【NAMM2023レポート1】GPUでプラグイン処理する最新テクノロジー、GPU Audioの技術とは

4月13日~15日の3日間、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで世界最大の楽器の展示会、The 2023 NAMM Showが開催されています。毎年1月に開催されてきたNAMM Showもコロナ禍でイレギュラーな開催日程となっていて、今年はこの時期となっています。カシオのオトトークの収録もあり、個人的には久しぶりのNAMM参加となったのですが、もちろん、各社のブースを見て回っています。従来と比較すると、かなりフロア面積、出展社数も減ったイメージではありますが、それでも規模は莫大だし、人もいっぱいで、空いている時間に、いろいろ回って見ているところです。

そうした中、個人的に、一番印象的だったのが、地元ロスアンゼルスにあるベンチャー企業、GPU Audioが生み出したテクノロジーです。一言でいえばNVIDIAやAMDのGPU=Graphics Processing Units DefinedをDSPのように使用し、CPUにとって重たいプラグイン処理をGPUで行ってしまうというもの。まだ、開発途上のようで、ベータ版という扱いのようですが、コンボリューションリバーブやコーラス、フェイザー、フランジャーなどがフリーで配布されているようです。これがどんなものなのか、少し話も聞いてきたので、紹介してみましょう。


GPU Audioが開発したテクノロジーを利用することで、GPUをDSP的に利用可能になる

GPU Audioについては、数か月前にSNSで少し話題になり気になっていたのですが、ちゃんと調べないままになっていました。そうしたところ、今回NAMM Showの中で大きめな部屋で出展するとともに、MNTRA、VIENNA SYMPHONIC LIBFRARY、Mach 1という協力企業とともにソフトウェア紹介、技術紹介をしていました。

4月13日~15日の3日間、アメリカ・アナハイムでThe 2023 NAMM Show開催中

このGPU Audioはもともと2011年にBraingines SAという名前でスイスで設立され、その後ロスアンゼルスに移転するとともにGPU Audioという名前に変更した、現在もまだ小さな会社。ここが、GPUを画期的なシステムを生み出したのです。

みなさん、ご存知の通りGPUとは画像処理を高速に行うプロセッサで、NVIDIAやAMDなどが専用LSIを開発するとともに、グラフィックカード(いわゆるグラボ)としてコンピュータの拡張スロットに挿して使うもの。最近はIntelやApple、またAMDのCPUの付加機能としてGPUが搭載されているものも増えているため、カードなどを増設することも不要で、標準ですぐに利用可能な機材も増えてきています。

このGPUを利用することで、グラフィックス処理をCPUに負荷をかけることなく、実行させることができるので、ビデオ編集ソフトや写真処理ソフト、さらにはゲームなどでも使われるようになり、ポピュラーな存在になってきています。GPUは単純な処理を一気に、そして大量に行うことができることから、グラフィックス処理に留まらず、さまざま分野で利用されるようになってきています。

中でも近年大きな話題になっていたのが仮想通貨のマイニング用途です。マイニングすることで、仮想通貨を入手できることから、GPUニーズが一挙に増えて、グラボが非常に高価になって入手できない……といった事態が起きていたことをご存知の方も多いと思います。

そのGPUをオーディオ信号処理に利用するというアイディア自体はだいぶ以前からありました。普通、私たちはDAWのプラグインなどのエフェクト処理、オーディオ処理はCPUで行うわけですが、より高速処理を行いたいと場合、これまでDSP=Digital Signal Processorというものが使用されてきました。たとえばUniversal AudioのUAD2はAnalog DevicesのDSPを使って処理している、といった具合です。

ただ、DSPを標準搭載したPCというのはWindowsでもMacでも存在しないため、それなりに高価なハードウェアを追加し、そこに入ったDSPで処理していたのです。DSPは、信号処理専用のプロセッサであり、オーディオ処理を得意としていますが、やはり単純な作業を一気に、大量に行うものであるため、ある意味GPUとも近い存在ではあったのです。そのため、DSPハードウェアと比較すると、比較的安く入手できるGPUを、オーディオ処理に利用できれば便利だ…という思いを持つ人は多くいました。しかも標準でPCにGPUが搭載されていることも増えてきため、もしGPUをDSP替わりに利用できれば、革命的ともいえる状況になるわけです。

ただ、GPUにはDSPと比較した際、一つ致命的な問題がありました。それがレイテンシーです。グラフィックス処理用に開発されていたGPUは、1フレームごとに計算処理をすることを前提としていたのです。たとえばフレームレートが30fpsだとすると1フレームは33.3msec、60fpsでも16,6msecの時間となり、これがそのままレイテンシーにつながってしまうのです。しかも複雑な処理だと複数フレームの時間を使ってデータ転送することになるので、音にとっては、まさに致命的でそのまま利用することができなかったのです。

そうした中、GPU Audioが開発したテクノロジーを使うことで、GPUの欠点であったレイテンシーの問題が解決する、というのです。データ転送するスケジューラにトリックをすることで転送頻度を増やし、結果としてレイテンシーを劇的に下げられるようになったのです。具体的には1msec以下のレイテンシーを実現できるようになり、DSPに近いプロセッサとして使えるようになった、とのこと。

 

具体的には、演算量が多くCPU負荷が大きいコンボリューションリバーブでの実演デモも行われていました。75のステレオトラックそれぞれに4つずつの畳み込み演算処理を行って、CPU負荷がどのくらいになるかを比較していました。すべてCPU処理をすると75%ほどのCPU負荷がかかっていたのに対し、GPU処理にすると、CPU負荷が0.2%までと、明らかな効果が出ていたのです。

そのGPU Audio自体がWindowsおよびMac、コンボリューションリバーブを出しているほか、Winows用にディレイ、コーラス、フェイザー、フランジャーといったものを開発しており、現在無償提供が行われています。対象となるGPUはNVIDIAとAMD用。GPU Audioサイトにユーザー登録することで、これらを入手できるようになるのです。

WindowsのVST2およびVST3、MacのVST2、VST3、AUのそれぞれに対応いています。現在GPU AudioがサポートしているDAWとしては以下のようになっています。

⦁Bitwig Studio
⦁Ableton Live 10/11
⦁Cakewalk
⦁MOTU Digital Performer
⦁PreSonus Studio One (known issues)
⦁Reaper (recommended for EA and beta)
⦁Magix Samplitude Pro X
⦁Magix Sequoia
⦁Cubase

さらに、この技術を用いたプラグインが、今後複数メーカーから登場してくる模様です。そう、GPU Audioは各開発メーカーにSDK(開発ツールキット)を提供しており、これを使うことで、比較的容易に従来のCPUベースのプラグインをGPU対応にすることができるようなのです。

具体的に、今回のNAMMではMNTRA(マントラ)、VIENA SYMPHONIC5、Mach 1という3社がブースを出しており、GPU Audioのサポートを表明しています。

MNTRAという会社が出すMNDALA 2(マンダラ2)という仏教っぽいソフトウェア音源が、その一つ。確認したところ、その日のデモで使っていたのはCPUバージョンですが、間もなくGPU Audio対応のものをリリースするとのこと。普通にVST3、AU、AAXのプラグインでt買えるため、GPUが搭載されていたPCであれば利用可能になるとのこと。エフェクトに限らず、ソフトウェア音源でも使えるということのようですね。

まだ実際に自分で試してみたわけではないので、使う上での安定性やCPUとGPUでのレイテンシーの差、音の違い……など気になることもいっぱい、今度改めて試してみたいと思っていますが、新しい情報が入れば、記事でお伝えしてこうと考えています。

【関連情報】
GPU Audioサイト

 

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