ルーパー機能を搭載しInstaChord 2.0へとバージョンアップ。新アプリMIDI Drumとの連携も可能に

すでに使っているという方も多いと思いますが、先日、InstaChord(インスタコード)のファームウェア Ver.2.0が発表され、これを適用することでユーザーなら誰でも無料でInstaChord 2.0へと大幅機能アップさせることが可能になりました。InstaChord誕生から約2年。これまでも数多くのアップデートが繰り返され、より使いやすくなると同時に2音色での演奏ができるプリセットが追加されたり、ソロ演奏が可能になるなど、さまざまな機能強化が図られてきました。

そして今回のアップデートでは、ついにルーパー機能が搭載され、InstaChord一つで、さまざまな音を重ねていくことが可能になったのです。しかも一般のルーパーとは異なり、MIDIルーパーとなっていることで、ループタイミングの調整などもすごく簡単だし、演奏タイミングが多少悪くてもキレイにクォンタイズしてくれるほか、音を重ねていっても音質劣化が起きえないというすごい特徴も持っているのです。一方でほぼ同じタイミングでiOS/Android対応のMIDI Drumというドラムマシンアプリもリリースし、ルーパー機能と組み合わせてドラム伴奏も可能になっています。これらについて、先日配信したDTMステーションPlus!の番組でも特集しましたが、改めてVer.2.0のファームウェアアップデートでどれだけInstaChordが進化するのか、この開発をどのように行ったのかなど、InstaChordの開発者であるゆーいち(@u1_nagata)さん、メインエンジニアである宇田道信(@uda807)さんにインタビューしてみました。

InstaChordの開発者のゆーいちさん(左)とメインエンジニアの宇田道信さん(右)

InstaChordが無料のファームウェアアップデートでInstaChord 2.0に進化

--InstaChordに関して、一番最初に取材させてもらったのが2020年5月にクラウンドファンディングをスタートした際の記事でした。その後ずいぶんと認知度も上がってきましたよね。
ゆーいち:はい、かなり多くの方にお使いいただけるようになりましたが、まだまだです。もっと多くの方にInstaChordの楽しさを知っていただきたいと思い、開発も続けています。改めて振り返ると2020年にクラウドファンディングを行い、翌2021年9月に製品をリリースしました。その後ファームウェアアップデートを繰り返していましたが、今回約1年ぶりとなるアップデートを行い、非常に大きなアップデートだったことからVer.2.0と名付けて公開しました。今回は、以前からアナウンスしていた目玉機能であるルーパー機能を搭載しました。

2021年9月にリリースされた後も、アップデートを続けているまったく新しい電子楽器、InstaChord

--これまでもBOSSのRCシリーズなどのルーパーを使ってInstaChordを演奏する人がいましたよね?
ゆーいち:InstaChordって、ギターもピアノも管楽器もドラムもいろんな音を鳴らせる楽器なので、ぜひルーパーと組み合わせて使っていただきたいなと思っていましたが、今回その機能が内部に入ってしまいました。やはりケーブルを使ってルーパーと接続し、それをアンプにも接続…というと結構面倒な作業でしたが、今回のVer.2.0でルーパー機能を内蔵したことにより、そうした配線なしに、すべてこれ一つでできるようになりました。しかもMIDIルーパーとなっているため、ほかのルーパーではできないInstaChordならではのこともいろいろ可能になっています。

今回のアップデートで、InstaChordにルーパー機能が搭載された

InstaChordの内部にMIDIルーパー機能を搭載

--MIDIルーパーって、あまり聞いたことないですが、実際どんなメリットがあるのでしょうか?
ゆーいち:最大のポイントはオートクォンタイズ機能を搭載しているという点です。ルーパーを使った演奏って、とっても面白いけれど、演奏が上手じゃないと音を重ねるごとに下手さが目立ってしまういう問題があります。とくにループエンドのズレなどはすごく気になって気持ち悪いですよね。InstaChordならそうしたズレをうまく補正してくれるのですごく気持ちよくループ演奏ができます。もちろん不要であればクォンタイズをオフにすることもできるし、指定した音符にクォンタイズタイミングを揃えてくれるので、とっても便利に楽しくプレイすることができます。それに先立って、昨年のファームウェアアップデートでソロフレーズの演奏ができるようになったので、InstaChordでバッキングを鳴らすだけじゃなく、メロディーを入れていくことも可能になっています。

--クォンタイズがあるってすごくいいですね。でも、それだとテンポの設定って必要ですよね?それはどうするのですか?
ゆーいち:ルーパー機能を立ち上げるとメトロノームのアイコンが出てくるので、そのキーをタップしていくことでそのテンポが設定されメトロノームが鳴り出します。それに合わせて弾けば自動的に録音がスタートする仕組みになっています。

--MIDIのルーパーであれば音を重ねていっても音質劣化もないわけですよね。重ねられるのはMIDIのチャンネル数となる16ということになりますか?
宇田:InstaChordのルーパーでは最大12トラックとなっています。InstaChordにはギターやピアノ、ベースなどさまざまな音色が入っていますが、30番台の音色はエレキギター/ピアノとかシンセ/エレキギターのように2つの音色を同時に使うものがあり、MIDIの2ch分を使っているものがあるため、16とはならないんです。最大12トラックとしていますが、30番台の音色をいっぱい使うと、12トラックも使えないこともあります。必要に応じてトラックごとにミュートしたり音量を変更したり…といったことも可能になっています。

30番台の音色は2つの音色を同時に使う仕様になっている

--そうなると、やはりユーザーはMIDIを熟知した上でルーパー機能を使っていく必要があるのでしょうか?
ゆーいち:その辺はまったく意識することなく、単純にルーパー機能で音を重ねていけばInstaChordが自動的にトラックを切り替えて音を重ねていくことができるので、MIDIについての知識は一切不要です。ただMIDI出力して外部音源で演奏する場合には、音色設定で予め音色ごとのMIDI出力チャンネルを分けておくなど、多少のMIDIの知識は必要になります。

単に音を重ねていくだけで、自動でトラックを切り替えて最大12トラックまでのレコーディングができるようになっている

開発を困難にしたリアルタイム・クォンタイズ機能

--このルーパー機能が搭載されるという話、1年前のNAMMのころに聞いたような覚えがありますが、実際の搭載まで結構時間がかかりましたね。
ゆーいち:実は開発当初ルーパーを実装できるなんて想像もしていませんでした。なにせオーディオデータを保存できるようなメモリは積んでいませんから。ですがある日「将来、上位モデルを出すならルーパーを搭載したいなぁ……」って話してたら、宇田さんから「MIDIルーパーならできるかもしれませんよ」という提案をもらい、それはいいと、開発を進めていってもらったんです。その過程で「クォンタイズ機能があると便利だ」と思いつき、これを実現させてもらったのですが、ここに結構時間がかかってしまいました。

クォンタイズ値の設定もできるようになっている。クォンタイズオフにすることも可能。画面は8分音符の設定
宇田:普通にノートオンだけにクォンタイズをかけるのなら簡単にできるのですが、たとえば同じ音程を連続で鳴らすとノートオフのタイミングが次のノートオンより後ろになってしまうことがあり、短く音が途切れてしまうといった現象が発生します。なのでノートオフに対してもクォンタイズが必要になるんですが、ノートオフにクオンタイズをかけると、今度はスタッカートのような短い音符を弾くときに、長さがゼロになったり、伸びてしまうなど、さまざまな問題が出てしまって、そこをどうやって解消するかに時間がかかりました。PUSHモードだとエクスプレッションをフワっと変えたり、ピッチベンドでフニャっと音を変えたりするときにクォンタイズをどうしようか…とか。ピッチベンドがそのままなのに、ノートオン/オフのタイミングがクォンタイズでズレちゃうと全然雰囲気がかわっちゃうので、全部をクォンタイズしていかないとうまくいかないんです。

もしノートオン部分だけをクォンタイズすると、音符の長さが長い場合、つながってしまうケースがある

--確かにリアルタイムに処理していくこともあって、なかなか難しそうですね。
宇田:普通に考えると、クォンタイズなんてそんなに難しいものではないように思えるのですが、考えれば考えるほど、どんどん問題が出てくる。場合分けが死ぬほど出てきて、これはイレギュラー処理、こっちもイレギュラー処理…と山ほど出てくると、こんなものできるか!ってなるわけですよ。

--それを宇田さんはどうやって解決したのですか?
宇田:クォンタイズというと、キッチリとしたタイミングでかけるものと思い込んでいたのですが、やんわりクォンタイズしたらどうなるんだろう…。ターゲットとする範囲を完全な位置にするのではなくある程度にするマイルド・クォンタイズにしたらうまくいくのでは、と。これならドンピシャなタイミングではないから、スタッカートのような短いものでもちゃんと音がでるのでは、と試してみたところうまく動くようになったんです。

--それって、DAWでクォンタイズを100%にするか80%とか50%にする、というのと似た考え方ですよね?
ゆーいち:DAWにそういう機能あったなと、できた後に気づいたんですよね。
宇田:私はDAWってまったく使うことがないので、そんな使い方自体を知らず、悶々としていたんです。でも結果的に、これでうまくいくようになりました。

--宇田さん、DAWを使いこなしているような印象があったので、ちょっと意外です。
ゆーいち:あと、ギターのストラムはジャラランと鳴らすタイミングがズレないといけないのでクォンタイズされると困ります。だからといってアルペジオはちゃんとクォンタイズしたいので、演奏中にクオンタイズのオン/オフを切り替えられるようにしました。ただ、ボタンの数も画面表示も限られる中、操作の割り当てにはかなり頭を悩ませましたね。楽器本体の手元で12トラック操れるルーパーなんて恐らく世界初ですから、みなさん最初は戸惑うでしょうけど、慣れてくるとこれが合理的なUIだと気づいてもらえると思います。

MIDIコントロールチェンジの受信機能搭載でフットペダルへの対応も

--とは言っても、本体で操作するとちょっと慌ただしくなるので、フットペダル対応してくれると便利だなと思いました。
ゆーいち:操作は基本的にボタンで行うわけですが、そのボタン操作をMIDIのコントロールチェンジを受信して操作できる機能を今後つける予定にしています。ただしInstaChordはMIDIホスト機能がないので、間にスマホやパソコンなどMIDIホストになるものが必要ですが、そうした中継を挟むことでできるようにしたいと考えています。Bluetoothを使って楽譜のページめくりをするペダルなどもあるので、そうしたもので使えるようにアップデートする予定でいます。

--それにしても、これだけの強力な機能の追加なので有料でもよかったのでは、とも思いますが……。
ゆーいち:クラウドファンディングのころから応援していただいている方もたくさんいますし、その後購入された方にも、もっとInstaChordで楽器を弾ける楽しさをいっぱい味わってもらいたいという思いがあるので、無料でのバージョンアップにしています。ただ、製造コストなどがどんどん上がっているので、今後新たに購入いただく場合の価格が上がる可能性はあるかもしれない、と考えています。一方で、今回のタイミングでもう一つ大きなトピックスがあります。それがルーパー機能とも連携して使えるMIDI DrumというiOS/Androidアプリのリリースです。

新たに誕生したドラムマシンアプリ、MIDI DrumsとInstaChordを連携させて使うことができる

iOS/Android用に誕生した無料アプリMIDI Drumの威力

--そのMIDI Drumとは具体的にどんなアプリなのですか?
ゆーいち:DTMステーションでもよく取り上げているbs16-iなどを開発しているbismarkさんにお願いして開発してもらったアプリです。名前からもわかるとおりMIDIのドラムマシンアプリで、インスタコード社として無料で出しているアプリです。誰でも使いやすい形でドラム入力できるもので、アプリ単体でも音源を内蔵しているので鳴らすことができる一方、USBまたはBluetooth-MIDIでInstaChordと接続することでInstaChordのドラム音源を鳴らせるようになっています。別にInstaChordでしか使えないというわけではないので、ヤマハさんやローランドさんの電子ピアノをはじめ、MIDIのドラム音源を内蔵しているものと接続すれば鳴らすことが可能です。

MIDI Drumsの画面。ごく普通の16ステップドラムマシンとして使うことができるが、ユニークな仕掛けもいっぱい

--bismarkさんが開発ということは、iOSやAndroid側の音源はSoundFontを使っているんですかね。
ゆーいち:はい、そのとおりです。InstaChordとBluetoothで接続した場合は、アプリ側でスマホの音源をオフにすることができるのでInstaChordだけで使うことができるわけです。パッと見は単に16ステップのドラムマシンのように見えますが、実はこの画面ひとつで16ステップx4周分をコントロールできるようになっているんです。見てもらうと分かる通り、丸の1/4が欠けたステップなどがありますが、フルの丸であれば4周とも鳴り、右上の1/4なら最初の1周のみ……というように鳴らすことができるんです。またA~Fの最大6つのブロックに異なるドラムパターンを保存できるようになっています。各ブロックはループ回数と次に再生するブロックを指定できます。たとえば「Bを8小節分回してCに移動する」という風に6つのパターンをいろいろ回すことができるし、演奏中に画面タップやフットスイッチ操作でブロックを切り替えることもできるようになっています。

ひとつの画面で16ステップx4周になっていて、何週目に鳴るかは右のPaternで設定可能

--このアプリのUIすごくいいですね。こんなドラムマシン初めてみました。
ゆーいち:これを無料で使えるので、InstaChordをお持ちでない方も、ぜひダウンロードして試してみてください。ただし、1つ制限があり、この無料の場合は入力したドラムパターンの保存ができないので、アプリを落とすと入力データが消えてしまいます。しかし1,000円のアプリ内課金をすると保存もできるようになるので、まずは試していただいた上で、気に入っていただけたらぜひ購入いただけると嬉しいです。ちなみに、ファイルメニューの「Song Library」にアクセスすると、ユーザーの自作データを公開したり、ほかのユーザーが作ったデータをアプリに取り込めるようになっています。ユーザーのみなさんが作ったデータを買い取らせていただき、アプリのプリセットに追加することも考えています。

ファイルメニューの「Song Library」でユーザーの自作データを公開したりすることができる

MIDIルーパーとMIDI Drumが同期可能に

--このMIDI Drumとルーパーはどのように同期させて使うのですか?
ゆーいち:InstaChordのルーパーは、このアプリから送信されるMIDIクロックに同期してクオンタイズやループタイミングが合うようになっています。MIDIの標準機能を使っているので、使い慣れたDAWで作ったシーケンスに同期させることも可能だと思います。互換性はまだ十分に試していないのでサポート外とさせていただきますが、互換性の情報をホームページのユーザーフォーラムに寄せていただけるとありがたいです。

--このルーパー機能とMIDI Drumによって、ずいぶん複雑なことまでできるようになってきましたよね。
ゆーいち:InstaChordは、まったく楽器が弾けない人でもすぐに楽器を楽しめるという側面もありますが、楽器が弾ける人にとっても使える機材であるということを今回のアップデートで示せたのではないかと思っています。「InstaChordは初心者用のオモチャ楽器であって、楽器が弾ける人には関係ないもの」と誤解している人も多いと思います。しかし実は初心者からプロミュージシャンまで、幅広い方々に使っていただけるツールなんです。今回のルーパー機能は、上級者ユーザーにとって大きな魅力になるはずだと思うので、ぜひ多くの方に使っていただければと思っています。

3月5日に配信したDTMステーションPlus!では、ゆーいちさん宇田さんに出演いただきInstaChordを特集した

--ありがとうございました。

なお、このInstaChord 2.0に関しては先日配信したDTMステーションPlus!の番組でも、ゆーいちさんと宇田さんゲスト出演いただいて特集しました。この中で、その演奏方法や使い方、実際のサウンドなどを確認いただけるので、そちらもご覧になってみてください。

【関連情報】
InstaChord製品情報
MIDI Drum製品情報
InstaChordのアップデート