すでにご存じの方も多いと思いますが、先日11月9日、株式会社インターネットが同社のDAWであるABILITYをメジャーバージョンアップし、ABILITY 4.0 ProおよびABILITY 4.0 Elementsの後継として、ABILITY 5 Pro、ABILITY 5 Elementsを発表していましたが、そのABILITY 5が本日12月7日より発売となりました。アメリカ製、ドイツ製などいろいろなDAWがあるなか、唯一の国産DAWとして進化してきたABILITYは、カモンミュージックの流れを継ぐ数値入力のエディタを備えつつ、世界の潮流に乗るDAWとして最新の機能をすべて整えています。
そんなABILITYが1年半ぶりのメジャーバージョンアップとなったわけですが、今回のバージョンアップではARA2への対応、MODO BASS 2 SEの搭載(Proのみ)、シングルトラックでのタブ譜の表示・入力のサポート、ウェーブエディタのスペクトル表示機能の搭載、MIDIエディタ内にミキサー表示機能の追加……などなど、さまざまな点で強化され、より便利に使いやすくなっています。発売より一足早く、そのABILITY 5 Proを試すことができたので、どんな機能が強化されたのかなど見ていきたいと思います。
国産DAWのABILITYがABILITY 5へとメジャーバージョンアップを果たした
ソングエディタの分割機能の搭載
まずは、UI部分から見ていきましょう。ABILITYにはMIDIトラックやオーディオトラックを並べて表示するソングエディタがありますが、今回のABILITY 5ではこれを上下2つに分割して表示できるようになりました。こうした機能、ほかのDAWを見ても珍しいように思いますが、これがなかなか便利です。
ソングエディタの右上のボタンをクリックすると上下2つに分割される
要はソングエディタを2つ表示できるわけで、たとえば上ではトラックを細く全体的に表示させつつ、下では特定のトラックを太く大きく表示させるといったこともできるし、上でイベントをコピーして下にペーストするといったこともできるわけです。従来であれば、コピー元とペースト先を行ったり来たりしながら操作するのが2分割されることで、スムーズに操作できてとても便利になっています。
MDIモードでのフローティングに対応
昨年リリースされたABILITY 4ではワンウィンドウモードがサポートされ、最近のDAWの流行りにマッチした画面表示ができるようになりました。つまり一つの画面の中にエディタやミキサーなどが分割して表示されるようになったわけです。確かに4Kディスプレイなど広い画面であれば、1度で全体を見渡せて便利である一方、1つの領域についていえば、狭くなってしまうため、とくにノートPCなどだと見ずらくなるという問題もあります。
そこでたとえばピアノロール画面をフローティングさせて、サブディスプレイに表示させて…といった使い方があったのです。今回のABILITY 5でもそのワンウィンドウモードやフローティング機能はもちろん踏襲されている一方、従来からのモード=MDIモードにおいても、そのフローティング機能が有効になったのです。
エディタなどのウィンドウがフローティング状態になって、ABILITYのウィンドウの外へ出すことが可能になる
もともとMDIモードでは各ウィンドウを自由に動かせたのですが、動かせるのはあくまでもABILITY画面の中での話でした。しかし、今回はフローティングさせたものをABILITYの外にも配置できるようになったので、マルチディスプレイ環境においても自由に扱えるようになったのです。
6弦、5弦、4弦表示可能なTAB譜をサポート
これまでABILITYを使ってきた方であればご存じのとおり、以前からTAB譜はサポートされていました。ただ、従来は1弦につき1トラックを使う形であったため、ギターの6弦を表現するには6トラック必要となるというネックがありました。
普通のTAB譜からすると、かなり妙な感じもしますが、1弦で1トラックを使うようになった背景には、もともとギターシンセ用という考え方があったのだとか。つまり、たとえば5弦でチョーキングするためにピッチベンドを上げるとき、ほかの弦まで上がったりしないよう、1つ1つの弦においてMIDIのチャンネルを分けるために、こうしていたのだとか。
とはいえ、単にTAB譜を使いたいという人からすると1つのトラックで6弦すべてを表示させたいところだし、実際ユーザーからもそうした要望が数多くきていたようです。またベースのTAB譜表示機能も欲しいといった要望もあったことから、今回のバージョンアップで1つのトラックで6弦分のTAB譜表示が可能にしたとのこと。
6弦のギターはもちろん、4弦や5弦のベースなどのTAB譜も表示できるようになった
もちろん単純に表示せるだけでなく、TAB譜入力がMIDIデータとして反映されるようになっているし、反対に音符入力やピアノロール入力したものをTAB譜表示させることも可能になっています。とはいえギターやベースの場合、音程の出し方は1通りではなく、何弦の何フレット目で弾くかはプレイヤーの自由であり、前後のつながりなどによっても変わってきます。そこで、ABILITY 5では音符入力したものに対し、プロパティ設定で何弦で使うかを指定できるようになっています。譜表の設定ダイアログでは、ギター6弦、4弦、5弦、
TAB譜の詳細設定画面。各弦ごとのチューニングも自在に設定できる
しかもチューニングも各弦バラバラに設定できるので、
MIDIエディタ内にミキサー表示機能も
今回のABILITY 5ではMIDIエディタ内にミキサー表示をするということも可能になっています。もともとソングエディタには画面左側でミキサーを表示させる機能があり、フェーダーを調整することが可能になっていましたが、今回MIDIエディタにもミキサー表示機能が搭載されたのです。
具体的にはスコアエディタやピアノロールエディタの左側にTrackというタブとともに、Mixerというタブが追加されています。デフォルトではトラックツリーを表示させるTrackタブが選択された状況ですが、MixerタブをクリックするとMIDIのミキサーが表示され、ここでボリュームやPANを設定できるほか、リバーブやコーラスへのセンド量なども調整できるようになっています。
これまでMIDIエディットしながら、ボリュームを調整したいという場合、ミキサー画面と行ったり来たりする必要があったのが、これで1つのウィンドウ内で完結するようになり、操作がスムーズに行えるようになりました。たとえば曲の流れにしたがってボリュームを調整したい場合、このフェーダーを上げ下げすることで、ストリップチャートでのオートメーションを操作していくことが可能になるわけです。
ただしVSTiのプラグインを使っている場合、
メディアブラウザの検索性の向上
ABILITYにはMIDIのフレーズが約3,400、オーディオのフレーズが約4,100と合計で7,500以上のフレーズがはいっているだけに、マッチしたフレーズを探し出すのはなかなか大変です。今までも詳細検索としてジャンル指定などはできるようにはなっていました。
が、今回「楽器」、「テンポ」、「ジャンル」、「構成」といった項目から絞り込んでいくことができるようになったため、より目的の素材を簡単に見つけられるようになっています。
デフォルトでは、「楽器」、「テンポ」、「ジャンル」、「構成」の4項目ですが、ほかにも「拍子」、「タイプ」、「キー」、「ファイルの種類」といった項目もあります。このメディアブラウザ上で表示できるのは4項目となっていますが、目的に応じて設定項目を変えることができるので、かなりスピーディーに見つけられるはずです。
ARA2に対応でMelodyneなどがより効率的に利用可能に
最近、DTMステーションの記事でもいろいろ話題になるARA2。以前に「ARA 2対応で何が変わるのか?Melodyneの開発者にインタビューしてみた」といった記事で紹介したこともありましたが、簡単にいえばVSTプラグインの拡張機能的なもので、DAWとプラグイン側でテンポ情報やロケート情報などさまざまなやりとりを可能にするものです。
オーディオブロックやオーディオトラックに対してARA2の設定ができるようになった
たとえばMelodyneのようなボーカルエディタの場合、単なるVST版だとDAWを再生する形でオーディオをいったんDAWからプラグイン側へ取り込まないとエディットすることができません。それがARA2対応することで、オーディオを配置するだけでプラグイン側にオーディオを自動で転送される形となります。そしてABILITY上のオーディオトラックのシーケンスとプラグイン側のシーケンスが完全に一致した状態を自動で作ることができるようになっているのです。
MelodyneをARA2で組み込むとオーディオデータが完全に連動するようになる
この際、オーディオブロックごとにARA2を割り当てることもできるし、トラック全体を割り当てることも可能。この場合は、トラックにオーディオを置いたと同時にMelodyneなどARA2側に転送されるので、よりスムーズに作業することが可能になります。
VOCALOID6ともより強固な連携が可能に
ご存じのとおりVOCALOID6もARA2対応となっているため、ABILITY 5とは非常に相性がよくなっています。ただし、VOCALOID6の場合、Melodyneのようにボーカルデータが転送されるというわけではないんです。
基本的にはVOCALOID6はVSTiであり、VSTiとしてVOCALOIDが歌う形ではあるのですがARA2を介して、演奏の位置情報がやり取り可能になるのです。つまり、これまでのABILITY 4のようにARA2に非対応なVSTiとして使う場合、DAW側から再生ボタンを押せばVOCALOID6側も追従しますが、VOCALOID6側の再生ボタンを押してもDAW側は追従しないし、VOCALOID6側の再生位置を変えてもDAWは反応しません。それがARA2対応のABILITY 5ではVOCALOID6の再生ボタンを押すと、それに対応した位置でDAW側も動き、カーソルの位置を変えてもABILITY側が追従するようになっているのです。
VOCALOID6の環境設定で「VOCALOID Bridgeプラグインとしての接続を許可する」にチェックを入れる
なお、これを実現させるためにはVOCALOID6の環境設定において詳細のところでVOCALOID BRIDGEにチェックを入れることが前提となります。その上でオーディオトラックを立ち上げ、そこにVOCALOID BRIDGEを組み込むことでARA2を介した接続ができる仕組みになっています。
ARA2のBridge機能を通じてABILITYとVOCALOID6が完全に同期して使えるようになった
なお、先日「Synthesizer VがDTM界にまた新たな革命!人の歌声から音程と歌詞を抽出して再合成。ARA 2対応でDAWとの有機的な融合も実現」という記事でも紹介した通り、Synthesizer VもARA 2対応することになりました。現時点においてはSynthesizer Vのほうがまだβ版であるということもあり、完全対応はできてないようです。VOCALOID6と同様にBRIDGEを介しての同期はできるのですが、Melodyneのような対応にはなっていません。ただ、今後対応させる、ということなのでそこは期待しながら待ちたいと思います。
オーディオのスペクトル表示も実現
そしてもう一つABILITY 5ではWave Editorにおいて従来の波形表示に加え、スペクトル表示も可能になっています。使い方はいたって簡単で表示メニューで「スペクトル表示」にチェックするだけで切り替わります。
ウェーブエディタにおいて、スペクトル表示にチェックを入れると…
これによってどの帯域の音が鳴っているのか一目瞭然となるわけですが、単に視覚的に分かるというだけに留まりません。ある部分を範囲選択した上でゲインを上げたり下げたり…といったことも可能になっているのです。たとえばレコーディングした音の中に、ちょっとしたノイズが乗った場合、そこの色が変化しているはずです。それを囲った上でゲインを下げればノイズだけを取り除く…といった操作も可能になるわけです。
MODO BASS 2 SEがABILITY 5 Proにバンドル
今回のABILITY 5 Proのもう一つの目玉ともいえるのがIK MultimediaのMODO BASS 2 SEがバンドルされるという点です。MODO BASAE 2は物理モデリングのベース音源として非常に高いプラグインですが、そのプリセット数限定版であるMODO BASE 2 SEが付属してくるため、これだけでも大きな価値といえそうです。
ABILITY 5 ProにはIK MultimediaのMODO BASE 2 SEがバンドルされている
従来のABILITY 4 Proにおいても同じIK Multimediaのドラム音源、MODO DRUM SEが付属していましたが、それに加えて、MODO BASE 2 SEも使えることになったことで、さらに表現の幅も大きく広がりそうです。
以上、ざっとABILITY 5についての新機能を紹介してみましたが、インターネットの代表取締役である村上昇さんに伺ったところ、今回のバージョンアップで、内部的にはかなりブラッシュアップしているので、あまり新機能としては発表していないけれど、強化された点が数多くあるとのこと。たとえばVSTの管理方法が変わったため、従来であればプラグインを更新した場合、改めてプラグインのスキャンのし直しが必要だったのが自動的に認識するようになっています。またMIDIのランダマイズ機能が強化されているなど地味ながらも便利になっている点がいっぱいあるようです。
とにかくいろいろな面で使いやすくなっているので、この機会にABILITY 5を入手してみてはいかがでしょうか?
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