ワンランク上のオーディオインターフェイス、Babyface Pro FSはDTM環境に何をもたらすのか?

「オーディオインターフェイスをワンランク上げたいので、RMEを検討している」という話をよく聞きます。確かに1、2万円台のオーディオインターフェイスは多くのメーカーから出ていますが、その上となると急に選択肢が少なくなります。ポート数を増やした3~4万円の機材はいろいろあるけれど、質を向上させた機材が意外と少なく、目立ってくるのがドイツRMEのオーディオインターフェイスなのです。プロミュージシャンの導入事例も非常に多いRMEのオーディオインターフェイスですが、Fireface UFX IIだと28万円超、ハーフラックサイズのFireface UCXでも15万円超と、結構なお値段なので、なかなか手を出しにくいというのも正直なところです。

そのRMEオーディオインターフェイスの中でエントリーモデルとされているのがBabyfaceです。ちょうど先日、3代目となる最新モデル、Babyface Pro FSが発売されたところで、気になっている人も多いと思います。エントリーモデルとはいえ、実売価格は105,000円(税込)ですから、ポンッと買える機材ではないのも事実です。実際、Babyface Pro FSはDTMユーザーにとってどんな意味を持つ機材なのか、少し借りて使ってみたので、紹介してみたいと思います。

1月末に発売されたRME Babyfaceの新モデル、Babyface Pro FS

みなさんご存知だと思いますが、RMEのBabyfaceは、一般のオーディオインターフェイスとはちょっと違うユニークな形状の機材です。多くの機材がラックマウントや重ね置きを意識した箱型の形状になっているのに対し、Babyfaceはデスクトップの手元に置いて使うことを意識して設計された機材です。

Babyface Pro FSはデスクトップに置いて使うコンパクトなオーディオインターフェイス

USBバスパワーで動作するコンパクトな機材ではあるものの、かなりズッシリとくる重さで、ケーブル類をいろいろつないでも傾くようなことがないのもプロ仕様であることを感じさせてくれる点。ロータリーエンコーダーを用いて音量を調整したり、入出力それぞれのレベルメータを見ながら操作できるという点でも、ほかのオーディオインターフェイスとはちょっと違うところです。

ロータリーエンコーダーでボリュームなどの設定が可能

入出力的にはコンパクトでありながらも12in/12out。といってもそのうちの8in/8outはADATのオプティカル端子を使った場合のものなので、アナログ的に見ると4in/4outという仕様です。もう少し細かく見てみましょう。

メインとなるのはリアにあるXLRのステレオペアの入出力。入力のほうはラインで受けることも可能だし、マイクを接続してマイクプリアンプに入れることも可能。当然+48Vのファンタム電源の供給もできます。出力のほうは、このままモニタースピーカーへ接続すればOKですね。

メインの入出力はXLRのバランス接続となっている

そして右サイドを見てみるとフォンジャックが並んでいます。このうち右の2つがアンバランス(TS)のライン入力で、ここはハイインピーダンス対応となっているのでギターなどを直結することもできます。左にある2つは6.3mmの標準ジャックと3.5mmのミニジャックのヘッドホン端子。多くのユーザーにとってヘッドホンモニターってとても大切だと思いますが、Babyface Pro FSの出力は最高クラス。最近のハイインピーダンスのヘッドホンにも対応できるよう出力は大きく、SONYのMDR-CD900STなんかで聴くと、かなり爆音まで出せる仕様。しかも大きく出しても音割れしないのも感心するところです。

右サイドにはヘッドホン出力とライン入力の端子がある

また、好みに応じてヘッドホン出力の音質を制御できるというのもBabyfaceというかRMEならではのところだと思います。後でもう少し詳しく紹介しますが、Babyface Pro FSは本体のスイッチやパラメータのほかにRME TotalMix FXというソフトウェアで制御できるようになっており、このヘッドホン出力に3バンドEQとローカットの機能が設けられているので、ここで調整できるようになっているのです。もちろん一度設定してしまえば、その後ずっとその設定が有効になるので、自分にとって最適なモニター環境を作れるわけです。

ヘッドホン出力のEQ特性を設定することが可能

このようにBabyface Pro FSのアナログ入出力の各端子は万能なものというわけではありません。入力の4inうちの2inがマイク接続可能で、残りの2inが楽器接続用。また出力の4outのうち2outがモニタースピーカー接続用で、残りの2outがヘッドホン用として独立したものであり、ある意味最小限のシステムになっているからこそ、RMEとしてのエントリー機種なのです。

左サイドに備わっているADATオプティカルの入出力

なおADAT入出力に関しての詳細についてはここでは省略しますが、簡単に説明すると、これは光ファイバーケーブルを使ってオーディオ信号をデジタル伝送するためのもの。44.1kHzまたは48kHzで使う場合、1本のケーブルで8ch分を同時に伝送できるので、Babyface Pro FS全体で12in/12outとなるわけです。ただし96kHzの場合は4ch分、192kHzの場合は2ch分となります。そして、当然それに対応した機材でないと接続することはできません。

Cubaseからは12in/12outのオーディオインターフェイスとして見える

ちなみに44.1kHzのサンプリングレートにおいて、CubaseからBabyface Pro FSを見ると、このように12in/12outと認識されているのが分かります。

さて、ワンランク上のオーディオインターフェイスを目指す上で、入出力の数などより気になるのは音質ですよね。これについては、先日私が連載記事を書いているAV WatchDigital Audio LaboratoryでRMAA Proというツールを使った音質テストを行ってみました。詳細はその記事をご覧いただきたいのですが、結論から言えば圧倒的な高音質を実現している機材であることは間違いありませんでした。

AV Watchの連載記事で行ったRMAA Proの音質測定結果は最高のものだった

前モデルであるBabyface Proと見た目はほとんど変わらないBabyface Pro FS、このRMAA Proのテスト結果で比較してみると、周波数特性もS/Nも少しずつ確実に進化しているというのも面白いところ。AV Watchの記事でも書いた通り、偶然この結果になったというのではなく、どの製品で試しても、何度試しても絶対この結果になるという再現性の高さもRMEならではのところといえそうです。

前モデルのBabyface Pro(左)と新モデルのBabyface Pro FS(右)

ここでちょっとだけBabyface ProとBabyface Pro FSの違いについても紹介しておきましょう。FSという名前はBabyface Pro FSに搭載されたクロックがSteady Clock FSというものになったことにちなんだもの。FSとはFemto Secondの略であり、クロックのジッター値がFemto Second=1000兆分の1秒となったことを意味しています。まあ、ここまでくると測定器で測れるわけではない世界なので、信じる者だけが救われる神の領域(笑)。誰でも音を聴いて違いが分かるものではないと思いますし、私の耳には前機種との違いは分かりませんでした。

でも、ひたすら最高性能を求め続けるRMEとしては、モデルチェンジのタイミングで最新鋭のクロックであるSteady Clock FSを搭載したといことなのでしょう。また、クロックだけでなく、アナログ回路なども見直して、Babyface Proよりも音質向上を図っているようです。元のBabyface Proでも、ずば抜けて高音質なオーディオインターフェイスであったこともあり、私の耳では分からなかったけれど、前出のテスト結果では確実に音質向上しているのは見て取れたので、違いが分かる方もきっといるはず。音質は向上しても、値段は変わっていないのはユーザーにとっては嬉しいところです(前モデルの流通在庫の価格は若干下がっているので、それを安く入手するのも手だとは思います)。

メイン出力の設定を底面のスイッチで切り替え可能

機能面においてはリアパネルにあるXLRのメイン出力の信号レベルを+19dBuにするあ+4dBuにするかのスイッチが追加されましたが、それ以外はとくに変わっていません。その意味でも、モデルチェンジを繰り返す他社製品とは少しスタンスが違うことを感じられます。
このBabyface Pro FSを含め、RMEのオーディオインターフェイス(ADI-2シリーズを除く) を使う上で重要な役割を担うのが、先ほども少し触れたTotalMix FXというソフトウェアです。これはWindowsでもMacでもドライバと一緒にインストールされるもので、RMEのオーディオインターフェイスをミキサーコンソールのように見立ててコントロールするためのものです。

Babyface Pro FSをミキサーコンソールのように見立てて全機能を使うことができるTotalMix FX

そう、すでにお気づきの通り、Babyface Pro FSは単に音の入出力をするための機材ではなく、これ自体が12in/12outのミキサーコンソールともいえるものであり、その入出力を自在にルーティングできるようになっているのです。たとえば、「DAWから出力したソフトシンセの音をメイン出力とヘッドホン出力に同時に送りながら、ギターから入ってきた音はメインには送らずヘッドホンだけにやや大きめな音量で出力し、DAWのトラックへレコーディングしていく……」なんてことが自由にできるのです。

また各チャンネルには3バンドのEQが搭載されているので、先ほどのヘッドホンのように音質調整ができるわけですが、入力側でEQ調整するとEQがかかった状態でレコーディングされます。もし、普段使っているギターにちょっとクセがあるという場合、これであらかじめ調整しておけば、いつでも最高のコンディションでレコーディングすることができるわけですね。もちろんマイク入力においても同様です。

リバーブとエコーを内蔵し、さまざまなプリセットも用意されている

さらに、Babyface Pro FS内にリバーブとエコーを装備しており、DAWの制御と関係なく、PCに負荷をかけることなく使うことが可能です。つまり「マイクにリバーブをかけてヘッドホンでモニターする一方、DAWには生のマイクの音だけをレコーディングする」といった使い方ができ、これも一度設定すればOK。また各種設定をした状態をSnapshotとして保存しておくこともできますから、シチュエーションに応じてその設定を呼び戻すことも簡単です。

記事では触れなかったがMIDIの入出力ポートも搭載している

とはいえ、上から順に「入力」、「DAWからの出力」、「出力」と3段構成になったミキサーで、さまざまな設定ができ、自由自在にルーティングできるTotalMix FXは、初めて使うと「どうすればいいのかわっぱり分からない……」という状況に陥る可能性もあると思います。DAWなどの操作に慣れている人でも、初めてRME機材を使うと、戸惑うことが多いでしょう。これがBabyface Pro FSを導入することのハードルの一つではありますが、初めてユーザーに向けた設定ガイドページもあるし、チュートリアルビデオなども用意されているので、これらを見れば使えるようになるはず。奥は深いのでじっくり使っていくと面白い発見もいろいろできるはずです。

USBクラスコンプライアントモードにすればiPadやiPhoneなどでも使うことができる

なおBabyface Pro FSはUSBクラスコンプライアントのモードも持っているのでiPhone/iPad、Androidでも使うことができるのも大きなメリット。つまり自宅のDTMで構築した最高の音の環境を、iPhoneやiPadを使ってそのまま外に持ち出すことができるなど、工夫次第でさまざまな活用ができるのもBabyface Pro FSの魅力。ちょっと効果な機材ではあるけれど背伸びして入手しても決して損のないオーディオインターフェイスだと思います。
【関連情報】
Babyface Pro FS製品情報
Babyface Pro特設ページ

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