緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだスタジオに行ってセッションする、というのを気軽にはしにくいのが実情です。そんな中、自宅に居ながらバンドメンバーがネット越しに接続してセッションできるという夢のようなサービス、SYNCROOMを6月29日にヤマハがリリースし、誰もが無料で使えるようになりました。これを有効的に利用するにはWindowsかMacとともにオーディオインターフェイスを用意し、光回線を利用する……など多少ハードルはあるものの、多くのDTMユーザーにとっては即タダで利用できる画期的なサービスだし、「DTMはちょっと……」と敬遠してきた人でも、SYNCROOMのために各種機材を導入しても損はないと断言できるシステムです。
もともとNETDUETTOβという名称で実験的にサービス展開されてきたものが、正式リリースされた格好ですが、このタイミングでWindows版、Mac版に加えて、Android版も登場し、さらに手軽に利用可能となったのです。Android版はまだβ版という扱いではありますが、実際に試してみたところまったく問題なく使えるレベルで、機材が苦手なバンドメンバーにもこれなら簡単に使ってもらえそうでもあります。SYNCROOMになってNETUDUETTOβと何が変わったのか、Andoroid版はどのように使うのかなど、試してみたので紹介していきましょう。
ネット越しでのリアルタイムセッションを可能にするヤマハのSYNCROOMが正式リリース、Android版も登場
先日「コロナ禍で苦しむミュージシャンの救世主となるか?ヤマハがネット越しのセッションツール、SYNCROOMをリリースする背景」という記事でも紹介したSYNCROOM。ヤマハのプレスリリースでは「2020年6月ごろ正式公開予定」とされていましたが、ギリギリ6月ということで、本日6月29日に公開されました。
従来からあったNETUDETTOβを進化させた形で登場したSYNCROOM。画面はMac版
これまでNETDUETTOβを使ったことがない人にとっては、ネット越しのセッションと言われても「ふ~ん」と思う程度かもしれません。が、これが画期的なものであることをすぐに実感できる簡単な実験があります。それは最近、みなさんがよく使っているであろうZoomやSkype、LINE通話、Microsoft Teams、Google Meet……などのオンライン会議システムで「セーノ」と掛け声とともに、みんなで「パン」と手を打つ実験です。やってみると分かりますが、驚くほどにズレるんですよ。ひどいと1拍分くらい。時間にすると300msec(0.3秒)とか、500sec(0.5秒)といったレベルですね。普段、通話においては、まったく違和感を感じないオンライン会議システムですが、これで音楽のセッションができないことを痛感すると思います。
Windows版のSYNCROOM。機能的にも見た目もMac版と同じ
最新の技術を用い、その音の遅れをできる限り小さくするとともに、CDレベルの音質を実現し、最大5人まで(ルーム連結機能を用いることで最大10人)一緒にセッションできるようにするというのがSYNCROOMなんです。初めて使うと、多くの人が感動すると思うのですが、バンドメンバー5人で、SYNCROOMに接続してみたとしましょう。するとヘッドホンからメンバーの音が聴こえてくるわけですが、ギターのチューニングする音、ベースアンプの音量調整をしてる音、ドラムが調整のためにドンドンと鳴らす音……そんなさまざまな音が聴こえてきて、目をつぶれば、そこは完全なリハスタ。
マイクを通して「みんな、音をちょっと止めて!じゃあ、最初はこの曲からちょっとやってみようか!」なんて言ってみんなで演奏することができちゃうんですよ。しかも、スタジオ代もかからずタダで。ただし、ZoomやSkypeと違って映像はなしで、あくまでも音のみ。どうしても映像が必要であれば、Zoomなどを併用し、Zoomの音をミュートすればOK。また、前述のとおり、Zoomなどは音とともに映像も遅れがあるので、SYNCROOMの音と映像は少しズレがあるので、その点は諦めてくださいね。
ちなみに映像なしにSYNCROOMの音だけでOKということなら、自宅でパジャマのまま演奏、なんてこともできるし、深夜遅くまでセッションして、疲れたら、回線を切って解散し、即ベッドへ……なんてことができるのもSYNCROOMの大きな魅力。リハスタだったら、練習終わったら、片づけて、その後ファミレスでも行って……帰宅したら朝になっちゃいそうですが、気軽にセッションできるという点では、Zoom飲み会などとも共通する点があるかもしれませんね。社会人になったらバンド活動なんて無理……なんて風に思っていた人でも、これなら可能性が出てくるのではないでしょうか?
さて、そのSYNCROOM、リリース直前にちょっと使わせてもらったところ、基本的にはNETUDUETTOβと限りなく同じです。ただし、最初アカウントを作成し、ログインしなくてはいけなくなったのが大きな違い。この点の理由については前回の開発者インタビューの記事でも紹介したとおりです。
SYNCROOMの正式リリースのタイミングでAndoroidベータ版も登場
今回の接続実験では、横浜にある私の自宅と、浜松にいる開発者であるヤマハの原貴洋さんの自宅を接続してみたのですが、お互い、オーディオインターフェイスを経由し、コンデンサマイクを使って話をした感じでは、まるで目の前にいるような感じです。数値をチェックすると25~26msecのレイテンシーとなっていたので、いかに遅延が少ないかが分かると思います。
NETDUETTOβの違いの一つはアイコンが新しくなったこと
SYNCROOM内で使うアイコンのデザインが大きく変わっていましたが、原さんによると「アイコン以外見た目は大きくは変わらないですが、より安定したセッションが行えるよう、内部的にはいろいろと改良を加えています」とのこと。だから、とくに調整していなかったのに横浜ー浜松で25~26msecを簡単に実現していたんですね。一方で、NETDUETTOβにはなかった、まったく新しい機能も3つ追加されています。
1つ目はメトロノーム機能が搭載されたこと。画面左側のメトロノームタブを開き、テンポを設定できます。接続したメンバーのうちの一人がメトロノームを鳴らせば、そのクリックが全員に届くのでそれに合わせてセッションすることが可能になります。
2つ目の新機能は録音機能です。マスターアウトのところにRECというボタンができたので、これをクリックすると全員の音をミックスした結果の音を録音していくことができます。録音を開始すると、そのことが全員に通知されるというのも一つのポイントですね。ちなみに録音されたデータはWindowsの場合もMacの場合も、ミュージックフォルダ内にできるSYNCROOM_RECというフォルダの中にWAVファイルで保存されます。
画面左下のマスターアウト部分にRECボタンが搭載され、こを使うことで録音できるようになった
そして3つ目はインプットにRevというパラメータが追加されたこと。そう、これは入力に対してリバーブをかける機能で、これを使った場合、自分でリバーブが入った音をモニターできると同時にセッション相手にもリバーブがかかった音が届く形となります。これまでのNETDUETTOβでボーカルにリバーブをかけたい……といった場合、DAWと組み合わせてVSTプラグインとして使うなど、いろいろ面倒な設定が必要でしたが、これなら一発簡単です。
ちなみに、SYNCROOMもNETDUETTOβと同様、VSTプラグインとして使うことはできます。インストール方法もNETDUETTOβと同様で、インストーラ内に本体ソフトとは別にVSTPluginsというフォルダが用意されているので、これをインストールすることで、VSTとして使うことが可能になります。
さて、今回のSYNCROOMの最大の目玉は、なんといってもAndroidに対応したベータ版が登場したということ。なんでiPhoneがなくてAndroidなの?という疑問はいったん置いておき、先週、ほとんどタダのような値段で楽天モバイルを通じてGETしたGalaxy A7が手元にあったので、これにAndoroidベータ版をインストールして試してみました。
SYNCROOMをインストール後、まず各種セッティングを行っていく
インストール後、各種設定、回線チェックなどを行った上で、実験的にデスクトップPCとの接続もできるように、SYNCROOMで別アカウントを作成。
回線チェックを行うことでSYNCROOMに適した通信速度が確保できているかを確認できる
起動後にログインすると、事前にWindowsで作成していたルームが見えます。ここにパスワードを入力しSYNCROOM内で使うアイコンを選択。続いてデバイスの設定画面で入力音量や再生音量を設定した上で入室すると……、Windows側のSYNCROOMと接続できました。
使ったのは自宅のWi-Fi環境で、同じLAN内。実際同じ机の上に置いていたので立ち上げた瞬間に、スマホのスピーカーからの出力がWindows側に接続したコンデンサマイクに入ったためハウってしまいましたが、接続はバッチリ。Android側のUIはWindowsやMacのものとはまったく異なります。
接続すると自分が下中央のアイコン、接続相手は画面上のほうに小さいアイコンで表示される
自分が画面下中央の大きなアイコンとなっていて、接続相手は上のほうの小さなアイコン。浜松の原さんともつないだ時の画面が以下のものです。このアイコンを下の自分に近づければ大きな音に左に持っていけば左側、右に持っていけば右から音が聴こえるというUIになっているので、Windows/Mac版より直感的にバランスをとることが可能です。
接続相手のアイコンを自分に近づければ大きな音に、左右に振ればPANの調整が可能
UIは違っても機能はほぼWindows/Mac版と同様で、リバーブをかけることもできるし、録音することも可能。またメトロノームを鳴らすことも、Android内に入っているWAVファイルなどを再生して、SYNCROOMのセッションメンバーに送ることも可能です。
気になるレイテンシーですが、Wi-Fi接続だからか、Galaxy A7だからなのか、40msec程度あり、やや大きめ。リズム担当だとちょっと厳しいかもしれませんが、ボーカルで参加するのであれば、やや後ノリという感じで十分実用範囲内ではないでしょうか?
iRig Streamを接続したところ、SYNCROOMで使うことができた
デバイスの詳細設定画面を見ると、オーディオインターフェイスの変更もできるようになっているんですね。試しにAndoroid対応を正式に打ち出しているIK MultimediaのiRig Streamを使ってみたところ、特に問題なく動作しているように見えます。一方で、正式対応とは言っていないSteinbergのUR22CやRolandのRubix24を接続したところ、Androidとして認識して、普通の音楽プレイヤーなどでは問題なく使えたのですが、SYNCROOMのAndroidベータ版においては、サンプリングレートがズレたような現象が起こってしまい、うまく使うことができませんでした。
UR22Cなども設定はできたが、うまく使うことはできなかった
この点について原さんに伺ったところ「Androidスマホではヘッドホン端子がなく、USB Type-Cにヘッドセットを接続する端末も多いので、それらでも使えるようにすることを想定しています。一方で、現状ではUSBオーディオインターフェースは動作対象としていません。ただ、この辺もユーザーのみなさんからの情報なども参考にしながら調整を進めていきたいです」とのこと。
でもなぜ、iPhoneではなく、Andoroidなのでしょうか?
「今回、スマホ対応させた最大の目的は5G環境での実証実験なのです。現在iPhoneは5Gへの対応をしておらず、5Gを使えるのがAndroidであったことからAndroidを優先させました。光回線とWi-Fiの組み合わせでも十分ご利用いただけると思いますが、4G/LTE回線の場合はレイテンシーが大きくなるので、お勧めできません」と原さん。今回、私が実験に使ったGalaxy A7は5Gに対応するスマホではありませんが、SYNCROOM Androidベータ版が出たおかげで、利用できたということのようです。
今後ぜひiOS版の登場も期待したいところですが、まずは誰でも無料で、Windows版、Mac版、そしてAndoroidのベータ版のSYNCROOMを利用できるので、試してみてはいかがでしょうか?
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SYNCROOMサイト