Pro Tools 12をベースとしたPro Toolsの無料版、Pro Tools|First
Avid Technologyから届いたメール、以下のようなものだったのですが、これをインストールするまで多少、戸惑いました。
Avid Technologyから届いたPro Tools|Firstがダウンロード可能になったことを知らせるメール
というのも、せっかく権利を無料で入手した新しいPro Toolsなので、普段使っているAvidのアカウントとは別に取得しておこうと思ったからなのですが、ダウンロード操作時に別メールアドレスを入れたら、そこで終わってしまったんですよね。しかも、再度メールアドレスを入力しようとしても、ダメ。そりゃぁ、順番待ちになっているくらいですから、当初申し込みをした時と違うメールアドレスを入れたら無効ということなのでしょう。
iLokを使わずに本当にPro Tools|Firstが起動するのか試してみたかったので新たなiLokアカウントを取得
やうやくたどり着いたダウンロード画面。インストーラサイズはWindowsの場合818.25MB、Macなら679.02MB
ダウンロードサイズはWindows版が818.25MB、Mac版が679.02MBなので、ダウンロード自体は5分程度で終了しました。せっかくなのでWindows 10にSteinbergのUR22を接続したという、現時点ややリスキーな環境にインストールしてみました。
インストール画面は見慣れた従来通りのPro Toolsの日本語のもの。とくにトラブルもなくWindows 10環境にあっさりインストールできました。デスクトップ上にはiLok License Mangerのアイコンもありますが、もちろんiLokは接続してない環境ですよ。
さっそく起動してみるとAvidアカウントへのサインインの画面が表示されるので、ここでダウンロードのときに使ったメールアドレスとパスワードを入力。
iLok不要で起動できたが、初回メールアドレスとパスワードが要求される
これによって無事Pro Tools|Firstが起動。新規作成の画面が表示されるので、ここでまずはテンプレートの中から適当に選択してみたところ、いきなりエラー表示。
AAXプラグインの音源であるXpand!2が入っていない、と言っているようです。しかも、さりげなく「セッションで使用するために、これらのプラグインをレンタルまたは購入しますか?」と聞いてきているので、どうも不安に感じます。いきなりお金を取られたらバカバカしいので、ここでは「いいえ」を選択し、先へ進みます。
これによってプロジェクトが立ち上がったわけですが、当然のことながらXpand!2が入っていないので、ドラムはならないし、ベースもオルガンも鳴らず、ハッキリ言って使い物になりません。どうなっているんだろう…と、Xpand!2のところをクリックすると、Avidマーケットプレイスなるものが表示され、どうしてもこれを買わせようとするのです。
納得いかないまま、とりあえず値段を確認してみようとチェックしてみると、なんだ0円じゃないですか。Pro Tools|Firstインストール時には入っていなかっただけで、プラグインは後からダウンロードするというだけだったんですね。とくにクレジットカード番号を聞かれるということもなかったので、迷うことなくインストール。今度はダウンロードに15分程度かかりましたが、これでなんとか使えるようになりました。
マーケットプレイスからはいくつかのプラグインを購入したり、1週間、1か月単位でレンタルはできるけれど…
ただし、調べてみると無料で入手できるプラグインはXpand!2のみ。ほかは数千円から数万円と、結構いいお値段。たとえば、コンボリューションリバーブのSpaceの場合、1週間レンタルで3,000円、1か月なら11,000円、購入するとなると55,000円ですからね……。どうするべきかは考えどころです。
というわけで、Xpand!2のインストール終了後、気を取り直してPro Tools|Firstを起動しなおし、今度はテンプレートを使わない、まっさらなプロジェクトを新規に作成。ここでクリック用のトラック、そしてドラムトラックを作成し、Xpand!2をドラム音色に設定した上で、手元にあるMIDIキーボードからリアルタイム入力&クォンタイズ。バッチリ問題なく動きますね。
続いてオーディオのレコーディングに行ってみましょう。使い方はいたって簡単。まずマイクを接続してボーカルを録ってみましたが、使い勝手はPro Toolsそのものですから、何ら引っかかるところはありません。続いてギターもオーディオインターフェイスに直挿しで録音してみました。
が、ここで引っかかることが……。インサートのプラグインにアンプシミュレータでも入れて録ろうと思ったのですが、それが見当たらないのです。そう、製品版のPro ToolsだとEleven FreeとかSansAmpなどが付属しているので、これを使おうと思ったのに……。せめてディストーションとかコーラス、フランジャーなどがあれば……と思ったのですが、ないんですよね。
EQ | EQ3 1-Band |
EQ3 7-Band | |
Dynamics | Dyn3 Compressor/Limiter |
Dyn3 De-Esser | |
Dyn3 Expander/Gate | |
Reverb | D-Verb |
Delay | Mod Delay III |
Time Adjuster | |
Dither | Dither |
POW-r Dither |
このうちDitherの2つやTime Adjusterはいわゆるエフェクトとは違うので実質7種類ですから、なかなか厳しいところですよね。ためしにPro Tools 11のAAXプラグインエフェクトインストールしてみましたが、Pro Tools|Firstでは使うことができません。ただPro Tools|Firstの起動時のプラグインチェックの表示を見ると、明らかに認識しているようなので、わざと使えないようにプロテクトをかけているようですね。
ここでもう一つ、あれ?と思ったのはサンプリングレートの設定についてです。普通、製品版のPro Toolsの場合、セッション作成時にサンプリングレートの設定ができるようになっていますが、Pro Tools|Firstの場合、そうした設定が何もないのです。正しくはPro Tools|Firstではセッションではなくプロジェクトというものなのですが、とにかく設定がありません。
ちなみに、先ほどレコーディングしたオーディオクリップの中身を確認したところ、ビット深度は16bitとなっていました。つまりレコーディング結果はすべて44.1kHz/16bitというもののようです。まあ、Pro Tools|Firstの場合、プロジェクトはローカルのハードディスクなどに保存することはできず、すべてクラウドへの保存となっているため、そのファイルサイズはなるべく小さくしたいところですからね。
プロジェクトを閉じた状態で、設定メニューの「プレイバックエンジン」を開くとサンプルレートの変更が可能です。ここで設定をした上で新しいプロジェクトを作成すると、ここで設定したサンプルレートに対応したプロジェクトになります。
ただ、ビット深度は16bitのままでした。Pro Tools|Firstのスペックでは最高で32bit/96kHzに対応とあるので、何等かの方法がありそうですが、見つけられませんでした。何か方法が分かった方は教えていただけると幸いです。
※当初、16bit/44.1kHzでしか動作しないと書いてしまいましたが、実際には96kHzで動作させることができました。ここに訂正してお詫びいたします。
ここで気になるのはクラウドへのセーブしたり、クラウドからロードするのにかかる時間です。先ほどの5トラックのプロジェクトの場合、40秒程度の曲でオーディオが2トラックしかなかったためもあり、ほんの数秒でした。また、試しに手元にあった6分20秒のWAVファイルをトラックにインポートしたものを保存してみましたが、これも数秒です。実際には、インポートした瞬間からクラウドへ保存を始めているのかもしれませんが、使う上でほとんどストレスは感じませんでした。
一方、このクラウドに保存できるプロジェクトは3つまで。というか、そもそも新規プロジェクトとして作成できるのが3つまでであり、4つ目を作成しようとするとアラートが表示されるので、現在あるプロジェクトを削除する必要があるのです。この辺もちょっと面倒なところではあります。
不要なプロジェクトを削除してから、新しいプロジェクトを作成する必要がある
とはいえ曲が完成すれば、オーディオミックスとしてエクスポートすることができるし、MIDIデータはMIDIファイルとして、各オーディオクリップはそれぞれオーディオデータとして保存することはできるので、多少手間はかかるものの、なんとかローカルに保存する手段は確保されている、といった感じですね。
とはいえ、プロのレコーディングの世界において業界標準のDAWであり、その使い勝手はまったく同じPro Toolsですから、Pro Toolsの使い方を覚えたい、Pro Toolsの操作に慣れるための学習ツールとしては便利な存在だと思います。
【関連サイト】
Pro Tools|First申し込みページ
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