アナログ的な太いサウンドが出せるボコーダー、DeeVocoderをDOTEC-AUDIOがリリース。TruePeakを抑える専用のプラグインDeeTPも同時に誕生

春と秋に開催される音系・メディアミックス同人即売会[M3]のタイミングで新製品を発表することが多い日本のプラグインメーカー、DOTEC-AUDIOが、今年の秋も新製品をリリースしました。今回はDeeVocoderDeeTPの2製品を同時リリース。名前からも分かるとおり、DeeVocoderはDOTEC-AUDIO初のボコーダーで、既存のプラグインタイプのボコーダーと比較して、アナログボコーダーにかなり近い感じの太いサウンドが出せるのが特徴となっています。

一方、DeeTPは、TruePeakを抑えるための専用プラグイン。一般的にTruePeakを抑える機能はマキシマイザーの中に搭載されていますが、DeeTPは、あえて専用に切り出したもの。これを使うことで、自分の好みのマスタリングツールを利用しつつ、MP3やAACなどにエンコードする際にクリップしてしまう事故を防ぐことができる有用なツールです。それぞれ、どんなコンセプトで開発したのか、他の類似プラグインと比較して、どんなメリットがあるのかなど、開発者であるDOTEC-AUDIOのフランク重虎さん、飯島進仁さんにお話しを伺いました。

新たに発表・発売されたDeeVocoder(左)とDeeTP(右)

DOTEC-AUDIOがボコーダーを出すと聞いて、「ついに楽器系のプラグインも出してきたぞ!」とワクワクしてきたのですが、まずは、そのDeeVocoderを使ったデモビデオがあるので、こちらをご覧ください。

かなりカッコいいサウンドのボコーダーで、パラメーターの調整によって、音も大きく変化するのが楽しいところ。3バンドのEQのようなフェーダーで大きく雰囲気が変わるし、FORMANTパラメータでも声質が大きく変わるのが分かります。ボコーダーというと、なんとなくマイクの付いた鍵盤楽器を想像してしまうのですが、このDeeVocoderはエフェクト。先ほどのビデオにもあったとおり、キャリア(シンセやギターの音)とモジュレーター(声)をサイドチェーンでつなぐ形のエフェクトになっています。

ボイスのトラックにインサーションで入れて、サイドチェーンをONにする

具体的にはDAWのモジュレーター、つまり声のトラックにインサーションエフェクトとしてDeeVocoderを挿します。このとき、DAW側でDeeVocoderのサイドチェーンをONに設定。その上で、キャリア側の出力先をDeeVocoderのサイドチェーンに設定するのです。もし、キャリア側の出力先にサイドチェーンを設定できない場合はセンドエフェクト先として設定した上で、キャリアの音量レベルを下げておくという形でも対応可能です。

シンセなどの音のトラックの出力先をDeeVocoderのサイドチェーンに設定する

ところでDOTEC-AUDIOというと、DeeMAXに代表される、「1パラメーターで簡単調整」がウリのエフェクトが多い中、このDeeVocoderは過去最大級(正確にはDOTEC最初のソフトであるDeeCompのほうがパラメーターは多いですね)のパラメーター数となっているものの、音作りは直感的で簡単です。でも、すでに他メーカーから数多くのプラグインボコーダーがある中、「なぜDOTECが…!?」と思ったのも正直なところ。その辺について、重虎さんに聞いてみました。

「確かに、ボコーダーのプラグインは、すでにいろいろなメーカーが出しているんですが、どのメーカーのソフトもFFT型のものばかりで、自分が使いたいフィルターバンク型のものが見当たらなかったのです。それならば作ってしまおうと開発したのがDeevocoderなのです」と重虎さん。

オンライン会議の形でお話を伺った開発者のフランク重虎さん

そう、ボコーダーに詳しい方ならご存知の通り、ボコーダーにはFFT型とフィルターバンク型の2種類があり、アナログのボコーダーはすべてがフィルターバンク型、ソフトウェアタイプのもののほとんどがFFT型となっていました。ただ、最近のユーロラックブームや、アナログシンセの復活ブームなどから、アナログボコーダーへの回帰現象が起こっており、太い音が出せるフィルターバンク型に注目が集まっていたのです。

8バンド、16バンド、32バンドのどれを設定するか、自由に選ぶことができる

「FFT型、フィルターバンク型、それぞれにメリット・デメリットがあります。FFT型の場合、バンド数が非常に多く、たとえば512バンドといった形で、スペアナみたいに周波数を細かく分けて処理するため、分解能が高く、言葉が鮮明になるのが大きなメリットです。しかし、FFTだと、一定時間のサンプリングに対してフーリエ演算を行うため、どうしても遅延が生じてしまうのです。それに対し、フィルターバンク型は、音を貯める必要がなく、入ったものがそのまま出ていくからレイテンシーがありません。ただ、バンド数が多くなるとアナログ回路の場合、その分非常に大きな回路になってしまいますが、ソフトであれば、そうした心配もいりません。32バンドの場合モジュレータとキャリアで64基、ステレオで128基のフィルターを束ねて搭載していますが、個々の処理を非常に高速にしています」と重虎さんは説明してくれました。

その言葉通りで、リアルタイムにマイクに向かってしゃべり(歌い)ながら、鍵盤などでインストゥルメントを弾くことで、ボコーダーの演奏が可能になり、ここではレイテンシーはまったく感じません。また、これまであったプラグインのボコーダーとは明らかに反応が違い、昔ながらの太いサウンドです。なぜ、FFT型とこんなに音が違うのでしょうか?

FFT型(左)は各バンドごとにズバリと切れるがフィルターバンク型(右)はクロスオーバーする

「FFT型は、分割された周波数帯域ごとに、どのくらいのレベルにするかをズバズバと調整するため、隣の周波数とのクロスオーバーがありません。そのため、どうしてもデジタルなまりというか、デジタル臭さが出て音が細くなってしまうのです。それに対し、フィルターバンク型はカットオフ周波数をピークに山形になっているバンドパスフィルターを束ねているので、そのすそ野とすそ野の間いがクロスオーバーする。そこがアナログっぽい音の太さに影響してくるのです」と重虎さんは論理的に説明してくれました。

実際に試してみると分かりますが、FFT型のボコーダーだとコーラスのようなボイスハーモナイザーみたいなサウンドを作ることができ、生の歌声を元にピッチ調整したようなサウンドになるのに対し、フィルターバンク型のDeeVocoderは、野太いロボットボイスなんかが得意です。どちらがいい、悪いではなく、その曲がどちらに合うかというところではありますが、バリエーションとしてDeeVocoderを持っておいて損はないと思います。

同じく出雲重機さんのデザインのため似たテイストのDeeVocoder(左)とDeeMax(右)

ところで、このDeeVocoderのUI、見るからにDOTEC-AUDIOという感じですが……

「はい、これはDeeMAXやDeeFATなどと同様、出雲重機さんにデザインしてもらったUIです。やはりロボットボイスなどにマッチするボコーダーですから、出雲重機さんが適任だと考えました」と語るのは飯島さん。出雲重機さんのデザインはDOTEC-AUDIOのトレードマーク的な印象ではあるものの、新製品としては久しぶり。ゴツくて強そうなところが、いいですね。

さて、今回のDOTEC-AUDIOはもう1本、まったく別の新製品をリリースしています。それが、DeeTPです。前述の通り、TPはTruePeakの略なのですが、何をするためのプラグインなのか、ピンと来ない人も多いのではないでしょうか?そこで、重虎さんに、これがどんなソフトなのか聞いてみました。

「しっかりレベルチェックをしてマスタリングした曲でも、MP3やAACなどにエンコードした際、YouTubeや各種SNSに投稿した際にクリップが生じてしまうことがあります。これがTruePeakによる問題です。デジタルデータ的には、0dB以内に収まっているのにも関わらず、サンプルデータの点をつないでいくと、その点を超えてしまう部分が生じます。サンプル間に生じるピークなのでインターサンプルピークといった呼び方をすることもありますが、それがTruePeakであり、TruePeakが0dBを超えると、問題が生じることがあるのです。普通に、DAを通して音を出すだけならば、アナログ側の話なので大丈夫なのですが、サンプリングレート変換をすると、クリップしてしまうことがあるのです。そこで、こうした部分を見つけて抑え込むのが、DeeTPなのです」と重虎さんは説明してくれました。

サンプルポイント自体は0dB以下に収まっていてもTruePeakが超えることはある

確かに、MP3変換やYouTubeなどへ投稿すると原因不明のクリップが起こることがあり、不本意ながら音圧を少し下げる……といった処理をしている人も少なくないと思いますが、TruePeak制御プラグインであるDeeTPを使えばそうした問題を回避できるというわけですね。

「一般的に、TruePeakはオーバーサンプリングという手法を用いて見つけ出すことが可能です。たとえば48kHzのサンプリングデータを384kHzとか768kHzに変換した上で、点を補間していくことで、見つけることができます。ただ、サンプリングレートを4倍、8倍…と上げていくとマシン負荷が重くなるという問題があります。そこでオーバーサンプリングではないTruePeak検出法を開発し、それを実装したのがDeeTPなのです」と重虎さん。

まあ、難しい仕組みなどはともかく、これを使うことで、MP3変換時などにおける不慮の事故を防ぐことができるというのは嬉しいところ。使い方は至って簡単で、マスターバスの最終段にDeeTPを挿して、目標となるTruePeakに+/-ボタンで調整するだけ。

高級置時計をイメージしたデザインというDeeTP

「TruePeak制御機能自体は、マキシマイザーに搭載されているケースが多いのですが、これだけを抜き出してプラグインにしてあるものはほかにないと思います。これを作り出した理由は、マスタリングプラグインを自由に選べるようにするためです。TruePeak制御のために、特定のマキシマイザーを選ばなくてはならないというのは、理不尽です。自分の好きなツールを選べるようにするために作りました」と重虎さん自身が必要だったから作ったとのこと。

デザインは、先ほどのDeeVocoderとはずいぶん違うので、この点についても聞いてみました。
「貴金属系の高級置時計をイメージして、重虎さん自身が3DCGソフトのBlenderを使って作っているんですよ」と飯島さん。よく見ると金属に室内の絵画などが反射して映っているマニアックなデザインになっています。

さて、ここで気になるのがDeeVocoderおよびDeeTPの価格です。これは、これまでの多くのDOTEC製品と同様、それぞれ5,000円(税別)となっています。そして、すでに何らかのDOTEC製品を購入した方であれば、シリアル番号を入力することで1,500円安くなるシリアル割引が適用されるのも同様です。

しかし、現在さらに安く購入できる形になっています。

販売価格などについて話をしてくれた飯島さん

「今年のM3-2020秋に合わせてDeeVocoder、DeeTPをリリースするM3特別割引を本日10月16日からM3当日の10月25日まで実施します。これによりどちらも3,000円となると同時に、既存のすべてのDOTEC-AUDIO製品の割引も実施中です。このM3特別割引は、以前からM3会場にいらっしゃった方限定で行っていました。しかし、このコロナ禍において会場に来るのが難しい人もいるだろうということで、前回からオンラインでの購入にも対応するようにしました。ただし、10月25日のM3にいらっしゃった方は、お釣りの観点もあり税込みで3,000円となり1本につき300円割安で販売します。よかったらぜひ、会場まで足を運んでみてください」と飯島さん。またDOTEC-AUDIOのDeeシリーズはクリプトン・フューチャー・メディアが運営するSONICWIREでも販売されていますが、こちらもM3特別割引期間と同じタイミングで「DOTEC-AUDIO 秋の新製品発売記念セール」と称した割引を実施するとのこと。価格的にも同じ3,000円(税別)となるので、使いやすいほうのサイトで購入するとよさそうです。

ちなみに、この夏、DOTEC-AUDIOのすべての製品がVST3にも対応したのも大きなニュース。もちろん、このDeeVocoderおよびDeeTPもVST2版、VST3版がリリースされており、これでAU、AAX、VST2、VST3が揃った形になりました。これであれば、自分の好みの環境でインストールできるというのも嬉しいところですね。

そのDOTEC-AUDIO、かなりオカシナなプロモーションビデオも作っているので、ぜひご覧になってみてください。

※2020.11.04追記
2020.10.27に放送した「DTMステーションPlus!」から、第162回「世界初公開!Rob Papen新製品発表会」のプレトーク部分です。「アナログ的な太いサウンドが出せるボコーダー、DeeVocoderをDOTEC-AUDIOがリリース。TruePeakを抑える専用のプラグインDeeTPも同時に誕生」から再生されます。ぜひご覧ください!

【関連情報】
DOTEC-AUDIOサイト
DeeVocoder製品情報
DeeTP製品情報

【ダウンロード購入】
◎DOTEC-AUDIO ⇒ DeeVocoder  DeeTP
◎SONICWIRE ⇒ DeeVocoder  DeeTP

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