Vienna Symphonic Library(以下VSL)から、映画音楽ホール「Stage A」の音響を忠実に再現するリバーブプラグイン「Synchron Stage Reverb」(20,460円税込)がリリースされました。このプラグインは、Marvel、Disney、Netflix、Amazon MGMなどの大作映画で実際に使われているものと、まったく同じマイクセッティングで収録されたインパルスレスポンス(IR)を使用したコンボリューションリバーブ。「キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド」「ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪」「ハリー・ポッター20周年記念: リターン・トゥ・ホグワーツ」「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」「スター・ウォーズ: バッド・バッチ」「メイドインアビス」「キングダム劇場版」など、数百の作品がこのホールで録音されており、その音響空間をプラグインとして手軽に利用できるようになったのです。
特に注目すべきは、従来の複雑なパラメーター調整から解放された直感的な操作性で、クリックとドラッグだけで楽器の配置を決められる革新的なインターフェースを採用している点。また、ルーム感の大きなきらびやかなリバーブも、Amountを10〜20%程度に設定することで、ポップスやロックなどにも使える、ほどよい空間表現が可能。システム要件も非常に軽く、AMD Athlonのような古いCPUでも動作し、たくさんのインスタンスを立ち上げても使用に耐えられる設計となっています。そんなSynchron Stage Reverbを実際に試してみたので、紹介していきましょう。
世界唯一の映画音楽専用ホール「Stage A」の響きを完全再現
Synchron Stage Reverbの元となった、Synchron Stage Viennaは、ウィーンにある540㎡の巨大なホールで、映画音楽専用のスコアリングステージとしては世界唯一の施設。このホールでは日々ハリウッド映画、テレビシリーズ、ビデオゲーム、アニメなどの楽曲レコーディングが行われており、その壮麗さ、温かみ、透明感を兼ね備えた独特の響きで知られています。
このホールの特徴的な音響は、単なる大きさだけではなく、建物自体が映画音楽録音のために設計されており、音響学的に計算された壁面の角度、天井の高さ、反射材の配置により、楽器の音が美しく融合しながらも、個々のパートがクリアに聴こえる絶妙なバランスを実現しています。特に弦楽器の豊かな響きと管楽器の力強い音色が、自然に溶け合う音響特性は、多くの録音エンジニアから絶賛されています。
近年、同ホールで録音された作品を見ると、ハリウッド大作映画から日本のアニメ作品まで幅広いジャンルにわたっています。日本の作品では「メイドインアビス」「キングダム劇場版」などがStage Aで録音されており、その音響クオリティの高さが証明されています。また、最近では「Daredevil Born Again」「Captain America Brave New World」「The Rings of Power」「American Fiction」「Godzilla x Kong The New Empire」「Reacher」などの話題作も、このホールの美しい響きを活用しています。

さまざまな名作の音楽が収録されている。収録された作品は公式ページから閲覧可能
そんなSynchron Stage Viennaを再現したSynchron Stage Reverbは、実際のスコアリングセッションで使われているのと同じデッカツリー(Decca Tree)セットアップで収録されたインパルスレスポンスを使用しています。デッカツリーとは、3本のマイクロフォンを三角形に配置するクラシック音楽録音の定番手法で、自然な立体感と奥行きのある音像を作り出すことができる収録方法。この手法は1950年代にイギリスのデッカレコードが開発したもので、ステレオ録音黎明期から現在まで、最も信頼性の高い録音手法として使われ続けています。
画期的な設計のSynchron Stage Reverb
VSLはこれまで開発してきたViennaシリーズやMIR Pro 3Dなどの高性能リバーブを手がけてきた経験を活かし、今回はあえて「使いやすさ全振り」の製品を開発しました。MIR Pro 3Dのような高度なAmbisonics技術を用いた3D空間シミュレーションとは対照的に、Synchron Stage Reverbは複雑なパラメーターを排除し、直感的な操作でプロフェッショナルな結果を得られることに重点を置いています。
このアプローチはほかのブランドとは一線を画す仕様で、複雑なパラメーターを取り払いながらも、柔軟性をしっかりと維持することに成功しています。マイクを実際にオーケストラで収録するセッティングで立てて、商業音楽やハリウッド級タイトルで使われているセッティングの残響をそのまま再現できるという即戦力性も大きな特徴です。
また、VSLが長年培ってきたサンプルライブラリ制作のノウハウも、このプラグインには活かされています。同社は1990年代からオーケストラサンプルライブラリの制作に携わっており、楽器の特性や録音技術に関する深い知識を蓄積してきました。その経験が、このリバーブプラグインの音質と使いやすさの両立に大きく貢献しているのです。
3つのプリセットで多彩な音楽制作に対応
プラグインには用途に応じた3つのプリセットが用意されています。それぞれが異なる音楽制作シーンを想定して設計されており、使い分けることでいい感じのリバーブ感を作り出すことができるようになっています。
Orchestral(オーケストラ)
オーケストラの標準的な楽器配置を再現したプリセット。Violin I、Violin II、Viola、Cello、Double Bassの弦楽器セクション、Harp 1/2、Piano 1/2のハープ・ピアノ、Horns front/back、Woodwinds、Brassの管楽器、そしてTimpani、Mallets、Percussionの打楽器セクションが配置されています。
このプリセットの特徴は、収録されたインパルスレスポンスが自然な状態を保っている、つまり実際のホールで録音されたリバーブの響きに対して、特定の楽器配置に特化した人工的な加工を施していないので、異なるオーケストラ配置にも対応できる点。たとえば、ドイツ式座席配置(第2バイオリンが右側、コントラバスが中央のPiano 2の位置)などの変則的な配置でも、自然な音響バランスを保つことができます。これは、Stage A自体の音響特性が非常に優秀であることの証明でもあります。
General Purpose(一般用途)
続いてGeneral Purposeは、よりシンプルな設計のプリセット。ステージを9つのセクション(前列・中列・後列それぞれに左・中央・右)に分割、オーケストラ以外の楽器やアンサンブルにも柔軟に対応でき、ポップス、ロック、エレクトロニックミュージックなど、あらゆるジャンルで活用できます。
このプリセットは、特に現代的な音楽制作において威力を発揮し、エレクトリックギター、シンセサイザ、ドラムマシンなど、従来のオーケストラ編成にない楽器でも、適切な空間配置により立体的なミックスを実現できます。また、アコースティック楽器とエレクトロニック楽器を組み合わせたハイブリッドなアレンジメントでも、統一感のある音響空間を作り上げることができます。
Vocal/Drums(ボーカル/ドラム)
Vocal/Drumsは、ソロボーカル、コーラス、ドラムセットに特化したプリセット。Solo Vox 1/2、Solo Left/Rightのソロボーカル、Drumset 1/2のドラムセット、Soprano、Alto、Tenor、Bassの合唱パート、Small Choir、Large Choirのコーラスセクションが用意されています。
このプリセットの設計思想は、ボーカルとリズムセクションが持つ特殊な音響特性を考慮したものです。ボーカルは人間の聴覚にとって最も重要な音域に位置するため、明瞭度を保ちながら適度な空間感を付与する必要があります。一方、ドラムセットは広い周波数帯域をカバーし、強いトランジェントを持つため、過度なリバーブは音像をぼやけさせる原因となります。これらの特性を踏まえた専用設計により、ボーカルとドラムに最適化された空間表現を実現しているのです。
軽快な動作で制作効率をアップ。各トラックにインサートして使うタイプのリバーブプラグイン
Synchron Stage Reverbは、非常に軽いシステム要件を実現しています。AMD Athlonのような古いCPUでも動作し、IRベースでありながら驚くほど軽快に動作します。これにより、従来のリバーブプラグインのようにバスに挿して共有するだけでなく、複数のトラックにインサート使用しても、システムに負荷をかけることなく使用できるようになっています。
この軽量性は、VSLの技術陣による最適化の賜物。インパルスレスポンスの処理アルゴリズムを効率化し、メモリ使用量を最小限に抑えながらも、音質を犠牲にすることなく動作しているのです。また、プラグインの起動時間も短縮されており、多数のインスタンスを使用するプロジェクトでも、待ち時間によるストレスを軽減できます。
パラメータ変更時の動作も非常に滑らかで、プラグインはグリッチやクリックノイズなしで動作するよう設計されています。パラメータを変更している間は一時的に短いフェードが発生し、信号が適切に処理されるまでコントロールの赤いインジケータリングが暗くなる仕様となっています。この処理により、ライブでの使用時や、リアルタイムでの調整時にも安心して操作できるようになっています。
また、プラグインの内部処理は最新のマルチコア対応技術を採用しており、現代的なCPUの性能を最大限に活用します。これにより、ほかのプラグインとの併用時にも、システム全体のパフォーマンスに悪影響を与えることなく動作します。特に、同時に多数のVSTiやエフェクトを使用する現代的な音楽制作環境において、この軽量性は大きなアドバンテージといえますね。
革新的な直感操作でミキシングが変わる
従来のリバーブプラグインでは、距離感を調整するために複雑なディケイ調整やパラメータ設定と格闘する必要がありました。プリディレイ、アーリーリフレクション、ディフュージョン、ダンピングなど、多数のパラメータを理解し、それらの相互作用を把握することは、経験豊富なエンジニアでも時として困難な作業。しかし、Synchron Stage Reverbは、この煩雑な作業を一掃する革新的なインターフェースを採用しているのです。
操作は驚くほどシンプルで、GUI上のセクション図形をクリックするだけで楽器の配置を選択でき、感覚で制作するクリエイタでも、専門的なミキシング知識なしに理想的な空間表現を実現できるようになっています。またマウスでセクションの上にカーソルを合わせると、その部分がハイライト表示され、画面下部にセクション名が表示されます。クリックして選択すると、選択されたセクションが色付きで表示され、現在の位置が一目で分かります。
特に注目すべきは、Amountパラメータの活用法です。Stage Aは大きなルーム間のため、デフォルトでは非常にきらびやかで豊かなリバーブが得られますが、Amountを10〜20%程度に設定することで、ポップスやロックにも適したほどよい空間表現が可能になります。この調整により、質の高いリバーブをさまざまなジャンルで活用できるのです。
さらにAmountパラメータにはユニークな機能が搭載されています。OptionキーまたはAltキーを押しながら調整すると、開いているすべてのSynchron Stage Reverbインスタンスが相対的に変化するため、複数のトラックで使用している場合でも、全体のバランスを保ちながら一括調整が可能です。この機能により、ミックス全体の空間感を素早く変更できます。
またBalanceパラメータでは、選択したセクション内でのより細かな位置調整が可能で、マウスドラッグによる視覚的な操作にも対応しています。このバランス調整は、選択したフィールドのカラーグラデーションとしても表示されるため、視覚的に現在の位置を把握できます。
ステレオからサラウンドまで対応する本格仕様
Synchron Stage Reverbは、シンプルなステレオからシネマティックな7.1ミックスまで、すべてのステレオおよびサラウンド制作に対応しています。Cubase/Nuendo、Logic Pro、Digital Performer、Pro Tools、Studio One、Reaperなど主要なDAWでのサラウンド設定方法についても、公式マニュアルで詳しく解説されているので、興味のある方は、ぜひご覧になってみてください。
複数のマイクポジション(デッカツリー、サラウンドアウトリガー、ハイトチャンネルなど)で収録されたインパルスレスポンスにより、あらかじめ定義されたポジションに音源を配置することができ、Synchron Stage Viennaで知られる奥行き、透明感、立体感のあるミックスを作成できるようになっています。
以上、Synchron Stage Reverbについて紹介しました。Synchron Stage Reverbは、ハリウッド映画のスコアリングで実際に使われている音響空間をプラグイン化した画期的な製品。100%本物のStage Aの響き、完璧なサウンド、極めて簡単な操作性、軽快なシステム負荷を特徴としており、オーケストラやシネマティック音楽はもちろん、ポップス、ロック、エレクトロニックミュージックまで、あらゆるジャンルで活用可能。VSLが長年培ってきた技術力と経験を結集し、「使いやすさ全振り」というコンセプトで開発されたこのプラグインは、複雑なパラメータ調整に悩まされることなく、直感的な操作で理想的な空間表現を実現してくれますよ。30日間の無料デモ版も用意されているので、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?
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