ZOOMから、32bit float対応のレコーダー、MicTrakシリーズが発売されました。ラインナップは、M2(24,000円税込)、M3(24,000円税込)、M4(45,000円税込)となっており、それぞれ特徴を持った機材となっています。M2は、一般的なマイク型のレコーダーで、楽器のレコーディングやボーカルREC、ナレーション録音…などに適したモデル。M3は、ショットガンタイプのMSステレオマイクレコーダーで、一眼レフカメラの上に装着して利用できる、動画撮影向けのモデル。M4は、プロ仕様のレコーダーで、M2と同様にXY方式のステレオマイクを装備。コンボジャックを2つ搭載しており、タイムコードの入出力端子やノーマライズ機能を持った本格派となっています。
このZOOM MicTrakシリーズは、32bit float対応であるため、通常は絶対に必要なレベル調整は必要なく、録音ボタンさえ押せば、確実に音を収録できるのが最大の特徴。もちろん自動音量調整ではなく、ダイナミックレンジの広い録音が可能になっています。32bit floatにより、入力ゲイン調整という概念がなくなり、いくら爆音が入ってもクリップする事故がなくなったのは、ある種、レコーディング革命といってもいいものです。また極小の音量を収録して、後からレベルを上げてもきれいに再生することが可能で、まさに録音失敗しないレコーダーとなっているのです。そんなZOOM MicTrakシリーズを実際に試してみたので、紹介していきましょう。
32bit float対応のレコーダーZOOM MicTrakシリーズ
今回登場したZOOM MicTrakシリーズは、すべて32bit floatに対応しているわけですが、これがなんなのか、まずは簡単に説明しておきましょう。結論的には、冒頭にも書いたように32bit floatに対応したレコーダーで録音すると、レベルオーバーということが発生しなくなり、どんなに爆音が入力されても、絶対にクリップしたり歪んだりしないのです。また微小な音でも高いS/N比を実現してくれます。
32bit float対応の機材としては、以前「これはオーディオインターフェイス革命!ZOOMが32bit Float対応のUSBオーディオインターフェイスにもなる小型レコーダーF3を発表」や「どんな爆音を入れても絶対クリップしない! ZOOM F3が、ついに32bit float対応の革命的オーディオインターフェイスに」で紹介した、 ZOOM F3といったFシリーズが存在しています。このFシリーズは発売されたと同時にかなりの人気機種となっており、フラグシップモデルであるZOOM F8n Proは、実際にテレビなどのプロの現場でも広く使われています。
32bit Float対応のフィールドレコーダー兼オーディオインターフェイス、ZOOM F3
その人気の理由は、やはり録音に失敗しないという部分が大きいと思います。これまでレコーディングの常識では、録音できる音のレベルには限界があり、それを超えるとクリップしたり歪んだりするため失敗となるので、絶対に限界レベル以内に抑えるのが鉄則。それはアナログの時代でもデジタルの時代でも共通の常識で、誰もが最初に習う知識でもありました。
ただ、できるだけいい音で録音するためには、レベルオーバーしない範囲でなるべく大きな音でレコーディングしておく、というのもアナログ、デジタルを問わず常識であり、そして重要なテーマでもありました。最近のデジタルレコーディング機材はS/Nもよくなったので、そこまでギリギリに追い込むこともなくなりましたが、それでもADコンバータの性能を突き詰めるなら、クリップしない範囲でなるべく大きく録るのが秘訣となるわけです。でも、だからこそ、ちょっとしたことでレベルオーバーして、録り直しになる…というのが難しいところでもありました。
ところが、ZOOMが開発した32bit float対応の機材の登場により、その常識が根本的に崩れたのです。まさに革命であり、プロの音声エンジニアでなくても、あらゆる人が確実に音を収録できるようになったのです。ちなみに32bit FloatのFloatとは浮動小数点のことで実質的に極小の音量から莫大な音まで録音可能であることを示すもの。
ローゲインとハイゲインに対応した2つのADコンバーターを搭載している
ZOOM MicTrakシリーズは、Fシリーズと同様にデュアルADコンバータ回路なるものが搭載されており、これによって、ローゲインのADとハイゲインのADをスムーズに切り替えることで、実質無限のダイナミックレンジを実現しています。
以前AV Watchに「レベル調整不要!? ZOOM F6の32bit Float録音が革命的なワケ」という記事を書いたのですが、そこの実験でもスポーツカーのマフラーの横で爆音を録ると一見レベルオーバーしたように見えるけれど、実は歪むことなく、キレイに収録することができていたのです。
こればかりは、実際に自分で試してみないと、なかなか実感できないのですが、今回登場したM2、M3は32bit float対応機材の中では、価格が安いので比較的試しやすいものとなっています。
さて、ここからはM2、M3、M4について見ていきましょう。まず、この3つのモデルは32bit float対応であるほかに、共通してmicroSDへの録音機能を持っていたり、Windows/Mac/iOS/AndroidデバイスのUSBマイクとして動作します。32bit float対応のUSBマイクとして使えるので、配信に使用したりということも可能です。
Windows/Mac/iOS/Androidデバイスの32bit float対応USBマイクとして利用可能
M2は、ハンドマイクのような見た目のエレクトレット・コンデンサマイク。単3アルカリ電池×2本で約11時間駆動し、USB給電も可能。モノラル/ステレオをボタン1つで切り替えることができ、インタビューやナレーション、ボーカルなどの声の録音にも最適。肝心な音質についてですが、以下にギターをM2を使って収録した動画があるので、ご覧ください。
いかがでしょうか?これで24,000円なのは驚きですよね。楽器のレコーディング、ボーカルの録音、USBマイクとして使い配信も行える、万能機材なのがM2です。なお対応サンプリングレートは44.1/48/96kHz。また、M4と同様にノーマライズ処理や16/24bit WAVへの書き出しを本体から操作することも可能。シリーズ共通して日本語表示にすることもできるので、初心者でも簡単に扱える機材となっています。
付属のマイクホルダーを使用して、マイクスタンドに付けることができる
続いて、M3です。M3だけが、カメラ用のショットガンマイクのような形になっていて、今動画系のユーザーに大人気とのこと。一眼レフカメラでの動画撮影用に設計されており、マイクの指向性パターンをモノラル/90°/120°から選択可能。さらに常にステレオとMS RAW形式で同時録音するため、MS RAWファイルをM3 Edit & Playで編集することで、収録後に映像に合わせたステレオイメージに調整することもできます。
ほか2つのモデルと同じく、最大1TBのmicroSDXCカードに対応しており、3アルカリ電池×2本で約12時間駆動します。対応サンプリングレートは48kHzのみ。付属品としてはカメラ用ショックマウント、ステレオミニケーブル、ウィンドスクリーンが付いてきます。M2、M4と同様にボリューム操作可能なイヤホン端子も装備しているので、カメラの上に装着しつつ、音のモニタリングが可能です。
M4は、M2の上位互換的存在で、最高192kHzでの録音に対応しています。コンボジャックを2基搭載しているので、ここに別のマイクを接続したり、LINEを入力することができます。また、タイムコードジェネレーターを搭載しているので、映像とのシンクも容易に行うことができます。駆動時間は単3アルカリ電池×4本で約19時間。以下の動画は、M4に搭載されているXYステレオマイクと、ほか2つのマイクを接続して録音されたドラムとボクシングの映像となっています。
ファンタム電源出力可能なコンボジャックを搭載しているので、できることがかなり広がっていますね。M2はモノクロ液晶ディスプレイだったのに対し、M4はカラー液晶を採用。ほか2機種と比べると、値段は上がりますが、できることが多く、プロの現場でも耐えれる作りをしているので、コストパフォーマンスが高い製品です。
コンボジャックにマイクやラインを入力して、録音することができる
前述の通り、M2、M3、M4はUSBでPCと接続すると32bit float対応のマイクとして利用できるので、試しにM2を使ってWindowsのCubaseに接続してみました。先にM2のドライバーをインストールしおいてから、PCにM2を接続しました。
Windows PCにM2を接続して、USBマイクとして使ってみた
最初にM2本体をUSB接続の設定にします。
その後、Cubaseで実際に入出力を確認してみると、2in/2outとして認識されていました。
2in/2outのオーディオインターフェイスとして認識された
録音する前に忘れてはいけないのは、M2本体のUSBオーディオ設定で、フォーマットを32bit floatに設定しておくこと。
もちろんCubase側も32bit floatに設定しておきます。なお、M2はUSBマイクとして利用する場合、サンプリングレートは48kHzに固定されます。
さて、Cubaseに録音していきます。もちろん、大きな声を出して録音しました。画面を見てみると、録音はレベルオーバーしている状態に見え、波形は海苔のようなっています。そのまま再生すると、やはり音が割れて聴こえます。
マイクの目の前で大声で叫ぶとクリップしたような頭がつぶれた波形になる
ここからCubaseのゲイン機能を使ってレベルを下げてみました。すると、しっかりと波形が現れ、キレイに声を捉えていました。まさしく、これが32bit floatの実力なのです。
ゲインを絞るとキレイに波形が復元される。つまり音が割れていなかったということ
以上、ZOOM MicTrakシリーズについて紹介しました。M2を1本持っておけば、ボーカルレコーディングもできるし、アコギのレコーディングもできるし、PCやスマホからの配信も行うことができます。1本持っていれば、なにかと役に立つ機材ですね。M3は、動画制作系の人であれば、重宝する機材。M4は、M2よりもいろいろなことがしたい人、プロの音声向けの製品となっていました。
やはり32bit float対応の機材は、レベルを気にせず録音できるので、かなり楽です。収録・録音に本当に集中したい方は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?
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