ご覧になった方も多いと思いますが、2017年に入ってからニコニコ生放送およびFresh!で放送している番組、「DTMステーションPlus!」は、月に1回、音楽学校メーザー・ハウスの中のリハーサルスタジオをお借りして行っています。そのメーザー・ハウスはもちろん、その名の通り音楽の学校であり、日中は多くの学生さんたちが真剣に音楽を学んでおり、とっても活気あるところでもあるんです。

先日、そのDTMステーションPlus!の打ち合わせもあって、日中にメーザー・ハウスに来た際、DTM関係を教えている先生、お二人とお話することができました。さらに、その後、その授業もちょっぴり見学してみたところ、なかなか面白い内容だったので、少し紹介してみたいと思います。


音楽学校メーザー・ハウスでの授業をちょっと覗いてみた
ご存じにない方もいると思うので、音楽学校メーザー・ハウスについて簡単に紹介しておくと、ここは東京の目黒区にある音楽を専門に学ぶための2年制/1年制の学校。渋谷駅からも徒歩15分程度のところにあります。

1つの学校に見えるけれど、実はプロのボーカリスト養成のためのメーザー・ヴォーカル・ハウス、作曲・アレンジ、DTM、レコーディング、DJなどを学ぶためのメーザー・クリエイト・ラボ、プレイヤーと音楽業界をめざすためのミュージック・カレッジ・メーザー・ハウス、そしてジャズ教育専門の機関、ジャズ・ラボの4つの教育機関が合わさったものとなっているそうです。


4つの教育機関が1つにまとまった音楽学校メーザー・ハウス

DTMステーション的にいうと、やはりメーザー・クリエイト・ラボに興味が沸くところですが、先日お会いしたのが、ここで「サウンドプロデュース」という授業を担当しているK-Muto(武藤 敬一朗)先生。まあ、先生といっても本職は音楽プロデューサーであり、作曲・編曲家、キーボードプレイヤーとしても現役で活躍している方。1998年からゴスペラーズの作品に参加、ほとんどの楽曲のプロデュースを手がけていたり、プロデュース参加アルバムとしてはBoA東方神起SMAPV6……など50万枚超えのヒット作も多数あるというホンモノの方なんですよね。


サウンドプロデュースゼミを受け持っているK-Muto先生 

そのK-Muto先生がメーザー・ハウスで授業をするようになったのは2011年からで、シンガーソングライター科の「作曲ゼミ」と、サウンドクリエイター科の「サウンドプロデュースゼミ」の2つを担当しているとのこと。


夜の番組放送中は比較的静かなメーザー・ハウスも日中は、 多くの生徒たちで活気ある様子

作曲ゼミは曲を作って、歌詞を作り、歌うシンガーソングライターを目指す子たちを対象としていて、1年生はダイアトニック・コードからはじまって、曲のコード進行や、これにどうハーモナイズしていうかなど、本当の基礎の基礎から教えていきます。もちろん、最初から詳しい生徒もいるのですが、『Cって何?』という子でも大丈夫なように教えていますし、楽器はこれからという人も大歓迎ですよ。教える側としては、本当にゼロからの子たちを引っ張り上げていくので、教え甲斐はあるんですよね。譜面もコードネームも書けなかった子たちが2年生になると、普通にマスターリズム譜を書けるようになっているんですから」と、K-Muto先生、とっても楽しそうに語ってくれます。本職はプロデューサーとはいえ、やっぱり先生をするのが好きなんだろうな…、と。


教室がスタジオなので、空いている時間は個人練習やバンド練習している生徒も 

この作曲ゼミ、2年生は発表会もあり、学校内でバンドを組んだり、学校外でのライブ活動を行うようになっていくんだとか。もちろん、そう簡単にプロになれるはずはないけれど、卒業後も2年くらいアマチュアとして活動した後、徐々にプロの道に進んでいく人もいるんだとか……。機会があれば、発表会などを見に行ってみたいところですね。

それよりも個人的に気になったのが「サウンドプロデュースゼミ」のほうです。ちょうど、お会いした日は、そのゼミがあるので、K-Muto先生も学校に来ていたわけですが…
 

K-Muto先生によるサウンドプロデュースゼミ

このゼミは、ボクの普段の仕事の実作業すべてを見せていくというものになっています。メインは『レコーディングのプロデューサーとしてどう進めていくか』というもので、プロのシンガーソングライターを呼んで、曲からアレンジに発展させて、それをPro Toolsに取り込んで、編集して、ディレクションしていくというもの。場合によってはメンタルな面まで含め、実際にプロデューサーが何をしているのか、どうすれば曲として完成させていくのかの実践を見せていくんです。DTMテクニックも大切だけどDTMテクニックだけでは、やはりいい作品はできません。プロデューサーって人とコミュニケーションをする仕事なので、そこを教えているんです。ボクも音楽専門学校を出ましたが、そこでそういう実践的なことまでは学べなかったし、実際の仕事をなかなかイメージできなかった。だから、ボクがこのゼミでレコーディングの見本を見せた上で、次は君たちがやってみて!というスタンスでやっているんですよ」(K-Muto先生)

これって、物凄く魅力的な授業ですよね!これは、もしかして先生としても授業と本業を一石二鳥でやっているのな?と思って聞いてみました。

実際そのとおりです。とはいえ、急いでいる案件をここでできるわけではないので、すごくゆっくりでもいい案件を半分実験材料的にゼミで行っているんです。普通なら、どんどん進めていくところを、生徒から『いま何をやったんですか?』といった質問が来るから、そこで作業を止めて説明するわけです。また普通なら何時間もぶっ通しでレコーディングや編集作業などを行っていくけれど、これは授業としてなので、時間が来たら終了で、また続きは来週……ということになるので、ゆっくりペースですね。そういう意味でも、一石二鳥とはいえ、主目的はゼミで教えるほうですね」とK-Muto先生は笑いながら話してくれました。

K-Muto先生によると、ゼミにおいては、すでにリリースされている楽曲で使ったレコーディングのマルチデータなども実際にみせて、どのように作っているかを説明したりもしているとのこと。普通、そんなものを見ることはできませんから、羨ましいですよね。

ゼミの人数はあえて少数で行っているんですよ。でも、このゼミにいる子たちはみんな結構優秀で、卒業生も実績を出して、プロになっている人数が多いんですよ。ボクとしても教え子たちがこの世界で活躍してくれるというのはとっても嬉しいですからね」(K-Muto先生)。

この日、そのサウンドプロデュースゼミを少し覗かせてもらったのですが、その時はちょうど生徒のみなさんが、作曲・編曲の実作業中。Logic Pro Xを使って、みなさん打ち込んでおり、その1人1人の途中経過を聴きながら、K-Muto先生がアドバイスをしていきます。たとえば、その1人は曲で転調しているのですが、作った本人も転調する部分がやや不自然な感じがしていて、納得がいってない様子。


キーボードを弾きながら指導するK-Muto先生 

これが不自然なのは、いきなり転調しているからだよ。やっぱり転調する場合、その前に、もうすぐ転調するぞ!と予感させるようにしないと気持ち悪い。セオリーとしてはオーソドックスではあるけれど、転調前に、それを予感させるV7を置くこと。この場合、転調後がF#7だから、その前にC#7を置く」とK-Muto先生は解説をしながら、キーボード弾いてみると、ほかの生徒もみんな「おーー」と納得。みんなが先生を尊敬しながら付いていってるんだな…という印象でした。

ただ、ちょっと心配になったのは、これだけ実践的な内容だと、中には落ちこぼれちゃう人が出てくるんじゃないのか……ということ。でも、聞いてみると、メーザー・ハウスにはその辺もしっかりフォローできる仕組みが用意されている、とのこと。

やはり音楽のスキルは同じ学年・同じ学科でも人によってかなりのレベル差があるので、最初にテストをしてレベル分けをした上でそれぞれに合ったカリキュラムにしているのだとか。その中に「個人レッスン」というものも用意されていて、生徒1人につき先生1人がついて、まさにその人だけの学習ができるようになっているそうなのです。

 
別の教室では、ちょうど個人レッスンが行われていた

ちょうどその日も個人レッスンが行われていたので、ちょっと様子を覗かせてもらいました。個人レッスンを受けていたのは、1年前まで自動車会社での事務の仕事をしていたという27歳のハヤミさん。DJを17、18歳のころから趣味でやっていたけれど、どうしても本格的に音楽をやりたいと会社を辞めて、メーザー・ハウスに入学したそうです。


音楽を勉強するために会社を辞めてメーザー・ハウスに入学したというハヤミさん

もちろん不安でいっぱいですが、いま踏み出さなくちゃ一生後悔する……と思って会社を辞めたんです。ここではサウンドデザイン、音楽理論などを学んでいますが、DJとはまったく違う世界で本当に勉強になるし、毎日が充実しています。この先、音楽制作事務所などに所属して活動ができればと思っているところです」とハヤミさん。そこでやっていたのは、ハヤミさんが作曲したメロディーにピアノでコードをつけようとしていたけど、どうもうまくいかずに止まってしまったので、そこについて個別に指導を受けていたのです。

メーザー・ハウスにはハヤミさんのように、一回社会に出た人、大学を卒業してから入ってくる人などもいろいろいるそうですが、得意、不得意もあるので、こうして個人レッスンを受けているんですね。

そのハヤミさんを指導していたのは鯨井良征先生。鯨井先生は普段、ベーシックカリキュラム、サウンドデザイン担当として、比較的基礎的な内容の授業を行っている一方で、こうした個人レッスンも幅広く行い、生徒のボトムアップ、フォローを行っているとのこと。

K-Muto先生もそうですが、ここの先生たちはよくも悪くもプロフェッショナルな先生ばかりで、突き抜けているんです。そのため、中には合わない子や付いていけない子も出てくるため、そこをうまく拾い上げてあげるのが私の仕事ですね。また、中には本人のやりたいことと授業の方向に少しズレがあるケースもあります。そんな場合、個人レッスンの形で、その人に合わせた指導も行っています」と鯨井先生。


このときはLogic Pro Xを使って、コードの付け方などを指導していた 

学校として、いろいろな体制を敷いているんだなと感心しましたが、こういう仕組みが用意されているというのは心強いですよね。

そんなメーザー・ハウスにはDTMステーションPlus!もお世話になっているわけですが、今度、こうした先生や生徒のみなさんとコラボする形での番組展開ができるといいな、と思っているところです。

【関連情報】
音楽学校メーザー・ハウス
 
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