究極のミニマル・レコーディングシステム誕生!? Antelopeが発売したコンデンサマイク、Axino Synergy Coreとは?

先日、ヨーロッパのメーカー、AntelopeがAxino Synergy Core(アキシノ・シナジーコア)という非常にユニークなUSB接続のコンデンサマイクを発売しました(税込実売価格:49,500円)。オーディオインターフェイスにコンデンサマイクを合体させると同時に、マイクモデリングやさまざまなエフェクト処理を実現するDSPFPGAによるプロセッサ機能などを統合して1台にまとめたというもの。このことにより何十万円もする業務用のさまざまなマイクを、これ1台でエミュレーションできるなど、プロのレコーディング環境に匹敵するシステムを構築できるとう、超パワフルなミニマル・レコーディングシステムとなっているのです。

Antelopeというと、高価な機材メーカーで、一般ユーザーにはちょっと手を出しにくい……という印象もありましたが、先日発売されたたZen Go Synergy Coreは手ごろ価格ながら高性能を実現。そして今回のAxino Synergy Coreはさらにマイクとしての機能も統合し、より手軽に、低価格で、高品位なレコーディングができるものへと進化しています。実際にそのAxino Synergy Coreを試してみたので、どんな機材なのか紹介してみましょう。

コンデンサマイクにオーディオインターフェイス機能、プロセッサ機能などを盛り込んだAxino Synergy Core

DTMによる音楽制作のスタイルは、人によって、また制作する音楽によって、いろいろと変わってくるとは思います。しかしボーカルやアコースティック楽器などを使ってレコーディングすることを考えるとマイクとオーディオインターフェイスは必須となるし、その音質を向上させていくためには、より品質の高いマイク、より高性能なオーディオインターフェイスを求めていくことになり、導入コストも上がっていくことは必須です。

そうした中、Antelopeが提案してきた新たなシステムが、Axino Synergy Core(以下、Axino)というものです。これを一言でいってしまえば、USBマイクなのですが、いわゆるUSBマイクとは大きく異なるもの。いわばプロの業務用レコーディングスタジオのシステムをDTM環境で使えるコンパクトなサイズにまとめてしまった、というものなのです。

Axinoのパッケージには本体のほか、マイクのサスペンションホルダー、ウィンドスクリーン、マイクスタンド、ケーブルなどが入っている

Axinoあまりにも多くの機能が入ってしまっているので、全体像を紹介するのが大変なものですが、少しずつ紐解いていきます。まずはパッケージ内容から見てみると、この写真のようなものが入っています。本体であるUSBマイクとそのマイクを支えるためのサスペンションホルダー、マイクにかぶせるウィンドスクリーン、USBケーブル、そしてデスクトップ用のマイクスタンドのそれぞれ。つまり、ハードウェア的にはAxinoとPCがあれば、本格的なレコーディング環境一式が構築できてしまうのです。

マイクスタンドとサスペンションホルダーを組み立てたところ

パッケージがちょっと重たいのが難点ではあるけれど、かなりしっかりしたマイクスタンドも入っているのは驚き。よく初心者ユーザーがコンデンサマイクだけ購入して困っているケースを見かけますが、これなら安心。あとはマイクをセットしてUSBで接続するだけなので、初心者でも戸惑うことはなさそうです。

マイク本体フロントにヘッドホン出力も搭載されている

一般的にはオーディオインターフェイスにコンデンサマイクを接続してレコーディングを行うわけですが、このAxinoは24bit/192kHzに対応したオーディオインターフェイス機能と高品位なコンデンサマイクを合体させた機材であるのが重要なポイント。見るとわかる通り、マイクのフロントにはヘッドホンの端子が搭載されており、ここでモニターできるようになっていて、このヘッドホンのボリュームの調整やマイクゲインの調整もここに搭載されたノブで行えるようになっています。

34mmのラージフラムが入った構造になっており、ハイパス、PADスイッチも搭載されている

重要なのはマイクの性能。透かして見るとわかる通り、ラージフラムが入ったコンデンサマイクであり、その音質は抜群。Antelope側からのアナウンスはありませんが、直径34mmというダイアフラムであることを考えると、同社が出している85,000円(税込)程度で販売されているEdge Soloとほぼ同等のマイクなのではないでしょうか?また見るとわかる通り、ハイパスのスイッチおよび-10dBのパッド機能もここに搭載されています。

さて、そのマイクにオーディオインターフェイスを合体させてしまったのが、Axinoなのですが、そのオーディオインターフェイスとして、ほぼZen Go Synergy Coreに相当するものを搭載いているのです。詳細は先日の記事「これは価格破壊!Antelopeが37種のエフェクトを標準搭載した超高性能オーディオインターフェイス、Zen Go Synergy Coreを56,000円で発売開始」をご覧いただきたいのですが、このZen Go Synergy Coreが普通のオーディオインターフェイスとはかなり異なるのです。

今年発売されたAntelopeのエントリー向けオーディオインターフェイス、Zen Go Synergy Core

単に音を高音質で入出力するというだけでなく、ここにDSPとFPGAというプロセッサが入っており、これでさまざまなエフェクト処理やミキシング処理などを行うことができるのです。DSPとFPGAの違いについては、以前「いまさら聞けない、DSPって何!?」という記事で紹介したことがあったので、参考にしていただきたいのですが、2種類の性格の異なるプロセッサをAntelopeが1つまとめて相乗効果を出していることからSynergy Coreと呼んでいるんですよね。

それをこのマイクであるAxinoにも搭載してしまったというわけなのです。いろいろなことができるのですが、最大のポイントは、強力なマイクモデリング機能を装備していること。たとえば、プロのレコーディングの定番中の定番、NeumannのU87Aiは、先日値上げがあったこともあり、実売価格50万円程度になっていますが、そのビンテージモデルであるU87とそっくりな音にすることが可能。

NeumannのU87をマイクモデリング

具体的にはAntelope Launcherからコントロールパネルというセッティング画面を立ち上げ、左側にあるマイクの画像が出ているところから、Berlin 87を選ぶことによって、まさにU87サウンドにすることができます。ちょっと柔らかい感じの伸びのある気持ちいいサウンドなので、ボーカル用にも最適だし、アコースティックギターやピアノなどを録ってもよさそうです。

さまざまなモデリングの一覧から目的のマイクを選択することができる

また同じくBerlin 67とかBerlin 47 FTといったものもありますが、これらもNeumannの往年の名器をモデリングしたもの。こんなものの実物をそろえて行ったら、すぐに数百万円となってしまうし、そもそも状態のいい機材を入手するのも、保管していくのも大変ですが、モデリングなら扱いも簡単ですからね。

SONYのC-800GをモデリングするTokyo 800T

また、Tokyo 800Tなんて名前のマイクモデリングもあります。こちらはSONYのC-800Gを意味していると思われるものですね。ポップス系のレコーディングなどで定番のハイエンドマイクとして人気の高いC-800Gが使えてしまうというのは、グッとくるところ。ハイがちょっと持ち上がる感じの独特なサウンドを再現してくれます。

AKG C414をモデリングするVienna 414。どれもオリジナルの画像がしっかり反映されている

ほかにもAKGのC414をモデリングしたVienna 414やC12をモデリングしたVienna 12などなど、さまざまなマイクを自分のデスクトップ環境で実現できてしまうのですから、すごいことだと思います。ちなみに、前述のZen Go Synergy Coreでもマイクモデリング機能を装備していますが、これを使うにはEdge Soloなど、それに対応したマイクを使うことが前提で、セットで購入したらかなり高額になってしまいます。しかし、Axinoであれば、マイクがあることが前提なので、これ1つですべてが揃ってしまうわけです。

もちろんモデリングせずAxinoのサウンドのまま使うことも可能

ちなみに、モデリングせずに、オリジナルのAxinoのサウンドのまま使うこともできるのですが、個人的にはこれが結構好き。Edge Soloなどもそうなのですが、Antelopeのマイクってすごく帯域も広くていい音なんですよね。

API 550AをモデリングしたEQ-55A(上)とTeletronixのLA-2AをモデリングするOPTO-2A

さて、そんなマイクモデリングに加え、さまざまなエフェクトを搭載しているのもAxinoの重要なポイントです。確かに、DAWには数多くのプラグインエフェクトが入っているし、プラグインによって追加搭載も可能なので、それらを使うのもいいのですが、Synergy Coreによるエフェクトは、Antelopeの技術でビンテージエフェクトをそのままに再現していること、そしてPCのCPUを使わずに、Axino本体に搭載されているDSPやFPGAだけでエフェクトを実現しているため、PCに負荷はかからないし、何よりもレイテンシーほぼゼロでモニタリングできるというのが重要な特徴です。具体的に用意されているのは以下の10種類のエフェクト

EQ-55A 3バンドEQ / HPF / LPF
BAE-1073 3バンドEQ / HPF
BAE-1073MP マイク/ラインプリアンプ
FET-A76 FETコンプレッサー/リミッターアンプ
OPTO 2A チューブオプティカルコンプレッサー/リミッター
GYRAF GYRATEC IX HPF 付きデュアルチューブマイクプリアンプ
MASTER DE-ESSER ディエッサー
POWERGATE ノイズゲート
POWEREX エキスパンダー
AURAVERB リバーブ

たとえばTeletronixのオプティカル・コンプレッサ、LA-2Aを再現するOPTO 2A、NEVEの定番コンプ、NEVE 1073を再現するBAE-1073などが入っており、見た目もグッとくるデザインなので気分が上がる感じです。

NEVE 1073をモデリングするBAE-1073(上)とUREI 1176LNをモデリングするFET-A76(下)

さらにAntelopeではオプションのエフェクトもいろいろ用意されているのも面白いところ。たとえばAntaresのAUTO-TUNE Synergyは、お馴染みのケロ声などができる定番ボーカルエフェクトですが、CPU処理するAUTO-TUNEだとどうしてもレイテンシーが気になるところ。しかし、Synergy Coreでの処理であれば、レイテンシーが限りなく小さい状態で使うことができるので、強力なツールとなりそうです。

オプションで用意されているAUTO-TUNE Synergy

そのほかにもテープレコーダーで録ったような音にするReel To Reel、 InertiaのInstinct……といったものがあるので、必要に応じて追加していくことも可能です。

オプションで用意されているテープシミュレーター、Reel To Reel(上)、エフェクトではないがチューナーも搭載(下)

ちなみに、DAWからAxinoを見るとマイクであるにも関わらず4in/4outのオーディオインターフェイスに見えるのも、ちょっとしたポイントです。

AxinoをDAWから見ると4in/4outのオーディオインターフェイスとなっている

というのも、先ほどのとおり、マイクモデリングやエフェクトを掛けた音でレコーディングできるため、モノラル入力ではなくステレオ入力となっているのです。さらに、ループバック機能も備えており、そのループバック側が3/4chとなっているので4入力あるんですね。

コントロールパネルにはミキサー機能も備わっており4in/4outをハンドリングできるようになっている

一方、出力側は1/2ch、3/4chと別れていて、別々のルーティングが可能ですが、セッティングソフト側で、どちらをヘッドホン出力するか、両方出すかなどを設定できるようになっています。必要に応じて2種類のミックスを作って、聴き比べてみるといった使い方ができそうです。このように、ルーティングにおいても、非常に柔軟性があるのがAxinoなのです。

以上、簡単にAntelopeの新しいマイクシステム、Axino Synergy Coreについて紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?この税込実売価格で49,500円と5万円以下でここまでを実現できるのは画期的だと思います。とはいえ、実際に音を聴いてみないことには、納得できない……という人もいると思います。東京・渋谷および大阪・梅田にあるレコーディング機材専門店、Rock oNの店頭にはAxinoが展示されており、すぐに試すことができるようになっています。近隣の方は、ここで試してみてはいかがでしょうか?

【製品情報】
Antelope Axino Synergy Core製品情報

【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ Axino Synergy Core
◎サウンドハウス ⇒ Axino Synergy Core

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