ソフトウェアのピアノ音源を選ぼうとすると、大きく分けて2つのアプローチがあることに気づきます。ひとつは「物理モデリング」、もうひとつは「大容量サンプリング」です。どちらもリアルなピアノサウンドを目指しているのは同じですが、その哲学も、使い勝手も、要求するコンピューター環境も、大きく異なります。
「どちらが優れているか」という議論は正直あまり意味がなく、「どんな用途に、どんな状況で使うか」によって最適解は変わります。そこで今回は、物理モデリングの代名詞的存在であるMODARTTの「Pianoteq 9」と、大容量サンプリングの最高峰として知られるSynthogyの「Ivory 3 German D」を取り上げ、それぞれの特徴を掘り下げながら、選び方の指針をお伝えしていきます。なお、Ivory 3については過去にもこちらやこちらの記事で取り上げていますが、今回は最新情報もあわせてお伝えします。
物理モデリングとは何か——Pianoteq 9の場合
物理モデリングとは、ピアノという楽器の物理的な振る舞いを数式で再現するアプローチです。弦の張力、ハンマーフェルトの硬さ、響板の共振、キャビネットの素材……こうした要素をリアルタイムで計算し、音を生成します。実際の音をサンプリングするのではなく、「楽器そのもの」をシミュレートするわけです。
その代表格がMODARTTのPianoteq 9です。最新バージョンでは、サウンドボードの振動モデルを改良した新しいオーディオエンジンを搭載し、ステレオ感と空間的な奥行きがさらに向上しています。最大8本のマイクを直感的に配置・ミックスできる新しいマイクパネルも追加され、シネマティックな演奏に最適な「Sombre」ピアノプリセットや、ハンマートーン・パラメーター、豪快なフォルティッシモを生み出す「Thunder」ペダルなど、表現の幅を広げる機能が充実しています。以下がそのPianoteq 9の紹介ビデオです。実際どんなサウンドなのかチェックすることができるので、ぜひご覧になってみてください。
いかがですか?かなりリアルなピアノサウンドであることが分かると思います。物理モデリングの最大の利点のひとつが、ファイルサイズの小ささです。Pianoteq 9をWindowsにインストールして実際にフォルダを確認したところ、マニュアルなどすべてを含めてわずか68.3MBでした。ダウンロードも含めたインストール作業はあっという間に完了します。ノートPCへの導入も容易ですし、SSD容量をほとんど圧迫しない点は、特にモバイル環境で制作する方にとって大きなメリットです。
また物理モデリングならではの強みとして、音のパラメーターを自由に調整できる柔軟性があります。実在しないピアノを作り上げることも、弦の本数を増やすことも、物理的にはあり得ないパラメーター設定も可能。サンプリング音源ではできない”自由なピアノデザイン”が楽しめます。
大容量サンプリングとは何か——Ivory 3 German Dの場合
一方、サンプリング音源は実在するピアノを精密に収録したサンプルをベースにしています。SynthogyのIvory 3 German Dでは、コンサートテクニシャンの巨匠ミシェル・ペドノーが手入れを施したドイツ・ハンブルグ製スタインウェイD-274コンサートグランドを新規にレコーディング。実物の持つ「空気感」や「倍音の複雑さ」をそのままデジタルに封じ込めています。こちらも紹介ビデオがあるので、ご覧になってみてください。
YouTube動画なので、そのサウンドの繊細さが必ずしもしっかり収録できているわけではなさそうですが、それでもアコースティックピアノそのものといったサウンドであることが感じられると思います。
最新世代のIvory 3では、「RGB(Real-time Gradient Blending)エンジン」という独自技術が核心にあります。これは従来のサンプリング技術に、ピアノの振る舞いをリアルタイムで演算するモデリングエンジンを完全に融合させたものです。つまり、「サンプリングのリアリティ」と「モデリングの表現力」を同時に実現するという意欲的なアプローチを採っています。
注目すべきはMIDI 2.0への対応です。Ivory 3では「Continuous Velocity to Timbre」機能により、MIDI 1.0の127段階、MIDI CC88による16,384段階、そしてMIDI 2.0の65,536段階という超高解像度ベロシティのいずれにも対応。鍵盤を押す強さが限りなく滑らかに音色変化に繋がります。これはMIDI 2.0対応コントローラーをお使いの方に特に実感できる部分で、生ピアノに近いニュアンスの再現が可能になっています。
さらに複数のマイクセッティングをリアルタイムでブレンドできるマルチマイク機能、チャンネルごとにEQやコンプ、アンビエンス処理が行えるパワフルなオンボードミキシングデスクなど、プロの現場でも即戦力になる機能が揃っています。
ファイルサイズはケタ違い——42GBと68.3MB
ここに両者を語るうえで避けて通れないのが、ファイルサイズの差です。
Ivory 3 German Dをインストールする際、インストーラーには「トータルで42GBのHDDを消費する」という表示が出ます。実際にWindowsへインストールしてみると、ダウンロードを含めて10分程度かかり、インストール後にライブラリのフォルダを確認すると、そこだけで38GBを占めていました。スタインウェイの豊かな音色を余すところなく収録した結果であり、これだけの容量があってこそのリアリティとも言えます。
一方のPianoteq 9は、前述のとおりすべてを含めて68.3MB。Ivory 3 German Dと比べると3桁も違います。SSDの残り容量を気にしながら制作する方、あるいは複数の環境を使い分けたい方にとって、この差は無視できないポイントです。
| Pianoteq 9 | Ivory 3 German D | |
|---|---|---|
| アプローチ | 物理モデリング | 大容量サンプリング+モデリング融合 |
| インストールサイズ | 約68.3MB | 約42GB(ライブラリのみで約38GB) |
| MIDI 2.0対応 | — | ○(65,536段階ベロシティ) |
| 収録モデル | さまざまなピアノモデルを収録 | ハンブルグ製スタインウェイD-274 |
| 音のカスタマイズ性 | 非常に高い | マルチマイク+ミキシングデスクで調整 |
| オーサライズ | — | iLok(ハードディスクまたはiLokキー) |
| 価格(PRO/単体) | ¥75,900 | 通常¥43,450(現在セール中) |
どちらを選ぶべきか——用途別の考え方
ここまでを踏まえて、選び方の指針をまとめてみます。
Pianoteq 9が向いている場面
ノートPCやストレージ容量が限られた環境での制作、ライブパフォーマンスでの使用、あるいはピアノの音そのものを「作り込みたい」クリエイターにはPianoteq 9が向いています。パラメーターをいじってオリジナルのピアノキャラクターを生み出すのが得意であり、サンプリング音源では出せない実験的な音作りも可能です。また、物理的な計算で生成する音なので、どんな音域や奏法でも自然な応答が得られます。
Ivory 3 German Dが向いている場面
「本物のスタインウェイそのものの音」が欲しい場合、特にクラシックピアノの演奏録音やプロのポップス・ジャズ制作では、Ivory 3 German Dの説得力は抜群です。ビリー・ジョエルのミュージカル・ディレクターを務めるデヴィッド・ローゼンタールが「これまで演奏した中で最も表現力豊かでリアルなピアノ」と評するほどの完成度は、大容量サンプリングがあってこそです。MIDI 2.0対応コントローラーをすでにお持ちの方や、これから導入を検討している方にも、Ivory 3の超高解像度ベロシティ表現は大きな魅力になるでしょう。
もちろん、両者を用途に応じて使い分けるというのが理想的な選択でもあります。Pianoteq 9をモバイル制作のメインに据えつつ、スタジオでの本番録音ではIvory 3 German Dを使う——そういったプロフェッショナルな使い方も十分に現実的です。
MODARTTが新技術「DAM」による新音源のオープンβを開始
Pianoteq 9について触れてきたところで、MODARTTに関するタイムリーな話題をひとつお伝えしておきます。2026年4月15日付のプレスリリースにて、MODARTTがまったく新しいモデリング技術「DAM(Dynamic Aerophone Modelling)」を用いた新音源の開発を発表し、一般ユーザー向けのオープンベータを開始したことが明らかになりました。
Pianoteqがピアノという鍵盤楽器の物理的な振る舞いをモデリングしてきたのに対し、このDAMはまったく異なる方向性を持っています。ターゲットとするサウンドは、シネマティックなアトモスフィア、オーガニックなサウンドスケープ、モダンアンビエント、深みのある進化系パッドなど——いわゆる「テクスチャー系」「アンビエント系」のサウンドです。これまでのMODARTTのイメージとは一線を画す、クリエイティブ寄りの新ジャンルへの参入といえるでしょう。
現在、以下のURLからオープンベータへの参加登録が可能です。登録しても即座にベータ版が入手できるわけではなく、順次案内が届く形のようですが、正式リリース前にいち早く試せる機会として興味深いところです。
物理モデリングの雄であるMODARTTが、ピアノ以外の領域でどんなサウンドを生み出してくるのか——Pianoteq 9とはまた異なる可能性を秘めた新音源として、続報に注目しておきたいところです。
現在Ivory 3がSpring Saleでお得に
現在、メディア・インテグレーション オンラインストアにてIvory 3のSpring Sale 2026が開催中です。Ivory 3 German Dが通常¥43,450のところ¥30,400、Ivory 3 American Concert D(1951年製ニューヨーク・スタインウェイをモデルにした人気タイトル)が通常¥40,150のところ¥28,100と、いずれもかなりお得な価格になっています。Ivory 3を試してみたい方にとって、絶好のタイミングといえそうですね。
なお、Pianoteqは前バージョンのPianoteq 8ではありますが、Ivory 3の各製品と弾き比べた30分超の動画があります。演奏しているのはキーボーディスト&作編曲家の久米大作(Daisaku Kume)さん。細かなニュアンスの違いもよく出ていると思うので、ぜひチェックしてみてください。
【関連情報】
Ivory 3 Spring Sale 2026情報
Pianoteq 9製品情報
Ivory 3 German D製品情報
【価格チェック&購入】
◎MIオンラインストア ⇒ Pianoteq 9
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コメント
仰る通り、Pianoteq 9はライブや小容量SSD搭載PCでの作曲に向いてて、Ivory 3 German Dは本物の質感そのものですね。Pianoteq 9でも全然嘘くささは無く、実用的な音である一方でIvory 3 German Dの高級感と臨場感は凄いです。