海の見えるスタジオで、レコーディングの授業を見学してきた

以前「社会人が作曲やDTMを本気で学べる学校に体験入学(!?)してみた!」という記事で紹介した、DTMスクール「JBG音楽院」で講師をしているベーシストで作曲家の荒木健先生。先日、その荒木先生から連絡があり、「この前の授業の総仕上げとなるレコーディングを神奈川県・葉山の海の見えるスタジオで行うので、ぜひまた見に来ませんか?」というお誘いをいただいたのです。

ちょうど確定申告締め切り直前のタイミングだったので「時間が合えば行きますね!」と中途半端な返事をしていたのです。が、葉山ということで「もしかして……」と思っていたことがズバリだったこと、そして確定申告も無事に終わって、ちょっぴり時間的余裕もできたので、3月11日に半分ピクニック気分で見学に行ってきました。このJBG音楽院のスタジオ授業がどんな内容なのか、まったく知らないままに参加してみたら、想像していた以上に楽しかったので、レポートしてみたいと思います。


窓から葉山の海が見えるichiroさんのレコーディングスタジオに行ってきました



葉山は多くのミュージシャンが住んでいたり、別荘を持っている場所なので、レコーディングスタジオは何か所もあるとは思うのです。でも「海の見えるスタジオ」と聞いてふと頭に浮かんだのは、ついこの前「ビートルズやツェッペリン、モータウンサウンドなどを忠実に再現!?名盤のドラムサウンドをリアルに出せるDrum Treeとは?」という記事で紹介した、レコーディングエンジニアのichiroさんのスタジオです。

以前インタビューした際に「海の見える気持ちいいスタジオなんで、ぜひ遊びに来てください」と言われていたので、荒木先生にメッセージで「もしかして、ichiroさんのスタジオ?」と聞いたら、その通りでビックリした次第。世間は狭いわけですよ…。これは何かの縁だろうと思い、頑張って確定申告の作業を終わらせて、行ってきたわけです。


荒木先生とエンジニアのichiroさんは、15年以上のお付き合いなんだとか… 

DRUM TREEを含め、PREMIER SOUND FACTORYシリーズとして、さまざまな音源を出していますが、その原点は90年代後半に、AKAIのサンプラーを使ってRhodesのタッチノイズまで収録した音源を自分用に作ったことでした。すごくよくできたので、当時ヤフオクに出したら、すごく高く評価してもらい、それなりの数が売れたんですが、それを買ってくれた一人が、荒木さんなんですよ。それ以来の付き合いで、PREMIER SOUND FACTORYには荒木さんに弾いてもらった音源もあるんですよ!そうした中、先日、荒木さんのJBG音楽院の授業でここを使いたいというお話をいただいたんですよ。都内にもたくさんのスタジオがある中、こんなところまで来ていただいて嬉しい限りです」とichiroさん。そんな深い仲だったとは、驚きました。


スタジオに来てみると、5人の生徒さんが集まっていた

でも、このichiroさんのスタジオで何をするのか、何の予備知識もなく来たところ、先日、表参道でJ-POPのアレンジに関する授業に参加したときの生徒2人を合わせ、計5人の生徒が、DTM2という授業の最終段階ということで、ここに集まっていました。

大きなスピーカーの後ろ側には海が広がっている

見ると、ホントにスタジオから窓越しに海が広がる、スタジオだったんですね。最初にichiroさんが、「日本のミックスと、海外のミックスの違いを聴いてみましょう」と、某日本の楽曲と、ハービーハンコックの曲を、この大きなスピーカーで鳴らします。どっちもいい曲なんですが、低音の響き方には大きな違いがあり、「海外のミックスってスゴイ!」と感激。「今日は、こんな海外の音を目指してレコーディングしていきましょう!」とichiroさんが挨拶をします。


授業スタートでの挨拶。左から明日華さん、ichiroさん、Sierraさん 

すでにみなさんは授業でアレンジなどについて一通りのことは学んでいて、最後の修了作品としてオリジナル曲を完成させることになっているんです。このスタジオに来る前に、それぞれDAW上では打ち込みで、ほぼ曲ができあがっていて、仕上げに、このスタジオでボーカル録りや、楽器のレコーディングを行うというわけなんですね。

とはいえ、自分で歌えない人や弾けない人は、どうしたらいいんでしょう?「そのために、今日はゲストのシンガーを呼んでいるんですよ」と荒木先生。そう、午前中のゲストとして歌ってくれたのが、ベテランボーカリストであるSierra(シエラ)さん。


最初のレコーディングを行う山本さんが明日華さんの後ろに座り、レコーディング作業スタート 

Sierraさんは、この日の先頭バッターとなる生徒、山本さんのオリジナル曲を歌い、それをレコーディングしていくという運び。山本さん自身、普段はLogicを使っており、Logicで楽曲をほぼ完成させています。ただ、スタジオにあるのはPro Toolsなので、Logicのプロジェクトからドラム、ベース、シンセ、メロディーラインなど、いくつかのトラックにラフミックスしたものをそれぞれWAVで書き出し、ここに持ち込んでいます。それをichiroさんのスタジオのPro Toolsに読み込ませた上で、セッティングしていきます。


ichiroさんの指示の元、明日華さんがレコーディングの準備を進めていく

その間に、山本さんはSierraさんに譜面を渡しながら、ボーカルパートについてブース内で打ち合わせ。初対面のプロのシンガーSierraさんに、だいぶ緊張しながらも、丁寧に説明すると、Sierraさんからも「ここはどう歌うといいですか?」、「この発音は?」などと質問が上がりつつ、練習が始まります。


山本さんが作ってきたオリジナルの譜面をもとにボーカルに関する打ち合わせ

コントロールルーム側でPro Toolsの操作をするのは、アシスタントエンジニアである須藤明日華さん。見惚れるほどに手際よく、Pro Toolsを操作しながらトークバックマイクでSierraさんとやりとりをしてレコーディングを進めていきます。しばらく練習して、曲のコツを掴んだら、テンポよく進んでいきます。1曲通してレコーディングし、再生してみると山本さんからは「完璧です。スゴイです!」と感激の声が上がります。それでも、再度同じメロディーをレコーディングした後、ダブルで再生してみると、さらにいい感じに聴こえてくるんですね。


見ていて気持ちいいほど手際よく作業を進めていく明日華さん

そこに荒木先生が「Sierraさん、じゃあこれにコーラス付けてもらえる?サビの部分に3度下で!」とサラリと指示を出しますが、山本さんから「すみません。コーラスの譜面までは用意してません…」と悲痛なつぶやきが……。するとブースにいるSierraさんからは「じゃあ、練習で、サビのちょっと前からお願いします!」と返事があり、明日華さんが操作すると、もう完璧というコーラスで歌ってくれるんですよね。「日本でコーラスといえば、もうSierraさんですから!コーラスを一番わかっているのは歌う人。下手なオーダーをするよりプロに任せるのがいいんですよ」と荒木先生は笑いながら話します。

ブース内で、コーラスを重ねていくSierraさん
この3度下をダブで録音し、さらに3度下もダブでレコーディング。「これに1オクターブ下もつけさせてください!」とSierraさんからオーダーが入り、結局メインボーカル2トラックにコーラス6トラックが効率よくレコーディングされ、音の厚みが全然変わってきます。

自分の作った曲とは思えないくらいに、カッコよくなってスゴイです!」と山本さんは明日華さんの後ろの席で感激しっぱなし。これは、経験したいと思ってもなかなか経験できるものじゃない、JBG音楽院ならではの授業だな……と見ていて思いました。

では、その山本さんの曲のレコーディングしている間、ほかの4人は何をしているのかというと、じっくりと見学している人もいれば、次に備えての準備でアタフタしている人など、それぞれ。そんな中、今回は自分で歌うという森田さんに少し話を聞いてみました。


レコーディングの状況をじっくり見れるソファ席。左からichiroさん、森田さん、荒木先生、西川さん

私がJBG音楽院に通いだしたのは2年ほど前からです。もともとシンガーとして音楽活動はしていたのですが、トラックはいつも提供してもらっていました。ただ作ってもらったトラックに気に入らないところがあったり、文句があっても、専門知識がないから、不満はありつつも妥協して、でもお金を払って……という状況だったんです。自分で作詞・作曲してトラックメーカーさんにお願いしていたんですが、結果的に納得いかないトラックに引っ張られて歌っているという感じでした。このコードを変えてほしいけど、うまく言えない…。そうした中、この学校の存在を知って入ったんですよ」と森田さん

実は、その前に2年ほど、別のトラックメーカーさんについて個人レッスンを受けたこともありました。でも、結局DAWの操作を教えてくれるばかりで、肝心の音楽の知識はまったく身につかなかったんです。すごい高いお金を払ったんですけどね(涙)。そうした中、ネット検索でここを知り、荒木先生の曲を聴いて、カッコイイなって。また次に習うなら、同級生のいる学校形式がいいって思ったんですよ。ここにいる西川君と同じタイミングで入ったんですが、彼は今も高校生。そんな人たちと一緒に学べるのは楽しいですよ」(森田さん)。


森田さんは自分の曲を自ら歌ってレコーディング 

結局それから2年ここに通ってみてどうなったんでしょうか?「クラスの中では、きっとデキのいい生徒ではないとは思います。でもね、自分の中では、スッゴク成長したなと感じてるんですよ!難しいコード理論とかは、なかなか理解するのが大変ですが、まさかベースラインを自分で打てるようになるなんて……。なぜか自然に自分の中から出てきちゃいますから(笑)」と嬉しそうに森田さんは話してくれます。

もともとシンガーということは、ほかのスタジオもいろいろ見てきているはずなので、ichiroさんのスタジオについても森田さんに聞いてみました。「実は、別の授業でも来たり、このレコーディングも先週に続いて2回目となるので、今回で3回目なんですよ。最初に歌って驚いたんですが、ここの音響、今まで見てきたのと全然違うんです。普通だと『この音が聴こえないから大きくしてください』、『リバーブをもう少し下げて…』とか注文しながら30分しても、思う音にならないんですが、ここだとすべて聴きたい音がモニターできて、即歌えるんですよ。だからとっても気持ちいいですね。窓から海が見えちゃうところも素敵です


お昼は近所のレストランまで歩いてランチ 

今度自分の曲もホントにここで録ってみたいなって思うので、先日ichiroさんに聞いてみたら『やってあげるよ!』とおっしゃってくれたんですが、怖くていくらなのか聞けてません(笑)。でも、この前自分のオーディオインターフェイスのトラブルについて相談したら、丁寧に教えてくれたのも嬉しかったですね」と森田さんは、このスタジオでの実習に大満足なようでした。

サクサクと作業が進むとはいえ、ボーカルを何トラックも録ったり、時には荒木先生によるベースの演奏をレコーディングしたりと、1人あたり1~2時間はかかってしまいます。そのため、私は途中で失礼したのですが、やっぱり海のスタジオということもあって、ピクニックのようで楽しい1日でした。

休憩時間中、海岸まで降りることができるのも、ちょっと楽しいところ

ちょっと参加して思ったのは、この授業においてichiroさんや明日華さんは、レコーディングの作業を行っていくエンジニアであって先生として教えているのではないのが、ちょっともったいないな、ということ。まあ、アレンジなどを習うDTM2とうカリキュラムの一環なので仕方のないところですし、生徒のみなさんもそこまでの余裕はなさそうではあったのですが、せっかくのすごい環境なので、エンジニアのテクニックも習ってみたところです。


荒木先生ご指名でベースパートをレコーディング 

と思ったら、やはりそうした授業をJBG音楽院として企画しているらしく、4月からは、この葉山のスタジオを使ったichiroさん、明日華さんによる「ミックス&トラックメイキング」というカリキュラムがスタートするのだそうです。スピーカーの設定やステレオ定位・前後/上下空間の作り方といったスタジオテクニックから、ミックスバランスの研究、リズムトラック、バックトラックの研究などをした上で、目玉は「ヒット曲の完全再現」という授業なんだとか。

Drum Treeでもビートルズやジェームス・ブラウン、スティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンといったアーティストの曲のドラム音を再現させていたichiroさんが、実際再現するためのテクニックを教えてくれるとのこと。ポップス、ロック、EDM、R&B……とさまざまなジャンルのヒット曲を取り上げて解析しつつ、再現する手法を学べるとのことですから、可能だったら、また潜入レポートができるといいな……と思っているところです。
【関連情報】
JBG音楽院サイト
JBG音楽院入学説明会の案内

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