レコーディングからCD、配信用マスタリングまで全工程をDTMで仕上げるNOROさんの制作手法

アーティストでありシンガーであり、作詞・作曲はもちろんのこと、アレンジ、レコーディング、ミキシング、マスタリングといったエンジニアリング部分、さらにはアートワークやビデオ制作まで何でもこなしてしまうマルチタレントなNOROさん。数多くのクリエイターが集まって無料配布しているということで、話題になっている「電子雑誌トルタル」では創刊号からオリジナルのミュージック・ビデオ付きの連載をしています。

そのNOROさん、先日3rdミニアルバムとなる「the Room 1058」と1stシングルとなる「DREAM in RUINS」を高音質配信という形でOTOTOYからリリースしました。全曲、Cubaseでレコーディングするとともに、自らトラックダウンからマスタリングまで行っているとのこと。どんな制作手法なのかなど、いろいろ話を伺ってみました。


音楽制作全般、なんでもこなすNOROさんにDTMに関するお話を伺ってみました


--NOROさんが、DTMを始めるようになったのはいつごろなんですか?

NORO:高校時代、ギターを使って曲を作るようになり、大学になってからはギターの弾き語りライブなどもしていました。その大学のころ、人のすすめで初めてQY10で打ち込みを経験したのですが、すぐに物足りなくなってミュージ郎を入手したのがDTMのスタートでした。それまでずっと弾いてきたギターに限界を感じてきたこともあり、ミュージ郎にハマって、バンドルされていたCakewalkを使ってむしゃらに曲を作ったんですよ(笑)。曲ができるたびに「こんなのできました!」って仲間に聴いてもらって……。


キーボードはDTMを始めた当初のころのものを今でも使っている 

--Cakewalkはかなり長い期間使っていたんですか?

NORO:当時使っていたCakewalkも基本はMIDIシーケンサであったし、あまり細かなエディットができなかったんです。一方でTASCAMの4トラックのカセットMTRなんかも使ってはいたのですが、何かにバンドルされていたCubaseのエントリー版であったCubasisを使ってみたら、「あ、これいいじゃん!」って。これで次のステップに進んだような気がして、その後、Cubase VST5を購入。それ以降、バージョンアップを繰り返しながらも、ずっとCubaseユーザーなんですよ。


モニタースピーカーからの音が邪魔されずに聴けるよう、ディスプレイやガラスのデスクの下に設置している 

--Cakewalkから乗り換えたということは、WindowsでのCubaseということ?

NORO:はい、ずっとWindowsユーザーです。そのCubase、何が面白かったかって、ソフトシンセですよ。VST5の時代からフリーのソフトシンセがいっぱいあったので、使いまくっていました。海外の変な音しか出ない音源とか、なんじゃこりゃ!?って音の音源とかあって、楽しかったですね。毎週新しい音源が紹介されるサイトなんかもあったので、これを使って音をだして、曲を作るのが楽しかったですね。


Cubase VST5以降、ずっとCubaseで音楽制作を行っている

--アコースティックからいきなりソフトシンセの世界に行っちゃったということなんですか?

NORO:自分を振り返ってみて特徴的だなと思うのは、ソフトシンセで育ってきたということですね。最近は女子でもハードシンセを使う子が増えてきたけど、私は完全にソフト!多くの人たちがハードシンセからソフトシンセに移行する時代に、私もそれに巻き込まれていった感じだったので、ハードシンセは自分の使っている音源の本物はこれなんだ、って確認する程度ですね。実際、Prophet5の音とか大好きだし、友人のスタジオにProphet5があったので、レコーディングで使わせてもらったことはあったけど、ハードで触るより、Pro-53使うほうが好きなんですよね…。保存やロードもしやすいし(笑)。ちょうど、私がフリーの変なシンセをあつめているときに、エレクトロニカがカッコイイぞ、なんて言われるようになったり、Boards of Canadaなんかが流行り出したりして、自分でもエフェクターで音をプチプチさせたり、フィルターでウニウニ、シュワシュワさせたり……、そんな音で遊びながら曲に組み込んでいきました。それが2000年代の中盤ですね。


2008年にCD化されたNOROさんのファーストアルバム

--音楽は仕事として成立するようになったんですか?
NORO:大学卒業後就職したのですが、音楽に傾倒していたので、そのうち会社も辞めてライブハウスでブッキングマネジャーとして仕事をするようになり、そこで自分でもライブ活動を行ったりレーベルの仕事に携わったりしていました。その関係で多くの人とつながるようにもなり、ファーストアルバムのレコーディングも決まりました。ファーストアルバムには当時ポリスターにいらっしゃった牧村憲一さんに応援していただき、ポリスターのビルに併設されていた1970スタジオというNeveのコンソールがあるスタジオで生録。それをうちに持ち帰ってCubaseでラフミックス、最終的にはスタジオに持って行ってトラックダウンと贅沢な作り方をしました。そして2007年にバウンディー(現スペースシャワーミュージック)よりiTunesなどから配信デビュー、2008年に全国CDデビューできました。

--人との繋がりがあってこそ、活動できる面というのはあるんですね。
NORO:そうですね、ちなみにMySpaceが流行っていた時期だったので、プロモーションでこれを利用したことで、海外のミュージシャンとつながったり、自分の作ったパートを海外のエンジニアがミックスなんてこともありました。それもすごくいい経験になりました。技術的な勉強にもなったし。

WaveLabを用いてマスタリングまで一人で行う

--ファーストアルバム以降の活動は?

NORO:海外の人たちとのコラボや楽曲提供などを続けながら、曲を作りためていき、2ndアルバムではマスタリングまで自分でするようになりました。Cubaseに慣れていたということもあり、同じSteinbergのWaveLabを使うようになったのです。今も使っているのはちょっと前のバージョンのWaveLab6ですけど。一つのDAWで音をほとんど完成させる人も多いですが、私はあまりトータルコンプをかけずにWaveLabで一気に音を持ち上げることが多いです。


ボーカルやコーラスを自宅のNOROスタジオで録ることも多い

--音源やエフェクトはどんなものを使っているのですか?

NORO:マルチ音源は、以前はHypersonicをメインで使っていたんですが、最近はSampleTank2を使っています。でもHypersonicはよかったな……。Orchestralも廃盤になったけどこれは現役でまだ使っています。オーケストラ音源、ほかにコレっていうものに出会ってないので、今でも重宝しています。またNIのKOMPLETEを持っているので、BATTERYやB4もよく使うし、やっぱりPro-53は好きですね。ただピアノだけはSteinbergのThe Grandを使ってます。ちょっと古いバージョンではありますが…。一方で、エフェクトはWavesのEQであるQ10 EqualizerとAPI560がお気に入りです。リミッターはVBC-limiterをよく使います。また市販ではなく、フリーのコンプですが、BLOCKFISHというのがあり、これがすごくお気に入り!主にボーカルにかけているんですよ。コンプはほかにも何種類かをミックスしてかけていることが多いです。それからディレイはOhmBoysてのが、設定がすごく簡単でいいですよ。


無料で配布されている電子雑誌トルタルでは「the Room 1058」という連載を持っている

--トルタルや最新アルバムなどについても教えてください。
NORO:トルタルは、ある日編集長が、「電子雑誌を作るんだけど、音楽も動画もいっしょに入れられるから音楽関係の連載をやりませんか?」と声をかけてくださったんです。気軽に引き受けてみたんですが、せっかくなら毎回曲作っちゃおうかなって、毎回手作りPVもセットにして連載をすることになりました。そんなに連載で言いたいことがあったわけでもないので(笑)、この音楽、PVをどう作ったのかを解説するテクニカルよりな内容で、のちに出すミニアルバムと同名の「the Room 1058」という連載をはじめたんです。最初に作ったのがiPadでトラックを作ってCubaseに流し込んで、録音から先、ミックスまでCubaseで行い、最後のマスタリングはWaveLab。次の曲もその工程で作ったかな。その後の3曲はCubaseメインで作りました。この連載から大きくかわったのは、それまでソフトシンセっ子だったけど、生音、アコースティック楽器をいっぱい使うようになり、打ち込みよりも生音が多くなったことですね。たとえばvol.2ではダンモイという口琴を弾いて録音してみたり……、これはこれですごく楽しいんですよ。リズムとかも、今までなら全部打ちこんでいたけど、あえてトライアングルや小さいシェーカーを買ってきて、マイクで録ってCubaseでエディットして作るというのが、そこからのメインスタイルになってきています。その場で録っちゃうから、楽というのもあるけれど、私の場合は打ち込みも生っぽさを出したいという思いももともとあったので、生っぽさを出すなら生が早いだろう、と。

--ループ素材を使うケースってあるんですか?

NORO:もともと出来上がりのループ素材は極力使わないようにしていて、ちまちまと打ち込んでいたわけですが、そこに時間をかけるより、自分で叩いちゃったほうが早くて、自分の思うものが作りやすいことに気づいたんです。それ以来、演奏しながら作るようになっています。


電子雑誌トルタルで発表した楽曲をまとめたミニアルバム、「the Room 1058」 

--その生で録るのがthe Room 1058でのスタイルというわけなんですね。
NORO:はい。その連載も5回続きて5曲になったので、インストバージョンと合わせて計7曲。これらをまとめてミニアルバムとしてリリースしたんです。また、同時発売の最新シングル「DREAM in RUINS」はまさに完全アコースティックで、自分としては初めての挑戦だったんだけど、全トラック各パートともミュージシャンにお願いして弾いてもらったんです。自分の演奏はイントロ部分のギターをちょっと弾いたのとボーカルだけで、あとはプロデュースと、エディットやミックスなどエンジニアに徹しました。全パート生でそれも他の人に弾いてもらうというのは、一人でやる打ち込みとは正反対の世界だけど、今までの自分の流れからは自然にたどり着いた感じであり、振り返ると自然なんですよね。

上記3rdアルバムと同時リリースされた24bit/44.1kHzで配信されているシングル、「DREAM in RUINS」 。iTunesでの配信も行っている

--今後はアコースティックの世界に移行していくんですか?
NORO:移行したという意識ではなく、できることが増えたという印象です。また自分なりのチャレンジもしつつ、完成させていきたいと思っています。次作がどういうことになっていくか、注目していただけると嬉しいです(笑)

--ありがとうございました。

【関連サイト】
NOROSOUND.COM
電子雑誌トルタル
OTOTOY配信ページ

【関連記事】
アーティストインタビュー NOROさん(Steinbergサイト)

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