• アイディアを瞬時にスケッチする新世代のMTR。ZOOM R20の開発者にインタビューしてみた

先月ZOOMから新世代のMTRであるR20が発売されました。これは、タッチ操作可能なモニターを搭載した16トラックのMTRで、6系統のXLRマイク入力と2系統のXLR/TRSコンボジャックを装備したもの。マイクはもちろん、ギターやベースなども接続することができるだけでなく、MIDI音源も搭載しているので、これを使ってドラムやシンセを打ち込んで鳴らすことが可能。この際USB-MIDIキーボードを利用することもできます。さらに76タイプのエフェクトも搭載しておりこれで自由に音作りができるほか、USBでPCと接続すればオーディオインターフェースとしても使える超多機能なMTRなのです。

DAWと同じ操作感で、DAWよりも直観的で簡単に操作できるといのがR20のセールスポイントとなっています。「でも、そこまでするならDAWを使った方がよくない?」と思う方もいると思います。確かに総合的な機能ではDAWが強力ですが、R20は録音を始めるまでのスピードが圧倒的に早いんです。やはりDAWの場合だと、PCを起動して、DAWを立ち上げ、セッションやトラックを作って……など、録音までの手順が多いのは事実。一方、R20なら電源を入れて、数回ボタンを押せば録音可能になるなので、思いついたアイディアを逃すことなく、録音可能なのです。普段、曲のアイディアを思いついたらスマホなどに録音するという人も多いと思いますが、その感覚ですぐに録り、さらに形にしていくことができるのです。もちろん、本格的な作業や仕上げ作業は、DAWに移行して……ということも簡単です。一方でDAWにあまり馴染みがないDTM初心者にとっても、R20はかなり使いやすい機材になっています。そんなR20についての開発背景をZOOMの川村快磨さん、関口誠幸さん、加藤和行さんにお伺いしてみました。

アイディアを瞬時にスケッチする新世代のMTR。ZOOM R20の開発者にインタビューしてみた

R16、R24誕生から10年以上が経過

--まず、R20の詳細に入る前に、みなさんの担当を教えてください。
川村:僕は、社内でヴァイスプレジデントという立場で開発部門を見ています。R20などを開発しているレコーダーのチーム、エフェクターを開発しているチーム、それからビデオカメラ系を開発している、3チームを率いています。関口と加藤は、レコーダーチームのファームウェアのチームリーダーという立場です。

ヴァイスプレジデントの川村快磨さん

--R20、とっても面白い機材だなと思いましたが、このR20の開発はいつごろ、どういう形でスタートしたのでしょうか?
川村:開発のスタートは2020年の春ごろだったと思います。MTRとしてはもともとR16とR24という製品があり、これらは10年ぐらい販売を続けているロングセラー商品です。今も売れ続けてはいるのですが、開発した10年前とは時代も変わってきているので、UIをもっと簡単にして、より使いやすいものにしたらどうだろうか…というところから、R20の開発はスタートしています。R16やR24は、8ch同時入力ができるなど、優れた面も多いのですが、録った後のエディットが少し扱いにくいのです。録音後にトラックの位置を変えたりするのを小さな画面で行う必要がありました。でも、今ならタッチパネルで操作でき、使い勝手はずっとよくなるはず。すでに別機種でもタッチパネルを使い始めていて、実績もあるのでR20はタッチパネル搭載を一つの目玉として企画していきました。

R20はタッチパネルを搭載している

--全体がタッチパネルではなく、一部物理キーを搭載していますが、ここにはZOOMのこだわりがありそうですね。
川村:やはり、フェーダーやツマミ、ボタンが物理的に存在していると、楽器を弾いているときに使う機材としては使いやすいんですよね。全体がタッチパネルの機材だったり、PCで立ち上げたDAWと比較して、物理的なフェーダーやボタンだとスピーディーに直感的に操作できるようになっています。楽器を演奏する人の立場で考えて、開発は行いました。

一部物理キーとなっており、楽器を演奏する人は使いやすい作りになっている

--実際に使用させていただきましたが、DAWに近い感覚で使えるMTRでとってもわかりやすい印象です。
川村:R20のスペックとしては、44.1kHz固定となっており、16トラックを扱えるMTRとなっています。この16トラックは、オーディオとMIDIを切り替えて使う仕様です。入力は8ch、出力は4ch備えていて、USBオーディオインターフェースとしても使用可能です。入力は2基のコンボジャック、6基のXLR端子がついていて、出力はヘッドホンのステレオアウトとマスターアウトのTRSフォンジャックを搭載しました。そして、1chの入力のみHi-Zに対応で、ファンタムは5~8chで使用することが可能です。

1chと2chはコンボジャックになっている

FM音源とPCMドラムを内蔵

--R20には、シンセが搭載されていますが、これまでZOOMの機材でシンセを搭載していた製品はありましたか?
川村:ZOOM ARQがあります。この製品には加藤も関わっていますよ。

--そういえば、そうでした!以前「22世紀から飛んできたリズムマシン!? ZOOMの新コンセプト楽器、ARQがぶっ飛び過ぎだ」という記事で紹介したこともありましたが、楽しい楽器でしたね。そのノウハウが入っていると?
加藤:R20の音源はARQとは別ものですが、音源開発の経験は生きていると思います。このR20にはFM音源を搭載しています。音色は18種類のシンセとPCM音源のドラムキットを1種類搭載しています。

ファームウェア開発担当の加藤和行さん

--一方ギターエフェクトも搭載されいますが、さすがZOOM製品という充実具合ですね。
関口:基本的にはギター用のエフェクト、77タイプを用意しています。1chにインサートして使う形になっています。もっとも、そこのトラックにセンドで信号を送る形にすれば、複数のトラックで同じエフェクトを共有する、といった使い方も可能です。センド操作が簡単に行えるようにセンド用のパッチも用意しています。

ファームウェア開発担当の関口誠幸さん

--R20は、USB端子を装備していますが、PC以外にもここにキーボードを接続して、内蔵音源を鳴らしたりすることはできますか?
川村:R20にUSB=MIDIキーボードを直接接続して、内蔵音源を鳴らすことも可能です。なお、PCと接続する際はホームページからダウンロードできるドライバーをインストールしてください。また、手元にMIDIのシーケンスデータがある場合は、SMFに書き出して、SDカード経由で読み込むこともできます。

R20のサイドには、USB端子やSDカードスロットが装備されている。SDカードを入れて録音など行う

--Guitar Labという専用アプリがありますが、これはどのようなものですか?
川村:Guitar Labはエフェクトを入れ替えたり、エディットすることのできるライブラリアンです。これもホームページからダウンロードすることができ、プリセットのバックアップなども可能です。

Guitar Labを使って、エフェクトをエディットしたり、プリセットの管理ができる

コスト優先で設計段階で余分なものはそぎ落とす

--再度、開発の経緯みたいなところをお伺いしたいのですが、タッチパネルのほかに当初はどういった企画案があったのでしょうか?
川村:大きなポイントは、リージョンですね。リージョン単位でオーディオを扱えることが、これまでのMTRでないところかつ、DAWの強みだと思います。DAWの強みとMTRの手軽さを掛け合わせたものがR20なのです。ただ、これを実現するために限られたCPUパワーでやり繰りする必要があったので、最初は動作が遅いとか、リージョンを切って繋ぐと無音になってしまったり、といったバグがあったり、安く作ることの難しさがありました。もしこの機材がとても高かったら、買うメリットを感じてもらえないので、そこは技術力でカバーしました。

リージョン単位でオーディオを扱えるようにする点に苦労したとのこと

--どうやって安くすることができたのですか?
川村:現在半導体不足もあり、悩むことも多かったのですが、とにかく設計で価格を抑える、という手法をとったのです。余分なものは付けないということを意識しました。何が必要で、何が余分かという線引きもあるのですが、たとえばR20にはアウトプットの端子は限られており、本当はサブアウトなどがあるといいのですが、そうすると価格が上がってしまいます。さらにいえば、そこまでディープなことをする人はDAWを使うという想定のもと、開発を行っています。また塗装をせずともきれいに見える素材を選んで、コストを抑えています。

アウトの端子は非常にシンプルなものとなっている

--CPUパワーに制限がある中での開発も大変だったと思います。
加藤:リージョンを扱う、メイン画面は大変でした。完成するまでに数か月はかかっています。快適に操作できるようにどれだけのパフォーマンスを上げられるか詰めていきました。リージョンにすると、考慮する必要があるパターンが膨大にあるので、設計を整理するのは大変でした。見た目はシンプルですが、中身はかなり複雑で、これまでに何度かやり直しもしています。ある意味ゼロからDAWを作ったといっても過言ではないと思います。

操作性のよいフェーダーが搭載されている

半導体不足でも確実に生産できる部品で設計するのがZOOM流

--ちなみに半導体不足でいうと、オーディオインターフェイスなど手に入らない状況がありますが、R20は大丈夫なのでしょうか?
川村:その点は大丈夫です。エンジニアのフルパワーを使って、確実に手に入るもので作れるように設計変更を行いました。これはR20に限らず、ZOOM製品全般に言えるのですが、品質は保ちつつ、買えるデバイスで生産できるように設計変更しており、確実に供給できる体制を整えています。

RECするトラックやゲインは物理的に操作する形になっている
--ちなみに加藤さん、関口さんはこれまでどんな製品のファームを設計していたのですか?
加藤:エフェクタやオーディオインターフェイス、R20の前身でもあるR16とR24も担当しました。
川村:加藤は、必殺仕事人みたいな感じで、各プロジェクトで誰も作ったことないようなもの、「こんなことできるのかな?」という機能を実現してくれてます。
関口;ハンディレコーダーやフィールドレコーダーをメインに開発しています。

--いろいろ苦労されて、完成したR20ですが、実際今のお気持ちはいかがでしょうか?
関口;UIもカッコいいものができて、使い勝手のいいMTRが完成したと思います。誰でも触りやすくなったおかげで、よりもっといいものが欲しいな、と思っていただけているので、今後アップデートを行えればいいなと。
加藤:実は、R20に関しては完成にこぎつけないのでは……と本気で心配だったので、とにかく完成したことで、ひとまず安心です。

--加藤さんがそうおっしゃるのだから、厳しい開発だったわけですね。
川村:当初はパワーに余裕のあるCPUの採用を予定していたのですが、コストを抑えるために採用するCPUのパワーが想定より低くなりました。企画として性能を落とす訳にはいかないので、「ここはデータ、何ビット送っているの?」「ならここまで詰めても、パフォーマンスは変わらないはず」と処理量を削り出していきました。そこまでの開発をしているからこそ、ZOOM製品は安くできるんです。

5-8chの入力で、ファンタム電源を使えるようになっている

コンパイラの気持ちになってプログラムを書く

--安すぎて、ZOOMを日本メーカーだと思ってない人もいますもんね。でも、そこまでCPUを追い込んだプログラムをするとなると、Cではなくアセンブラで組んでいくわけですか?
川村:昔はアセンブラでも書いていたのですが、アセンブラで書いたとしてもパフォーマンスがあがらないことが多いのです。ただ、加藤はかなりの職人なので、可読性は悪いけど、このコンパイラだと、この書き方のほうが速いということが分かるんですよね。
加藤:いろいろ書き方を試していって、結果、何が速くなるのかを会得してます。コンパイラの気持ちになるのが大切ですね。
川村:エフェクタも安い価格でリリースしているのですが、それについてもコンパイラの気持ちになりながら設計しているので、低価格でクオリティの高いを開発できています。ほかのメーカーは、余裕のあるCPUで作っているので、それは高いよね、と思います。ファームウェアに限らず、機構もどうやったらパーツを減らせるか、基板も6層基板から4層基板にできないか、など常に実験して、価格を落としています。性能は設計で担保するというスタンスですね。

オーディオインターフェイスとして使うこともできる

--先ほど、アップデートのお話がありましたが、現段階ではどういった予定があるのでしょうか?
川村:まずは、コントロール・サーフェイスへの対応ですかね。R20のフェーダーやつまみを動かすとUSB経由でDAWを動かせるようにする予定です。またiOSデバイスにR20の画面を表示させて、リージョンのエディットなどを行えるようにもしていきたいと思っています。また、視覚障害を持っているとタッチパネルで操作が難しいので、iOSの機能を使って、タッチするとしゃべってくれるVioceOver機能も実装予定です。それもR24を使ってくださっている方が、タッチパネルでなければ使えるのにという話を聞いて、タッチパネルだったらどう対応できるか考えました。また、WEBコンテンツ収録のためドラマーのオマー・ハキムにR20を渡したら、すぐに録音できる利便性とリージョン表示のUIはとても好評でした(以下のビデオ参照)。

--プロミュージシャンにも好評だったわけですね。
川村:その辺は、僕も加藤も関口も楽器を弾きますし、エンジニアのほとんどが楽器を弾いたり、曲を作るので、ミュージシャンの気持ちを大切にしています。機構のエンジニアも楽器を触るので、ボタンの配置などミュージシャン目線で開発を行っています。また、耐久性についてもスタジオに持っていたりすることを想定していたりとシチュエーションは気にしていたりしますね。

--ありがとうございました。

【製品情報】
ZOOM R20 製品情報
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