以前からちょっと興味があったのが、学校でDTMやレコーディング、ミキシングなどを教える授業ってどんなことをしているんだろう……ということ。音楽大学専門学校、いろいろなところで授業が展開されているという話を聞く中、先日、都内にある音楽学校メーザー・ハウスというところでの授業を見学させてもらいました。

高校卒業してすぐに入った人や、ちょっぴり回り道をしてから入学した人など、男女4人がPro Toolsを使いながら受けていた授業はなかなか興味深いものであり、個人的にも、かなり刺激を受けました。おそらく、多くの人もそうした授業って見たことがないのでは……と思うので、その授業の一コマをちょっと紹介してみたいと思います。


音楽学校メーザー・ハウスのミキシングの授業を見学してきた

先日、見学させてもらった音楽学校メーザー・ハウスは、渋谷駅の隣駅、池尻大橋にある学校で、音楽業界で活躍するプロの育成を目指す教育機関。ヴォーカリストを育成する「VOCAL HAUS」、プレイヤーを育成する「music college MESAR HAUS」、ジャズに焦点を当てた「JAZZ LABO」、そして作曲アレンジやサウンドクリエイターを育成する「CREATE LABO」の4つから成る教育機関だそうですが、今回お邪魔したのは、CREATE LABOの中にあるサウンドクリエイター科の「レコーディング&ミキシング・コース」の授業。


目黒区・池尻大橋にある音楽学校メーザー・ハウス 

レコーディング&ミキシング・コース」という名前からも分かるように、レコーディング/サウンドエンジニアリングを目指すコースで、2年制。学校というと30~40人が教室で授業を受けるというイメージを持っていたのですが、実践重視の少人数制だとのこと。ちょうど取材したのは19時半から80分という夜の授業だったこともあり、4人が1人の先生に教わるという、なかなか贅沢な授業です。


6F建てのビルであるメーザー・ハウスの中には数多くのスタジオや教室がある。DTM教育専用の教室も 

レコーディング・ゼミ/音響理論、音楽理論、DTMベーシック、イヤートレーニング、ミュージックビジネス……とさまざまな科目があるなか、今回見学したのはミキシング・ゼミ。授業をしていた古賀英生先生は「まだ1年生で、初歩の初歩を教えているんですよ」と話していましたが、その内容はとっても実践的なものでした。


Pro Toolsに向かって黙々と作業をしている 

それは、2ミックスしてある4小節ドラムフレーズを聴き、それを耳コピというか、目コピ(!?)も併せて再現するというものなんです。生徒に渡されるのは2ミックスのWAVファイルと、ワンショットのドラム素材集。2ミックスのデータ自体は、そのドラム素材集を使って先生が4小節のフレーズに仕立てたもの。Pro Tools標準のAIRのコンプやEQ、リバーブなども使って、カッコいいフレーズができているのですが、どの素材を使い、どうミックスしているかは秘密。また、生徒に渡されたドラム素材集はスネアだけで200種類近くあるので、80分の授業時間内で、それを見つけ出すだけでもかなり大変。


古賀英夫先生と、授業を受けていた4人の1年生 

しかも、先生からヒントとして出されたのは「キックは2種類を組み合わせて使ってるよ」なんていう情報。聴いてみると確かに、重低音が効いているとともに、アタック感もしっかりした複雑なサウンド。組み合わせを考えれば200×200=4万通りもありますから、正解を導き出すのは不可能ともいえる難しい作業です。


トラックにサンプル素材を貼り込みながら、2トラックのリズム音源を再現していく

完全に同じに再現するのは無理かもしれないけど、EQやコンプも活用しながら、音を作って似せるように心がけてみて」と古賀先生がアドバイスすると、4人の生徒たちは真剣にPro Toolsの画面を覗き込みながら、ヘッドホンを使って作業しています。


次々と「先生!」と呼ばれ、古賀先生はひとつひとつ対応していく
 
ヘッドホンだけだと、音がよく分からないから、ある程度できてきたらモニタースピーカーでも音を確認してね」なんて先生が言うと、「先生!どれ選んでも音が似ないんですけど!」、「先生!画面がなんか固まりました!」などなど、いろんな声が上がってきます。


キックを2種類ユニゾンで貼り付けていく……

でも4人の授業ですから先生もきめ細かく個人個人にアドバイスしていくことができるんですね。1トラック目に、2ミックスのオーディオを貼り付けつつ、2トラック目以降にはキック、スネア、ハイハットとワンショットの素材を並べていくわけですが、タイミング自体は波形に合わせることで、みんな比較的しっかりと再現できているようですよ。

授業終了の10分前にみんなの作業は終了し、4人の作品を先生が講評。「同じ音が選べなくてもいいけど、もうちょっと近いキックの音が選べるとよかったんだけどな」、「このハイハットは正解だね。これができただけで、かなりいい雰囲気になっているよ」などなどとアドバイス。「別に実践でこんなことをするわけではないけれど、やっぱり音に対する訓練は大切です。こういうことを一つずつ積み重ねていくことで、自分の引き出しが増えていくんです。そうすると、何か詰まったときに、この音はこうやって作るんだ…と出すことができるので、経験が大切ですね」と古賀先生。


授業最後に、一人ひとりの作った結果を先生が講評していく 

授業終了後、生徒のみなさんにもお話を少し聞いてみました。まずは、ここを卒業したら、どうしたいかを質問すると「レコーディングエンジニアを目指してます」、「イベント会社でPAなどの仕事をしたいです」など、みなさん結構目的はしっかりしています。とはいえ、世の中そんな仕事がいっぱいあるわけではありませんから、即その道で就職できる人は一部に過ぎないようです。ただ先生陣の紹介などもあり、どこかの事務所にインターンで入り込むなど、卒業生のみなさんも頑張っているようですね。


こうした経験を一つずつ積んでいくことで、自分の引き出しも増えていく 

また、授業で方法を習ったとしても、先生が言う通り、どれだけの経験を積むかは大切。それに対し「入学して、Pro Toolsはすぐに買いました。学生だとアカデミック版というのを安く買えるのは嬉しいですね」と、やっぱりみんな授業で使うPro Toolsを買っているわけですね。

この音楽学校に限らず、大学生や専門学校生ならアカデミック版を購入できる権利があるのですから、学生のみなさんは特権をうまく利用するとよさそうです。ちなみに、社会人であっても、こうした学校に通っていればOKですよ。

ちょうど、同じレコーディング&ミキシング・コースの2年生も1人フロアにいたので、ちょっと話をしてみると、先ほどの1年生達とはちょっと考え方が違うようでした。


現在レコーディング&ミキシング・コースの2年生、中村太樹さん 

高校に入ってから本格的に音楽活動を始めたのですが、進路に迷っていたときに、普段通ってるリハスタの先生のような人に勧められてここに入ったんです。別にエンジニアになりたいわけでかったけど、レコーディングの知識や技術は絶対将来になって必要と感じるからと言われて、この学科に決めました。1年半やって、自分でレコーディングもできるようになったし、Pro Toolsを駆使して曲も作れるようになってきました。最近は自分たちのバンドの音源を作り、ミックスなどもしているところです。卒業後もここで身に着けた知識、技術を活用しながら音楽活動に勢いをつけたいですね」と話すのは2年生の中村太樹さん。やっぱり2年間でかなり自信もついてくるようです。


プロのレコーディングスタジオ風なレコーディング専用の教室もある 

とはいえ、卒業してすぐに音楽で食べていくのは難しいとは思っています。でも、学校で学んだことで、音源が作れるようになったので、ネットを使って世界に発信していけば、何かができるのでは……と夢見てるところです。また最近は仲良かった友人たちとゲームを作ってその楽曲を作ることにチャレンジしたり、東方Projectでの曲を作るなど、これまでのバンド活動とは別の世界も楽しんでいますが、こうした経験を今後に役立てていきたいなと考えています」と中村さん。

音楽の世界で生きていくのは、なかなか困難な道のりだとは思いますが、ぜひみんな頑張ってほしいなと、と思ったのでした。

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