ねじ式さんと遊ぶ、奥田民生・超カンタンカンタビレ、8トラックMTRのTASCAM DP-008EX-OT

先日、奥田民生さんによるレーベル、RAMEN CURRY MUSIC RECORDSから「DP-008EX-OT」なるオレンジ色の8トラックポータブルMTRが発売されたのをご存知ですか?これは奥田民生さんデザイン監修のレコーダーで、この中には「超カンタンカンタビレ」と題し、ユニコーン時代の曲「働く男」をセルフカバーし、全パートとも民生さんが演奏したマルチトラックデータが収録されているという、過去にない非常にユニークな企画製品。

実はこれ、TASCAMが2013年に発売した小型の8トラック・デジタルレコーダー、DP-008EXをベースに、奥田民生モデルに仕立てたというTASCAMと民生さんのコラボ企画なんです。先日、発売直前のDP-008EX-OTを東京・多摩センターにあるティアック本社のスタジオで見てくるとともに、民生さんの大ファンだというボカロPのねじ式@nejishiki0221)さんと一緒に遊んできたので紹介してみましょう。


ボカロPのねじ式さんと、DP-008EX-OTで遊んでみた(右は3Dプリンタで作成した奥田民生さん人形)

本題に行く前に、DP-008EX-OTの企画について知らない方も多いと思うので、まずは簡単にその背景について説明しておきましょう。


RAMEN CURRY MUSIC RECORDSから発売されたDP-008EX-OT

奥田民生さんは、2017年秋に、「カンタンカンタビレ」というプロジェクトをスタートさせています。これは都内某所の秘密基地スタジオで、アナログ機材を駆使しながら宅録スタイルでレコーディングし、その模様をYouTubeに投稿するという企画で、他アーティストへ提供した楽曲を中心に1年以上を掛けて録音。その中から11曲をセレクトし、収録したアルバム、「カンタンカンタビレ」が9月にリリースされ、大きな話題になっていました。


5年前に発売されたオリジナルモデルであるTASCAM DP-008EX

そのプロジェクトの特別版ということで、アナログ機材じゃないけれど、とっても小さなレコーダー、DP-008EXだけで1曲を作ろうというのが「超カンタンカンタビレ」。前述のとおり、その曲として、ユニコーンの「働く男」を取り上げているのですが、DP-008EXでレコーディングしたままのマルチトラック状態で、発売してしまおうというのが、今回のDP-008EX-OTなんです。そのトラック構成は

トラック1 ドラムキット①
トラック2 ドラムキット②
トラック3 ベース
トラック4 空白
トラック5 ギター①
トラック6 ボーカル
トラック7 ギター②
トラック8 キーボード

となっていて、なぜかトラック4だけが抜けているというのもちょっと面白いところ。そう、ここにユーザー自らボーカルを入れたり、ギターをレコーディングするなどして、民生さんと一緒にセッションしようという意図があるんですよね。

これら7つのトラックのすべてを民生さん自身が演奏し、歌い、レコーディングしているのですが、そのレコーディングの様子は、奥田民生「DP-008EX-OT」スぺシャルサイトにすべてあります。これをご覧になると面白いですが、たとえばその第1回目であるドラム収録は以下のような感じです。

さて、そのDP-008EX-OTを、民生さんの大ファンだというボカロPのねじ式さんと一緒に触ってみました。ねじ式さん自身、かなり以前からカセットテープのMTRを使ったり、ハードディスクレコーダーなどを駆使してきたミュージシャン。そうしたねじ式さんから今回のDP-008EX-OTはどのように見えるのでしょうか?

--DP-008EX-OTの話に入る前に、ねじ式さんのMTR経験などについて伺いたいのですが、初めてのレコーディングっていつ頃でしたか?
ねじ式:曲を録るという意味では、ラジカセ2台を並べてダビングしながら……というのが最初でした。ミキサー替わりにヘッドホンの分岐ケーブルを逆にしてQY10とラジカセをミックスして別のラジカセに録って……というのが原体験ですね。その後MTRというモノの存在を知り、YAMAHAのCMX100IIIという4トラックカセットレコーダーを使うようになり、結構多くの作品を作っていきました。


ちょっとした懐かしさも感じる、DP-008EX-OT

--今回のDP-008EX-OTは、まさにカセットテープのMTRに通じる懐かしさもありますよね。
ねじ式:カセットMTRのころは、いまのDAWなどとは違い4トラックしか録れなかったので、QY10の音をまず録音して、ここにエレキベースとギターを入れてから、Hiを強めにしてからピンポンダビングを行い、そこにもう1本のギター、ボーカル、コーラスを録って……なんてことをしていました。バンドのレコーディングも、そのMTRで行っていて、できあがった作品を普通のカセットテープにダビングする形でアルバムを作って販売したりもしてました。それに比べると、DP-008EXは圧倒的に高音質だし8トラックあるので、断然高機能、高性能ですが、懐かしい感じはしますよね。

--コンパクトではあるけれど、デジタルレコーディングであるだけにカセットテープレコーディングと比較するとS/Nは圧倒的にいいし、8トラックあるとだいぶ余裕も出ますよね。
ねじ式:4トラックか8トラックかでは、だいぶ違いますね。当時、テープを販売したお金でTASCAM 488という8トラックのカセットMTRを中古で買って、スタジオでドラムを録ったりもしましたね。この時代がかなり長かったのですが、その後RolandのHDDレコーダー、VS-1680を経てCubaseへと少しずつスライドしていきました。最近はTASCAMのオーディオインターフェイス、US-16×08とCubaseという組み合わせでの制作が中心となっています。もっともVS-1680を使わなくなったのは、つい10年前なので、やはりMTRというのは自分にとっては、すごく馴染み深く、扱いやすいレコーディング手段なんですよね。


普段、ねじ式さんが利用しているオーディオインターフェイス、US-16×08

--今回、民生さんのDP-008EX-OTを触ってみていかがでしたか?
ねじ式:ボクが民生さんの大ファンだ、ということを以前から言っていたこともあり、TASCAMさんからお声がけいただき、DP-008EX-OTを1週間ほど使ってみたんですよ。実はDP-008EXという機材そのものの存在をそれまで知らなかったのですが、まさにカセットテープMTRの質感であり、ルックスもいいし、気に入りました。そして民生さんの「働く男」を聴いて、ちょっとビックリしました。各レイヤーのレベルの高さに驚愕します。


収録されている各レイヤーのレベルが非常に高い!?

--各レイヤーのレベルの高さというのは?
ねじ式:DP-008EX-OTでミュートとかソロを使いながら、各トラックを聴いてもいいんですが、より真剣にチェックするために、それぞれのトラックをWAVファイルで書き出した上で、聴いてみたんですよ。全チャンネル鳴らしていい曲だな……と思っていたものが、各トラックごとに1作品なんじゃないか…というほど、美しく仕上がっているんですよ。でもテンポ的にはそれぞれがヨレていたりして、別々のグルーヴを持って、それをミックスすると全体としてまとまる。いい曲というのは、いいレイヤーで構成されているんだな、というのを思い知らされますね。

--一般のリスナーは普通、マルチトラックのパラのデータって聴く機会がほとんどないので、とても面白い企画ですよね。
ねじ式:民生さんが自ら演奏しているドラム、ギター、ベース、キーボード、そしてボーカルと、それぞれ個別に聴けたり、自由にミックスして、自分だけの作品にできるというのは民生さんファンにとっては最高に嬉しいツールですが、音楽制作をするミュージシャンにとっても、人の手法が分かるという意味で、とても有用なツールだと思います。ボクも4トラックのカセットMTR時代から、録音しては、1つ1つミュートして、音をチェックしたりしていましたが、求めていたのはこんな世界観だったな……と改めて実感しました。自分が好きだったアーティストのパラを聴くことができ、自分は間違ってなかったんだな、とも思いました。


DP-008EX-OTは民生さんファンにとっても、多くのミュージシャンにとっても有用なツール

--ねじ式さん自身、かなり遊べた、という感じですね!
ねじ式:はい、それはもちろん。民生さんのファンって、音楽をより深く聴く人が多いという印象を持っています。単なるシンガーとして捉えるのではなく、実際彼の弾くいろいろな楽器を自分でコピーして弾いたりする人が多いな、と。民生さんみたいな曲を作ってみたい、ギターの弾き語りをしたい、彼の原材料を見てみたい……という人は少なくないと思います。そういう人にとっては、まさに、というツールなんですよね。ボクらでも、人のステムデータを聴く機会というのはなかなかないですからね。ただ、ときに人とステムを交換することがあって、ちょっと恥ずかしくもあるんですが、「こういう風にするのか!」って勉強になったりもするんですよね。ラーメンの秘伝のレシピーを覗き見る感覚というか……(笑)。

--ところでDP-008EXの存在を知らなかったということは、今回、ねじ式さんにとっても初の操作だったと思いますが、その操作性などはいかがでしたか?
ねじ式:届いたときに、まずは説明書なしにどれだけ使えるものなのか……と思って試してみたところ、まったく問題なくほぼすべての操作ができました。その意味でも、昔ながらのMTRの使い勝手を踏襲した、すごく分かりやすい機材だと思いました。もちろん、自分でもレコーディングしてみましたが、音もいいし、エフェクトもいろいろと使えて便利ですね。ただ、すべて打ち込みで完結させているボカロPさんなどにとっては、なかなかこれの面白さが見えないかもしれません。


特にマニュアルがなくても、すぐに使える分かりやすい操作体系

--確かにDP-008EXにはMIDIの打ち込み機能とかはないですからねぇ……。
ねじ式:この辺は人によって音楽の制作手法は異なるので、向き不向きはあると思います。ボクの場合は生楽器を使うことが多いので、こうしたコンパクトで手軽なレコーダーはモチーフ書きにも最適だし、カッコいいフレーズがパッと思いついて弾きたいときにこれでレコーディングしておいて、あとでCubaseなどのDAWに貼り付けて使うなんていうのにも便利。いろいろなDTMユーザーにとっても有用なツールだと思いますよ。

--コンテンツとしての民生さんのデータが素晴らしいのはもちろんですが、この機材単体として、ほかに思いつく活用法ってありますか?
ねじ式:いくらでもあるんじゃないでしょうか?たとえば、ボクが昔、カセットMTR時代にやっていたように、これをリハスタに持ち込んでドラムを録り、ベースを録り、ギターを録って……というのもいいですし、全部をスタジオで録音しなくても、残りは自宅で……なんていうのもいいですよね。また音楽を共同制作している場合、どうしてもDAWが苦手という人もいるじゃないですか。そんな時でもDP-008EXなら昔のMTR感覚で使えて、それをWAVで送ってもらえれば、DAWとも連携は簡単。その橋渡しツールとしてもいいですよね。一方で、自宅ではCubaseなどのDAWで制作しているけれど、結構スタジオでも作業するという人にとっては、外への持ち出し用ツールとしてDP-008EXを使うのも手だと思います。とくにデスクトップPCで作業している人にとってはコンパクトで便利ですよね。


黒い通常のDP-008EXも、「働く男」が収録されているDP-008EX-OTも、スペック的にはまったく同じ

--もっとも、単に外でレコーディングするのなら、iPhoneやiPadなどでDAWアプリを立ち上げて使うという手もあると思いますが……。
ねじ式:確かにそれも一つの手なんですが、DP-008EXは内蔵マイクがとても優秀であるというのも見逃せない点です。また、iPhoneでレコーディングをしていたところに、LINEでメッセージが「ピコーン」と届いて中断するというのも嫌なんですよね。音が途切れるというのもそうですが、こうした邪魔が入ると、頭も途切れちゃう。そういう意味で、ネットと接続されていないシンプルなデバイスが、集中力を維持するという面でいいんですよね。このDP-008EXならギターケースのポケットなどにも入るサイズなので、持ち歩きやすいという面でもいいですね。

--ねじ式さんとしては、今後もDP-008EX-OT、使っていきそうですか?
ねじ式:これはとても便利であることを実感できたので、活用していきたいですね。間違えて、民生さんのデータを消してしまわないようにしなくては…と思うところですが、ぜひ、いろいろと活用していきたいと思っています。


今後もDP-008EX-OTを活用していくと話す、ねじ式さん

--ありがとうございました。

【関連情報】
奥田民生「DP-008EX-OT」スぺシャルサイト
ねじ式 Official website
DP-008EX製品情報

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