誰もが待ちかねていたDAWへのAI機能の融合。先週リリースされたFL STUDIOの新バージョン、FL STUDIO 2025にアシスタントAIモデル「Gopher(ゴーファー)」なる機能が搭載され、FL STUDIOに関すること、音楽制作に関することなど、チャット形式で自由に質問し、その回答が得られるようになりました。Chat GPTやGemini、Copilotなどのような汎用AIではなく、FL STUDIOの公式マニュアルやナレッジベースなど、Image-Lineが管理する情報をもとに訓練されたFL STUDIO専用のAIチャットボット。これにより、断然使いやすくなるとともに、これまで気が付かなかった便利な機能なども発見できるようになりました。
さらに今回の新バージョンにはAI DeverbというAIによるリバーブ成分(反響音)除去機能も搭載されました。こにより従来はなかなか難しかったリバーブ成分だけを取り除くことが簡単にできるようになり、できたドライ音を元にして新たな空間での演出が可能になっています。そのほかにも、今回のFL STUDIO 2025にはさまざまな機能が搭載されています。さっそく試してみたので、新機能を中心に、どんなDAWに進化したのかを紹介してみましょう。

AIアシスタント機能などを搭載し、大きくアップデートされたFL STUDIO 2025
各DAWごとにさまざまなAI機能が搭載に
どのDAWも機能テンコ盛りに進化してきて、もうこれ以上機能はいらないや……とつい1年ほど前までは思っていましたが、AIの急速な進化により、状況が少し変わってきました。やはりDAWにもAI機能の搭載が待ち望まれるようになり、各DAWメーカーとも水面下での競争が激しくなってきているようです。
もちろん一言でAIといっても、機能としてはさまざまなものがありそうです。すでにACID ProやLogic ProではAIによる音源分離機能が搭載され、ステレオミックスされた音を簡単にステムに分解できるようになっています。また巷では自動作曲を行うSuno AIやUdioなどが話題ですし、Synthesizer VやVoiSona、VOCALOID 6など歌声合成もAIを使っています。もちろん、iZotopeのOzeneやNeutron、またLANDRなどもAIで音の解析をするし、Melsmaや先日記事にしたACE StudioなどもAIを用いたツールとなっており、今後これらとDAWとの連携なども期待されるところです。

FL STUDIO内にChat GPTのようなAIアシスタント機能、Gopherが搭載された
そうした中、今回のFL STUDIO 2025ではまったく違う方向のAIともいえるものが搭載されました。こんな機能がDAWに載るとは予想もしていませんでしたが、AIチャットボットのGopherは、革新的ともいえる機能ですし、リバーブ除去のAI Deverbも非常に使えるものとなっています。
AIをはじめ、数々の新機能を搭載したFL STUDIO 2025
では、さっそくそのAI機能なども含め、FL STUDI0 2025について順に見ていきたいと思いますが、まずは以下のビデオをご覧ください。
いかがですか?かなりいろいろな機能が追加されているのがわかるともいます。やはり目玉となるのがGopherやAI Deverbです。ほかにも、Loop StarterによるジャンルベースのループAI生成機能、Dynamic Mixer Tracksにより最大500トラックまでの拡張、クリップごとのオーディオ編集の改良、新しいマルチステージリミッター「Emphasis」、FL Studio Mobileの7つの楽器と29のエフェクトを統合したMobile Rack、コードプログレッションツールの新しいベースライン生成機能など、数多くの新機能が追加されています。
こうした新機能、他のDAWの場合は有償でバージョンアップしないと使うことができますが、FL STUDIOのユーザーなら、Image-Lineの生涯無料アップデート(Lifetime Free Updates)ポリシーにより、追加料金を支払うことなく、すぐにこれらの新機能をすべて利用可能でるのは嬉しいところです。その無料のバージョンアップを利用してFL STUDIO 2025をインストールし、使ってみたのでその新機能を順に見ていきましょう。
FL STUDIO専用AIアシスタント、Gopherの実力
FL STUDIO 2025の目玉機能である「Gopher」は、従来のヘルプ機能を大幅に進化させたAIアシスタントです。これまでのDAWでは、わからないことがあると公式マニュアルを読んだり、ネットで検索したりする必要がありましたが、Gopherがあれば、FL STUDIO内で直接質問してその場で回答を得ることができます。
Gopherの特徴は、汎用的なAIではなく、FL STUDIOに特化したAIだということ。Image-Lineが蓄積してきた膨大な公式マニュアル、FAQ、ナレッジベース、そしてユーザーからの質問データなどを学習しており、FL STUDIOに関する専門的な質問にも的確に答えることができます。また、多言語対応となっており、日本語での質問も可能です。

HELPメニューからGopherを選べばすぐに使える
たとえば、「EDMのドラムビートを作る方法を教えて」とか「ボリュームをオートメーションする方法は?」といった使い方に関する質問を日本語ですれば、すぐにFL STUDIOでの手順を丁寧に詳しく日本語で解説してくれます。

日本語で普通に聞くことができ、日本語で答えが返ってくる
さらに、「ドラムをより大きく聴こえるようにするにはどうしたらいい?」といった、より広範囲な音楽制作に関する質問にも対応し、処理方法だけでなくアレンジのコツまで教えてくれるのも面白いところです。

FL STUDIOの使い方だけでなく、音楽理論なども含め、音楽制作全般にこたえてくれる
実際に使ってみると、回答の精度の高さに驚かされます。単なるキーワード検索ではなく、文脈を理解して適切な回答を返してくれるため、初心者から上級者まで幅広いユーザーにとって有用なツールとなっています。ヘルプメニューからアクセスでき、ツールバーにボタンとして追加することも可能です。
ちなみにGopherで「このGopherは、どこの会社のAIを使ってるの?」と聞いてみたら、
Gopher(このAIチャット機能)は、FL Studioを開発しているImage-Line Software(イメージライン・ソフトウェア)によって提供されています。Gopherは、FL Studioの公式マニュアルやナレッジベースなど、Image-Lineが管理する情報をもとに訓練された「FL Studio専用のAIチャットボット」です。
外部の一般的なAIサービス(例:OpenAIやGoogleなど)の汎用AIではなく、Image-Lineが独自に運用・管理しています。
とのお返事(笑)。Chat GPTのAPIを利用した取ってつけたもの、というわけではなさそうですね。
AIを使ったリバーブ成分除去機能、AI Deverb
FL STUDIO 2025におけるAI系の機能としてもう一つ追加されたのがAI Deverbです。まあ、こうした機能はすでにiZotopeのRXのDe-reverbやWavesのClarity Vx Dereverb、Sonibleのproximity:EQ+といったものがあったので、珍しいものとはいえないかもしれませんが、DAWに標準搭載というのは初だと思います。

EdisonからDeverbを起動する
使い方はいたって簡単。FL STUDIOのオーディオエディタであるEdisonにおいて、ToolメニューからDeverbを選択すると、まずそれがボーカルなのか、一般的なものなのかを聞いてきます。それを設定すると、そのオーディオクリップを解析がはじまり、最後にどのくらい強く取り除くかを設定すれば簡単に、そしてキレイに除去することが可能です。

リバーブ除去の対象がボーカルか、それ以外かを選択
レコーディングした音にかなり反響音が入っている場合など、よりデッドな音にすることができるし、入手した素材にリバーブが掛かってしまっている場合など、これで取り除くことで、より自由度の高い素材へと生まれ変わります。

どのくらいの強さでリバーブ除去するのかを指定したら完了
Loop Starterで創作のスタートダッシュ
FL STUDIO 2025のもう一つの注目機能が「Loop Starter」です。これは、ボタン1クリックで曲作りのスタートができてしまうというユニークなもの。もともとFL STUDIOはほかのDAWと違い、トラック設定などまったくなしに、起動してすぐにドラムパターン制作ができるユニークなDAWですが、そのドラムパターン制作などを行うチャンネルラックにできたLoop Starterボタンをクリックすると、FL Cloudの膨大なサンプルライブラリから、いくつかを自動で読み込んで、メロディーやパターンを生成してくれるのです。

Channel Rackに追加されたLoop Starterをクリックするだけ
その際、ジャンルを指定すれば、イメージにあったものを簡単に作り出してくれるし、気に入らなければサイコロアイコンをクリックするだけで、別のパターンを生成してくれます。パターンをPlaylistに送信し、新しいパターンをランダム化してからそれもPlaylistに送信するという作業を繰り返すことで、簡単にバリエーションを作成し、トラックを構築することができます。

ボタンを押すとFL Cloudからループ素材を3つダウンロードして並べてくれる
この機能は、曲作りの出発点を探している人だけでなく、より経験豊富なプロデューサーが素早くインスピレーションを得たい場合にも非常に有用です。既存のプロジェクトに新たな要素を追加する際にも活用できるため、創作の幅が大幅に広がります。

ジャンルを選択すれば、それに合わせたループが並ぶ。気に入らなければサイコロアイコンをクリックして入れ替え
Dynamic Mixer Tracksで500トラックまで拡張
従来のFL STUDIOは140トラックという制限がありましたが、FL STUDIO 2025ではDynamic Mixer Tracksの導入により、最大500トラックまで使用できるようになりました。
さらに便利なのは、必要なトラック数を数値で入力して一度に追加できる機能と、使用されていないトラックを簡単なコマンドで削除して、扱いにくいプロジェクトを整理できる機能です。

最大500トラックまで使えるようになった
これまで大規模なプロジェクトでトラック数の制限に悩まされていたユーザーにとって、この改良は非常に歓迎すべきものです。オーケストラ楽曲やバンド録音など、多数のトラックを必要とする作業が格段にやりやすくなりました。
改良されたオーディオクリップ編集機能
FL STUDIO 2025では、オーディオクリップの編集機能も大幅に改良されました。クリッププロパティから直接ストレッチ、ピッチ変更、リバースといった処理が行えるようになっています。
これにより、オーディオ素材の加工がより直感的で効率的になり、創作フローが大幅に改善されました。外部エディタを使わずに、FL STUDIO内で完結して様々なオーディオ処理が行えるため、作業の中断が減り、より創造的な作業に集中できるようになっています。
FL Studio Mobile機能の統合「Mobile Rack」
FL STUDIO 2025には「Mobile Rack」という新機能も搭載されており、iPhoneやiPad、Androidなどで使えるDAWとして人気のFL Studio Mobileの7つの楽器と29のエフェクトにアクセスできます。Minisynth、Wow & Flutter、Tape Stopなどを含む、これらのツールをスタックして使用することも、単体で使用することも可能です。

FL STUDIO Mobile搭載の音源およびエフェクトが利用可能になった
これにより、モバイル版で親しんだサウンドやワークフローをデスクトップ版でも活用できるようになり、プラットフォーム間の連携が強化されました。

7つのインストゥルメントと29のエフェクトが利用可能
その他の重要な改良点
FL STUDIO 2025では、コードプログレッションツールに新しいベースライン生成機能が追加されました。これにより、任意のコードプログレッションに合わせて瞬時にベースラインを生成できます。

新たに搭載されれたプラグイン、BassDrum
また、BassDrum、Sakura、Drumaxxなどの複数のプラグインが新しいベクトル化されたユーザーインターフェースに更新され、よりスケーラブルで洗練されたデザインになりました。

新たに搭載されれたプラグイン、sakura
IL Remoteに代わって、FL Studio Remoteが新たに導入され、より密接なワークフロー統合と強化されたリモートコントロール機能を提供します。
Patcherには新しいVFX Scriptエフェクトプラグインが追加され、Patcherのセットアップを複雑なオーディオアプリケーションに変換することができるようになりました。
またFL STUDIO 2025では、マスタリングウィンドウでリアルタイムプレビューがサポートされました。コンプレッション、EQ、リミッター設定を調整する際に、FL STUDIOがオーディオ出力を即座に更新します。

マスタリングウィンドウでリアルタイムにEQやコンプなどを動かしながら音の確認ができるようになった
これにより、マスタリング作業がより直感的になり、設定変更の結果を即座に確認しながら作業を進めることができるようになりました。
以上、FL STUDIO 2025の新機能をざっと紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?GopherはFL STUDIO専用のAIチャットボットということもあり、Chat GPTなどを使うのと比較して、抽象的な話ではなく、FL STUDIOの細かな機能まで正確に教えてくれるというのが便利なところ。AIモデルなので、間違ったことを言う可能性もある、とのことですが、実際に試した限りではとっても正確な回答ばかりでした。ただ、Chat GPTなどと比較すると、返事を得るまでにかかる時間が長く、質問を投げてから10秒程度待たされるという感じではありました。
一方、Loop Starterも非常に便利で、いわゆる自動作曲とは違い、曲作りのキッカケを作り出してくれるという意味では、多くのユーザーにとって、画期的な機能として使えるものだと感じました。
こうした機能もすべて、FL STUDIOのユーザーであれば、無料ですぐにアップデートして使うことができるので、ぜひ試してみてください。また新規に購入するにしてもFL STUDIOの基本モデルであるFL STUDIO Producer Editionに7個のプラグインが付属したFL STUDIO Signature Bundleで36,300円。しかも他のDAWからの乗り換える(別にいま使ってるDAWのライセンスをはく奪されるわけではないので、そのまま使い続けられます!)FL STUDIO Signature Bundleクロスグレードなら20,900円で入手できます。今後これで生涯無償でバージョンアップしていくことができるのですから持っておいて損はないと思います。
【関連情報】
FL STUDIO製品情報
【価格チェック&購入】
beatcloud ⇒ FL STUDIO
※FL STUDIOは生涯無料アップデートで、常に最新版へバージョンアップすることができるため、製品名にバージョン表記はありません。
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