これはオーディオインターフェイス革命!ZOOMが32bit Float対応のUSBオーディオインターフェイスにもなる小型レコーダーF3を発表

ZOOMが1月19日、192kHz/32bit Float(フロート)録音に対応した2ch入力の小型フィールドレコーダー、F3を発表し、1月末から発売を開始します。以前から販売されていたF6よりもコンパクトなレコーダーで、XLRのマイク入力を2系統持つレコーダーなのですが、実はこれ、トンでもない秘密機能を搭載しているのです。それは3月に予定されているファームウェアのアップデートおよびドライバのリリースにより、WindowsおよびmacOSでオーディオインターフェイスとして使えるようになるというものなのですが、まさにオーディオインターフェイス革命ともいえる機能・性能を搭載しているのです。

何が革命なのかというと、オーディオインターフェイスとして96kHz/32bit Floatでの録音に対応するということ。ピンと来ない方も少なくないと思いますが、32bit Floatに対応することにより、入力ゲイン調整という概念がなくなり、いくら爆音が入ってもクリップする事故がなくなるのです。まさに録音失敗しないオーディオインターフェイスの誕生であり、レコーディングの常識を根本から覆すものなのです。そのZOOMのF3を発売前に借りて、少し試すことができたので、これがどういうものなのか、どのように革命なのかを紹介してみたいと思います。

ZOOMがリリースした32bit Float対応のフィールドレコーダー兼オーディオインターフェイス、ZOOM F3

手のひらサイズでXLR 2系統入力を持つZOOM F3

今回、ZOOMが発表したF3は、手のひらに乗る、コンパクトな機材で、基本的にはフィールドレコーダー、リニアPCMレコーダーと呼ばれるもの。microSDカードにモノラルもしくはステレオで音をレコーディングしていく機材で、単3電池2本で動作させることが可能な製品となっています。

F3はコンパクトで手のひらに乗るサイズながらファンタム供給可能なキャノン入力を2系統装備

ご存じの通り、ZOOMはこれまでも数多くのリニアPCMレコーダーを開発してきたメーカーなので、その延長線上にある機材なのですが、ここ最近にZOOMが出していたF6、F2/F2-BTは、レコーダーの世界に革命をもたらした製品でした。まだ、一般にはなかなかその凄さが認知されていないのが実情だと思いますが、以前AV Watchに「レベル調整不要!? ZOOM F6の32bit Float録音が革命的なワケ」という記事も書いているので、ぜひそちらも参考にしてもらいたいのですが、最大のポイントは前述の通り、失敗しない、ということにあります。

その失敗しないという意味、理由を簡単に説明しておきましょう。これまでレコーディングの常識では、録音できる音のレベルには限界があり、それを超えるとクリップしたり歪んだりするため失敗となるので、絶対に限界レベル以内に抑えるのが鉄則。それはアナログの時代でもデジタルの時代でも共通の常識で、誰もが最初に習う知識でもありました。

フィールドレコーダーとしてレコーディングした音はmicroSDに記録していく

爆音でも微細な音でも音割れの心配ゼロで録音できる無限のダイナミックレンジ

ただ、できるだけいい音で録音するためには、レベルオーバーしない範囲でなるべく大きな音でレコーディングしておく、というのもアナログ、デジタルを問わず重要なテーマでもありました。まあ、最近のデジタルレコーディング機材はS/Nもよくなったので、そこまでギリギリに追い込むこともなくなりましたが、それでもADコンバータの性能を突き詰めるなら、クリップしない範囲でなるべく大きく録るのが秘訣となるわけですが、だからこそ、ちょっとしたことでレベルオーバーして、録り直しになる…というのが難しいところでもありました。

ところが、F6やF2の登場により、その常識が根本的に崩れたのです。これら32bit Floatに対応したレコーダーでは、レベルオーバーということが発生しなくなり、どんなに爆音が入力されても、絶対にクリップしたり歪んだりしなくなったのです。32bit FloatのFloatとは浮動小数点のことで実質的に極小の音量から莫大な音まで録音可能であることを示すもの。

ローゲインとハイゲインに対応した2つのADコンバーターを搭載している

F6、F2、そして今回のF3においてもデュアルADコンバータ回路なるものが搭載されており、これによって、ローゲインのADとハイゲインのADをスムーズに切り替えることで、実質無限のダイナミックレンジを実現しているのです。

2つのADコンバーターをスムーズに自動で切り替えるのがF3のミソ

先ほどのAV Watchの記事の実験でも、スポーツカーのマフラーの横で爆音を録ると一見レベルオーバーしたように見えるけれど、実はサチることなく、キレイに収録することができていたのです。

前置きが長くなりましたが、その新世代機材として登場したのが今回のF3です。ここには+48Vのファンタム電源供給も可能なXLR入力が2つあり、モノラルでもステレオでも録音することが可能となっており、単3電池2本を入れれば、すぐにレコーディングができる機材です。

単3電池x2本で動作する

実際試してみたところ、ほぼ何の設定もせずともすぐに録音することができます。必要に応じて、XLRからの入力がマイクなのか、ラインなのかといった設定もできるようになっています。

マイク、ラインの入力レベル切り替えが可能でファンタム供給もここで設定

従来のレコーダーと抜本的に異なるのはここに入力ゲイン調整がないこと。極小サウンドから爆音まで実質的に無限のダイナミックレンジで音が録れるのですから、レベル調整なんて不要であり、結果としてゲイン調整というパラメーターすらなくしてしまった、というわけなのです。

ゲイン調整もレベル表示も不要なら、何を表示させようか……ということで思いついたのか、この液晶パネルには入力された音がリアルタイムに波形で表示されていきます。まあ、32bit Floatなので、波形の大きさに然したる意味があるわけではないのですが、左右独立した形で、録音中も録音してないときも表示されているのは、分かりやすくていいですね。この波形表示機能についてZOOMに確認したところ、波形表示は“ポストプロダクション時に録音した音声ファイルをインポートした時に、DAWなどのソフトで最初に表示される波形を実機の録音段階から想起できる”ことを目的とした機能とのこと。各トラック4秒程度の表示ですが、レベルメーターの瞬時値よりもどんな音かを見た眼で確認できるというメリットがあるわけです。

左右からの入力をそれぞれ独立した拡大率でリアルタイムに波形表示できる

また必要に応じて波形の大きさの倍率をx1、x2、x4、x8、x16、……、x1024まで調整できるので、環境によって表示を変えるというのも手ですね。この倍率を調整することで、波形表示とともに録音レベルも変化しますが、常に32bit Floatで録音しているので絶対に音割れはしません。仮に録音結果が大きすぎた場合でも、DAWで後から音量を調節するだけの話で音質や音の解像度も劣化しません。もっとも波形に応じてヘッドホンへのモニター出力レベルは変わるので、ここは要チェックです。なお、録音中に波形倍率を変更した場合は、波形の表示とモニターレベルのみがリアルタイムに変更され、録音レベルは録音開始時のままとなります。

3月のファームアップデートで32bit Float対応オーディオインターフェイスに

と、ここまではF3がリニアPCMレコーダーであるとして見てきたわけですが、本題はここから。1月下旬に発売された時点ではまだ実装されていないものの3月に予定されているファームウェアのアップデートを適用することで、F3がWindowsおよびmacOSで使えるオーディオインターフェイスとなるのです。そう、32bit Floatとしての恩恵を、DAWでそのまま利用可能になるのです。これって、画期的というかDTM革命といっても過言ではないですよね?

ご存じの通り、Cubase、Studio One、Ability、Logic、Ableton Live……と各DAWは32bit Floatや64bit Floatに対応しており、内部的にはどれだけ増幅させてもクリップしないというエンジンを装備しています。しかし、これまでそれに対応したオーディオインターフェイスが存在していなかったため、その威力を発揮できなかったのが実際のところ。しかし、今回、F3が32bit Floatに対応したオーディオインターフェイスとして機能することになると、まさにDAW革命が起きるのではないでしょうか?

メニューからUSBオーディオI/Fを選ぶと、オーディオインターフェイスに変身

実は今手元でテストしてみたF3にも、メニューを見るとUSBオーディオIFという項目があり、これを選択し、PC/Macを選択すると、WindowsおよびmacOSでオーディオインターフェイスとして機能します。

PC/macとタブレットの2つのモードを選択できる

またタブレットを選択すればiPhoneやiPad、またAndroidタブレットなどでオーディオインターフェイスとして機能するようになっています。実際、USB Type-Cのケーブルを使ってPCと接続すれば、USBクラスコンプライアントデバイスとなっているようで、ドライバなしに接続でき、オーディオの入出力が可能となります。

USB Type-C接続でのオーディオインターフェイスとなる。もちろんバスパワーで動作する

ただし、このドライバのない状態だと32bit Floatに対応していないため、F3の持つデュアルADコンバータの恩恵をフルに受けることができないし、とくにWindowsの場合ASIOドライバが使えないと、実質的にDAWでの活用が困難なものとなります。

3月のファームウェアアップデートでASIO、CoreAudioに対応

しかし、3月のアップデートでファームウェアが改良されて正式に32bit Float対応のオーディオインターフェイスとして使えるようになるとともに、それにマッチしたWindows用のASIOドライバ、そしてmacOS用のCore Audiodドライバがリリースされるので、ほぼすべてのDAWユーザーに革命が訪れるというわけなのです。

なお、前述の通りF3は単3電池2本で動作しますが、USB Type-C端子からのバスパワーで動作させることも可能。オーディオインターフェイスとして使う場合ももちろん、PCからの電源で動作させることが可能なので、電池は不要ですし、ファンタム電源を使ってコンデンサマイクを動かしても電池切れなどの心配はいらなくなります。

これだけの革命を起こす機材なので、最低10万円以上してもいいように思うのですが、市場予想価格は税込みで35,000円とのこと。さすがに、価格設定が安すぎなような気もするし、そのためにこのF3の凄さ、革命具合が世間に伝わらないのでは……なんて危惧してしまうところですが、2022年からレコーディングにおける常識が大きく変わります。その新常識を身に着けるためにも、32bit Floatレコーディングの世界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

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