これは価格破壊!Antelopeが37種のエフェクトを標準搭載した超高性能オーディオインターフェイス、Zen Go Synergy Coreを56,000円で発売開始

DTMステーションでも、これまで何度か取り上げてきたAntelope Audioの製品群。クロックの代名詞的存在でもあるAntelopeのオーディオインターフェイスは、超高音質を実現しつつ、FPGAさらにはDSPも搭載したSynergy Coreというアーキテクチャを採用したユニークな機材です。このFPGAとDSPにより、ビンテージ機材をはじめとするさまざまなエフェクトを、PCのCPUパワーを必要とせず、このハードウェア自身でレイテンシーなく再現できるのが大きな特徴となっています。

ただフラグシップモデルのGalaxy 64 Synergy Coreだと1,000,000円(税別)という価格で、先日紹介したZen Tour Synergy Coreの実売価格が240,000円程度、エントリーモデルといわれていたDiscrete 4 Synergy Coreでも123,000円程度と、簡単には手が出せない価格帯の機材でした。ところが今回登場したZen Go Synergy Coreは、まさにけた違いの56,000円とずば抜けて安い価格設定になっているのです。一般発売の前にモノをお借りして試してみた結果、これは絶対買いだ、と個人的に購入を即決した次第。実際どんな機材なのか紹介してみたいと思います。

まもなく発売されるAntelope AudioのZen Go Synergy Core

高嶺の花と思っていたAntelopeのオーディオインターフェイスが、こんな価格で登場するとは、ちょっと予想外でした。パッと見は「FPGAx2とDSPx4で構成されるスーパーデスクトップインターフェイス、AntelopeのZen Tour Synergy Coreの実力」で紹介したZen Tour Synergy Coreとよく似たデスクトップ型の機材ですが、一回り小さいサイズとなっています。

クロッキング技術の代名詞ともいえるAntelopeの64-bit AFCテクノロジーを搭載

もちろん、クロックは64-bit AFCテクノロジーというクロッキング技術の代名詞のようなAntelope独自のものが採用されているので、これだけ考えても、この値段なら“買いだ!”と判断できるのではないでしょうか?

またAntelopeとしては初のバスパワーで動作するオーディオインターフェイスとなっており、端子はUSB Type-C。雷マークもあるので、これまでの機材同様、USBとThunderboltの両方で使える機材なのかな……と思ったらそうではない模様。確かにThuderbolt 3の端子であればUSBを兼ねるので、ここに接続することは可能ですが、信号的にはあくまでもUSB接続のようです。よく見ると、この雷マークはThuderoboltではなく電源アイコンであり、補助電源供給を意味しているようでした。

Zen Go Synergy CoreはUSBのバスパワーで動作する

付属ケーブルはUSB Type-C同士のものでしたが、USB Type-C&USB TypeAのケーブルを用意すればWindowsやMacと接続してもUSBバスパワーで動作する仕様となっています。また、これをPCに接続せずに、USBのACアダプタと接続しても、Zen Go Synergy Core単体で動作するようになっているのも重要なポイント。この辺の考え方がほかのオーディオインターフェイスとは異なるところですが、この後じっくり紹介していきます。

まずはスペック面からチェックしていくと、最大24bit/192kHzに対応したUSBオーディオインターフェイスで、4in/8outという仕様になっています。リアを見ると、いろいろ端子が並んでいるので分かると思いますが、4inの内訳は左側にある2つのコンボジャックのアナログ入力と右側にあるS/PDIFコアキシャルのデジタル入力。コンボジャックのほうは、2つそれぞれ個別にLINE、Mic、Hi-Zの切り替えができるようになっています。

Zen Go Synergy Coreのリアパネル

一方、出力のほうは、MONITORと書かれている端子がメイン出力でTRSフォンとRCAアナログが平行して出力できる形です。またS/PDIFコアキシャルのデジタル出力もあるので、これで4outとなります。さらにフロントを見てみると右側にヘッドホン出力が2つあり、合計4ch分でトータルで8outとなっているのです。

フロントには2つの独立したヘッドホン出力を装備

そのアナログ入力にあるマイクプリアンプはAntelope自慢のディスクリート回路によるものが2つ搭載されており、ゲイン幅は0db~65dB。そして、それぞれ個別に+48Vのファンタム電源のON/OFFの設定ができるようになっています。

その切り替えやゲイン調整、ボリューム調整などは、本体のトップパネルにある3つのボタンと大きいノブを使いながら、左側にあるディスプレイを見てコントロールする形となっています。このノブはプッシュ式にもなっているので、ミュートや入力切替などにも使う形になっています。また、LINE、Mic、Hi-Zの切り替えは、まさにスイッチで行っているようで、切り替えタイミングで、カチカチとリレーの動作音も聞こえますね。

基本的操作はトップパネルにある3つのボタンと大きなノブ、左のディスプレイで行える

より細かな調整を行いたい場合は、ソフトを使って操作する形となります。Antelope Launcherというソフトを起動し、Start Control Panelボタンを押すと、ミキサーコンソール画面が立ち上がってきます。ここで、より詳細に設定していくことができるのです。

より細かな操作はControl Panelというソフトウェアを用いて行う

デフォルトでは8chのミキサーが表示されていますが、右上のスイッチにより16chにすることも可能。でも「Zen Go Synergy Coreは4in/8outなのに、なぜ16chも?」とちょっと不思議に感じる方もいると思います。この辺が、ほかの一般的なオーディオインターフェイスとはちょっと違う、Antelopeっぽい考え方のところなのです。

画面を切り替えると16chのミキサーコンソールになっているのが分かる

詳細については、先ほどのZen Tour Synergy Coreの記事も参照していただきたいのですが、Antelopeのオーディオインターフェイスは、これ自体がスタジオであり、ここにミキサーコンソールも入っているという考え方になっているのです。そのコンソールのポートをDAWと接続することができ、DAWともやりとりできる……といったスタンスなんですね。ある意味、DAW主体ではなく、Zen Go Synergy Coreのほうが主体である……という感じでしょうか。この辺は少し慣れが必要ではありますが、Zen Go Synergy Coreの場合、入出力ポート数が少ないこともあり、ほかのAntelope製品と比較するともう少し普通のオーディオインターフェイス的に使えるので、それほど迷うことはないと思いますが。

各チャンネルの入力は自由に設定できる

この16chある、各チャンネルに何の信号を割り当てるかは、メニュー選択で自由に設定することができるようになっています。左側のタブを切り替えることで、MONITOR/HP1(メイン出力/ヘッドホン1)、ヘッドホン2(HEADPHONES2)と出力先ごとにミックス内容を変更することができます。

S/PDIFへの出力のソースを何にするかも設定は自由自在

またミキサーの上にあるMONITOROS&HEADPHONE、DIGITAL OUTS、DAW I/OというタブによってS/PIDFへの出力、DAWへの入出力のメータの監視もできるなど、非常に自由度高く細かな設定ができるようになっています。

DAWにおける録音と再生信号の確認が行える

ちなみに、DAW側から見ると16in/16outのオーディオインターフェイスとして認識されるので、それをどうルーティングさせるかは、このControl Panelで行っていくわけです。

DAW側からZen Go Synergy Coreを見ると16in/16outのオーディオインターフェイスとなっている

さて、ここからが本題。Zen Go Synergy Coreは普通のオーディオインターフェイスとは異なり、ここにFPGAとDSPが搭載されており、これらのプロセッサによってビンテージのアナログ機材のモデリングを中心に、計37種類のエフェクトが標準で搭載されているのです。

アナログ機材をモデリングしたエフェクトなど、37種類のエフェクトを標準搭載

たとえば、Pultec EQP-1Aを再現するVEQ-1A、UREI 1176-LNを再現するFET-A76、dbx903を再現するX903……などなど。これらは、DAWプラグインではなく、Zen Go Synergy Core内にあるFPGAやDSPで動かしているハードウェアのエフェクトなので、レイテンシーはなく(※厳密にいえばデジタルエフェクトなので、0.1msec以下の処理時間がかかりますが、DAWやオーディオインターフェイスのバッファサイズなどとは関係なく動作し、人が認知できるレベル以下の遅延なので、ここではレイテンシーなしと表現しています)、動作させることが可能です。

37種類のエフェクトとは別にリバーブやゲートなども装備している

また、これら37種類のエフェクトに加え、有料オプションのエフェクトもいろいろ用意されています。たとえばAntaresのAUTO-TUNE Synergy、テープレコーダーで録ったような音にするReel To Reel、 InertiaのInstinct……といったものがあるので、必要に応じて追加していくことも可能です。そして、これらすべてがPCのCPUパワーに依存せず、レイテンシーなく使えるというのが大きなメリット。とくにAUTO-TUNEは、各種環境のバージョンがある中、リアルタイム性という意味では、AntelopeのSynergy Coreが最速のようなので、これだけのためにZen Go Synergy Coreを購入する…というのもアリだと思います。

オプションでAUTO-TUNEなども用意されている

ちなみにFPGAって何?DSPって何?という方は、以前書いた「いまさら聞けない、DSPって何!?」という記事が参考になると思うので、こちらもご覧になってみてください。

FPGA DSP
Zen Go Synergy Core 1 1
Discrete 4 Synergy Core 1 2
Discrete 8 Synergy Core 1 2
Zen Tour Synergy Core 2 4
Orion Studio Synergy Core 2 6

なお、FPGAとDSPが入っているとはいえ、56,000円の機材ですから、上位版のZen Tour Synergy CoreやOrion Synergy Coreとまったく同じ……というわけにはいきません。確かに同じプロセッサを使っているものの、上の表のとおり、Zen Go Synergy Coreに入っているプロセッサの数はFPGA、DSPともに1つずつなので、同時に多くのエフェクトを起動するわけにはいきませんので、その点は注意ですね。

FPGAとDSPを組み合わせたアーキテクチャ、Synergy Core

そうして、もう一つ重要になるのは、冒頭でも触れたとおり、USBのACアダプタに接続することで、これがPCのオーディオインターフェイスとしてだけでなく、スタンドアローンの機材としても動作するという点です。

たとえば、ギターアンプをエミュレーションする11x SHRED GUITAR AMPS、キャビネットをエミュレーションする11x SHRED GUITAR CABINETSというのがあるので、PCと接続した状態でこれらを設定して気に入った音を作っておきます。この状態で、PCとのUSB接続を切り離してもZen Go Synergy Core自身はその設定を覚えているので、今度はACアダプタと接続して使えば、単独のギターアンプシミュレーターシステムとして使うことができるのです。そのためライブなどに持ち込んで、単独のコンパクトなエフェクトとして使うこともできるというわけですね。

ギターアンプシミュレーターを設定した上で、スタンドアローンとして使う手も…

このようにプロセッサを内蔵したコンパクトなオーディオインターフェイスという意味では、Universal AudioのApollo Soloとも近いように思います。手元にあるのは名称変更前のArrowですが、サイズ的にも価格的にも近く、バスパワーで動作するという点もよく似ているので、まさにライバルの関係になると思います。

機能や大きさ、価格帯的にもUniversal AudioのApollo Solo(写真は前の名称モデルのArrow)と比較されそう…

ただし、Antelopeの考え方とUniversal Audioの考え方は抜本的に異なります。そうApolloの場合、このDSPはDAWのプラグインとして使うものであり、DAWの中にApolloを組み込む形なのに対し、Zen Go Synergy Coreは、これがコンソールであり、これにDAWをつなぐという考え方なんですよね。言葉だとなかなか伝わりにくい面もありますが、それぞれ一長一短あるので、用途に応じて使い分けるのも手かもしれません。ちなみにApollo SoloもUSB Type-Cの端子ではありますが、こちらはThunderbolt 3での接続となるのも大きな違いですね。

iPad Proに接続して使うこともできた

ところで、このZen Go Synergy Core、実はUSBクラスコンプライアントのデバイスとなっているようで、iPad ProとUSB Type-Cケーブルで接続してみたところ、しっかり使うことができました。やはり16in/16outとして見える形になっています。

雷マークのポートに電源供給することで、iPhoneでも使うことができた

さらに、冒頭でも触れたとおり、雷マークのUSB Type-Cポートに電源供給するモードに設定した上でiPhoneと接続してみたところ、こちらもバッチリ動かすことができました。ただし、iPhoneやiPadでの動作はAntelopeのサポート対象外なので、利用は自己責任でということになりそうです。iOS用の設定アプリなどもないので、あらかじめPC側で各種設定をした後に、iPhoneやiPadと接続して使えば、うまく使うことができます。

以上、ファーストインプレッションということで、Antelope AudioのZen Go Synergy Coreについてレポートしてみましたが、いかがでしょうか?個人的にもこれは買ってくべきと思ったので、さっそく購入手続きをしたので、また新しいことなど分かったらレポートしてみたいと思っています。

【関連情報】
Zen Go Synergy Core製品情報

【価格チェック&購入】
◎Rock oN ⇒ Zen Go Synergy Core
◎Amazon ⇒ Zen Go Synergy Core
◎サウンドハウス ⇒ Zen Go Synergy Core
◎サンフォニックス ⇒ Zen Go Synergy Core

Commentsこの記事についたコメント

4件のコメント
  • ki

    こんにちは。本機材がVoicemeeter不要なレベルでミキサーが充実+FPGA/DSPエフェクトでの処理が出来るということで、配信にもよさそうだと今更になって気になっているのですが、当初の不具合やサポートのまずさで大批判を受けているようで、非常に不安です。
    種々のアップデートを経たあとでの藤本さんの評価をお聞かせ願いたいのですが…

    2021年9月18日 6:50 PM
    • 藤本 健

      kiさん

      こんにちは。私は非常によくできたいい機材だと思います。当初の不具合があったのは事実ですが、他社製品でもファームウェアのアップデートはよくあることです。またサポート担当のTwitterでの言動がよろしくなかったなとは思います。とはいえあの炎上、某氏の煽りが大きなキッカケで、あれはいかがなものか、と。その炎上事件の後に、DTMステーションPlus!で特集を組んでいます。よかったら、こちらをご覧ください。
      https://www.youtube.com/watch?v=W24oU4_itHw、

      2021年9月19日 9:51 AM
  • ki

    藤本さん、真摯な回答ありがとうございます。例の動画(だと思いますが)あれはあれで単に逆サイドの信者を生んでいるに過ぎない感じありますね…ノイジーマイノリティというか
    動画も(チャットはアンチも居るかもなので抜きで)拝見します。

    ちなみに、「ギターエフェクト+声にノイズゲート/コンプ/EQ/ディエッサー」というくらいなら、Discrete 4まではいかずともZen Goでどうにかなるものでしょうか…? いまいちこの辺同時利用エフェクトのパワーがよくわからないなと…

    2021年9月19日 11:06 PM
  • ki

    余談かつ追記ですが、配信にも使うとどうもスペックは足りているのにソフトエフェクトを掛けると妙に音にノイズが乗ってしまったりするので、なにかハードウェア機材で掛けられないかと思ってたどり着いたのがAntelope機材だったりします。(UAはWDMアプリには全く対応しないよと述べているようです)
    dbxの286sならコンプとディエッサーは使えそうですが、VT-4なんかもEQ等があるわけではなく、自分の求めているのが妙にニッチなところなのだなと思ってしまった節もあります…

    2021年9月19日 11:11 PM

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