演奏者とリスニングポイントを自由に配置できる画期的なIRリバーブ・プラグイン、INSPIRATAの威力

これまでIRリバーブはDTMステーションでもいろいろと紹介してきましたが、また新たに画期的なIRリバーブプラグインが誕生しました。それが、ハンガリーのINSPIRED ACOUSTICS(インスパイアード・アコースティック)社のINSPIRATA(インスピラータ)というもの。ユニークなのは、演奏者のポジションと聴く人のリスニングポイントを自由に変更できる点と数多くの環境での残響感を再現できる点。簡易版であるLITE Edition(11,900円)、ステレオ対応であるPERSONAL Edition(24,900円)、7.1.2chのDolby ATMOS構成にまで対応するPROFESSIONAL Edition(72,900円)の3種類がありますが、ここではPERSONAL Editionを試してみました。

さまざまなホール、スタジオ、教会などの空間で好きなセッティングの音作りができ、小さい事務所、風呂場、ベッドルーム、地下のガレージ、空港……などなどさまざまな場所の音を再現。実際、どのように使い、どんな音が出せるのかを紹介するとともに、実は以前、東京大学の工学部に留学のため来日していたという、INSPIRED ACOUSTICSの技術者であるCsaba Huszty(チャバ・フスティ)さんにメールインタビューすることができたので、詳しい背景なども伺ってみました。

さまざま環境下で聴く位置を調整できる新感覚のリバーブプラグインINSPIRATA


開発したINSPIRED ACOUSTICSは、ブタペストにあるIT企業、Entel Engineering Research&Consultingの研究開発部門としては2005年に発足。音響、メディアテクノロジーに関連する研究開発を専門としており、オーディオ、音楽、映画、IT、および研究業界向けの受賞歴のある製品、メディアコンテンツ、およびソフトウェアソリューションを作成しているとのこと。

さっそくですが、INSPIRATAのデモ動画があるので、こちらをご覧ください。

いかがでしょうか?いろいろな機能が使えることは置いておいて、まずリバーブの音質が非常にナチュラルでクオリティが高いですよね。さまざまなパラメータが存在していますが、あまりリバーブの調整が得意でない人でも、プリセットが豊富に用意されているので、それらを使うだけでも音楽の完成度を上げることができそうです。

さまざまなプリセットが用意されている

では、まず演奏者のポジションやリスニングポイントを変更できる点から見ていきましょう。動画でも演奏者を動かしていましたが、これと同様にリスニングポイントをドラッグして動かすことができます。リスニングポイントをドラッグすると移動できる範囲が表示され、演奏者に近づけたり、遠ざけたりすることができます。実際にポイントを動かしてみると分かるのですが、まるで自分がそこにいるかのように自然に変化していきます。

リスニングポイントを変更できる

BASICというタブを押すと、その空間の画像の中央に矢印が表示されるのですが、これの向きを変えると自分の向いている方向を変更することができます。矢印が奥に向いていると演奏者に対して正面で音を聴いていることになり、うしろにすると壁を向いていることになります。ホールでのライブを観に行ったときの感覚にすごく近いので、自分で操作してみるとびっくりすると思いますよ。

自分が向いている方向を調整できる

実際にユーザーは、ホールに立てられたマイクの音を聴いているというイメージなのですが、このマイクの指向性を無指向性、単一指向性、双指向性に変更していくことができます。それぞれの指向性の中間をとったりなどスムーズに切り替えることができ、正面の音をメインに捉えたり、壁側の音を多く拾ったり調整可能。

マイクの指向性をシームレスに調整可能

ちなみに後半のCsabaさんインタビューで、ご本人が答えているのですが、INSPIRATAに搭載されているような機能は他社のリバーブにはないとのこと。どういった技術でこれが作られているか詳しいことは分からないですが、以下の画像のように多くのスピーカーとマイクを配置して測定しているようですね。音楽制作で使えるのはもちろんですが、ドラマや映画を制作している方、ライブのミックスをしている方などは、リアルな空間の響きを求めると思うので、この先プロの現場で見かけることが多くなりそうです。

スピーカーがたくさん並べられている様子を確認できる

次にいろいろな部屋を再現するというところについて見ていきましょう。これについてもデモ動画があるのでご覧ください。

動画にもあったようにBROWSERタブを選択し、好きな場所を選ぶことによって、ホールや教会、事務所やバスルームの残響を簡単に再現することができるのです。さまざまな部屋のデータは最初から付属しており、シチュエーションに合わせて選んでいくことができます。そのどれもがクオリティが高く、たとえば地下のガレージなんてものも存在し、これが使い方によっては、意外とアリで楽曲に特徴を出していけそうなんですよね。

さまざまな環境の部屋が用意されている

選んだ部屋の細かな調整は、FINETUNEの中央にある、GLOBALで操作することができ、キャラクターを残しつつも、理想的な環境を作ることが可能。ただ少し細かい設定になってくるので、こういったのが苦手という方でも操作しやすいように右側に重要なパラメータが表示されているのは嬉しいところ。部屋を選んで、メインのコントロールパネルを操作するだけでも、イメージに近い残響感を作れますよ。

メインのコントロールパネルだけでも十分な音作りが可能

さすがこのクオリティだけあって、部屋のライブラリのデータ容量は、約200GBと膨大。ダウンロードには、結構な時間が掛かるので、時間の余裕を持ってインストールしてくださいね。またプラグイン自体もそれなりにCPUパワーを使うので、トラックにインサートして使うよりも、センドリターンなどで使っていくのがいいと思います。

なお、現時点で発売されているのはLITE EditionとPERSONAL Edition、PREFESSIONAL Editionの3種類ですが、間もなく最大22.2chのイマーシブオーディオにまで対応するIMMERSIVE Editionも登場する予定です。すでにハリウッド映画では使用されているとのことですが、INSPIRATA製品ファミリーのフラッグシップバージョンで、今後Inspired Acousticsが作成するルームコンテンツをすべて無料で受け取ることができるライフタイムプランも付属しています。ほかのリバーブでは再現不可能なINSPIRATAをぜひ試してみてはいかがでしょうか。

INSPIRED ACOUSTICS ・ Csaba Husztyさんインタビュー


--INSPIRED ACOUSTICS.はハンガリーの会社だと伺いましたが、いつごろ設立され、どんなバックグラウンドのある会社なのでしょうか?簡単に会社紹介をお願いします。
Csaba:Entel Engineering Research & Consulting Ltd.は、1990年に設立された会社で、エンジニアリングとデザインを中心に展開しています。これまで、200社以上の企業、団体、NGOにサービスを提供してきました。2005年には、メディアテクノロジーと音響を専門分野とする製品開発のための研究開発部門を立ち上げ「Inspired Acoustics」として独立した企業となり、その音響の企画・設計・コンサルティング部門が、エンテルアコースティックスです。ここでは人工知能を音響に応用することを専門に研究開発を行っています。

--Csabaさんは、以前、日本で東京大学・工学部にいらしていたそうですが、当時どんなことをされていたのですか?
Csaba:私はハンガリーのブダペストで電気技師として修士号を取得しました。実は、幼い頃から日本語に興味があり、日本語の勉強をしていました。卒業後は、室内音響測定の分野で研究を続けていたのですが、日本の文部科学省の奨学金制度に応募してみた結果、給付してもらえることになり、坂本建築音響研究室(http://www.acoust.iis.u-tokyo.ac.jp/)の客員研究員として東京大学に参加したのです。その後、坂本研の博士課程に入り、2012年に修了しています(坂本研究室のメンバーページのフスティ・チャバで紹介されています)。主な研究分野は、室内音響の測定方法と室内音響パラメータでした。

--Csabaさんは、今回のINSPIRATAの開発にも関わっているのでしょうか?どんな立場で関わっていたのですか?
Csaba:私にとって新しい残響ワークステーションへの夢は、15年以上前から抱くようになりました。この残響ワークステーションは、音源もリスナーの位置も自由に動かせるというもので、これを実現させるために、実空間で残響をサンプリングしていたときは、とてもワクワクしていたのを覚えています。私の研究成果の一部は、INSPIRATAのアルゴリズムに応用されています。例えば、部屋のインパルス応答のクラリティ(C80)をリアルタイムで変更する方法です(学術論文。An algorithm to adjust the clarity of room impulse responses for subjective tests,  ).

--IRリバーブ自体は、最近多くのメーカーが出しています。一般的なIRリバーブと比べてINSPIRATAの特徴を教えてください。
Csaba:そうですね、確かにIRベースのリバーブは昔からたくさんあります。INSPIRATAには2つの全く新しい特徴があります。1つは、音源もリスナーもリアルタイムで空間を自由に動かせること。データはすべて測定に基づくものなので、直接音も含め、聴こえるもののグランドトゥルースとなります。2つ目の特徴は、音響デザイナーや音響コンサルタントが新しいホールを設計する際に使用するパラメータを、同じくリアルタイムで空間の音響を調整できることです。私たちは、音楽、オペラ、スピーチなどのリハーサル空間を設計する音響コンサルタントとして働いていますので、明瞭度(C80)、リスナーエンベロープメント(LEV)、見かけの音源幅(ASW)など、これらのパラメータを毎日使っているのです。INSPIRATAの残響エンジンは、これらのパラメータを変更できるようにしています。こうすることで、空間の響きを自由に変えることができるのです。壁や吸音などの間接的なパラメータを調整するのとは異なり、部屋の響きを直接、簡単に変えることができるのです。音響コンサルタントの夢であり、ミュージシャンの夢でもありますね。

--ビデオで見たところ、非常に自由度の高いUIで、空間内に音源を配置したり、リスニングポイントを指定できたりするようですが、このようなIRリバーブ、他社でもあるのでしょうか?
Csaba:このようなリバーブはまだ他には存在していないとも思います。さらに、私たちはこの機能を、INSPIRATAに搭載している50の空間すべてで利用できるようにしています。各スペースには何千もの測定位置があり、ルームファイルにデータが保存されています。また、INSPIRATAはすべてのサラウンドフォーマットに対応しています。2.0ステレオと同じCPUパワーで7.1.2のAtmosのサウンドを処理することができます。

--かなり多くのIRデータが入っていますが、こうしたIRデータも独自で作っているのですか?それともすでに存在しているものを利用しているのでしょうか?
Csaba:これまでは、すべて自分たちでサンプリングしていました。Inspired Acousticsのチームと一緒に測定した空間はすべて、私たち自身が足を運びました。同僚と一緒に、さまざまな空間で長い夜と昼を過ごしました。真っ暗闇の洞窟の地下、コンサートホール、スタジオ。また、すべて一貫した機器と測定手順で測定したので、どの部屋も同じクオリティです。INSPIRATAで使用する測定結果のポストプロダクションも、非常に複雑でした。たとえば、インパルス応答データのノイズ除去方法を独自に開発するために何年もかけています。現在も測定ライブラリの拡張を続けています。また、プロフェッショナルの方々とのコラボレーションを模索し、部屋づくりを志す方々と当社の赤外線記録技術を共有できることを楽しみにしています。また、測定した空間はすべて3Dモデルとしてグラフィックに取り込みます。

--IRデータは、フリーのものなど、いろいろなものがネット上にもありますが、それらを使うこともできるのでしょうか?
Csaba:音源やリスナーの位置が自由に移動できるようにするため、弊社のルームデータファイルは数千の測定位置を使用しています。また、測定には専用のマイクロホンやスピーカー、録音信号が必要です。現在、インターネット上で公開されているフリーのIRは、部屋の中の1~2カ所の位置を測定するだけで、空間を完全に捉えるほど詳細ではないため、INSPIRATAで使用することはできないです。

--ぜひ日本のDTMユーザーに向けて、一言コメントをお願いします。
Csaba:DTMステーションで紹介いただけたことに大変感謝しています。私個人でも、またはInspired Acousticsチームにいつでもお気軽にご連絡ください。日本での生活には、とても強い絆と尊敬、そして素晴らしい思い出があります。日本留学の奨学金に応募したとき、私は日本とハンガリーの架け橋になることを目標にしました。ある意味、このソフトはMade in Japanと言ってもいいソフトだと思っております。これからも、常にINSPIRATAを改善し、スペースを増やすことに尽力し、みなさんがINSPIRATAを愛し、楽しんでくれることを願っています。

 

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