オーディオをボーカル・ドラム・それ以外に自動分解する機能を搭載した世界初のDAW、ACID Pro NEXT誕生

昨年、9年ぶりにバージョンアップしてACID Pro 8となったACIDですが、それから1年で、新バージョンのACID Pro 9がリリースされるともに、ACID Pro 9の上位グレードとなるACID Pro NEXT、さらにはより多くのプラグインやループ素材集をバンドルしたACID Pro NEXT Suiteが同時に発売となりました。

今回の目玉はACID Pro NEXTおよびACID Pro NEXT Suiteに搭載されたSTEM Makerという機能。これは2ミックスされたWAVファイルを読み込むと、自動でボーカル、ドラム、それ以外の3パートに分解してくれるというもの。価格はACID Pro 9が149ドル(16,092円)、ACID Pro NEXTが399ドル(43,092円)、ACID Pro NEXT Suiteが599ドル(64,692円)という設定ですが、発売元はソースネクストなのでリリースキャンペーンとして8月21日~31日の期間はACID Pro NEXT Suiteで77%引きという世界一安い価格設定で発売しています。実際どんなソフトなのか試してみたので紹介してみましょう。
※日本円は1ドル=108円の換算で、税抜き価格

ACID Proの新バージョン、ACID Pro 9および、ACID Pro NEXT、ACID Pro NEXT Suiteが誕生

ご存知の方も多いと思いますが、ACIDは1990年代後半に、世界初のループシーケンサとして登場し、今では当たり前となったループ素材を並べて音楽制作する手法を確立したソフトです。バージョン9となった最新のACIDも、ループシーケンサであることを基本としつつ、MIDIによる打ち込み、オーディオのレコーディング、ミックス、マスタリングまでを可能としたDAWへと進化しています。

ACIDはループ素材を並べて曲を作るループシーケンサを核としたDAW

ACIDは登場当初からWindows版のみでMac版が存在しないのは、現在も同じ。これまで上位バージョンであるACID ProとエントリーバージョンであるACID Music Studioという2ラインナップだったのですが、今回、ACID Pro 9の上位版としてACID Pro NEXT、そしてACID Pro NEXT Suiteというラインナップが追加されたのです。

この上位3製品であるACID Proシリーズの簡単な違いをまとめたものが以下の表です。

  ACID Pro 9 ACID Pro NEXT ACID Pro NEXT Suite
DAW 「ACID Pro 9」
ループ素材集 9GB 11GB 13GB
プラグイン音源 15種類 19種類 29種類
プラグインエフェクト ・essentialFX Suite
・coreFX Delay
・Analogue Modelling am|track SE
・Vandal SE
・essentialFX Suite
・coreFX Delay
・Analogue Modelling am|track SE
・Vandal SE
・coreFX Mastering
・essentialFX Suite
・coreFX Delay
・Analogue Modelling Suite
・Vandal
・coreFX Mastering
・Vintage Effects Suite
・VariVerb II
オーディオ分離機能
「zynaptiq STEM MAKER」
ピッチ編集ソフト
「Melodyne essential」
サンプラー
「Independence Pro Plus Suite」
DTM入門書籍(PDF版)
これからはじめるDTMerのためのやさしい基礎知識

この表だけだと、やや分かりにくいかもしれませんが、各グレードでバンドルするプラグインやループ素材集の内容や数に違いがあるだけでなく、そもそもDAW本体としてACID Pro 9とACID Pro NEXTの2グレードがあるわけなのです。そして、その2つのグレードにおける最大の違いとなるのが、STEM Makerという機能の有無なのです。そして、これこそが、今回の最大のトピックスです。

STEM Makerを起動

このSTEM Makerというのは、CDをリッピングしたWAVファイルなど、2chにミックスされているオーディオデータを、ボーカル、ドラム、それ以外の音と3つのトラックに分解してしまう機能です。使い方は簡単。ツールバーにあるSTEM Makerボタンを押して、分解したいオーディオファイルを選択するだけ。

しばらく待つと2ミックスのオリジナルトラックが一番上に、その下に分解された3つのトラックが並ぶ

すると、オリジナルのトラックが一番上に、その下にボーカル、ドラム、それ以外の順に3つのトラックが並ぶのです。試しに、DTMステーションCreativeレーベルの第1弾アルバム、小寺可南子さんボーカルの「Sweet My Heart」を分解して試してみたので、その結果を以下のビデオでご覧ください。

完璧にキレイにというところまではいかないものの、明らかに3つの要素に分解されているのがわかると思います。これを使ってバランスを整え直すとか、ボーカルのみリバーブを深くかけるとか、ドラムにコンプレッサを強くかける……といった処理なら十分にできますね。さらに踏み込んで、ドラムトラックをミュートして、ここに別のドラムループ素材を並べて差し替えるとか、ボーカルを抜いたカラオケにした上で、別のボーカルをレコーディングする……といったこともできそうです。

Windowsのタスクマネジャーで見ると1スレッドしか使用しておらず、処理には実時間の3倍程度の時間を要した

実は、このSTEM MakerはDTMステーションでも何度か取り上げてきた、魔法のようなことを実現するドイツのプラグインメーカー、Zynaptiq(ザイナプティク)が開発した機能を搭載したもの。STEM Maker自体単独で販売されているプラグインではなく、あくまでもACID Pro NEXTそのものの機能として搭載されたものなのですが、応用範囲は広そうです。

ただ、この分解処理には結構な時間がかかることも事実でした。具体的にいうと、私の使っているPC(Core i7-8700 CPU @3.2GHz、メモリ32GB)で5分17秒の曲を処理するのにかかったのが約14分。タスクマネジャーを見ると、CPU使用率は13%で、12スレッドあるうちの実質1スレッドしか使っていなかったのが要因のようです。この辺、今後プログラムを改善してくれると、処理速度が飛躍的に上がりそうではありますが……。

フレーズをスライスしてMIDIに割り当てるチョッパー機能

もちろん、STEM Makerがすべてというわけではありません。たとえば、MIDI対応チョッパー機能も今回のACIDで追加されたもの。これはドラムフレーズなどを開くと、自動的にスライスするとともに、各スライスごとにMIDIのノートナンバーを割り振ってくれるもの。その昔あったPropellerheadのReCycle!などとほぼ同じ機能であり、Reasonなどにも搭載されている機能ですが、ループ素材などを指定すれば瞬時にこの状態に持ってくることができ、MIDIで制御できるので、便利に使えそうです。

またACID Pro 8からDAW本体は完全64bit化されていましたが、今回のACID Pro 9およびACID Pro NEXTにおいて読み込めるプラグインは64bit版だけでなく、32bit版も扱えるようになりました。そのため、昔使っていたプラグインもそのまま使えるようになったのもポイントです。

ボーカルエディットの定番、Melodyne 4 essentialもバンドルされている

もう一つ目玉機能としてACID Pro NEXTおよびACID Pro NEXT SuiteにバンドルされたのがMelodyne 4 essentialです。ご存知の通り、Melodyneはボーカルのピッチ修正やタイミング修正のデファクトスタンダードともいえるソフト。ここにバンドルされているのは市販されているのと同じMelodyne 4 essentialであり、単体で購入すれば約1万円のソフト。スタンドアロンで使うこともできるし、もちろんACIDのVSTプラグインとしても使うことも可能です。

ACIDインストール後、ヘルプメニューのDownload Instruments and Loop Collectionsを選んで入手

一方で、3つあるグレードによって異なりますが、たとえばACID Pro NEXT Suiteには13GBにもおよぶ膨大なループ素材集が付属されており、これらを使って曲を作っていくことが可能です。さらにプラグイン音源が非常に充実しているのもACID Pro NEXT Suiteの特徴。先ほどの表にも合った通り、全部で29種類もの音源があり、アナログシンセ、デジタルシンセ、ドラム音源、ギター、ピアノ、ベース……と非常に充実しています。

付属音源の一つ、アナログシンセサイザ

これらの音源に加え、ACID Pro NEXT SuiteにはIndependence Pro Plus Suiteという強力なプレイバックサンプラーもバンドルされています。これには12GBものサンプルデータと500種類のプリセット音色が入っているので、これだけで十分すぎるといっていいほどマルチに活用できる音源となっています。

強力なプレイバックサンプラー、Independence Pro Plus Suite

さらにプラグインエフェクトも膨大にバンドルされているので、幅広い音楽制作に利用できるのは間違いないと思います。

なお、このIndependence Pro Plus SuiteおよびMelodyne、そして一部のプラグインエフェクトは、ACID以外のDAWでも利用可能なので、極端な話、このプラグイン代だけで十分に元が取れる価格設定だといえそうです。

この発売されたばかりのACIDの新バージョン、ファーストインプレッションということで、概要についてチェックしてみましたが、いかがでしたか?STEM Maker含め、面白い機能が満載だし、ほかのDAWを利用しつつ、ACIDも併用するということも可能なので、この機会に入手して損はないと思います。

※2019.8.30追記
ACID Pro 8+9を以前購入した複数の方から、「ACID Pro 9を発売するタイミングでNEXTおよびNEXT Suiteを出すというのは納得いかない」という指摘をいただきました。私も同感であったため、ソースネクストに問い合わせたところ、担当者もこの事態を予測できていなかったようで、「対応を検討します」というお返事をその場でいただいていました。その結果、「NEXTまたはNEXT Suiteを購入した方で、ACID Pro 8+9を購入した方にはACID Pro 8+9の料金を返金する」ことを決定したようで、該当者には通知が行っていると思います。「ただし、この対応は予告なく終了することがあります」とのことなので、まだしばらくは大丈夫だと思いますが、買うなら早めに購入するとよさそうですよ!

【関連情報】
ACID Proシリーズ新製品キャンペーン情報
ACID Pro 9製品情報
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ACID Pro NEXT Suite製品情報
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【価格チェック&購入】
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