プロ御用達ADAM Audioのモニタースピーカーが21,000円!?5インチのT5Vを試してみた

プロの作家やエンジニア、ミュージシャンのインタビューなどでよく話題に上がるADAM Audio(アダム・オーディオ)のモニタースピーカー。「ADAMに変えたら、仕上がりの評価がすごく上がった」なんて話をときどき聞くのですが、価格的に高価であることもあって、気軽に導入というわけにはいかないところ。でも昨年、実売価格が1本21,000円(税抜)という手ごろな5インチの製品、T5Vというものが出されていたのをご存知ですか?

見た目はまさにあのADAMのデザインであり、秘密の構造(!?)の金色に光るツイーターも同じ。先日、ADAM Audioのインターナショナル・セールス・マネージャーのRick Grossmann(リック・グロスマン)さんが来日した際、少しお話させていただいたのとともに、T5Vをお借りして自宅で試してみたところ、とっても解像度が高く、かつ嫌みのない、非常に使いやすいモニターだったので、これがどんなものなのか、グロスマンさんのインタビューも交えて紹介してみたいと思います。


ADAM Audioの5インチのニアフィールド・モニター、T5Vを使ってみた

みなさんはADAM Audioのモニタースピーカー、という名前を聞いてどんな印象を抱きますか?私個人的には「すごくいいスピーカーだけど、トンでもなく高くて、自分にはあまり縁のないもの…」そんな思いを持っていました。たとえばよく話題に出るSシリーズのS2Vというモデルだとペアで41万円程度、その上のニア/ミッドフィールドモニターのS3Vだと54万円程度、さらS5Vにいたっては150万円。もうクルマ買えちゃいますからね。


ペアだと41万円程度となるS2V

そのADAM Audioが昨年発売したT5Vというモニターは、前述の通り1本21,000円だからペアで42,000円。最初、桁を見間違えたかと思っちゃいましたが、そんな価格帯の製品を出していたんですね。


24インチの液晶ディスプレイとセットで設置するとこんな感じに

5インチのモニターなので、DTM環境にはピッタリのサイズ。24インチのディスプレイと並べるとこんな感じに収まります。私は普段、YAMAHAのMSP5 Studioという同じ5インチのモニターを使っているのですが、これと並べてみると、一回り大きいんですよね。もっとも横幅はほぼ同サイズなので、スペース的にはピッタリ。やや背が高くなって、奥行きが7~8cm伸びたという感じですね。もし、導入を検討するのであれば、このサイズだけはしっかり確認しておいたほうがいいですよ。


MSP5 Studio(左)とT5V(右)

MSP5 StudioからADAM AudioのT5Vに置き換えただけなので、接続自体もまったく同じ。左右のスピーカーにそれぞれ電源ケーブルをつなぎ、ミキサー(もちろんオーディオインターフェイスから直でもOKですよ)からくるXLRのキャノンケーブルを挿せば、準備完了。あとは電源を入れればすぐに音を出すことができます。


T5Vのリアパネル

MSP5 Studioと違って電源を入れた際に点灯するLEDはフロント側ではなくリア側にあるので、最初ちょっぴり違和感がありましたが、この点は単なる慣れの問題ですね。また一番最初だけは左右の音のレベルバランスを整える必要があります。これは無段階のボリュームとなっているのでリアにあるために、後ろに回って調整し、前に来てバランスを確認し……という作業を繰り返す必要があるのがちょっぴり手間はかかりますが、まあ、1回のことですからね。

ちなみに、最初は左右ともボリュームノブを真上=12時の方向に向けた状態で鳴らしてみたところ、一発でレベルは揃いました。いきなり爆音が出てしまうのでは…とややビビりながらミキサーのボリュームを上げていったのですが、そこまでではないんですよね。


レベル調整および音質調整はリアのノブ、スイッチで行う

ちなみに1時あたりが0dBとなっているので、まずは、ここに揃えるのがいいのかもしれません。また一番絞った状態が-60dB、最大にしたところが+18dBとなっています。

見てのとおり、HF、LFと書かれたEQ調整のためのスイッチがありますが、まずはそれぞれ真ん中の0の状態で音を鳴らしてみたところ……、メチャメチャいい音ですね、これ。もう少し尖った音なのかな、なんて身構えていたのですが、すごくナチュラルで、まったくクセのない音。周波数的なバランスがすごくいいのに、高域がキレイに出ていて解像度が非常に高いのを実感できます。

その高域がキレイに出ている背景にあると思われるのが、ADAM Audioのトレードマークともいえる、金色のアコーデオンみたいなツイーター。この原型はアメリカのオスカーハイル博士が1970年代に発明したハイルドライバーと呼ばれるもので、ADAM Audioが開発したというわけではないようですね。ちなみにオスカーハイル博士は、トランジスタの一つFETを発明した博士でもありますね。


ADAM Audioのモニタースピーカーのトレードマーク的な存在、U-ARTツイーター

そのハイルドライバーも一般的なスピーカーと同様に、磁力で振動版を動かすのですが、大きく異なるのは振動板に直接コイルが配置されているという点。中に見える金色のヒダヒダの板状の振動板に電流が流れると、ヒダが引き合って空気が振動して音が出るという仕組み。それをベースに改良に改良を加えたのが、前述の超高級モニターSシリーズに採用されているS-ARTツイーター、そしてT5Vに採用されているU-ARTツイーターというわけです。

もちろんT5Vは高域だけでなく、低域もキレイに伸びていて、安定的な音が出ます。MSP5 Studioの音は好きですが、それよりもずっとレンジが広いという印象です。

では、リアのHF、LFのスイッチを切り替えたらどうなのか。これも少し試してみました。HFは高域を+2dB、0、-2dBで切り替えるもの、LFは低域を+2dB、0、-2dBで切り替えるためのシェルビングEQです。

思い切り音が変わるのかな……と思って、それぞれのスイッチを順番に切り替えてみたのですが、±2dBだからですかね、そこまで極端に音が変わるわけではなく、いい具合に低域を出したり、抑えたり、高域の伸びを上げたり下げたりできる、という印象。つまり、これを切り替えても、最初に感じた「これが、ADAM Audioのスピーカーの音なのか!」というサウンドの印象はまったく変わらず、うまく調整できる感じでした。


バランス対応のXLR入力(上)とアンバランスのRCA入力(下)の切り替えが可能

なお、ここではXLRの端子に接続して使いましたし、通常はこれを使うことをお勧めしますが、どうしてもという場合は、RCAのピンプラグを利用することも可能です。どちらを使うかはスイッチでの切り替えになっていますよ。

そんなT5Vを試したタイミングで、ドイツ・ベルリンにあるADAM Audioの本社からグロスマンさんが来日していてインタビューすることができたので、いろいろと質問をぶつけてみました。

--今回T5Vを試してみましたが、非常にいい音で驚きました。でも高級ブランドのADAM Audioがどうして、こんな安い価格帯で製品を出したのですか?

グロスマン:DAWの普及とオーディオインターフェイスなどの低価格化がこの5年くらいで大きく進んだので、ここにリーチできる製品として出したのが5インチのT5Vおよび7インチのT7VというTシリーズです。実はADAMがエントリー向けに製品を出したのはこれが初というわけではないんです。5年前にFシリーズというものを出したのですが、その時はあまり成功しませんでした。というのも、価格的に同じクラスの競合する製品と比較して高く、社内的にはAXシリーズとの差別化もうまくできておらず、うまく打ち出せなかったのです。その反省を元にゼロから作り直したのがTシリーズなのです。


ADAM Audioのインターナショナル・セールス・マネージャー、リック・グロスマンさん

ーーSシリーズと比較すると1/10近い価格ですが、やっぱり音的には、まったく違うもののでしょうか?
グロスマン:Tシリーズは、フラグシップであるSシリーズでの技術をベースに利用して開発したモニタースピーカーです。これまでADAMが築き上げてきた進化をTシリーズに注ぎ込んでいるからこそ、自信を持って多くのクリエイターにお勧めできる製品に仕上がっています。もちろん3ウェイで7インチのS3Vなどとは違いはありますが、Sシリーズのエッセンスも十分に盛り込んだADAM Audioのモニタースピーカーです。同じ価格帯の他社製品と比較しても、音の奥行きの把握がしやすい製品となっています。

--音の奥行きの把握がしやすい?
グロスマン:ここでは具体的な社名や製品名は差し控えますが、測定した結果の数字を見たとき、周波数帯域の広さや、低域における歪みの量などを見て、T5Vは突出した性能を発揮しており、そのように設計して、仕上げているのです。そのことにより、音の奥行きの把握がもっともしやすい製品になっているのです。

--一方で、なんとなく思ったのはスウィートスポットが広いというか、頭を少し動かしても音像がブレないなという印象を持ったのですが……。
グロスマン:それが、まさにTシリーズの特徴であり、Sシリーズから引き継いだHPSウェーブガイドを搭載しているからです。U-ARTツィーターを囲む形状をこの独特な形にしたことにより、高域における均一な放射特性を実現できたため、広い範囲で同じ音を保てるようになっているのです。

ーー今回使っていませんが、Tシリーズには7インチのT7Vというものもありますよね。さすがに日本のDTMユーザーには大きすぎる気もしますが、値段的には1本25,000円と結構安いんですよね。
グロスマン:日本はT5Vのほうが売れるだろうという読みはありましたが、世界的にはT7Vのほうが売れるはず、と予想していました。というのも値段差があまりなく、T7Vは下が39HzまでとT5Vより6Hz低くでるので、みんなこちらを選ぶだろう、と。ところが蓋を開けてみると日本だけでなく、アメリカ、ヨーロッパでもこれまでのところT5Vが人気です。音域よりもコンパクトさを重視ということなのでしょうか?いずれにせよ、世界的に大ヒットとなっており、当初の生産計画の3倍のスピードで売れており、生産がなかなか追いつかないという状況です。


世界的にも右のT7Vより左のT5Vのほうが売れていると話すグロスマンさん

--最後にちょっとだけ伺いたいのですが、ADAM Audioにとって日本はどんな位置づけなんでしょうか?景気が悪くて売れない地域という認識だったりしないですか?
グロスマン:ADAMにとって、日本はアメリカに次ぐ2番目のマーケットであり、まだまだ成長するところだという認識ですよ。たしかに世の中的に消費が落ち込んでいるという点は同感です(笑)。でも、ADAM Audioにとって2018年の日本は非常に業績のいい年でもあり、このTシリーズもあって、2019年はさらに伸びると考えています。一方、ADAM Audioでは日本のユーザーの声を非常に重要視している、という面があるのです。というのも日本では技術的にも期待されているレベルが非常に高く、日本のマーケットのプロのユーザーに受け入れられた製品は、いい製品となり世界的にもヒットするという経験則があるからです。そういう意味でも、日本は非常に重要なマーケットなのです。

--ありがとうございました。

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【価格チェック】
◎Rock oN ⇒ T5V(ペア)
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◎OTAIRECORD ⇒ T5V(ペア)
◎Amazon ⇒ T5V
◎サウンドハウス ⇒ T5V

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