Wi-Fi接続のオーディオインターフェイス!? iZotopeが発売するまったく新しいレコーディングシステム、SPIREが秀逸

OzoneNeutronRXなどで知られる米iZotopeから、ハードウェアとiOSアプリを組み合わせたレコーディングシステム、SPIRE(スパイア)がまもなく発売されます。これは円筒型のちょっと不思議な形のオーディオインターフェイス兼デジタルMTRであるSpire Studio(5月下旬発売予定で、実売価格は46,000円程度)と、iOSアプリのSpire Music Recorderで構成されるもの。これまでDTMは苦手で……といったプレイヤーの方でも、PCを持ってない人でも、手軽に簡単に音を重ねていくことができるレコーディングシステムなのです。

レコーディングした結果はその場で再生でき、好きなバランスでミックスもできます。そしてできあがった作品はTwitter、Facebook、LINEなどのSNSでシェアしたり、メールで送ったり、SoundCloudにUPするなど自由自在。もちろん、DAWに取り込んで、より細かくエディットしていくことも可能です。実際どんなものなのか触ってみたのでファーストインプレッションとして紹介してみましょう。

まったく新しいタイプのレコーディングシステム、iZotopeのSPIRE



昨年ニュース記事で見て「あのiZotopeがハードウェアに進出!?」と思ったのですが、実物を見るとかなり革新的で使える機材でした。このちょっと変わった形の機材はWi-Fi接続のオーディオインターフェイスであり、スタンドアロンで動作する高性能コンデンサマイク内蔵のマルチトラックレコーダーであり、かつマルチエフェクトも搭載した機材でもあるんです。


SPIREはiPhone/iPadと連携させて使うシステムになっている
そういうと、何か難しいもののように思うかもしれませんが、DAWなどまったく触れたことのない、DTMとは無縁の人であってもすぐに使える非常に分かりやすいレコーディングシステムでもあるのです。強いて言えば、昔あったカセットテープのMTRが超高品質になって、さらに分かりやすくなって現代に蘇ったという感じでしょうか……。

具体的な使い方を紹介していきましょう。まず電源を入れると、周りのLEDが光り出し、15秒ほどで起動します。すると内蔵マイクが音を拾って、レベルに応じてこのLEDが反応するようになるのです。ここでRECボタンを押すと、これでレコーディングスタート。あとは歌うなり演奏していけば、Spire Studioへとレコーディングされ、再度RECボタンを押せば終了です。本当にそれだけ。至って簡単な操作ですよね。


電源を入れてRECボタンを押せば、すぐに録音できる
その後再生ボタンを押せば、いまレコーディングした音がヘッドホン端子を通じてプレイバックされます。さらにRECボタンを押せば、先ほど録音した音がヘッドホンからプレイバックされると同時に、マイクから2つ目の音を録音していくことができます。同じことを繰り返せば3つ目、4つ目、5つ目……と音を重ねていくことができるのです。

音を重ねてトラックを増やしていくと、LED表示も変化していく
すごく簡単な操作ですよね。その際、LEDが録音したトラック数に応じて、色分けされていくのも楽しいところ、本当に初めてという人でもすぐに使えるシステムであることが分かると思います。音を確認してみると、内蔵マイクなのにも関わらず、なかなか高感度・高精細に録音できているのにも驚くところです。


フロント部には高性能なコンデンサマイクが搭載されている
iZotopeの担当者に聞いたところ「Spire Studioの開発に当たっては、マイク性能にはかなり気を使っており、ドイツ製某N社の高級マイクをリファレンスに開発した結果、ブラインドテストでほとんどの人が違いを分からないレベルにすることができた」とのこと。多少大げさなようにも思いますが、U-87Aiなどと比較しても、かなり近い質感のようにも感じました。


今回のSPIREのテストにはギタリストのマードック・プレストンさんに協力してもらった

もちろんマイクでのレコーディングだけではありません。リアには2つのコンボジャックが用意されており、ここにギターやベースを接続したり、マイクを接続してレコーディングすることも可能です。

+48Vのファンタム電源も装備されているから、ここにコンデンサマイクを接続して使うことも可能なわけです。もうひとつ、iZotope担当者に聞いて驚いたのは、ここに搭載されているマイクプリがGrace Design製のものであるということ。Grace Designのマイクプリなんて単体で買ったら20万円以上するものばかりですからね!これだけでも買う価値がありそうですよね。

Spire Studioのリアパネル。ここに2つのコンボジャックが用意されている

またLED部はタッチセンサー機能も搭載されているので、これでボリューム調整をしたり、トラック選択をするといったことも可能になっています。


ボリューム調整などはタッチセンサー内蔵のLED部を使って操作
と、ここまでであれば、単なるマルチトラック対応のマイク内蔵のデジタルレコーダーということになりますが、面白いのは、ここからです。Spire StudioとiPhoneやiPadをWi-Fi接続することができ、接続することでこれまでにない便利で面白い使い方が可能になるのです。

持ち歩きやすいように、Spire StudioやACアダプタ、ケーブル塁を入れるバッグもオプションで発売される
接続することで、iOSアプリであるSpire Music Recorderから、Spire Studioをリモコン操作できるというのはもちろんなのですが、このアプリとSpire Studioが裏で同期しているので、驚くようなことが実現できるのです。

Spire Studioとアプリ側が連動するのだが、裏で同期しているのがスゴイところ…

実は、Spire Studio本体では24bit/48kHzのWAVフォーマットでレコーディングが行われています。音を重ねる際には、もちろん別トラックにレコーディングされているわけです。アプリ側で、録音・再生ボタンを操作すれば、これでハード側が動き、ハード側で再生されるのですが……、さて、ここでWi-Fiを切断するとどうなるのでしょうか?実は、この状態でiPhoneなどを操作すると、iPhoneで今録音したデータを再生することが可能なのです。なぜか?それは裏で同期していて、録音された結果が、リアルタイムにアプリへ転送されていたからなんですね。

つまり、Spire StudioはiOSアプリのSpire Music Recorderから見れば、Wi-Fi接続のオーディオインターフェイスといえるわけなのですが、裏でデータ転送しているだけだから、レイテンシーなどの問題は一切考えなくていいわけです。レコーディングしているときは、Spire Studio本体で再生し、本体でモニターしているので、レイテンシーはゼロ。すごくうまく考えられていますよね。24bit/48kHzの非圧縮なので、データ量はそれなりにありますがWi-Fiなら速度的にほぼリアルタイムで送れるレベル。そのため録音終了したときには、ほぼ同時にiOSアプリ側にも転送が完了しているのです。

録音したトラックはアプリ側でリアルタイムに波形として表示されていく
アプリ側で操作できるのは、録音・再生だけではありません。まずは、マルチトラックの録音状況を波形で見ることが可能なので、途中から録音するパンチインなども可能です。さらに、前述の通り、Spire Studio内にはマルチエフェクト機能が搭載されているので、これをアプリ上で選んだり、細かく設定していくことが可能になっているのです。現時点においてはギター/ベースアンプシミュレーターが3種類と、リバーブ/ディレイなど空間系が5種類。これについては、今後のアプリのアップデートに伴い数が増えていくようですよ。

メトロノーム機能も搭載
またメトロノーム機能も搭載されているので、これに合わせてレコーディングしていくということも可能。また、iOSのミュージックライブラリに入っている曲データやオーディオファイルとして用意されている曲データをインポートすることも可能です。つまりお気に入りの曲に合わせてレコーディングしていくことが可能であり、あとで元曲をミュートしてしまえば、同じテンポの自分の演奏や歌に差し替えることも可能なわけです。

さらに画期的だと思ったのが、ミキサー機能です。DAWのミキサーといえば、普通はコンソール画面が現れて、ここで操作するわけですし、それがカッコイイと感じるのも事実ですが、初心者ユーザーにとっては、それこそが難しさの根源ともいえるものとなっています。それに対し、SPIREでは、非常にシンプルながら、使いやすく分かりやすいミキサー機能を実現しているのです。

画期的ともいえるSpire Music Recorderのミキサー機能

前述のように、SPIREでは1トラック目、2トラック目、3トラック目……と音を重ねていくわけですが、これが平面上に①、②、③……という数字で表示されているのです。これをひとつずつ左に動かせば音が左に寄り、右に動かせば右によるPANの構造。また上に持っていけば音量が大きく、下に下げれば小さくなるというものだから、ミキサーなんて触ったことも見たこともない人でも直感的に操作できてしまうというわけなのです。

使っていると、つい全トラックの音量を大きくしてしまって、音割れの原因になってしまいそうだが、そこはやはりiZotope、Ozoneのエンジンが搭載されているので、うまくリミッターがかかって、音が破綻しないようになっているんです。


すべてのトラックを最大音量にしても音割れしないのもiZotopeならでは
そしてSpire StudioとSpire Music Recorderが同期しているときは、操作結果がリアルタイムに、Spire Studioへ反映されますが、Wi-Fiを切り離し、外で操作しているときは、iPhone内で完結させることが可能なのです。一通り作業を終えた後、再度Wi-Fi接続して、それを再生すれば、ここでまた同期される仕掛けになっているんですね。なかなかよくできています。


出来上がった作品をメールやSNSなどで送ることができる
さて、こうして完成した曲データは前述の通りメールで送ることもできるし、TwitterやFacebookなどにアップロードしてシェアすることも可能です。この際、M4Aでアップロードすることもできるし、オリジナルの非圧縮のWAVでアップすることもできるなど、柔軟性にも長けています。

トラックごとに独立して保存したWAVはGoogle DriveやDropboxなどに保存することもできる
また、これを自分のPCに取り込んでDAWで処理したいという場合もあるでしょう。そんなときは各トラックごとのWAVファイルをZIPにまとめた形で、Google DriveやiCloud、Dropbox、OneDriveなど、好きなところにUPロードして共有することができるのです。iTunesを使うことなく、簡単にファイル転送できちゃうのも便利だな、と感じました。

必要に応じてPCに転送して細かくエディットすることも可能

どう使うかはユーザー次第ですが、たとえばバンドメンバーで、演奏や曲作りはうまいけど、DTMには拒否反応をしている人にSPIREを持ってもらうとか、仮歌を歌ってくれる人にSPIREを持ってもらうことにより、曲制作のスピードやクオリティーもグンと上がるかもしれませんね。

デモビデオがあるので、ご覧になってみてください。

【関連情報】
iZotope SPIRE製品情報

【アプリダウンロード】
◎App Store ⇒ Spire Music Recorder

【価格チェック】
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