ARA 2対応で何が変わるのか?Melodyneの開発者にインタビューしてみた

ボーカル録りした後のピッチ修正の定番といえば、CelemonyMelodyneでしょう。もちろん、各DAWにも近い機能が搭載されるようになってきましたが、やはり使い勝手や性能の面で長年の実績を持つMelodyneが一歩先を行っているのは事実だと思います。

そのMelodyneが間もなくARAAudio Random Accessの新規格、ARA 2に対応することが発表され、Studio OneなどのDAWとの連携性がさらに高まっていくようです。先日、Melodyneのシニア・プロダクト・マネジャーであるシュテファン・リンドラー(Stefan Lindlahr)さんが来日した際、いろいろと話しを伺うことができたので、紹介してみましょう。

Melodyneのシニア・プロダクト・マネジャー、シュテファン・リンドラーさん



--Melodyneが誕生して、もうかなりになると思います。最初にMelodyneを見たときに衝撃を受けたのは覚えていますが、これまでのMelodyneの歴史を簡単に教えていただけますか?
シュテファン:CelemonyのCEOである、ペーター・ノイベッカー(Peter Neubacker)が2000年に会社を設立。翌年にMelodyneの最初のバージョンをNAMM SHOWで発表、リリースしました。それ以来、数多くの賞を受賞してきましたが、2008年にあのDNA(Direct Note Access)を発表しました。私が入社したのは2005年でしたが、あの時世界に衝撃が走ったのは今でも覚えていますよ。それまで不可能といわれていたポリフォニックの音を完全に解析できるようになったのですからね。そして2009年にはDNAを実装したMelodyne editorをリリースしました。その後、着実に進化していき、2016年にマルチトラックノート編集、サウンドエディター、DNAベースのテンポ検出を搭載したMelodyne 4をリリースし、現在は多くのミュージシャンやエンジニアに支持されています。
1997 ペーター・ノイベッカー、Melodyneのコンセプト開発に着手
2000 Celemonyを設立
2001 MelodyneをWinter NAMMにて発表
2007 シングルトラック・バージョンのMelodyneをプラグインとしてリリース
2008 Celemony、ドイツ・フランクフルトにて開催されたMusikmesseにてDNA Direct Note Accessを実演披露
2009 DNA Direct Note Accessを搭載したMelodyne editorをリリース
2011 ワウフラッターを除去するソフトウェアCapstanをリリース
2011 Celemony、PreSonusと共にARAインターフェース拡張を発表
2012 テクニカル・グラミー賞を受賞。CelemonyとMelodyneに贈られた数々の賞にさらなる栄誉が加わる
2016 マルチトラックノート編集、サウンドエディター、DNAベースのテンポ検出を搭載したMelodyne 4をリリース


DNAという技術によって、ポリフォニックの音を正確に解析できるようになった

--たしかに、DNAの発表は衝撃的でしたね。一方で、CelemonyというとMelodyne以外思い浮かばないのですが、もともとMelodyneを作ろうと思って設立した会社なのですか?またMelodyne以外にも製品ってあるのですか?

シュテファン:はい。もともと、「レコーディングした後に、よりクリエイティブな編集をできるようにしたい」という発想のもと、Melodyneを開発し、Melodyneをより多くの人に使ってもらい」「クリエイティブに音楽制作を行ってほしい」という思いから会社を設立しました。単純な音程の補正だけではなく、録音した後のトラックにクリエイティブさを持たせると同時に、編集した後でも音質が変わらないようにしたいというのが、基本的な考え方です。今でも開発に携わっているペーターの発想が根底にあり、そこから色々なものを作っています。ちなみに、現在、社員は20人くらいで、開発には半分ぐらいが携わっていますよ。一般ユーザー向けではないですが、Melodyne以外にもCapstanというソフトも作っていています。価格は日本円で40~50万と高めです。ワウフラッターと呼ばれるテープレコーダーなどの回転ムラにより発生する音の歪みを除去することを目的としたソフトです。これによって、キレイに聴けなくなってしまったテープを復活させることができます。


ワウフラッターを取り除ける業務用ソフト、Capstan

--一般ユーザーから見ると、やはりMelodyneの会社ということなんですね。ところで、見た目でいうと、2001年に最初のバージョンから、最新のバージョンまで、ほとんど変化がないように思いますが、実際、これまでどんな進化があったのですか?

シュテファン:操作感やUIを変えてしまうと、本来集中したい制作以外のところに注意が散ってしまうので、昔と今のMelodyneには一貫性を持たせています。外部的な変化は少ないですが、内部的には、アルゴリズムのパターンを増やしたり、最適化を図っています。それと同時に、動作もかなり軽くなるよう、日々開発しています。また、作業効率を上げるために、ショートカット機能を充実させてきました。最初はモノフォニックしか解析することしかで来ませんでしたが、2009年にDNA対応になりポリフォニックに対応したのは大きな変化ですね。


Melodyneには4つのラインナップがある

--DNAは上位版だけの対応だったと思いますが、最新版のMelodyneはどんなラインナップになっているのでしょうか?

シュテファン:現在のMelodyneのラインナップは上から、studio、editor、assistant、essentialの4つですね。DNAはstudio、editorだけの機能ですが、モノフォニックの解析はessentialからでもできるから、最初はエントリーモデルから導入して、ピッチ補正ツールがどういうものか体験してもらうといいと思います。

essential assistant editor studio
アルゴリズム
ポリフォニック(DNA Direct Note Access) – ピアノ、ギター、弦楽四重奏など
メロディック – リードボーカル、ベースギター、サックスなど
パーカッシブ – ドラム、パーカッション、ドラムループなど
ユニバーサル – 複雑なポリフォニック素材(DNA Direct Note Accessなし)
ツール
メインツール – ピッチセンター、位置、長さ、ノート分割
ピッチ – ピッチセンター、ピッチ進行
ビブラート – ビブラートとトリルの強度/方向
ピッチドリフト – ピッチドリフトの強度/方向
フォルマント – フォルマントシフト、フォルマント進行をコントロール
音量 – ノートの音量、音量進行、ミュートをコントロール
タイミング – ノートの位置、長さ、クオンタイズをコントロール
タイムハンドル – ノート内の時間進行を変更
アタックスピード – ノートの冒頭のトランジェントとパーカッシブさをコントロール
ノート分割 – ノート分割を挿入、削除、移動
機能
マルチトラッキングとマルチトラックノート編集 – 複数のトラックを同時に表示および編集
サウンドエディター – パーシャル間のバランスを調整して音色を変更
テンポ検出/テンポエディター – 録音内のテンポ変化をマップおよび編集 〇/- 〇/- 〇/〇 〇/〇
ノートアサインメントモード – ノート分割のエラーを修正
カット、コピー、ペースト – クリップボード機能を使用して素材を再配置
ピッチとタイミングのマクロ – ノートのインテリジェントな自動補正と最適化
オーディオ-MIDI変換 – オーディオノートをMIDIとして保存
音階補正 – 選択した音階に従ってノートを移動、または音階に合わせてノートをクオンタイズ
音階を編集 – 音階を変更または独自の音階を作成
音階検出 – オーディオから音階を抽出
参照トラックにクオンタイズ – あるトラックのタイミングを別のトラックに適用
互換性
スタンドアロンモード – Melodyneを独立したアプリケーションとして実行
プラグイン – Melodyneをプラグイン(AU、VST、RTAS、AA’〇、ARA)として対応するDAWで使用
ReWire – MelodyneをReWireクライアントとしてスタンドアロンで使用
32/64ビット対応 – Melodyneを32/64ビットシステム上でネイティブアプリケーションとして使用
相互互換性 – 他のエディションで作成したプロジェクトを開いて編集

--ピッチ修正という意味ではAuto-Tuneも競合のように思いますが、その辺はどうとらえていますか?
シュテファン:Auto-TuneはMelodyneと同時期に登場したもので、ピッチシフトという点では近いところにあります。でも、アプローチの仕方が違うし、技術的にもだいぶ違っているので、ユーザーはうまく使い分けをしているようです。Auto-Tuneはケロケロボイスのような特殊効果的な使い方が簡単にできるので、ある種エフェクト的に使い、自然な修正を行いたいときにはMelodyneが使われることが多いようです。

他社にはMelodyneのエンジンを提供していない、というシュテファンさん
--CubaseやLogicなど、DAWの中にMelodyne風な機能が搭載されているものが増えてきていますよね。実はこれらはMelodyneのエンジンが搭載されていたりするのですか?
シュテファン:各社が作っているのはMelodyneに似せたものであって、Melodyneとはまったく関係がありません。。確かに見かけ上似ているけれど、タイムストレッチだけだったり、ピッチシフトだけだったりするし、そもそも音のクオリティーが全然違うんです。実際に比較してみれば、その差は歴然ですよ。とはいえ、最初からDAWに入っていたらそれを使うと思うので、当然競合にはなります。でも、クォリティーを求めていくと、みなさんMelodyneにたどり着くようです。各社からは、やはりエンジンを提供してほしいという要望は来ています。しかし、我々には今後実現していきたいアイディアが数多くあり、完成したら即、製品に反映させていきたいと思っているので、各DAWとは完全に独立しておく必要がると考えています。そのため、今後も他社にエンジンを提供することはないでしょうね。とはいえMelodyneをDAW内で使いたいというユーザーも多いので、エンジンの提供はしないけれど、ARA(Audio Random Access)を使うことで実質MelodyneをDAWの一機能として使えるようにしています。

ARAによってStudio One 4のメニューの中にMelodyneが入ってくる
--Studio OneやSONAR(現Cakewalk)などが対応しているARAですね。確かにこれはMelodyneがDAWの一機能のようになって非常に便利です。改めてARAとは何なのか簡単に教えてください
シュテファン:DAWとプラグインが情報交換をするように、ARAはデータの受け渡しのためのインターフェイスですね。テクノロジーとしては、比較的シンプルながら、できることがすごく多いというのが利点です。VSTやAU、AAXなどのプラグインでの連携では限界があるため、より多くのやり取りができるARAをCelemonyとPreSonusの2社で策定し、オープンな規格として公開しています。そのため、PreSounsStudio OneのほかにもBandLabCakewalkMagixSamplitude ProSequoiaAcousticaMixcraftTracktionWaveformと、現在5つのDAWが対応しています。さらに、まもなくAppleLogic ProCockosReaperがARA対応するので、7つのDAWがARA対応となります。このうちLogicとReaperは、ARA 2のみに対応しているので、次期バージョンであるMelodyne 4.2から使えるようになります。

--Studio OneがARA 2に対応することが発表されていますが、ARA 1とARA 2は何が違うんですか?

シュテファン:ARA 2になると、ARA 1に比べて、やり取りできるデータのボキャブラリーが増えます。つまり従来はノートやタイミングだけだったものが、コードにも対応するようになるなど、よりDAWとの連携性が高まるのです。今年の夏にリリース予定の、Melodyne 4.2でARA 2に対応するので、楽しみにしていてください。そのMelodyne 4.2はARA 1にもARA 2にも対応しているので、ユーザーは特に気にすることなく各DAWで使用することができますよ。

現時点ではARA 1だが、まもなくARA 2となりよりDAWとMelodyneが有機的につながる
--LogicとReaperは、ARA 2のみに対応しているとのことですが、古いバージョンのMelodyneだったり、Auto-TuneやVocalignなど他社のARA 1にしか対応していないソフトは、当面使えないということなんですか?
シュテファン:そうですね。ですが、今後はARA 2に集約されていくので、それぞれ対応していくことになるでしょうね。

--今後さらにARAに対応するDAWは増えていきますか?
シュテファン:技術的な問題はそんなにないけれど、政治的な問題で対応を望まないDAWがあるのも事実です。ただ、ユーザーにとっては大きく可能性を広げるものなので、ぜひ各社を説得してARA対応のDAWを増やしていきたいですね。

--今回Studio One 4にはコード解析機能やコードトラックができて、ポリフォニックの音を解析したり構築できるようになりました。すごくDNAに近い技術のように思います。ちょうどARA 2対応という話もありましたが、これと関係あったりするのでしょうか?つまりARA 2にDNAのエンジンが乗っているために、Studio One 4でコード解析が実現できているということはありますか?
シュテファン:ARAは2になっても、あくまでも2つのソフトをつなぐためのインターフェイスに過ぎません。したがって、ARA 2にDNAのエンジンが搭載されているというようなことはありません。つまりStudio One 4でのコード解析機能は、あくまでもPreSonusの独自技術によるものですね。ですが、Melodyne4.5になるとコードトラックとやり取りができるようになるので、Studio Oneで解析とは別に、Melodyneでも解析できるようになるし、コードを指定してボイシングを変えたり、より正確に編集・修正を加えることができるようになります。つまりユーザーの選択肢が増えるわけですね。

新生Cakewalkともコミュニケーションがとれているというシュテファンさん
--ひとつ伺いたいのが、SONARというかCakewalkについてです。SONARはRoland時代、Melodyneと非常に近いV-Vocalというものをリリースするとともに、いち早くARAに対応しました。そのCakewalkはGibson傘下を経て、現在はBandLabの中へと移行したわけですが、新体制になったCakewalkとはコミュニケーションは取れているのでしょうか?
シュテファン:RolandはMelodyne以前にハードを使ってピッチ修正可能なVP-9000というのを出していましたよね。あれは素晴らしかったし、私も昔使っていました。それが進展したのがV-Vocalだったと思うけれど、結局なくなってしまいましたよね。もちろん、新生Cakewalkともしっかりコミュニケーションはとれいますよ。いずれ、ARA 2にも対応してくれるものと期待しています。現在は、Melodyneのデモ版がついていて、30日間であれば無料でフル機能を使うことができるようになっています。

--最後に、今後Celemonyが目指す、将来のMelodyneについて教えてください。
シュテファン:オプティマイズは日々行っていくことはもちろんのこと、音楽ツールとして人間がよりクリエイティブになれるよう進化していこうと思っています。ぜひ、日本の多くの方にMelodyneを使っていただければと思ってます。

--ありがとうございました。
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