DJソフトメーカーが生み出したサンプラー、Serato Sampleの威力

Serato DJというソフトをご存知でしょうか?これはSerato社が開発するDJソフトでPioneer DJ、AKAI Professional、Numark、Reloop、Roland……とほとんどすべてのDJ機器メーカーがバンドルしているため、事実上のスタンダードといっていいソフトです。

そのSerato DJで培ったノウハウを元に、SeratoからWindows/MacのVSTおよびAudioUnitsで動作するプラグインタイプのサンプラー、Serato Sampleが12,000円で発売されました。サンプラーといっても、いわゆるプレイバックサンプラーとは異なり、現代版ReCycle!といった感じのソフト。つまりオーディオをスライスしたりチョップしたりして、サウンドを自由に組み替えたり再構築できるというユニークなソフトなのです。実際試してみたので、これがどんなソフトなのか紹介してみましょう。

Seratoが新たに発売したプラグイン形のサンプラーソフト、Serato Sample


Serato Sampleの話の前に、Seratoという会社をよくご存知ない方もいると思うので、そのバッググランドを簡単にお話しておきましょう。Seratoはニュージーランドに本社を置くソフトメーカーで、同社の代表的ソフトであるSerato DJは、数多くのDJコントローラーにバンドルされています。フル機能を装備したSerato DJと、機能制限のあるSerato DJ Introの2種類がありますが、いずれもハードウェアとセットで使うことが前提となっていて、PC単独で使えるNative InstrumentsのTRAKTORとは一線を画すものともなっています。

DJソフトのデファクトスタンダードとなっているSerato DJ

しかし、このSeratoは、最初からDJソフトメーカーだったわけではないんです。Serato DJの前進であるScratch Liveが出るより前の時代、Seratoが設立された1997年にリリースしたのがPro Tools用のプラグインである、PITCH ‘N TIMEというソフトでした。


各種DJコントローラーにはSerato DJもしくはSerato DJ Introがバンドルされている。写真はReloopの
MIXON4

その名前からも想像できるとおり、PITCH ‘N TIMEはタイムストレッチとピッチシフトを行うソフトであり、その音質の高さには定評があります。20年たった現在も、進化をし続けており、「やっぱりタイムストレッチはPITCH ‘N TIMEが一番いい」という人も多いようです。

Seratoという会社のスタートはタイムストレッチソフトのPITCH ‘N TIMEからだった
そのPITCH ‘N TIMEがあるからこそ、生まれたのがSerato DJであり、その音質の良さ・性能の良さがDJソフトのスタンダードに成りえた要因でもあるわけですが、今度はSerato DJがベースにまったく新しいプラグインが登場することになったのです。

Serato DJはDTMの世界から見ると、ちょっとジャンルの異なるソフトであり、DJをする人以外はあまり触れることがなかったソフトですが、今回登場したSerato Sampleは、まさにDAWユーザー向けのソフトであり、面白い使い方を提案してくれるソフトとなっています。

Serato Sampleは各種DAWのプラグインとして機能する。画面はBITWIG STUDIOでの動作
前述の通り、Windows/MacのVSTおよびAudioUnitsで使えるため、Cubase、Studio One、Ableton Live、BITWIG STUDIO、Logic、Ability、FL STUDIO……とさまざまなDAWで利用できるほか、Native InstrumentsのMASCHINEやAKAI ProfessionalのMPCなどと組み合わせて使うことができるなど、音楽制作シーンにおいて、さまざまな活用ができるのです。

まあ「サンプラー」と言ってしまうと、KONTAKTやHALion、SampleTank……といったソフトを思い浮かべてしまうと思いますが、Serato Sampleはそれらとはだいぶニュアンスの異なるソフトなんです。

Serato Sampleを起動すると、まずオーディオファイルの入力を促される
インストゥルメントトラックを立ち上げて、Serato Sampleを起動すると、まずオーディオファイルの読み込みを促されます。WAVでもAIFFでも、各種フォーマットのオーディオファイルを読み込むと、それが波形表示され、「FIND SAMPLE」というボタンを押すと、それが自動的にスライスされ、画面下にある16個のパッドに割り当てられるのです。
画面左下の「FIND SAMPLES」をクリックすると、自動的にスライスされる

そして、このパッドをマウスでクリックすると、スライスされた音が鳴るわけですが、見てみると波形がカラフルになってますよね。これは低域が赤、中域が黄色、高域が青といった感じで色わけされており、それに伴ってパッドの色も変わるようになっています。

この辺のユーザーインターフェイスはSerato DJのUIを引き継いでいるので、Serato DJを使ったことのある方なら、より馴染みやすいかもしれませんね。また、ファイルを読み込むと同時に、自動的にBPMも自動検出してくれて、画面右上にそのテンポが数値として表示されます。ここで、その隣のSYNCボタンをクリックすると、DAWのテンポに同期される形になり、Serato Sampleに読み込んだサウンド全体にタイムストレッチがかかるのです。

実際、各パッドをクリックしてみると、テンポが変わったことが分かりますが、音質劣化がまったくといっていいほどないのがすごいところ。そう、ここにはSeratoが20年の歴史とともに持つ最大のノウハウであるPITCH ‘N TIMEの技術が使われているんですね。

REVERSEボタンをクリックするとで、逆再生になる

もちろん、このスライスされた位置を手動でズラすことはできるし、REVERSEボタンをクリックすれば、そのスライスを逆再生させることも可能です。

各スライスごとに、フィルターや音量、エンベロープなどを調整できる

また波形の下にはLEVEL、FILTER、ATTACK、RELEASEという4つのパラメーターがありますが、各スライスごとに、これでサウンドをいじることができるのもSerato DJ譲りの面白い機能です。LEVELで音量を大小させることができ、FILTERを左右に動かせばハイパス、ローパスがかかって音の雰囲気が大きく変わります。またATTACK、RELEASEを使うと、音の立ち上がり、音の消え方の調整が可能になっています。

さらに、その右にあるKEYSHIFTを使うと、スライスごとに音程を上下に自由に調整することができ、TIME STRETCHで時間を調整することも可能です。

もうお分かりだとは思いますが、こうしてスライスしたサウンドは、16個のパッドで鳴らすだけでなくMIDIのノートに割り振られているので、MIDIキーボードから鳴らすこともできるし、MIDIシーケンサ機能を使ってトリガーさせることも可能となっているのです。

Ableton Liveの場合は、各スライスをPCのキーボードに割り当てられる

ちなみにAbleton Liveを使った場合だけは、PCのキーボードにスライスを割り振ることも可能になっており、PCのキーボードから鳴らすことも可能になっていますよ。

ここから先はユーザーのアイディア次第というところではありますが、本当にいろいろな活用法が考えられます。一番単純な例でいえば、Serato SampleをPITCH ‘N TIMEとして使ってしまうという手段。DAW搭載のタイムストレッチ機能に比べても明らかに高性能なタイムストレッチ機能を持っているので、これでBPM変換だけを行って、DAWのバウンス機能で書き出してしまえば、テンポの異なる高品位な音を生成することが可能です。

さらに、テンポを揃えた複数の音楽素材を読み込んだ上で、スライスされた素材を組み合わせてマッシュアップしていく、といった使い方にも有効です。どうマッシュアップしていくかはユーザーのセンスが問われるところではありますが、ここでスライスされた部品にフィルターをかけたり、ピッチを変えて組み合わせるなどすると、さまざまなバリエーションを作り出すことができそうです。
MIDIシーケンス機能を使うことで、まったく違うリズムに構成しなおせる

一方、2小節とか4小節程度のリズムループ素材を読み込んだ上でスライスした上で、MIDIトラックで打ち込んでいくことで、音色は同じだけどまったく異なるリズムパターンを作り出す……といったことも可能です。「気に入ったドラムループ素材がない……」といった場合に、こうすることで自由にリズムを作り上げることができますからね。

MONOからPOLYを切り替えることで、複数のスライスを同時に再生できる

ちなみに、画面の上のほうにMONO、POLYという選択肢があり、デフォルトではMONOになっています。これをPOLYにすることで、複数のスライスを同時に鳴らすことができるので、リズム組み換えであったり、マッシュアップにおいても有効に使うことができますよ。

あるスライスをMIDIで音程をつけて弾くこともできる

 
また画面右下の鍵盤のアイコンをONにすると、選択したスライスに対して、いわゆるサンプラーとして音程を変化させながら演奏することも可能です。こうした点を踏まえても、まさにアイディア次第で何にでも使えるツールといえそうですよね。

PITCH ‘N TIMEというベースとなるタイムストレッチ技術があり、デファクトスタンダードとなったSerato DJというソフトがあるからこそ誕生したSerato DJ、DTMにおける音楽制作シーンにおいても、便利なソフトとして広がっていきそうです。

なお、Serato Sampleは30日間、フル機能が利用できる体験版をダウンロードして使うことができ、かつLoopmastersというところが出しているループ素材集も一緒にダウンロードできるので、まずはそれを試した上で、気に入ったらオンラインでライセンス購入するというのが賢い購入の仕方といえそうですね。

【関連情報】
Serato Sample製品情報

【ダウンロード】
Serato Sample体験版

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