MIDI検定の資格がそのまま役立つ!?カラオケデータ制作の仕事とは

普段、カラオケボックスを利用しているという人も多いと思います。中にはボーカル練習のため、楽器練習のために一人で通っているという方もいるようですが、ここにあるカラオケマシンはMIDI音源でできているというのは有名な話ですよね。いわゆる通信カラオケと呼ばれるもので、ネットワークを通じてMIDIデータと歌詞を受信し、それを再生するわけですが、最近はMIDIだけでなく、オーディオレコーディングも利用したリッチなカラオケデータも出てきているようです。

その通信カラオケ、エクシングのJOYSOUND系とUGA系、また第一興商のDAM系などといくつかの機種に分類することができますが、その系列によってRolandのGS音源やYAMAHAのXG音源、さらにはその互換音源などが用いられているんですよね。GS音源やXG音源というと、懐かしく思われる方もいると思いますが、カラオケの世界ではまだ第一線で活躍している機材でもあるんです。そして、そのカラオケマシンで、最新のヒット曲が歌えるということは、そうしたデータが日々入力されているというわけですよね。先日、そんなカラオケデータの入力を行っている都内の会社、株式会社シーミュージックの社長、三木康司さんにお話しを伺う機会があったので、カラオケデータ入力とはどんなお仕事なのか、いろいろと聞いてみました(以下、敬称略)。

カラオケデータの制作会社、シーミュージックでお話しを伺った


--「カラオケマシンとはMIDI音源を使った機材である」、そんな捉え方で間違いはないですか?

三木:そうですね。基本的にはその捉え方で間違いありません。ただ、一言でカラオケマシン、通信カラオケといっても、古いものから、最新ものまで、さまざまな機材が流通し、現在それらが混在して使われているのが実情です。また通信のインフラもまちまちなんですよ。確かに駅前のカラオケボックスなら高速な光回線が入っていますが、スナックに入っている機材の場合、まだ電話回線だったりISDNだったりする状況。そのため、それらの機器間で互換性を保ちつつも、首都圏のカラオケボックスでは、より良い音で演奏できるデータにしていく、そんなのが我々が行っている仕事なんですよ。


お話しを伺った株式会社シーミュージック 代表取締役の三木康司さん 

 
--こうした機材の中にはGS音源やXG音源のモジュールが入っているんですか?
三木:SC-88がそのまま入っていたりするわけではないですよ。それに相当するICチップが入っていて、カラオケ機器用にカスタマイズされていたというのが、従来の機種ですね。ただ、最近はよりよい音で鳴らせるよう、互換性は保ちつつも、よりリッチなサウンドのソフトウェア音源が採用されたりもしています。ただ、音源が変われば、当然ニュアンスは変わってくるので、各機種に対してどのように最適化していくかは難しいところですね。

カラオケのデータ入力現場では、各種DAWやMIDIシーケンサでの打ち込みが行われている

--実際、データ入力の現場ではどんなツールを使ってカラオケ用のMIDIデータの入力を行っているのですか?

三木:当社の場合だと、DigitalPerfomerを使っている人とSONARを使っている人が多いですね。ただ、中にはレコンポーザを使っている人や時々Visionを使っている人なんかもいたりします。各自、慣れた使いやすいツールを使っていますよ。ただ、DAWやシーケンサによってクセがあるのも事実なんです。最後にSMFで書き出す際、データの順番が変わってしまったりして、これによって音のニュアンスが変わってしまうこともあります。そこで、そうしたトラブルをなくすためのツールを我々独自で開発し、それを使って納品データを作り出しているのです。


SONAR、DigitalPerfomerなどが主流のようだった 

--納品データというのはSMFデータだったりするのですか?

三木:メーカーさん側が指定するフォーマットで納品していますが、単なるMIDIデータだけを、というわけではありません。カラオケ用ですから、ここには歌詞のテロップ情報や、作詞・作曲などの曲情報、さらにはどんな映像を出すのか、といった情報も盛り込んでいます。

--発売されたばかりの新譜が、すぐにカラオケボックスで歌えたりしますが、カラオケデータづくりはレコード会社からデータをもらっていたりするのでしょうか?
三木:データ入力はすべて耳コピで行っていますよ。そのためレコード会社からMIDIデータをもらう、なんてことはありませんが、発売前の曲を事前にもらって作業を進めることはよくありますよ。ただ、もらった曲で入力を進めたのに、直前になってアレンジが大きく変わってしまった……なんていうことも時々あるんです。そんなときは、大急ぎで修正するなど、対応も大変です。

よく見てみるとWindows版のDigitalPerfomerなども使われている 

 
--最近はオーディオレコーディングも行っているという話も聞きますが、実際そうしたこともあるのですか?

三木:やはり、いかにオリジナル楽曲に近づけるか、リッチなサウンドにするか、ということが求められているので、オーディオレコーディングが増えているし、実際ウチでの仕事もそちらへシフトしてきています。ただ、予算的に見ても、全トラックをフルでレコーディングというのはなかなか現実的でないため、弦のトップ2本をレコーディングするとか、管楽器4本を録るといった感じで、MIDIデータで表現しにくいところを中心にオーディオでレコーディングし、あとはMIDと組み合わせていくという感じです。当社も地下にスタジオがありますが、ここで毎日のようにレコーディングしていますよ。


SC-88が山のように積みあがっているのを発見! 

 
--今後は、どんどんMIDIからオーディオへシフトしていくのでしょうか?
三木:オーディオ化は進んでいくと思います。ただ、すでにカラオケには20万曲が登録されているので、これらを全部オーディオ化していくというのは現実的ではありません。歌われる曲が、よりリッチなサウンドへと、オーディオ化されていく形になると思います。ただ、そうであっても、古い機材でも鳴らせるように、MIDIのデータも並行して作られていくことは変わらないと思いますよ。

--実際、シーミュージックではどれくらいの数の楽曲を入力しているのでしょうか?

三木:当社では月に数百曲を担当しています。もっとも、すべてをウチで入力しているというわけではないんです。やはりメーカーさん側の意向で、入力コストを下げるために海外で入力しているものも多く、それを検収したり、海外の人たちへの指導といったことを行っています。一方、ここで入力しているのは、やはり歌われる曲で、月に数十本といったところですね。いま非常勤や、自宅勤務といった人も含め、60人ほどが、ここで仕事をしています。


シーミュージックの地下にあるスタジオでは、カラオケ用のオーディオデータのレコーディングが行われていた 

--カラオケのデータ入力は、分業で行っているのですか?
三木:やはりギタリストはギター、鍵盤の人は鍵盤といったように、得意・不得意があるので、ある程度は分業で入力作業を進めています。とはいえ、この人はギターだけ、この人はベースだけ……というわけにもいかないので、誰もがほぼすべてのパートを入力できる体制は整えつつ分業していく、という感じですね。

--こうしたデータ入力の仕事、どんなスキルが求められるのでしょうか?

三木:ただ、正しい音符で入力すればいいというわけではありません。最終的にはスピーカーから出てくる音で判断するわけで、いかに音源を駆使するかが求められます。アーティキュレーションをどうやって表現するのか、エフェクトをどこまで使いこなすのか、ということも重要になってきます。また単音で聴いてよかったとしても、最終的に各楽器をミックスした結果、ベタっとしてしまったのではダメ。楽器演奏者としてのスキルととも、マニピュレーター、レコーディングエンジニアのスキルも身に着ける必要がありますね。といったって、そんな何でもできる人がそうそういるわけではないので、まずはしっかりしたMIDIの技術、知識を持っているといいですね。


出音の確認のため、スタジオでミックス作業を行うことも 

--MIDI検定などを持っていればいいわけですね?
三木:MIDI検定の資格があれば、即採用というわけにはいかないですが、重要なスキルであると捉えてはいます。MIDI検定も3級より2級、さらには1級をもって、空気感も出せるような表現力を持っていてくれるといいですね。また最近のMIDI検定はMIDIだけでなくデジタルオーディオにも舵を切ってきてると聞いているので、そうした点でも歓迎ですね。

--実際、いまどんな方が働いているのでしょうか?また経験がない人でも入社できるものなのでしょうか?
三木:年代的には20代~40代。中には、もともとメジャーデビューしていた、という人もいますよ。ただ、あまりにもアーティスト志向が強いとカラオケのデータ入力という仕事はマッチしないので、その辺の柔軟性は必要です。カラオケの仕事そのものの経験はなくても構いませんが、やはりMIDIの知識や音源の知識、また打ち込みの技術を持った上で、ニュアンスの出し方を理解していてくれると嬉しいですね。そんな方がいたら、ぜひ飛び込んできてもらいたいですね。

--ありがとうございました。
以上、カラオケデータの入力という、私、個人的にも気になっていた仕事現場を見せていただきましたが、いかがだったでしょうか?本当にGS音源が現役で活躍しているのに感激する一方、音を聴かせてもらって、改めてそのスキルの凄さに驚かされました。オーディオのトラックレコーディング~編集という仕事もかなり増えてきているようですが、これら全般でMIDI検定の知識やノウハウが生きてくるというのも大きな発見でもありました。こうした仕事を一つの目標に、MIDI検定の2級さらには1級を目指してみるというのはいかがでしょうか?

【関連情報】

株式会社シーミュージックWebサイト
MIDI検定公式サイト
一般社団法人音楽電子事業協会サイト
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