IK Multimediaが究極のピアノ音源、Pianoverseをリリース。サンプリング・ロボットの採用で過去にないリアリズムを実現

イタリアのIK Multimediaが「必要なのは、このピアノだけ」と言い切る、究極のピアノ音源、Pianoverseを発表し、ダウンロード販売を開始しました。このPianoverseはサンプリング音源となっていますが、同社のプレイバックサンプラー、SampleTankとはまったく別に、ピアノ専用に開発された新たなエンジンを採用したというもの。ヤマハのコンサートグランドCFIIIをサンプリングしたモデルや、SteinwayのD-274(ニューヨークモデル)コンサートグランドを収録したものなど計4製品がリリースされ、今後もラインナップを増やしていくようです。

特筆すべきポイントは、IK MultimediaがこのPianoverse制作のためにサンプリング・ロボットを開発し、このロボットを使って数年をかけて丁寧に正確に、確実にサンプリングした音源である、という点。これによって、従来のピアノ音源とは異なる、非常にリアルなピアノ音源に仕立て上げているというのが最大の特徴です。またPianoverseは単にリアルなピアノを再現するだけでなく、新開発のジェネレーティブ残響エンジンによる空間ジェネレーターが搭載されているのも大きな特徴。これによりさまざまな仮想空間にピアノを置いて弾いた音が実現できるのです。コンサートホールやスタジオでの音はもちろんとして、倉庫や金庫室のような空間から、氷山、砂漠、火星まで選択できるという幅の広さです。もちろんシチュエーションに合わせて音の調整も自由自在にできるのもPianoverseの面白いところ。リリース前に、少し試すことができたので、IK Multimediaのピアノ音源、Pianoverseとは何なのかを紹介してみましょう。

IK Multimediaから究極のピアノ音源という、Pianoverseが登場

ピアノのサンプリング音源とは

Pianoverseの話に入る前にピアノ音源のサンプリングに関する基本的なことから見ていきましょう。これまでサンプリングによるピアノ音源は数多くのメーカーから出ており、時代の進化に伴い、どんどんリアルになってきました。もちろんIK MultimediaでもSampleTankのライブラリとして、さまざまなピアノ音源を作ってきており、非常にリアルな音になっていました。

ご存じの通りサンプリング音源は、実際の音をサンプリング=録音したものを再生しているからリアルな音になるわけですが、そのリアルさを追求するため、サンプリングする音の数を増やしてきた、という歴史があります。メモリ容量やハードディスク容量が小さかった昔は1オクターブ置きにサンプリングしていたものが、数音置きのサンプリングになり、今では88鍵盤すべてを録るものが多くなってきています。またサンプリングする時間が短いと長音を出す際にループさせる必要があり、機械的な音になってしまうので、長時間サンプリングするという形にもなっていきました。もちろんサンプリングする数が増えれば増えるほど、時間が長くなればなるほど容量も増えるため、今では1モデルで数GB~数十GBというのが当たり前になってきています。

高性能・高機能なサンプラーとして定評のあるSampleTank 4

一方、1つの鍵盤をサンプリングするのも複数の打鍵の強さを収録するのもピアノ音源の大きな特徴です。ピアノは打鍵の強さによって、音色が大きく変わってくるため、ここが非常に重要なのです。そのため、サンプリング作業の際、ピアニストに頼んで打鍵の強さを3通りとか7通りなどで弾き分けてもらい、それを収録していく、という方法がとられています。

でも、普通に想像しても分かる通り、打鍵の強さを人間がコントロールするとなると、非常に不確定要素が多くなってしまいます。各鍵盤を弾く強さが、すべて一定になるというのは現実不可能で、どうしてもバラけてしまうのが実情です。そのバラけてしまうのが人間的でいい、という人もいますが、その強弱の表現は本来、音源を使うユーザー側が行うもので、同じベロシティで弾いているのに鍵盤によって強弱が違うといいうのは、楽器側の不良といっても言い過ぎではないはずです。

そこで従来のサンプリングでは、ばらつきのあるタッチで収録されたサンプルを、プログラミングにて平坦化、単純化する、という手段を使うメーカーもいました。こうすることで、バラつきの問題は解決できますが、その分、音のクオリティーが落ちてしまう、という問題点があったのです。

サンプリング・ロボットで正確なサンプリングを実現

そうしたピアノサンプリングの問題を根本から解決しようとして誕生したのがこのIK MultimediaのPianoverseなんです。まずは、そのPianoverseの紹介ビデオをIK Multimediaが作っているのでご覧ください。

Pianoverseのために、IK Multimediaでは4~5年前からサンプリング・ロボットなるものを開発していた、というのです。どんな長時間のセッションでも疲れることなく、何段階ものベロシティでコントロールされたタッチにて打鍵を続けてくれる、サンプリング・ロボット。これが究極のリアルを実現してくれているのです。

PianoverseのためにIK Multimediaが開発したピアノを打鍵するサンプリング・ロボット

このサンプリング・ロボットの設計には、高度なハードウェア技術、独自のソフトウェア技術、そしてその間を結ぶ職人技が必要だった、とのこと。非常に精密で静かなリニア・モーター、ゴムと3Dプリンター生成パーツの組み合わせによる弾性のあるアクチュエーターで構成されているそうです。アクチュエーターはモーターから切り離されており、機械的な衝撃が打鍵するロボットに伝わらないよう工夫され、人間の指の繊細なタッチをシミュレートしているのです

サンプリング・ロボット、マイクからの信号はコントロール・ルームのコンピューターに接続されており、そこでは、独自のレコーディング・ソフトウェアにより、各ピアノならではの音の核心を捉えるように設定されたべロシティ、打鍵時間などの情報と、各サンプルを紐づけした状態で記録されます。

サンプリング・ロボットの構造図

その結果、各ピアノの全鍵盤、強弱ダイナミクスの全体にわたって高精細で正確なサンプリングをすることが可能となり、プログラミングにて平坦化、単純化することなく、全音域にて、自然な強弱表現をそのまま、リアルに再現できるピアノ音源が完成した、というわけなのです。

今回、以下の4つのピアノモデルが登場しています。

Concert Grand YF3 (Yamaha CFIII concert grand piano)
Royal Upright Y5 (Yamaha U5 upright piano)
NY Grand S274 (Steinway & Sons New York d-274 concert grand piano)
Black Diamond B280 (Bösendorfer 280 Vienna Concert grand piano)

また、近日中に下記4つのピアノモデルもリリース予定ということです。

Black Peral B200 (Bösendorfer 200 piano)
Humburg Grand S274 (Steinway & Sons Hamburg D-274 piano)
Gran Concerto 278 (Fazioli F278 piano)
Libery Upright ( Koch & Korselt Upright piano)

いずれのピアノも最高のコンディションのピアノの調達した上で、熟練調律師によるチューニングを行い、最適なマイク・セットアップをしてサンプリングした上で、このサンプリング・ロボットを使ってサンプリングを行っているのですが、すべてのピアノで単に均一なサンプリングを行っているわけではなく、各ピアノごとに最適化している、といのも重要なポイントです。

グランドピアノにサンプリング・ロボットを設置し、マイクでサンプリング

各ピアノのサンプリングにおいては、まずアーティキュレーテッド・キャリブレーションを実行することから始まります。これは楽器のダミナミクスを感知して、音色変化を測定し、そのピアノならではの特性をチェックするために行われるもの。このキャリブレーションが完了すると、ピアノ固有のサンプリング・パラメータが定義され、リアルなサンプルを取得するための最適化が行われるようになっているのです。

さらにレコーディング中、ソフトウェアはすべての録音プロセスを監視します。リリースがしっかりと減衰まで収録されているか、クリッピングしていないか、また録音中の予期せぬ不要なノイズが混入していないかなども検知。1つのノートが完全にサンプリングされると、ようやくロボットを次の鍵盤に移動するためのコマンドが実行される……という非常に地道な作業が行われているのです。この超精密なシステムにより、各ピアノ固有のベロシティ・カーブをはじめ、各ピアノそれぞれの特性を忠実に再現できるピアノに仕上がっている、というわけなのです。

各モデルごとに多数のプリセットを収録

さて、今回はヤマハのコンサートグランドをサンプリングしたConcert Grand YF3とアップライトをサンプリングしたRoyal Upright Y5を試してみました。YF3で20.9GB、Y5で22.1GBとかなり大容量ではありますが、確かに想像以上にリアルなサウンドを再現してくれることには驚かされます。

豊富に用意されているプリセットから選択

実際に使う際には単にピアノを選択するだけではなく、ムード(Mood)、ジャンル(Music Genre)、スタイル(Style)、音色(Timbre)と、さまざまに用意されたプリセットから選べるようになっているのも面白いところ。各プリセットによって、パラメータが異なるため、かなり違った雰囲気のピアノになるんです。

各モデルごとに細かく音作りができる

プリセットを読み込みPIANOタブを開くと、読み込んだモデルのピアノが表示されます。接続してあるMIDI鍵盤を弾けば、すぐリアルな音で演奏できるのですが、見てみる、画面下にいろいろなパラメータが並んでいます。

ピアノ画面。画面下にMODEL/MASTERそれぞれのパラメータが表示される

各ピアノモデルそれぞれを調整するMODELのパラメータと、全体に共通するMASTERのパラメータがあります。たとえばMODELにおいてはNOTE LEVEL、RELEASES、HAMMER NOISE、PEDAL NOISE、HARP RES、LID POSITOIN、TONE SHIFT VEL OFFSETというものがあり、ページを切り替えるとさらに、FILTER TYPE、FILTER CUTOFF、FILTER RES、A ENV RELEASEと12個ものパラメータがあるんです。

MODELのパラメータにはフィルタもあり、12種類のローパス、ハイパスが用意されている

たとえばHAMMER NOISEを上げていくとハンマーを叩いた際の音が強めに聴こえるし、TONE SHIFTを動かすことで、ピアノの擦れたような音からつややかな音まで音色が変化していきます。

またフィルターの種類もローパスフィルター、ハイパスフィルターなど、20種類もあり、これでカットオフやレゾナンスを調整していくことで、かなりシンセサイザ的になるのも面白いところです。

一方、MASTERにおいてはTUNE、TRANSPOSE、SPACE、TONE、COMP、SEND FX、WIDTH、VELOCITY CURVEのそれぞれのパラメータが用意されています。

30種類の空間をシミュレートするSPACE

そのMASTERにあるSPACEとは、さまざまな空間を再現するリバーブなのですが、そのSPACEがPianoverseには30種類用意されています。先ほども少し紹介した通り、コンサートホールやスタジオから、オペラハウス、教会、ガレージ、森林の中、砂漠、火星…とさまざまな空間があり、同じピアノだけど、どこに置くのかによって、まったく違う音になってくるのも面白いところです。それぞれのイラストが用意されているのも楽しいところですね。

スタジオやホールでの空間がいろいろ用意されている

そのSPACEはSEND/RETURNで組まれており、RETURNにおいては最初のMASTERパラメータや、SPACE画面右下でもコントロールできますが、Pianoverseにはミキサー機能も搭載されており、さらに細かく音を調整していくことが可能です。

森林の中でピアノを弾いた音などもシミュレーションすることができる

EQ、コンプ、3系統のエフェクトで音を完成される

MIXタブを開くとコンソール的な画面が表示されます。ここにはMICとSPACEという大きく2つのセクションがあります。SPACEの音量は先ほどのMASTERで設定できているわけですが、元のピアノの音を拾うマイクについても調整が可能になっているほか、それぞれのPANの設定もできます。

ミキサー機能で、ピアノ設置のマイク、リバーブのバランスをとるとともに、EQ、コンプで音の調整ができる

さらに、それぞれにEQとコンプが搭載されているので、さらに音を作り込んでいくことができます。EQはグラフィックEQとパラメトリックEQが選べ、それぞれのパラメータの調整ができますし、コンプのほうもMODERN、VINTAGE、BRITISH、VARI-MUと4種類異なるモデルが用意されているという充実ぶりです。

ミキサー機能のコンプは4種類から選択可能

これらSPACEやEQ、コンプだけでなく、より積極的に音を変えていくためのエフェクトも搭載されています。これはSENDエフェクトが1系統、INSERTエフェクトが2系統別々に設定できるようになっています。

それぞれCHORAL、CONVOMORPH、DELAY、FILTER、LO-FI……と12種類を選択できるようになっており、これらを活用することで、かなりバリエーション豊富な音に仕立てていくことが可能です。この際、エンベロープジェネレータやLFOもそれぞれ2系統あるなど、まさにシンセサイザ的な音作りが可能となっているのです。

SEND/RETERUNが1系統、INSERTが2系統の計3系統のエフェクトが利用可能

以上、究極のピアノ音源というPianoverseについて、ざっと概要を紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?よりリアルなピアノ音源を……と探し続けている人も少なくないと思いますが、既存のサンプリングピアノ、物理モデリングピアノと比較しても、非常にリアルでありながら、さまざまな音作りも可能な優れたピアノ音源であることは間違いなさそうです。容量的には、それぞれ20GB程度とかなり大きいけれど、まず1つ導入してみてはいかがでしょうか?

なお、Pianoverseは各モデルごとに単体で購入できるほか、IK Multimediaサイトではサブスクリプション・プランも用意されています。このサブスクリプションは月間プライン(€14.99/月)、発売記念イントロ料金(€149.99/年)、通常料金(€179.99/年)がありますが、現在発売されている4つのモデルすべてが利用できるほか、今後リリースされるピアノモデルも使える、とのことです。

【関連情報】
Pianoverse製品情報(beeatcloud)
Pianoverse製品情報(IK Multimedia)

【価格チェック&購入】
◎beatcloud ⇒ Concert Grand YF3
◎beatcloud ⇒ Royal Upright Y5
◎beatcloud ⇒ NY Grand S274
◎beatcloud ⇒ Black Diamond B280
◎beatcloud ⇒ Black Peral B200(近日発売)
◎beatcloud ⇒ Humburg Grand S274(近日発売)
◎beatcloud ⇒ Gran Concerto 278(近日発売)
◎beatcloud ⇒ Libery Upright(近日発売)
◎IK Multimedia ⇒ Pianoverse 月間プラン
◎IK Multimedia ⇒ Pianoverse 年間プラン