28モデルの音を自在に切り替えられ、PCとも接続できるDSP内蔵ギター、Variaxとは

60年前に登場したエレクトリックギター。「エレキ」とはいうけど、ピックアップで弦の振動を捉えて電気信号にするだけのローテクなんだよな……なんて思っていたら大間違い。最近はDSPを搭載し、最新のテクノロジーをふんだんに取り込んだ、すごいギターもあったんですね。

見た目がまったく普通のギターと変わらないから、ぜんぜん気づかなかったのですが、DSP搭載のギターというのが複数社から登場しています。その中でも10年以上の歴史を持ち数多くのバリエーションの製品となっているのが、Line 6Variax。現在はジェームス・テイラー氏とのコラボによりJames Tyler Variaxとなっているこのギターを先日触らせてもらい、あまりにも面白かったので、ちょっと紹介してみたいと思います。

James Tyler Variaxの新モデルJTV-59P(左)、JTV-69S(右)



いろいろ説明するよりも、まずは実際にどんなことができるのか、以下のビデオをご覧ください。

私はあまりギターが弾けないので、ギタリストに頼んで弾いてもらったのですが、スイッチを切り替えるだけで、ストラトキャスターの音、セミアコの音から、完全なアコギサウンド12弦サウンド、さらにはバンジョーのような音、シタールサウンドまで、いろんな音にすることができるのです。

James Tyler Variax JTV-89
今回、James Tyler VariaxJTV-89という製品を使ったのですが、その出力をPAスピーカーに接続して鳴らしているだけであり、エフェクターも使っていませんし、設定もごく自然にしてあるだけ。いまのギターってこんなことができちゃうんですね。もちろん、ここにエフェクターを挟めばさらに豊富なバリエーションのサウンドになるわけです。

ツマミのうち2つはスイッチになっていてLEDで光っているのが分かる

見た目上、普通のギターとまったく変わらないのですが、よく見てみるとボリュームツマミだと思っていたもののうちの2つがロータリースイッチになっています。さらにピックアップの切り替えスイッチも、音色の切り替えのためのスイッチになっており、これでいろいろな音色を選んぶわけです。そう、このギターのボディーの中にはDSPを搭載した回路が埋め込まれており、ギターの背面にはそれを駆動するためのバッテリーも搭載されているのです。


ギターの裏側には電池が入り、おそらくその横にはDSPの回路が埋まっている

でも内部的にどんなことをしているのか、やっぱり気になるところ。Line 6の担当者に話を聞いた内容を簡単に図式化すると、以下のような形になっているようです。

Variaxの構造を図式化したもの
つまり、ピエゾピックアップで弦の響きを24bitのA/Dコンバータで1本1本デジタル化した上で、DSPを使ったモデリング技術で音を変換し、再度アナログ変換して出力する、というわけなのです。また、この図からも分かるとおり、マグネティックピックアップも飾りではなく機能しており、普通のギターとしてアナログ出力もできるようになっています。

ここで気になるのは、DSP処理にかかる時間です。従来のMIDI楽器やギターシンセのようにレイテンシーが大きいと、演奏しにくくなりますが、弾いた感じでのレイテンシーはまったくありません。私がギタリストではないから分からないだけかと思いましたが、ビデオで弾いてくれた方に聞いてももまったく気にならないとのこと。

実際に演奏した弦の振動そのものに対してプロセッシングが行われるため、トラッキングの遅れやMIDIのディレイなどの心配もなく、変な変換も行われないため、ピック弾きや指弾き、チョーキングやビブラート、アーミングからハーモニクスまで、ギタリストならではの演奏のニュアンスもそのまま維持されるのです。

プロセッシングを行うソフトウェア・アルゴリズムには、モデリングした楽器のピックアップ本体と、そのポジションと高さ、さらには磁性アパーチャーや非リニア性、またトーン・コントロール回路やボディの共鳴などの物理的特徴、さらにはその相関関係までもが“モデル”としてキャプチャーされているので、非常に正確に再現できているとのことです。

また、このJames Tyler Variaxには、もうひとつユニークな機能があります。それはチューニングを自在に変えられるということ。以下のビデオを見てください。

どうですか?ちょっと不思議ですよね。ただし、ギター本体としては予め正確にチューニングをしておかないといけないとのことですが……。こうしたチューニングは予めプリセットが用意されていますが、自分で好きなチューニングを設定することも可能です。これを本体だけで行うことも可能ですが、VariaxをUSB経由でPCとも接続できるようになっており、こうするとチューニングはもちろん、ギターのモデリングの設定を含め、さまざまなことができるようになっているのです。


通常のアナログ出力の隣にデジタル接続用の端子が用意されている
Variaxの出力には通常のアナログ出力以外にもVDIというLine 6規格のインターフェイスの端子が用意されており、これを付属の機器を介してUSBに変換することでPCと接続することができるのです。

付属のボックスを介してUSBに変換する

そして、Variax Workbenchという無料ダウンロード可能なMac/Windows対応のソフトウェアを起動させることで、VariaxのDSPの設定を自在にいじれてしまうのです。


Variax Workbench、これでギターのボディータイプを選択する

具体的にはギターのボディータイプを選び、ピックアップを何にするかを選択します。複数のピックアップを設定することもできるし、ピックアップの設置角度を設定することも可能です。


モデリングするピックアップの種類や角度を設定

さらに、ボリュームノブの抵抗やトーンノブの抵抗、コンデンサ容量を設定できるなど、まさにモデリングのためのさまざまなパラメータをPC側で設定できるようになっているわけです。


さらに細かなパラメータの設定もできる
もちろん、チューニングのほうもここでフレットの表示を見ながら設定すれば、自由自在というわけです。

チューニングについても画面下部分で設定が可能
こうして設定した結果は、その場で反映されるので、音を出して確認することもできるし、設定結果をギター側のメモリに記録することもできるので、あとはPC無しでもOKというわけですね。

恥ずかしながら、ギターがここまで進化していたこと、私はよく分かっていませんでした。話を伺ったところ、Variaxはプロのギタリストの使用例が増えているとのこと。具体的にはギタリストの作編曲家や新しいサウンドを求めるギタリスト、またギターを持ち替えずに演奏できるのでライブ・サポートのギタリストなどが積極的に使っているようです。たとえば小山田圭吾さんも愛用しているのだとか…。

レコーディングということを考えても、確かにアコギなど、これを使えばマイクを設置する必要もなく、簡単に録れてしまうから楽そうですよね。またモデリングだから、ピックアップのハムノイズが無いのも大きなポイントです。

価格的にはやはり10万円を超えてしまうわけですが、普通のギターとしてみても、あのJames Tylerのギターですからね、それだけの価値はありそうですよ。

【関連情報】
Line 6 James Tyler Variaxシリーズ製品情報
Line 6 James Tyler Variax US Custom Series製品情報

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