日米合意でMIDI 2.0が正式規格としてリリース。MIDI 2.0で変わる新たな電子楽器の世界

2019年のNAMMでセンセーショナルに発表されたMIDI 2.0。DTMステーションでも「MIDIが38年ぶりのバージョンアップでMIDI 2.0に。従来のMIDI 1.0との互換性を保ちつつ機能強化」という記事で紹介するとともに、その後の経過ということで5月には「MIDI 2.0の詳細が発表!MIDI 1.0との互換性を保ちつつベロシティーは128段階から65,536段階に、ピッチベンドも32bit化など、より高解像度に」という記事で、MIDI 2.0のプロトタイプについても取り上げました。

その後、どんな状況になっているのだろう……と気になっていたのですが、ついに2020年2月22日、MIDI 2.0が正式な規格として成立しました。アメリカのMIDI管理団体であるThe MIDI Manufactures Association(MMA)と日本の団体である一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)がサインを取り交わす形でまとまったのです。その最終段階のタイミングで、日本の楽器メーカーが集まるAMEIのMIDI規格委員会でお話を伺うとともに、ヤマハ、ローランド、コルグといった各社の機器がどのように接続されるのかなどデモも見せてもららうことができました。そこで、MIDI 2.0の誕生によって、ユーザーはどのようなメリットが得られるのか、そもそもいつからMIDI 2.0を一般のユーザーが使えるようになるのか、どうやって接続すればいいのか……などなど気になることを伺ってきたので、紹介してみたいと思います。

日本のAMEIとアメリカのMMAが合意したことでMIDI 2.0が正式に規格化された

改めて従来のMIDI(ここではMIDI 1.0と表現します)を振り返ってみると、これが誕生したのは37年も前の1983年のこと。当時の8ビットマイコンの性能に合わせて開発されたとっても古い規格です。でもGM/GM2のような音源が制定されたり、MIDI信号をUSBケーブルで伝送可能にしたり、Bluetoothに乗せて飛ばせるようになるなど、時代とともにMIDIを追加・拡張してきたことで、互換性を保ちながら、今でも第一線で使える規格として生きてきています。

とはいえ、時代遅れになってきた面があるのも事実。たとえばMIDI 1.0は片方向コミュニケーションであったため、相手の状況も分からないまま送りっぱなしというものだし、ベロシティやコントロールチェンジなど、かなり粗いデータのやりとりであったため、表現力という面で限界も来ていました。

そこで、MIDI 1.0との互換性を完全に保ちつつ、双方向性を実現したり、データのハイレゾ化を実現した表現力豊かな情報をやりとりできるMIDI 2.0が誕生することになったのです。もちろんMIDIは世界中のさまざまな機器同士を接続するための規格なので、誰か一人が決めるのではなく、世界中のメーカーが協議しつつ決めていく必要があるもの。そのため、アメリカを中心とした世界中のメーカーがMMAで、日本のメーカーがAMEIで、何度も会議を繰り返しながら、お互いに実験を繰り返しながら、ようやく規格として、正式合意にたどり着いたというわけです。

MIDI-CIを中心に、従来との互換性も保ちつつ大きく進化したMIDI 2.0の世界

昨年の記事でも何度か登場しましたが、そのMIDI 2.0の世界を表すのがMIDI-CI(MIDI Capability Inquiry)を中心とした図です。しかし、これを説明し始めると、だんだん技術的な難しい世界に入ってしまうので、今回はユーザーにどんなメリットが得られるのか、という点から見ていきます。MIDI 1.0からMIDI 2.0になることでの改良点としてあげられる主なポイントが以下の点です。

そう、昔のMIDIケーブルの遅い速度に囚われる必要はなく、あえて速度規定もせず、何でもOKとしています。またチャンネル数は16chx16grop=256chと大幅に拡張されました。そして分解能はこれまでの7bit=128段階から基本的に32bit=4,294,967,296‬段階まで可能にするなど、表現力が劇的に向上しているのです。

その分かりやすい例の一つがボリュームの調整。以下のビデオをご覧になってみてください。

手前が7bitの分解能でフェーダーをコントロールしたもので、奥が32bit(実際にはかなり間引いているとのことでしたが)でコントロールしたもの。これを見れば一目瞭然。128段階ではカタカタとぎこちなく動くのに対し、解像度を上げれば断然滑らかになっているのがよく分かります。もちろん、ボリュームに限らず、フィルターのカットオフフリケンシーを動かしたり、レゾナンスを動かしたり……といったことも分解能を上げることで、断然表現力が増していくわけです。

またベロシティーの分解能向上もMIDI 2.0での重要なポイント。これまでは128段階でしかなかったのが、16bit=65,536段階となったのも重要なポイントでしょう。もちろん、128段階もあれば十分だという声があるのも事実ですし、サンプラー用のデータを作成するというときに、65,536段階なんて気の遠くなるようなことを実現するのかは別問題。まずは、そうしたことを可能にする許容性を持ったということですね。

左からローランドの冨澤敬之さん、ヤマハの三浦大輔さん、MIDI規格委員長の飛河和生さん、コルグの高橋健さん

今回、MIDI規格委員会ではヤマハの電子楽器開発部 音源プラットフォームグループのリーダーである三浦大輔さん、ローランドの基礎技術部 エキスパートの冨澤敬之さん、コルグの技術開発部 技術開発課 マネージャーの高橋健さん、そしてMIDI規格委員会 委員長でクリムゾンテクノロジーの代表取締役の飛河和生さんなどが集まり、各社で作った実験機材を相互接続してデモを行っていました。

ここに集まった機材やソフトは、既存のものをMIDI 2.0の実験用に無理やり改造した機器なので、これらが製品化されるというものではないのですが、いくつかご覧いただくと、MIDI 2.0の可能性が何となく感じられると思います。たとえば、このビデオをご覧ください。

これは鍵盤の表面にTouchKeysというセンサーを貼り付ける形で加工し、ここに指を滑らせるとその位置情報をコントロール信号として10bit程度の高解像度で送信可能にした機材。ピッチが変化しているのが分かると思いますが、従来のピッチベンドを動かすのと決定的に違うのはノートごとにピッチを変化させることが可能であるということ。こんな楽器がホントに誕生するのかは分かりませんが、鍵盤の演奏方法も大きく変わりそうですよね。

試作したキーボードの表面にはタッチセンサーが張り付けられていて、どの位置を弾いたか感知できるようになっている

「これって、ROLI Seaboardなどに実装されているMPE(MIDI Polyphonic Expression)で実現しているじゃないか」と指摘される方もいるとは思います。そう確かにMPEでもこれに近いことができるのですが、MPEでは1つにつきMIDI 1ch分を消費し、またコントロールメッセージ用に1ch消費するので、最大で15音までしか使うことができません。でも、MIDI 2.0なら全ノートでこれを実現することが可能になっています。続いてこちらのビデオもご覧ください。
※2020.2.27修正
初出時MPEで16音まで扱えるとしていましたが、15音までの誤りでした。上記の通り修正しております。

これも鍵盤のどこを押さえているかの情報をコントロール信号として出力できる点を利用してるわけですが、鍵盤の下のほうの位置を弾く場合と上のほうを弾く場合では、音色が変わるとともにアルペジオパターンも変わるデモになっています。この仕組みを用いて、PANを変化させるとか、シンセサイザのパラメータを動かすとか、ポルタメントを変化させるとか……いくらでも応用が利きそうですよね。もちろん、どう利用するかをしっかり提示してあげるのも楽器メーカーのこれからの重要な役割になりそうですね。

さて、ここからもう少しだけMIDI 2.0の世界に踏み入れてみましょう。先ほどのMIDI 2.0の世界の図の中に3つのPというものがありました。それが以下のものです。

Profile Configuration(プロファイル)
サポートしているプロファイルを提示
対応するプロファイルをONにする
Property Exchange(プロパティエクスチェンジ)
機器情報を要求、回答
取得した機器情報を使ってUI改善
Protocol Negotiation(プロトコルネゴシエーション)
サポートしているプロファイルを提示
ネゴシエーションによりMIDI2.0プロトコルに移行する

ここがMIDI 2.0の重要なポイントでもあるので、ごく簡単に紹介しておきましょう。まずプロファイルについて。たとえばオルガンやアナログシンセなどメーカーが違っていても共通のパラメーターであったり、共通の仕組みを持つも楽器があります。それをプロファイルという形で定義した上で、お互いでやりとりできるようにするというものです。

MIDI 2.0のプロファイル

たとえばA社のオルガンのドローバーの1番を動かせば、B社のオルガンのドローバーの1番が動く、C社のシンセのカットオフを動かせばD社のシンセカットオフが動く……といった具合です。そのためには、今後、MMAやAMEIとしてプロファイルを定義していく必要があるわけですが、これまで各社バラバラ、場合によっては同じメーカーでも製品によってバラバラにSysExで定義していたものが、共通で利用できるようになるという大きなメリットがでてきそうです。

プロパティのやりとりによって音色リストなども機材から入手可能になる

さらにもう一歩進んだのがプロパティエクスチェンジというもの。プロファイルでは、あらかじめ規格としてメーカー共通の定義を行っておくのに対し、プロパティはその機種が持っている情報をMIDI機器間で要求したり、回答するというものです。たとえば、音色リストを要求すると、それを答えてくれるような仕組みを設けることで、接続した音源の音色一覧をDAWで表示する…なんてことが簡単にできるようになるわけです。さらに、これまで各DAWで1つ1つMIDIマッピングなどを行っていたものの、プロパティーのやり取りにより、簡単に使えるようにする、といったことも可能になりそうです。

そしてプロトコルネゴシエーションもMIDI 1.0との互換性を実現する上で非常に重要なものです。「MIDI 2.0が誕生したら手元にあるMIDI 1.0機器は古くて使えなくなるのでは……」と心配している人もいると思いますが、そうならない仕組みが用意されているのです。たとえばMIDI 2.0対応の楽器Aを別の楽器Bと接続したとしましょう。この際、まず楽器Aが楽器Bに対して「あなたはMIDI 2.0でやりとりできますか?」といった質問を投げかけるのです。このとき楽器Bが「はい、MIDI 2.0でやりとりできますよ!」と答えたら、その後はMIDI 2.0でやり取りするのですが、返事がなかったら「相手はMIDI 1.0なんだ」と判断した上で従来のMIDI 1.0でやりとりするのです。こうすることで、互換性が保たれる、というわけなのです。

MIDI規格委員会では各メーカーからエンジニアが集まって接続テストなどを行っていた

このようにMIDI 1.0と比較して、大きく進化しているMIDI 2.0ですが、MIDI 2.0は楽器以外の世界にも接続の範囲を広げていくことが想定されています。「たとえば、楽器とドローンを接続するとか、楽器とロボットを接続して、コントロールするなんてこともできるようにしたいと思っています。たとえば、このノブを回すとドローンが回転するとか、このトリルを弾くと上昇する……なんてことを実現するわけです」と話すのはヤマハの三浦さん。まあ、ドローンのコントロールもMIDI 1.0で実現しているものはありました。でもMIDI 1.0では、接続するドローンであったり、ロボットであったり、固有の機種ごとに細かく定義する必要があったわけですが、これをプロファイルで定義してしまえば、すべてのメーカーで同様の動きをさせることができるようになるわけですね。

MIDI 2.0は将来的には楽器以外の領域にも広げていきたい考え

さて、ではユーザーは、いつからこのMIDI 2.0を使えるようになるのでしょうか?先日ローランドが発表したUSB-MIDIキーボードのA-88 MKIIは、ファームウェアをアップデートすることでMIDI 2.0に対応するとなっていますが、これが登場すれば、すぐにMIDI 2.0の世界に入っていくことができるのでしょうか?

MIDI 2.0へ対応することがアナウンスされているローランドのA-88MKII

「早くMIDI 2.0対応製品を出していきたいという思いはありますが、これ1つだけ登場すればOKというわけではありません。接続先があって、初めて機能するわけですから」と話すのはローランドの冨澤さん。たとえば、今のUSB-MIDIではMIDI 1.0をUSBケーブルで伝送しているわけですが、MIDI 2.0で使うためには、そのためのドライバも必要ですし、USBの規格としてMIDI 2.0が利用できるように制定する必要もあるのです。もちろん、MMAやAMEIとしていろいろな準備を進めているようですが、即使えるという段階ではなさそうです。

「ハードウェアの楽器だけでなく、DAWやソフトシンセなどのソフトウェアのMIDI 2.0対応も重要であり、ソフトウェアのほうが動きが速いかもしれませんね」と話すのはコルグの高橋さん。このようにMIDI 2.0は相互接続して、お互いコミュニケーションをとることで連携するシステムであるだけに、1メーカーの1機種が出ればOKというものではなさそうです。とはいえ、早くいろいろなものがMIDI 2.0対応してくれることを期待したいところです。

今回の接続実験で使われていたMIDI 2.0対応のFM音源のソフトシンセ

「MIDI 2.0でMMAとAMEIで合意しましたが、まだようやくスタート地点に立ったばかりであり、これから我々としてもやるべきことはたくさんあります。たとえば、SMFのようなファイルフォーマットのMIDI 2.0版も審議していく必要があるし、ロゴだって決まっていないのでこれからです。メンテナンスというか互換性を維持していくための準備も必要ですし、規格書を見て何か作っていこうという人達に向けたサポート体制の確立も急がなくてはと考えているところです」と話すのは委員長の飛河さん。

MIDI 1.0の領域とMIDI 2.0の領域

ようやく正式に動き出したMIDI 2.0。ユーザーが普通に使えるようになるまでには、もう少し時間はかかりそうですが、できれば2020年中くらいに、各社から製品が出てきて、先ほどのビデオにあったような演奏ができるMIDI 2.0ならではの機材が出てくれることを期待したいところ。それに伴いDAWやプラグインなどもMIDI 2.0対応し始めると、活気も出てきそうですね。

MIDI 2.0の規格内容については、英語ではありますが、誰でもPDFでダウンロードして見ることができるようになっているので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。機会があれば、また改めてこの規格内容の技術的部分をもっと突っ込んで紹介してみたいと思っています。
【関連情報】
MIDI 2.0関連情報(AMEI)

Commentsこの記事についたコメント

5件のコメント
  • ケダ

    USBでいんじゃないだろうか、これで利益生み出したい連中がいるんだろうな

    2020年2月25日 2:34 PM
    • 藤本 健

      ケダさん

      USBは、あくまでも箱であって、その中身がMIDIであり、1.0だと限界だから2.0ができたのが実情。2.0で製品を出すにしても、これで高いライセンス料をとって…というものではないですね。AMEIのSYS-EX会員になる必要はありますが、たかだか年間2万円ですからね。

      2020年2月25日 5:45 PM
  • 健治

    中古のPC9801-EX(286)、初代SoundCanvasそしてレコンポーザー、これで何でも出来ると思った!

    デジタルの現行規格がコレだけ長命なのは驚き。何度も2.0話は出ては消えだったな。

    2020年2月25日 9:19 PM
  • NOW and THEN

    テクノロジーの進化は歓迎です、新しいMIDI楽しみですね、古い楽器フェチとしては互換性があるとのことで安心しました、正直なところローテク時代の音楽の方が僕は好きなので、ハイテクになって昔よりも名曲がたくさん出てくることを期待しております。

    2020年2月26日 2:56 AM
  • Fatahat

    これはうれしい記事・・・!
    ノート単位でコントロールを制御できるようになる点だけでも個人的に大きいです。(DAWの仕様からくる制約かと思ってたのですがMIDI規格自体に起因してたんですね)
    DAW/音源/ハードウェアが2.0に向けて足並み揃う日を楽しみに待ってます

    2020年2月28日 9:58 AM

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