延岡のAKM工場火災の影響で世界中のオーディオインターフェイスが枯渇する可能性

すでにご存じの方も多いと思いますが、先月10月20日、宮崎県延岡市にある旭化成エレクトロニクス株式会社(略称AKM)の半導体製造工場 (生産センター 第二製造部) で火災が発生し、大きな被害が出ました。幸いにして人的被害はなかったとのことですが、鎮火まで4日を要するなど、物的被害は甚大で、工場再開のメドは現時点たっていないようです。ここでは、スマートフォン関連、自動車関連の半導体の製造が行われていた一方、DACADCと言われるオーディオインターフェイスの要となる音響関連の半導体が製造されていました。

高音質、高品質なオーディオを支えるとして定評のあるAKMのDACやADCのチップは、Steinberg、Universal Audio、RME、Roland、TASCAM、Apogee、ZOOM、SSL、audient……などなど世界中の名だたるメーカーの多くのオーディオインターフェイスに搭載されいます。そのAKMの部品が供給できなくなると、各社の製品の生産がストップするとともに、まだ世に出ていない設計中の新製品のリリースができなくなったり、大幅に遅れる可能性が出てきています。ただでえ、コロナ需要で製品受給がひっ迫しているオーディオインターフェイスの状況に追い打ちをかける可能性が高まっており、入手が困難になったり、価格が上がる可能性も出てきています。

10月20日に起きたAKMの工場火災により、DACやADCチップの生産が止まっている

DAC=Digital to Analog ConverterおよびADC=Analog to Digital Converterは、オーディオインターフェイスの心臓部でもある部品。この性能や品質によって、オーディオインターフェイスとしての音や特性が決まるといっても過言ではありません。そのDACやADCのチップを開発する、おそらく最大手であり、高品質メーカーとして世界中にその名を轟かせてきたのが日本の旭化成エレクトロニクス=AKMなのです。

延岡のAKMの工場の現場写真。朝阪神延岡若虎会㌠(@nobewka)さん、撮影

もちろん、DACやADCメーカーとしてはMOTU製品などが採用しているESSやTexas instrumentsの中のあるBurr Brown、イギリスのWolfson、DSPメーカーとしても著名なAnalog Devices……など複数のメーカーが存在していますが、最近のオーディオインターフェイスで一番人気のチップメーカーはなんといってもAKMなのです。

このコロナ禍における需要の急拡大によって、どのオーディオインターフェイスメーカーも急ピッチで生産をしているけれど、現時点では需要に供給がまったく追いついていない状況。そこに来て、AKMのチップの供給が止まってしまうと、生産においては致命傷となってしまいます。

各社のオーディオインターフェイスにはAKMのDACやADCが搭載されている

日本の電子楽器メーカーであるZOOMも10月30日に「電子部品調達先の工場火災による影響について」というプレスリリースを出しています。これによるとZOOMが開発、販売する主要製品のほぼすべてに、延岡工場で生産された電子部品を使用しているとのことで、火災発生を受けてZOOMがもっている部品在庫数や使用計画、市場から調達可能な数量調査を行っているとのこと。

ZOOMもいち早くAKMの工場火災による影響をプレスリリースとして出している

その調査の結果、これらの電子部品を再調達できるのは、早くても2021年の10月以降になるとのこと。また部品在庫数減の影響は来年1月からは出てくる模様であるため、他社製の代替え部品への切り替えを進めていくとしています。そうした発表の影響もあり、ここしばらく上昇傾向にあった株式会社ズームの株価も急落するなど、影響はどんどん広がっているようです。

もちろん、これはZOOMに限った話ではなく、オーディオインターフェイスメーカー各社に共通する話。代替品への切り替えといったって「宮崎県産のピーマンを茨城県産に変更する」なんて簡単な話ではなく、設計そのものからしなおす必要があるわけだし、ドライバやファームウェアなどソフトウェアの作り直しが必要になる可能性も出てくるなど、かなり大きな問題も出てきそうです。

フラグシップDACであるAK4499EQと並ぶ性能を誇る新製品のAK4498EQ

ここではオーディオインターフェイスを中心に取り上げていますが、デジタルシンセサイザやリニアPCMレコーダーなどDTMにまつわるさまざまな機材にもAKMのDAC、ADCが搭載されているので、その影響は多岐にわたりそうです。

すでにメーカーの話によると、流通在庫であるAKM製品の価格が暴騰しているとのことで、下手をすると製品の値上げということも起きかねない状況となっています。

また別ルートからの話によれば、国内メーカーは、すでに代替品への設計変更をスタートさせているとのことで、比較的近いうちにAKM以外のチップを搭載した新製品を発表したり、見た目上のデザインは同じだけれど、やや性能やスペックが異なる新リビジョン製品を発表するなどの動きが出てきそうです。もちろん、DACやADCのチップが変われば、その音も変わってくるので、実際どう変わるのかも気になるところです。

一方、ESSなどのメーカーへの切り替えが集中すれば、当然、代替製品の需給もひっぱくし、入手が難しくなったり、価格高騰といった二次的影響も出てきかねない状況なので、気になることがいっぱいです。

今年の春以降、もともとオーディオインターフェイスは入手しづらい状況だったので、DTMユーザーとして、すでにとれる対策もないのですが、比較的高価なオーディオインターフェイスであれば、まだ流通しているので、どうしても欲しい人は早めに入手しておくのが得策かもしれません。

各社オーディオインターフェイスの品不足、価格高騰も予想されるが、入手には十分な注意を

こうした状況に伴い、ヤフオクやメルカリなどで、オーディオインターフェイスが高値でやりとりされる可能性も高そうではありますが、「コロナ禍におけるDTM初心者のためのオーディオインターフェイスの選び方」でも書いた通り、こうした中古の売買はトラブルが起こる可能性が非常に高いので、その点はぜひ注意してください。その理由は付属DAWや付属プラグインが使えないケースが多いこと。完全な未開封の新品であればいいのですが、1回でも開封した製品の場合、出品者などがソフトウェアのアクティベーションをしている可能性が高く、その場合、購入して登録しても「すでに登録されています」といったメッセージが出てしまい、ソフトを使うことができないのです。

こうしたトラブルに巻き込まれないよう、十分に注意しつつ、また可能であれば各社の生産状態が落ち着くのを待ったうえでオーディオインターフェイスを購入するようにしてください。

【関連情報】
半導体製造工場の火災について(旭化成エレクトロニクス株式会社)
電子部品調達先の工場火災による影響について(株式会社ズーム)

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