MIDI 2.0に対応した初の音源!?新世代RGBエンジン搭載のバーチャル・ピアノ、Ivory 3 German Dが発売開始

先日、米Synthogyからバーチャルピアノ音源Ivoryの新製品となるIvory 3 German Dが発売されました(税込み製品価格39,600円、Ivory 2 Grand Pianosからのアップグレードは22,000円)。このIvory 3 German Dは大容量デジタルサンプリングに加え、ピアノの振る舞いそのものをリアルタイムで演算するモデリングエンジンを完全に融合した、まったく新しいピアノ音源。コンサートテクニシャンの巨匠、ミシェル・ペドノーが丹念に手入れを施したドイツ・ハンブルグ製Steinway D-274コンサートグランドピアノを元に、Steinwayサウンドをリアルで表現豊かにソフトウェア的に実現する音源です。

ユニークなのは、このIvory 3 German DがMIDI 2.0に対応した音源であること。おそらく、これまでMIDI 2.0対応を明言する音源はソフトウェアでもハードウェアでもなかったと思うので、これが世界初だと思います。もっとも、まだMIDI 2.0対応機器やソフトがほぼ存在しないなか、本当に使えるのかという点で、まだ疑問が残る状況ではあるものの、ついに登場となったわけです。そのIvory 3 German Dを少し試してみたので、これがどんな音源なのか、紹介していきましょう。

デジタルサンプリングとモデリングの2つのエンジンを融合させたIvory 3 German Dが発売に

Ivory 3 German Dは、Steinway D-274コンサートグランドを再現する音源なのですが、どんなサウンドなのかを紹介するデモ演奏が公開されているので、まずはこちらをちょっと聴いてみてください。

Synthogy · Ivory 3 German D

いかがですか?これがソフトウェア音源によるものとは信じられないリアルなサウンドであることが実感できると思います。

Steinway D-274をリアルに表現力豊かに再現するIvory 3 German D

前バージョンのIvory IIをお使いの方であれば、よくご存じだと思いますが、Ivory II American Concert D、Ivory II Studio Grands、Ivory II Italian Grand……と5種類のラインナップがあり、それぞれかなり大きなサンプルデータが入っている形でした。たとえばIvory II Studio Grandsの場合、1台のピアノで60GB程度といった感じです。それに対し、今回リリースされたIvory 3 German DはSteinway D-274をサンプリングしたものとなっていますが、その容量は40GB程度。しかも、後述のとおり、4つのポジションでマルチマイク収録となっているので、1ポジションあたり10GB程度と、Ivory II時代と比較してサンプルの容量が1/6程度にまで抑えられています。そういうと、グレードダウンしたの?と思われてしまいそうですが、実は従来と比較にならないほど、表現力が広がった音源になっているのです。

Ivory 3 German Dのホーム画面

その最大のポイントともいえるのがRGB(Real-time Gradient Blending)エンジンなる、まったく新たに開発されたエンジンを搭載しているという点。これがサンプラーとモデリングを掛け合わせたようなエンジンになっているのですが、Ivory IIの技術をベースに開発したものであるだけに、Ivory IIのすべての機能はIvory 3にも引き継がれています。もちろんデータの互換性もあるので、これまでのIvory IIを使ってきた人は、そのプリセットとライブラリをすべてサポートしているので、Ivory 3で使うことが可能です。

ちなみにIvory 3はプリセット構造が簡素化され、プリセットのセーブとロードがより簡単になっています。Ivory IIではプログラム、エフェクト、セッションといったコンポーネントごとにセーブ、ロードを行う必要がありましたが、Ivory 3ではすべたが統合されているので、より扱いやすくなっているのです。具体的にはSingle Mic(1種類のマイクでサンプリングしたもの15プリセット)、Multi Mics(複数のマイクでサンプリングしたもの21プリセット)、Chinematic-Ambient(アンビエント効果のあるエフェクトを組み合わせたもの12プリセット)、& Layers(シンセレイヤーを加えたもの8プリセット)の4つのカテゴリー、計56プリセットが用意されており、単一のピアノ音源とはいえ、かなりのバリエーションを持っているのです。

大きく4系統、計56プリセットから読み込んで利用できる

デジタルサンプリングとモデリングを融合するRGBエンジン

では、その心臓部であるRGBエンジンについて、もう少し具体的に見ていきましょう。画面はRED-GREEN-BLUEの3色が絡み合うロゴマークのようなものがありますが、そこはもちろんダジャレですね。SynthogynoDSP開発のトップ、ジョージ・テイラー氏がカスタムデザインしたもの、とのことですが、ここがモデリングの中枢となっており、自由に音作りをしていくことができます。もっともIvory 2.5もResonance=共鳴部分はモデリングを採用していたので、モデリングがIvory 3で初登場というわけではありません。でもIvory 2.5はResonance以外はサンプルングベースだったのに対し、Ivory 3ではこれですべての音作りができるといって過言ではないほどのモデリングになっているのです。

Ivory 3の心臓部であるモデリングをつかさどるRGBエンジンの画面

Characterのパラメータを見ると、Timbre、Timbre Shift、Design Trim、Key Noise、Release、Streo Width、Shimmer、Hammer Strengthとパラメータが並んでいますが、これらを調整すると、ドラスティックに音の雰囲気が変わっていきます。ただ、ベースはサンプリングサウンドとなっているので、まさに2種類の音源方式の掛け合わせなんですね。

さらにピアノとしての特性を作り込んでいくいくことが可能です、こちらの画面ではベロシティカーブを自由に変更したり、チューニングを行ったり、ペダルの効果を調整するなどピアノの構造部分を調整していくことができるのです。

ベロシティカーブやチューニング、ペダルなどの調整が可能

4つのマイクとシンセを自由自在にミックスする音作り

そして、Ivory 3 German Dの音作りの神髄ともいえるのがマイキングの調整です。先ほどのプリセット選択の画面でお気づきになった方もいると思いますが、このプリセットにはMic 1=Side A、Mic 2=Side B、Mic 3=MS、Mic 4=Ambientと4つのマイクでレコーディングされた音が使われています。もちろんプリセットによって1つのマイクしか使われていないもの、2つ使っているもの、4つすべてを使っているものなど、それぞれではありますが、違うポジションの異なるマイクで同じ音をサンプリングしているので、どう組み合わせるかによって音の響きも大きく変わってくるのです。

4つのマイクをマトリックスを通じて各チャンネルに送る

そこでまず登場してくるのがマトリックス画面です。左側にマイク、下にミックスチャンネルという構成になっているので、このマトリックスでどのマイクの音をどのチャンネルに送るかの設定ができるのです。基本はMic 1がCh1、Mic 2がCh2……とするわけですが、必要に応じてMic 1+Mic 2をCh 3に、といった設定もできるわけです。

シンセレイヤーにおいて、シンセ音色を選択

なお、4つのマイクの下にSynth LayerというのがあるのもIvory 3の特徴のひとつ。そう、名前の通り、ここはシンセのレイヤーとなっており、純粋なピアノにシンセをレイヤーして鳴らすことが可能になっているのです。そこまですごいシンセというわけではないですが、パッド系のサウンドなどが複数用意されているので、気持ちいサウンドに仕立てることも可能となっています。

5つのチャンネルに音をミキサーで調整していく

そして、その計5つのチャンネルに送った信号をミキサーで調整していくわけです。このコンソールを見てもわかる通り、単に各チャンネルのレベルを調整するだけではありません。PANの調整ができるのはもちろんのこと、各チャンネルごとにEQ、そしてダイナミクスの調整が可能になっています。

各チャンネルごとにEQやダイナミクスの調整ができるのはもちろん……

そしてユニークなのはMSというものが各チャンネルに用意されていること。そう、Mid-Sideのパラメータであり、音の広がりをここで調整できるようになっているのです。4つあるマイクのうちMSと書かれているマイクだけで適用できるのかな…と思ったら、マトリックス画面で構成されたすべてのチャンネルで利用できるんですね。ちょっと不思議な感じではありますが、4つあるマイクすべてにMSマイク(もしくはMS構成でのマイク)が利用されているということのようです。そのため、完全モノラル互換でもあるのです。

各チャンネルごとにMSの調整もできるので、音の広がり具合を自在にコントロールできる

Ivory 3のホーム画面でも簡単なミックスは可能ですが、このミキサーを使うことで、より細かく調整できるわけですね。またこのミキサーにはAuxバス、そしてマスターバスも用意されており、これらを用いて、各種エフェクトをかけたり、ここでもEQ、コンプの調整ができるようになっているなど、とにかく自在に音作りができるようになっていることがわかると思います。

グローバルでのベロシティマップなど各種調整も可能

65,536段階のベロシティに対応する世界初のMIDI 2.0対応音源!?

さて、ここでもう一つのテーマがMIDI 2.0についてです。おそらく、このIvory 3 German DがMIDI 2.0対応を謳った初の市販の音源ということになると思うのですが、これはどういう意味なのでしょうか?

そもそも、まだMIDI 2.0の規格自体が完全に固まっていない状況で、日本のAMEI音楽電子事業協会、アメリカのMMAMIDI Manufacturers Associationが試行錯誤しながら仕様を詰めている段階。そのMIDI 2.0の話は「日米合意でMIDI 2.0が正式規格としてリリース。MIDI 2.0で変わる新たな電子楽器の世界」や「MIDIが38年ぶりのバージョンアップでMIDI 2.0に。従来のMIDI 1.0との互換性を保ちつつ機能強化」といった記事で紹介してきましたが、今回のIvory 3に一番大きく関係するのは「MIDI 2.0の詳細が発表!MIDI 1.0との互換性を保ちつつベロシティは128段階から65,536段階に、ピッチベンドも32bit化など、より高解像度に」で紹介したベロシティ部分についてです。

MIDI 2.0の仕様は現在詳細を詰めている段階

これまでのMIDI 1.0で、打鍵の強さというか、正しくは打鍵スピードのパラメータであるベロシティは128段階でした。これがMIDI 2.0では一機に65,536段階にまでなり、微妙なベロシティの調整が可能になるわけですが、Ivory 3では、その部分に対応した、というのです。まあ、まだMIDI 2.0対応のハードウェアもDAWもないので、検証のしようがないのですが、MIDI 2.0のベロシティ部分の仕様は固まっているので、それに対応している、と開発元のSynthogyが言っているわけですね。

Logic Proは一昨年MIDI 2.0対応を実現したと言っており、環境設定のMIDIのところにMIDI 2.0のチェックボックスが用意されています。これをオンにすることでMIDI 2.0対応になると言っているものの、これもMIDI 2.0対応機器と接続したら、それを受信できるということであり、Logic Proに65,536段階でのベロシティ調整ができるエディタが搭載された、というわけではないので、Logic ProでIvory 3を動かしても、即その恩恵を得られる、というわけではないようです。

Logic Proには「MIDI 2.0」というチェックボックスが搭載されてはいるのだが…

もっともMIDI 1.0の規格上でも#CC 88のVelocity Extensionというものを使うことで16,384段階のベロシティを扱えるようになっており、MODARTTのPianoteq 8などでもこれに対応しています。まあ、16,384段階も65,536段階も同じようなものだろう……と思うわけですが、そのMIDI 2.0に対応したというのは一つのトピックス。まあ、現状は絵に描いた餅状態ではあるわけですが……。なお、Ivory 3もMIDI 2.0だけでなく#CC 88の16,384段階ベロシティにも対応していますよ。また、#CC 88に限らず、コントロールチェンジ関連でさまざまな割り当ても可能になっています。

#CC 88以外にも各種コントロールチェンジを割り当てていくことが可能

Windowsは近日対応予定、プラグイン本体は無料で入手できる!?

最後に動作環境について紹介しておきましょう。2023年3月現在、Ivory 3 German Dが利用できるのはmac OS 10.15 Catalina以降であり、Intel CPUおよびAppleシリコンの両対応で、AU v2、VST 3、AAX(Pro Tools 2020.3以降)、そしてスタンドアロンということになっています。そしてWindowsのほうは、現在開発中でまだ未対応。そう遠くない将来に出そうなので、Windowsユーザーの方はもうしばらくは待ちの状態ですね。

一方、実はIvory 3本体(German Dのサンプリングデータが入っていないもの)は、Synthogyサイトから無償ダウンロードできるようになっています(これも現状Mac版のみです)。したがってIvory 3 German D購入前であっても、これをインストールしてIvory 2.5のプイセットとライブラリをインポートすることで、Ivory 3の新機能の一部を享受することも可能なのです。しかもIvory 2.5の機能はすべて踏襲されているし動作自体Ivory 3のほうが軽くなっているので、これを入手しない手はないですね。もちろん、Ivory 2.5を持っていない人だとシンセレイヤーしか鳴らすことはできませんが、UIがどんなものかの確認だけであればできると思いますよ。

今後、各社がIvory 3を応用にMIDI 2.0対応を実現するようになるのかも気になるところではありますが、サンプリングのリアリティと物理モデリングの表現力を融合させた超強力なSteinwayピアノ音源、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?

【関連情報】
Ivory 3 German D製品情報
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