曲者名、編曲者名…などを入力するとともに、1曲につき324円を支払えば、翌日にはISRCコードが発行され、メールで届きます。このコードをクリムゾンテクノロジーのエントリーシートに1曲ごとに申請するんですね。

そのほか、このエントリーシートにも曲名や作曲者名、作詞者名などを記入するほか、アーティスト情報、アルバム情報といったキャッチコピー的なものも入力する必要があります。そしてももう一つ重要なのが、価格の設定。通常版、ハイレゾ版それぞれ自分で価格を決めて申請するんですね。


こんなエントリーシートに情報を記載して提出

あとは事前に作っておいた通常版、ハイレゾ版のマスターデータを送れば完了です。慣れてしまえば30分もあればエントリーシートも記載できると思いますが、個人的には、ISRCコードの取得も含め、こうした事務仕事がとっても苦手。ついつい後回しにしていたら、時間が経ってしまい、エントリーできたのが1月15日でした。そこから約20日後に、配信スタートとなったわけです。


各音楽配信サイトより配信がスタート。画面はiTunes Music Store

もちろん、今回はアーティストとして小岩井ことりさんがいて、単にシンガーとしてだけでなく、作詞、作曲、編曲、レコーディング、ミックスまで行ってくれたから、高い注目を集めたのは事実ですが、それでも、この小さな小さなレーベルが、大手メジャーレーベルを抑えて、e-onkyo musicのアルバム、シングルで1位になれたというのは快挙なんじゃないかなと思っています。


リリース開始して3日経過した2月9日現在、e-onkyo musicのTOP10 Albumの1位になっています

「自分で作った作品を大手サイトで配信してみたい!」と思っている方にとって、一つの参考になってくれれば嬉しいところです。

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1件のコメント
  • 春夏秋冬

    いつも興味深い記事ありがとうございます、私はCDにすることを前提に制作しますので最初から16/44に設定して最後まで仕上げております、ただ迷いもあって、ネットでの意見を見ても皆さん様々で、ハイレゾに設定して制作しCDにするときにダウンコンバートした方が良いとか、CDにするなら16/44で作った方が音が良いなど、正解も不正解もないと思いますし、好き好きだとも思うのですが、もし機会がありましたら、ハイレゾを16/44に落とした場合と、最初から最後まで16/44で作った場合と数値の比較実験をしていただけたらとても助かります、以前多田さんもニコ生でおっしゃっていたように音源自体が例えば24/44などのサンプリングレートなのにそれ以上のハイレゾで録音制作して意味があるのかという疑問は私もずっと抱いております。よろしくお願いいたします。

    2019年2月11日 2:38 AM

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