開発者が語るDX7互換のvolca fm、活用テクニック

volcaシリーズの新製品として、3月末、KORGからセンセーショナルに発売されたvolca fm。80年代を代表するシンセサイザであるYAMAHAのDX7のサウンドを再現するFMの6オペレータ・3音ポリの音源を内蔵しつつも、volcaシリーズとしてのシーケンス機能、操作性を備えた非常に刺激的なマシンとして注目を浴び、現在どこも在庫切れで入荷待ち状態。

 

機能的に見ても、シーケンス機能に加えてアルペジエータが搭載されたり、チェイン機能ワープ・アクティブ・ステップという非常にユニークな機能が搭載されるなどvolcaとしても大きく進化・発展しているのです。でも、なぜKORGがDX7互換マシンを作ることになったのか、このvolca fmでどこまでのことができるのか、ほかの機器やDTM環境との連携機能がどうなっているのか……など気になることもいっぱい。そこでvolca fmの開発者である高橋達也さん、岡本達也さんのお二人にお話しを伺ってみました(以下、敬称略)。


volca fm開発者の高橋達也さん(左)と岡本達也さん(右)


--正直なところ、KORGからDX7互換のvolcaが出るとは想像もしていませんでした。まずは、volca fmを企画した経緯などから教えていただけますか?
高橋:monotronから始まってvolca、minilogueへと続く一連の流れは、もともと「シンセサイザが難しくなりすぎて詳しい人じゃないと使えない」状況になってしまったので、もっと普通に付き合えるシンセを作ろう、ということでシンプルなものを目指して作ってきたという経緯があるのです。volcaにおいてもkeys、bass、beatsとそれぞれ歴史的背景を持った音源、1つの文化を持った音源をピックアップして、いまの音楽に使えるように、と開発してきました。volca sampleでサンプリングもやったし、その次はFM音源でしょう、というのはとっても自然な発想でした。


DX7互換の6オペレータ、3音ポリの音源を搭載したvolca fm

--高橋さんご自身は、DX7などを使ってきた経験はあるのですか?

高橋:DX7は1983年登場で、僕は82年生まれなので、リアルタイムに大ヒットしていた時期は知らないし、自分自身でDX7を所有して……という経験もありません。でも、アナログシンセにずっと携わってきた僕から見ても、FM音源が登場した衝撃はすごく大きかっただろうなと想像できます。アナログではできなかった金属音が出たり、帯域的にも広がり、表現も広がったことへの驚きはすごかっただろうな、と。その衝撃的なことを自分たちでもう一回やってみたいな、というのがvolca fmを開発した意図なんですよ。


volca fmの開発リーダーである高橋達也さん 

 

--そのDX7の音を、KORGで再現してしまう!?
高橋:よく言われますが、Native Instrumentsなどのメーカーでも古くからDX7のエミュレーションはやってるし、KORGでもKRONOSにはDX7の音色をそのまま読み込める音源を搭載していたから、別に新しいことでもないんですよ。それよりも、その音をvolcaの中で実現できた、というのがビックリではないか、と。試作機で、DXの音がこの箱から出てきたときには「やべぇ!」って思いましたよ(笑)。
岡本:この試作機で鳴っているのを見て、かなりグッと来ましたね。そこから、いろいろとアイディアも浮かび、さまざまな機能を実現させていきました。私自身は、「周波数変調の音源だ」という知識くらいでFM音源にあまり馴染みがなかったので、FM音源がどんなシンセサイザなのか勉強するのに結構な時間を費やしました。一気に6オペレータというのは複雑過ぎるので、本当にオペレータを1つずつ増やしながら身に着けていきました。


主にプリセット音色やプリセットパターンを担当した岡本達也さん

--FM音源というと、YAMAHA製の専用チップが入っている印象が強いのですが、6オペレータでDX7互換なんてものは聞いたことがありませんでしたが、volca fmはどうなっているんですか?

高橋:volca sampleと同じCPUであるARMのCortex-M4が入っていて、それでDX7をエミュレーションさせています。やってみるまで、処理能力的にどれだけの発音数が出せるかわからなかったのですが、なんとか6オペレータで3音ポリ、さらにコーラスまで実現することができました。


オープンソースのDX7互換ソフトDEXED 

 

--仕様を見るとvolca fmはDX7のMIDIシステムエクスクルーシブ・メッセージを受けることができるとなっているので、DX7風というよりもDX7をエミュレーションしているわけですよね。
高橋:はい、その通りです。世の中には、DX7用に数多くの音色があり、一種の文化ともいえる状態になっています。だったら、これをうまく取り入れた上でvolcaらしさを打ち出していこうと考えました。つまりシーケンサだったりモーションシーケンスだったり、昔はできなかったことをこれでやろう、と。
岡本:DX7のSYS-EXをそのまま受け入れることが可能になっていますが、その他の互換音源からでもDX7のSYS-EXの仕様に乗っ取っていれば、そのまま受け入れることが可能です。以前DTMステーションでも取り上げていたフリーの音源、DEXEDでも行けますよ。



DEXEDの「DX7 out」で指定したMIDI出力をvolca fmのMIDI入力に接続し、SYS-EXを出力すれば音色を転送できる

--なるほど、実際試してみると、簡単にDEXEDから音色を送ることができますね!KORGとしてvolca fm用の音色エディタソフトを作る計画などはないんですか?
高橋:今後はわかりませんが、現状DEXEDやFM8などいいツールがあるので、まずはそのあたりのツールをうまく利用してvolca fmの面白さを多くの方に味わってもらいたいです。また、WEB上には膨大なDX7のSysExが転がっているので、レコードを掘るみたいに漁ってみるのも面白いと思います。

岡本:音色の再現度としては、かなり高いと思っています。もちろんD/Aの違いやアンプの違いによって音は変わってくるし、内蔵スピーカーで慣らすのとヘッドホンで聴くのでも多少の差はありますが、FM音源の音でvolcaを鳴らすのはとっても楽しいですよ。ちなみに、volca fm単体でも、6オペレータのすべてのパラメータをいじれるようになっています。ゼロから作るのはなかなか大変ですが、音色をちょっとエディットしたくなった時には安心です。


volca fm単体でもFM音源のすべてのパラメータをエディット可能

 

--MIDI INにキーボードを接続すると、3音ポリのDX7互換機として使えますよね。volca fmを2台連結して6音ポリにしたり、3台つないで9音ポリにする…といったことはできるんですか?
岡本:volca fmはMIDI OUTを持っていないので、そうしたことはできないです。手頃なDX7音源という発想ではなく、SYNCで接続する場合も、1つ目はベース、2つ目はパッドで……といった使い方になり、あくまでもvolcaなんですよ。

高橋:DEXEDやFM8や中古市場のDX7がある中で、volca fmはやはりFM音源とシーケンサーと一体になったことによるコントロールや即興性の表現がポイントで、キーボードをつなぐための音源モジュールではないんです。


MODULATOR、CARRIERのパラメータを動かすことでアナログシンセのように音色を変化させられる

 

--volca fmのパネルに出ているパラメータがすごく面白いですよね。まずはMODULATOR、CARRIERのATTACKとDECAYノブというのがありますがこれはどういう役割をするんですか?
岡本:6つのオペレータは計32のアルゴリズムによって、さまざまな組み合わせ方ができるようになっていますが、それによってキャリア(緑)になるかモジュレータ(青)になるかが変わってきます。このノブを動かすことで、全キャリア、全モジュレータのアタックやディケイを変更できるようになっているんです。これによって、アナログシンセのフィルタをいじるように感覚的に音色をいじれるようになっています。volcaのモーション・シーケンス機能によって、そのノブの動きをリアルタイムに記憶していくことができるようになっているのも大きな特徴ですね。そのアルゴリズムの切り替えもノブでできるようになっていて、これもモーション・シーケンスできます。


volca fmが持つ32種類のアルゴリズム。キャリアとモジュレータが色分けされている

--アルゴリズムの切り替えをシーケンスパターンの中で行えるってことですよね。う~ん、これは斬新過ぎますね!リアルにFM音源を経験してきた世代からすると、驚きというか、ちょっとありえない発想すぎて、目が点に……。
高橋:このアルゴリズムのノブは僕が主張して載せたんですよ。確かに多くの人からは驚かれますが、これを回すと予想外な音が飛び出してくるんで、それをシーケンスに組み込むのもありだな、って。一方で岡本君のアイディアでベロシティフェーダーを載せたのも、なかなか使えますよ。

岡本:普通ベロシティというと音の強さをイメージするかもしれません。確かにキャリアにかければ音の強さですが、モジュレータにかければ音色が大きく変化してくるんです。もちろん、音色をどのように設定するかにもよってきますが、うまく使うと、ベロシティフェーダーもアナログシンセのカットオフみたいな感覚で使うことができるんですよ。そこでプリセット音色には、フェーダーでガラッと変わるような過激な設定のものをいろいろ用意しました。


アルゴリズムをノブで変更でき、その動きもシーケンサに記録できてしまう

--これまでのvolcaシリーズにはなかったアルペジエーターも搭載されていますよね。
高橋:16ステップのシーケンサ+アルペジエータという重ねワザによって、いろんなことができるようにしています。volcaらしいアルペジエータって何だろう…と考えて出てきたのが、シーケンサとどう組み合わせるかという点でした。分解能のパラメータをつけ、アルペジエータのトリガーの仕方を変則的にできるようにしています。
岡本:1/1に設定しておけば1ステップでアルペジエータを1回トリガーするのに対し、1/2なら2回、1/4なら4回、1/12なら12回となるほか、2/3や3/2といったものも用意しています。つまり3ステップの時間で2回トリガーするとか、2ステップで3回トリガーするわけですね。そして、これをモーションで切り替えていくことができるのです。たとえば、16ステップのうち1ステップだけアルペジエータを速く動かすとか、面白い使い方ができますよ。


分解能の設定で変わったリズムも作り出せるアルペジエーター機能

--もうひとつ、WARP ACT.STEPというものがありますが、これは何ですか?

岡本:もともとvolcaシリーズにはアクティブ・ステップ・モードというものがありました。これは現在のシーケンスの各ステップのオン/オフを設定するもので、オフにしたステップは再生・録音とも無効となりシーケンスから除外されるというものです。さらに今回はワープ・アクティブ・ステップというモードが加わり、これをオンの場合で、アクティブ・ステップが16ステップ未満の時に、16ステップと同じ演奏時間に補正するんです。たとえば8ステップにしておくと1ステップの時間が倍になります。ここで、別のvolcaなどと同期させて、7ステップとか11ステップでワープ・アクティブ・ステップを使うと、バラバラだけど、小節の頭だけビッチリ揃うという面白いリズムが作れるんです。


アクティブ・ステップでは、オフにしたステップを飛ばせ、さらにワープ・アクティブ・ステップにすれば、それが16ステップ分の時間になる

 

--なるほど、なかなか複雑なことができるんですね。
岡本:さらに今回チェイン機能というものも用意しました。これは複数のシーケンスパターンを組み合わせるソング機能のようなものです。各シーケンスパターンでは音色もリズムもアルペジエータもバラバラに設定できるのでいろいろな応用ができると思いますよ。

 

--かなり奥が深くて、すごく面白いですね。まずはこのFM音源を楽しみつつ、アルペジエーター、ワープ・アクティブ・ステップ、チェイン機能など、1つずつ試してみようと思います。ありがとうございました。

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