リミックスってどうやるの?美雲このは (CV: 上坂すみれ)のREMIXアルバム『ConoHa』で、楽曲制作を担当した八王子Pさんに聞いてみた

美雲(みくも)このは」というキャラクタをご存知ですか?CVに声優の上坂すみれさんを起用した美雲このはは、2013年にSNSに登場して以降、TwitterやYoutubeを中心に活動し、これまでに4つのシングル、計7曲をリリースしているキャラクターです。実は、この美雲このはは、GMOインターネット株式会社(以下、GMOインターネット)が展開するホスティングサービス「ConoHa byGMO(以下、ConoHa)」の応援団長という位置づけのキャラクタ。メジャーレーベルなどの支援を受けることなく、GMOインターネットの有志メンバーが中心となって活動をしているのです。

その美雲このはがこれまでリリースした楽曲を元に、それらをリミックスしたアルバム「ConoHa」が本日2020年2月21日(金)に発売されました。参加クリエイターは、八王子PEasyPopWONDERFUL OPPORTUNITY!emon(Tes.)ゆうゆ……、といった著名ボカロP。また2020年3月29日(木)には、アルバムを購入した人が抽選で参加できるDJイベントが開催されるとのこと。そのアルバムの中でリミックスを担当し、イベント当日もDJとして出演される八王子Pさんに、リミックスの仕方や普段音楽をどう制作しているか…など、伺ってみたので紹介してみたいと思います。

美雲このはのリミックスアルバム「ConoHa」をリリースした八王子Pさん

メジャーレーベルの苦境が話題になる一方で、M3をはじめとした個人レーベル、同人活動が元気です。でも、個人だけでなく音楽業界と関係ない企業が同人的な感覚でアルバムを出したり、ライブを開催したりというケースも出てきています。その一つが今回紹介するGMOインターネットのケースです。

「ConoHa」の応援団長である美雲このは

ご存知の通り、GMOインターネットはインターネット関連事業を展開する東証第一部上場企業です。GMOインターネットグループは、インターネットインフラ事業やインターネットメディア・広告事業、インターネット金融事業、仮想通貨事業……とさまざまな事業を展開していますが、この中で音楽事業を行っているわけではありません。また、今回リリースするアルバムや、それに関連するDJイベントなどで音楽事業を立ち上げていこうというわけではないようです。

美雲このはは、これまで4枚のシングルをリリースしてきた

広報担当者に伺ったところ、「パートナー(社員)の間で、次の企画を練る中、リミックスCDを作りたい、という話になったのです。そのパートナーが八王子Pさんのファンだったことから、事務所のほうにお声がけし、今回のリミックスCD、さらにはDJイベントが実現することになりました」とのこと。大きな企業が絡んではいるけれど、レコード会社も広告代理店なども入らず、こうした音楽制作が行われ、音楽イベントが開催されるというのは、またちょっと新しい時代に入ったのかな…と感じさせるものでした。

今回新たにリリースされるリミックスアルバム、「ConoHa」

その八王子Pさん、DTMステーションでも7年前に『八王子Pが断言!?「楽器が弾けなくても、音楽は作れる!』という記事でインタビューをしたことがありました。その後も何度かお会いすることはありましたが、改めてじっくりお話をすることができたので、八王子Pさんのリミックス手法などについて、いろいろと伺ってみました。

 

--今回のREMIXアルバム「ConoHa」やDJイベントに参加することになったのは、どんなキッカケだったのですか?
八王子P:GMOインターネットさんの中で、ボカロPを起用したリミックスアルバムを作りたいという話が上がっていたそうです。そんな中、ダンスミュージックやリミックスになじみ深いボカロPというところで、僕の名前が挙がったとのことで、お声がけいただきました。

--先日、某ライブハウスでお会いした際も、DJとしてステージに立っていましたし、Twitterを見ていてもDJ活動が目立つようですが、最近はどういった活動がメインになっているのですか?
八王子P:基本的には、やはり曲を作っている時間が一番長いですよ。楽曲制作としては、今回のようにお話をいただいて制作するケースもあるし、今まで通り自分のボカロの作品を作るものがありますね。あとは、去年からHANAEさんというボーカリストとユニットを組み、KUMONOSUとして活動もしています。一方でそのDJは、実はそれほど多いわけではなく、月1本ペースです。ただ、夏の期間だとイベントなども増えてDJをすることが多くなったりはするのですが。

--以前インタビューさせていただいたときに、八王子Pさんは「楽器を弾かないけど、だからこそいろいろな楽曲が作れる」というお話を聞きましたが、その後楽器はどうですか?
八王子P:弾けないですよ(笑)。あまり楽器を弾くことに自分自身で魅力を感じないからなのかもしれません。それより、シンセのツマミとかをいじってるほうが楽しいんです。音を出して、音を作ったり、レイヤーしていくのが、気持ちのいい作業なんですよ。いわゆる楽器の演奏というのとはちょっと違うのかもしれませんが、シンセ操作が自分にとっての演奏なのかもしれませんね。

--楽曲の制作って、人によっていろいろなスタイルがあると思いますが、八王子Pさんの場合、どんな流れで制作していくのですか?
八王子P:ボカロ曲を例にしていうと、2パターンあります。1つは音のイメージから作るパターンです。こういうジャンルを作りたい、こういう音を入れたい…、みたいなところから、アレンジ先行で歌詞を当てはめて、固めていくパターンです。もう1つは、歌詞から世界観をイメージして、それに合うアレンジを決めていくパターンです。たとえば女の子に振られた……というシチュエーションを元に歌詞を作り、それにマッチした曲にしていく形ですね。

--さて、今回のアルバムはリミックスだったので、自分のオリジナル曲の制作とは違う流れでの制作だと思いますが、リミックスというのはよくやるんですか?
八王子P:そうですね、今回のように依頼されて制作することも、ちょいちょいありますが、自分がDJをするので、その自分のDJで使うために友達の曲をリミックスするケースも多いです。やはりリミックスは、現場で盛り上がりそうなものをイメージして作ります。たとえば、ロックの曲をリミックスしたい場合は、まずダンスミュージックのフォーマットに当てはめて構成していきます。ダンスミュージックは、ブレイクという静かなパートがあり、そのあとにビルドというスネアロールで盛り上げる部分があり、ポップスでいうサビにあたるドロップに移っていくので、原曲のパートをうまく割り当てて構成していきます。

八王子Pさんの制作環境

--やはりボカロ曲をリミックスするケースも多いですよね。
八王子P:ボカロ曲のリミックスだと、ポップスのリミックスと違って、ボーカル素材を自分で打ち込んで作れるんですよ。なので、テンポを変えたりできるので、リミックスというよりも、リアレンジに近いことをしているかもしれないですね。そもそもリミックスにルールはないので、どんなことをするのもありだと思います。たとえば思いっきりテンポを速くしてもいいですし、サビのフレーズしか使わないというのでもいいんです。自分の発想で自由に作っていきますね。たとえば、ギターのフレーズが裏で鳴っていたら、それをシンセにしてみたりするだけで、印象は全然変わってきますよ。リミックスって、原曲のマルチデータとかステムデータをもらって、それを元に作るということもできるとは思います。ボカロ曲であれば、友達が作っているケースが多いので、頼めばマルチデータをもらうことは可能だとは思います。でも、そうした声掛けはせず、本人には秘密で勝手にやって、現場でかけて、本人を驚かせたいという思いがあるんです。だから、基本的にはもらうことはないですね。ボーカル以外のパートもフレーズを耳コピして作っていくわけです。もちろん、そこにサンプル素材を重ねて行ったりもしますよ。

--今回リリースするアルバムは、CVを上坂すみれさんが担当されているので、ボカロ曲というわけではないですよね。実際どんな作品になっているのですか?
八王子P:自分の中でのリミックスのイメージは自由なので、テンポを少し変えてみたり、ボーカルをカットアップしたりエフェクティブな使い方もしました。それぞれのクリエイターが、自分たちの色を出して作った作品です。僕は、今回のリミックスアルバムの中で3曲担当しています。どの3曲も違うテイストに仕上がっているので、楽しめると思います。他のクリエイターも僕が信頼を置いている人たちに集まってもらっているので、全編を通していい作品に仕上がったと思います。

--ところで、以前インタビューした際は、DAWにSONARを使っているという話でしたが、SONARがなくなった現在、どうしているんですか?
八王子P:やはり慣れ親しんだDAWであるだけに、いまもSONARを捨てきれず、CubaseとSONARを半々ぐらいで使っています。やはり昔のプロジェクトを触ったりすることがあるので、とくにそうした場合はSONARが必須です。SONARをTASCAMが扱っていた時代に、バージョンアップしよう、どうしようかか悩んでいたところで、SONARが終わるというニュースが飛び出したんです。そこでCubaseをメインに使おうと思い立ち、徐々に移行していったんです。もともとCubaseはある程度使っていて、オーディオのピッチベンドなどCubaseにしかない機能を活用するために部分的に活用していたんです。だから、それなりに使い勝手もわかっていて、移行はそこまで大変ではなかったです。とはいえ、すごい切羽詰まっているときは、SONARを使った方が作業が速くできるので、SONARを使っちゃいますね(笑)。

--八王子Pさんのサウンド、どんな音源は何を使っているのか興味のある方も多いと思いますが、よく使う音源を教えてもらうことはできますか?
八王子P:ハード音源を使うことはなく、すべて音源はソフトシンセです。ベタですが、SERUMを一番使います。ほかにもNexusとかは、使いやすいので多用していますね。逆に最近はMASSIVEは使わなくなりましたね。ドラム系は、生ドラムっぽい音が欲しいときは、Addictive Drumsを使います。ですが、ダンスミュージックだと、Spliceとか使って、サンプリング素材を貼っていくことが多いです。

SONARを中心にSERUMなど各種プラグインを活用して制作している

--ちなみにオーディオインターフェイスなどの機材はなにを使っているのですか?
八王子P:オーディオインターフェイスは変わらず、Fireface 800です。機材は気に入ったものは、ずっと使いたい派なんですよ。あと制作で使うヘッドホンは、Shure SRH1840、スピーカーはGENELEC M040を使っています。

--最後に、今回のDJイベントではどういうことをするのか教えてください。
八王子P:今回のDJイベントは、リミックスアルバムを購入した人の中から抽選で参加できるものと聞いていますので、実際アルバムを聴いた方に十分に楽しんでいただけるものにしようと企画しているところです。DJは僕とemon(Tes.)、WONDERFUL OPPORTUNITY!の3人で行いますが、リミックスアルバムの曲だけでは、少し短いので、僕たちのボカロ曲も織り交ぜようと思っています。それもDJ用のアレンジで、その現場でしかかけない曲も披露する予定です。あとは、DJスタイルで、ノンストップで進んでいくので、曲順もストーリーを考えて繋いでいくつもりです。その日しか聴けないアレンジやその日限りのパフォーマンスだったり、そういったところも楽しんでいただければと思います。

ーーありがとうございました。

【関連情報】
美雲このはオフィシャルサイト
このはブログ『2/21発売!REMIXアルバム「ConoHa」予約受付中♪』

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1件のコメント
  • DD

    藤本さん。はじめまして。
    今回の話も面白かったのですが、7年前の記事を見て感動してしまいました。
    自分は最近DTMを始めた学生初心者で、楽器やバンド経験も少しはありますが、音楽理論などは勉強していません。
    現在はそのような人間でもDTMを気軽に始められますが、7年前は随分違ったんだな、と思いました。
    コメント欄を見ても、きっと先輩DTMerたちは色々な苦難があったんだと思います。
    それでも7年後にこのような記事が上がり、八王子Pさんはじめ、藤本さんも活躍されていることを本当に嬉しく思います。
    先輩方が切り開いてくれた道を、楽しみながら進めて行けたらいいなと思います。
    今後の活躍も期待しています。
    ありがとうございます。

    2020年2月22日 6:01 PM

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